召喚勇者は死にました   作:黒桜@ハーメルン

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29 面倒ごとは積まれるもの

 ヴァインという人間は、ひどく野性的な人物である。

 これは彼の、欲望に忠実な行動を馬鹿にするものではない。彼の本質が、普通の人間と違って動物に近いということだ。特に彼に備わっていたのは、野生の勘ともいうべき危険察知能力だろう。今の冒険者ランクまで上り詰められたのは、その勘のおかげであると言ってもいい。

 

 そんな頼れる彼の勘は、リングの上でブランに相対したときから警報を鳴らし続けていた。

 

 見た目はどう見てもただの小娘。されどそこには何か、得体のしれない何かが潜んでいる。勝てるか勝てないかではない、戦ってはいけないものだ。

 

 しかしその警報は、ヴァインには正確に届かなかった。ヴァインが感じとれたのは、言いようのない不安のみ。それが、ヴァインに判断を誤らせた。

 口から出る言葉は、半ば自分に言い聞かせるもの。湧き出す不安は、勘違いだと自分に言い聞かせるものでもあった。ポルコ商会の援助でもらったこの魔導剣さえあれば、俺が負けるはずなどないのだ、と。

 

 振り上げた大剣に、目の前の小娘は何の反応も示さない。爆発能力を乗せた一撃は、そのまま小娘の脳天へと吸い込まれたかのように見えた。

 

 刹那、視界が煙に覆われる。ヴァインごと周囲一帯を巻き込んだ爆発は、地に張られた岩を砕き、粉塵を巻き上げた。

 

 剣の能力によって、ヴァインに爆発の影響はない。完全にとったとヴァインは一瞬思考するが、同時に感じる不安が無くなっていないことにも気づく。むしろ、より強くなっている。

 

 そして、おかしなことにも気づく。

 

剣が振りきられていなかったのだ。馬鹿な、自分の一撃を受けるなんて、それも生身で、ましてやこの爆発を直に食らって、無事なはずなんてない。だがしかし持つ剣が、人間ほどの高さの何かに止められているのは明らかだった。

 

 冷や汗が、顔をゆっくりと伝る。やがて粉塵は落ち着き、視界が通るようになっていく。

 

「……さっきから好き勝手に言いやがって……」

 

 現れたブランは、真っ黒に染まった右手で大剣を鷲掴みしていた。

 

 

 

 

 頭(あったま)来た。あった日から少し、いやだいぶ嫌悪感はあったが、完全に切れた。

 

「……好きかって言いやがって……」

 

 人の仲間を脅しかけるわ気持ち悪いナンパするわ言いたいことはめちゃくちゃある。めちゃくちゃあるんだが、その中でも特に言いたいのは――

 

「見た目はこんなんでもなあ、オレは男だ!」

 

 散々女扱いしやがって! アラクネのおっさんらと違っててめえだと吐き気しかしねーんだよ!

 

 『黒纏』をまとった右手を思いっきり振り抜く。それだけでヴァインは剣を離し、簡単に投げ飛ばされていく。

 

 手に残った剣を無造作に、尻もちをつくヴァインに向かって放る。

 

「なんだよ……なんだよその手は!」

 

 慌てて立ち上がり、転がる剣を持ち直すヴァイン。しかし腰が引けており、明らかに虚勢だとわかるものだ。

 

「お前らの剣と同じように、オレらにもとっておきがあるとは考えなかったのか?」

「く……う、うおおおお!」

 

 雄たけびを上げ、ヴァインは突っ込んでくる。右手で大剣を受けると同時に魔力で盾を張り、爆発を防御。同時に空いている右手で、ヴァインの胸に突きを入れる。

 

「ぐふ!」

 

 情けない声を出して、地面を転がる。ディナに殴られた取り巻き……Bほどじゃあないが、黒い拳はヴァインの軽鎧を陥没させる。

 

「ぐ……て、てめえ……」

 

 立ち上がるヴァイン。そこまで大きなダメージは食らっていなかったようで、再び剣を持ち上げ横方向に切りかかってくる。

 

 また爆発かと思い、魔力の盾で受ける。

 しかし予想に反し爆発は起きず、視界の端でヴァインがニヤリとしたのを捉える。

 

 ヴァインの右手が剣から離れる。そしてオレの腹部を狙った突きを左手で防ぐと、ヴァインの右手から小規模な爆発が発生。

 

 左手の肘から先が爆発に巻き込まれ、爆煙に包まれる。好機と見たのだろう、そのまま横っ腹目掛けて回し蹴りを繰り出してきた。

 

「な!?」

 

 焦げ跡一つない左手でそれを防ぐ。

 きっとヴァインには、オレの左手が四散したように見えていたのだろう。

 

 実際四散した。じゃあなんで無事かって? 

 爆煙が消える前に再生しただけだ。

 

「お返しだ!」

 

 ヴァインの右足を掴んだまま背負い投げ。ヴァインは壁に背中から衝突し、その反動で前のめりに地に膝をつく。

 

 立ち上がったところに、オレが跳躍をして急接近。ヴァインが咄嗟に盾にした大剣を、超硬度の右手が粉砕。その衝撃でヴァインは剣の柄から手を放し、再び地面を転がる羽目となった。

 

「ぐ……こ、こうむぐ?!」

「言わせないよ?」

 

 今ので心が折れたのか、ヴァインが降参と口にしかける。が、その言葉がすべて吐き出される前に、魔力でかたどられた右腕がヴァインの口をふさいだ。

 

「人にけんか売ったからには、返り討ちに遭う覚悟ができてないなんて言わせねーぞ?」

 

 手の中の男の眼には、すでに戦意は見当たらない。だが、やられたからにはお返しをするというのが礼儀というものだろう。

 

 右手を引きながら左手を突き出す。アッパー気味に放たれたそれはヴァインの腹に命中し、彼の巨体を宙に打ち上げる。

 

「沈みやがれ!」

 

 そして、落ちてきたところに渾身の正拳突き。鎧を粉砕しながらヴァインは水平に吹き飛び、顔面で石畳を滑って壁に衝突。

 

 ボロ雑巾の様に転がるヴァインは動かず、時折痙攣をするのみ。意識も飛んでいるのだろう。

 

「ふう~……」

 

 怒りも晴れ、同時に面倒ごとも解決した今、オレが思うことはただ一つ。

 

「「「「よ、容赦ねえ……」」」」

 

 すなわち、やりすぎた。

 

 

 

「お疲れブラン君。まだ冒険者じゃあないのに幸先悪いねえ」

 

 決闘終了後、早速ネブラに怒られるかと思いきや、かかってきたのはねぎらいの言葉だった。

 

「誰のせいですか誰の……というか、オレ完全にやりすぎた感があるんですけどお咎めなしなんですか?」

 

 内心ドキドキしながらも、表面上は取り繕ってそう聞く。しかしネブラは首をかしげただけだ。

 

「お咎め? なんで?」

「え?」

「いやだって、ブラン君何一つルール違反していないじゃん。降伏宣言だって明確にされたわけじゃあないし、ヴァインも死んでいないし」

 

 ちなみにヴァインらは終了宣言直後に回収され、治癒魔法師3人がかりで治療がなされている。結構ダメージがひどいみたいで、彼らがヴァインを見たときに苦い顔をしていた。

 

「……随分と判定が甘いんですね」

 

「まあ、彼らもここ最近粗暴が目立ってきていてね。そろそろお灸をすえないとなって思っていたところだからむしろよくやった!と君たちに賞賛を送りたいね」

 

 おいおい……このギルマス、結構腹黒いぞ? 

 

「それに、もう一つの目的も半分は果たせたしね」

「オレ達の実力を見る、という目的ですか」

「あら、気づいてた?」

 

 そりゃあ、あそこまで露骨にやられたんだ。少し考えればすぐに思い至る。実際ネブラも隠す気は無かったようで、声は驚いているもののあっけらかんとしている。

 

「それで、満足していただけましたか?」

 

 ため息を一つつき、オレはそう聞く。実をいうと戦いで使った能力が『黒纏』なのはこのためで、決して一時的な感情に身を任せた結果ではない。魔力が視えるネブラだから、『黒纏』の存在はばれているだろうと判断してのことだ。

 

「あははははは……僕は半分って言ったよ、ブラン君……君の全力、早く見せてほしいねえ」

 

 耳元でそうささやかれた言葉に、オレは背筋に冷たい何かを感じる。ほんっとにこのギルドマスター、超やりずれぇ! 

 

「あの、ギルドマスター。その、少々よろしいでしょうか」

 

 と、一人のギルド員がやってきた。何か面倒ごとでも起きたのか、とても困ったような表情をしている。

 

「うん? ああ、何かあったのかい?」

「はい、実は……」

 

 ネブラの耳元に顔をよせ、内緒話をする体勢になる。ハイスぺなこの身体の前じゃあ意味はないが、ヤバい話だったら聞いてないふりして忘れれば問題ないはずだ、多分。

 

「ポルコ商会の会長補佐と名乗る人物がギルドマスターへ面会を求めておりまして……」

 

 ポルコ商会……どっかで聞いたな。えーっと……確か、この街の三大商会の一つで、武器関連については独占している商会、だっけ? 

 

「へえ……大商会サマが、ね……どんな用でとかは、聞いているかい?」

「残念ながら、それはなんとも」

「まあ、仕方ないか。それじゃあ、今から後片付けをするからあとでギルマス室に通して……」

「その必要はございません」

 

 2人の会話を遮って、一人の若い男が現れた。黒いズボンに白いワイシャツ、赤い燕尾服に蝶ネクタイと随分と堅苦しい服装をしている。

 

「おや? もしかしてあなたが?」

 

「お初にお目にかかります、ロータスギルドマスター。ポルコ商会会長補佐、トレメル・クロークと申します」

 

 そういって男は手を腰に当て一礼。着ている燕尾服とも合わさって、いい言い方をするのなら優雅な動作である。……悪く言うと、すごくキザったらしい。

 

「それで、わざわざここまで来たのはいったいどのような用件で? 補佐ともあろう方が、こんなところまでやってくるとはよほどのことがあったようで」

「ええ、全くです。まさかこんなことは起こるとは……」

「おっと、こんなことと言われても、僕はまだ事情を把握していないのだが?」

「これは失礼。聡明と噂高いネブラ様なら、きっとすでにご理解されていると思っていたのですが……」

「あっはっは。君たちはいつも人を買いかぶる。……その癖、早く直さないと痛い目にあうだろうね」

「我々の仕事は信用することから始まりますゆえ、致し方ないことです。が、その時の対処も心得ているため心配は無用でございます」

 

 なんていうか……この2人、会話が聞いているだけで怖い。表面上は和やかな感じなんだけど、ギルマスは発言に毒がたらふく塗ってあるしそれを笑顔で受け流すクロークも目が笑っていないし……初対面の人間の会話が醸し出していい雰囲気じゃねーぞこれ。

 

「と、そろそろ本題に入ろう。一体ポルコ商会は、冒険者ギルドにどのような用があるので?」

「ええ……ここから先は申し訳ありませんが、部外者には聞かせられない話ですので……」

「それもそうか。それじゃあ、場所を移そう」

 

 ネブラが踵を返し、ギルド建物内に向かって歩き出す。と、その時、ネブラの魔力が不自然に動いた。指から流れ出たそれは細く形を変え――

 

 すまないけど、僕が戻るまで待っていてほしい。おそらく、君とも関係のある話だろうから。

 

 文章をかたどった。オレが昨日やったことを、そのまままねされた形になる。ずいぶんと器用な人だな。

 

(待つのは別に問題ないけど、オレにも関係がある話?)

 

 心あたりなんてあるはずがない。つい数日前に来たばっかりなのに、商会と関係のある話なんて全く予想できない。

 

 とりあえず、わかりましたと魔力でネブラの目の前に描く。大した距離でなければ、魔力を伸ばして操作することも可能だ。もちろん伸ばせば伸ばすほど精度は落ちるが。

 

 すると、ネブラの魔力文字が再び変形を始める。現れたのは――

 

 なんなら、盗み聞きしてもいいよ? 

 

 ……本人の承諾あったら盗み聞きって言わないだろ。

 

 とりあえず遠慮しますとだけ返し、オレ達はギルドの中へ戻った。

 

 

「やあ、お疲れさん」

 

 酒場の2階に、オリヴァーたちは端の方の4人席に座っていた。ついさっき注文したばかりなのか、卓の上にはほとんど手つかずの料理がいくつか置いてある。

 

「疲れたってほどでもないんだがな……あいつら、そこまで強くはなかったし」

 

 すぐ近くの席を動かしながらオレはそう答える。どこかおかしかったのか、オリヴァーは苦笑い、レヴィはどこか引きつった笑いを浮かべ、そしてアンナはため息をついていた。

 

「……あの人たちをそんな風に言える人って、そうそういないよ……」

「レヴィ、ブランたちはこの街に住むのよ。今のうちに慣れておかなきゃ、この先ついていけなくなるわ」

「……一体何をするつもりなんですか……」

 

 いや、なんで? 

 

「なんでオレ達が変なことする前提になってんだ……?」

「いや、ブランだし」

「アンナさん、意味がわかんないんだが」

 

 なんでこんなに信用低くなってんだ? 別に今まで好んで非常識なことをしているわけじゃないのに……

 

「ブラン様が無茶苦茶するのは当たり前ですもんね」

 

 ラピスまで。なに? 一体オレが何をしたっていうんだ? 

 

 周りからの意外な評価に打ちのめされていると、ふとディナの様子がおかしいことに気付く。その上半身は力なく机に倒れ伏しているが、顔だけは前を向いている、そしてその、ひどく真剣なまなざしの先には――

 

「肉……食べたい……」

 

 そう、言わずもがな、アドルフの手に握られた鳥のもも肉だ。かじられたところからは肉汁があふれ出ており、ディナの口からもよだれがあふれ出ている。

 

「……ディナ、なんか注文するか?」

「え!? 主、いいの!?」

 

 すごい食いつきようだ。確かにもう昼時は過ぎているし、運動後だから仕方がない……はたから見たらワンパンでも、ディナはあの一撃に結構なエネルギーを消費しているしな。

 

「ああ、いいぞ。というか、腹減ったなら普通に言ってくれていいんだが」

「いやったー!」

 

 今にも飛び上がりそうなディナ。別に禁止しているわけじゃ何だけど……昨日も一昨日も普通に宿の食事をとったし。

 

「一昨日の主は無一文だったけど、今日の主はお金を結構持っている……は!」

 

 何かをつぶやくユズハ。そして、期待に満ちた眼差しをオレに向けながら

 

「主! 今日はお腹いっぱい食べても!」

「ダメだ」

 

 村にいたときは自由だったからいいものの、人間社会だと規則やらいろいろある。2人(主にユズハ)に自重を覚えてもらわないと、後々面倒くさいことが起きる、絶対。

 

 ……え? お前が一番自重しろって? 何のことかなぁ? 

 

「というか第一、オリヴァーから借りたお金だってそんなに多くないんだよ。お前らが腹いっぱい食べたら確実に破産するわ」

「えー……いいじゃないっすか。無くなったらまた魔物でも狩って売れば……」

「そもそもまだ冒険者じゃないんだから、狩りに行けない」

 

 アイテムボックスにはまだ魔物素材は残っているけど、その場合は明日からの食事が半減するだけだ。

 

「なら、僕が出すってのはどうだい? 君たちの勝利祝いとして、さ」

「いやいや、こいつらが腹いっぱいになるのはそれこそ常人一ヶ月分の食料が必要だっての。一体どこにそんなお金があるんだ」

「大丈夫さ。僕はギルドマスター、収入もかなりあるし何なら経費で落とせるよ♪」

「あー……え?」

 

 今更ながらに、自分が誰と喋っているのかに気付く。後ろを振り向くと、そこにはやはりネブラが立っていた。

 

「……いつからそこに?」

「ついさっきだよ。具体的に言うとユズハ君が腹いっぱい食べても! って叫んだところ」

 

 マジでついさっきだった。それにしても、ギルマス戻ってくるの早いな。

 

「随分早いですけど、もう話は終わったんですか?」

「まあね。用件だけ聞いて後のことは部下に任せてきた。あ、ユズハ君にディナ君、好きなだけ頼んでいいよ。費用は僕が持つからさ♪」

 

 その言葉に喜びの声を上げる2人。早速店員を呼ぶと、「メニューの全部4人前!」とかいう無茶苦茶な注文をしていた。

 

というか部下に任せたって……おいギルマス、いいのかそれで。

 

「いいんだよ。僕の部下は優秀だし、今回の案件はそう難しいことじゃなかったし」

「あの、ギルドマスター。何か起きたんですか?」

 

 と、そこでアンナが割り入ってくる。そういえば、3人には説明していなかったな。

 

「決闘後にちょっとした来客が来たんだよ」

「うん。ポルコ商会の会長補佐。正装していたから偽物はないと思っていたし、実際本物だった」

「正装……もしかして、紅い燕尾服を着ていたのでは?」

 

 どうやら、オリヴァーに何か心当たりがあるようだ。

 

「正解。よくわかったね」

「観戦しているときに、そんな服装の人物がいたんですよ」

「観戦……なるほどねえ……」

 

 オリヴァーの情報に、ネブラはうんうんと頷く。

 

「ところでギルマス。その燕尾服、確かクロークだったっけ? そいつは一体何の用だったんですか?」

「え? 気になっちゃう感じ?」

 

 いや、あんたがオレ達に関係あるって言ったんでしょうが。いやでも気になるわ。

 

「あはは、冗談だって。……端的に言うと、決闘を行っている人物の使っている武器が、数日前に盗難に遭ったものかどうかの確認をさせてほしい、ってものだったんだよ」

「……それとオレ達にどんな関係が?」

 

 武器って言っても、ヴァインたちのもののことだろう。そもそもオレ達は誰一人武器を使っていなかったんだから。

 

「……なるほど、ずいぶんと面倒なことになりましたね」

「すいません、話がまったく伝わってきません」

 

 一体何が面倒なんだ? もしヴァインたちが犯人だったらそれで解決な気がするんだが。

 

「そうだねえ……ブラン君。君はヴァインたちが持っていた剣がおかしいとは思わなかったかい?」

「おかしい? まあ、確かに魔法が使えるようになる剣なんて初めて見たけど……それがどうかしたんですか?」

「あれはここ数年で生まれた最新技術でね。それこそ白金貨数十枚あってやっと変えるような代物なんだよ」

 

 え、白金貨? 確か交換レートは金貨100に白1だったから……

 

「……めちゃくちゃ高級品じゃないですか……」

 

 オレが生前に買った剣(結構いいやつだったらしい)ですら金貨10枚だったっていうのに……一生遊んで暮らせる金だぞそれ。

 

「そう。そしてそんな高級品を、大商会が盗まれるようなところに置くと思うかい?」

 

 確かに……そんなものが簡単に盗まれちゃあ、あっという間に破産する。

 

「それに、ヴァインたちは盗みのプロってわけでもない。そんな芸当ができるっていうんなら、とっくに冒険者なんてやってないよ。……つまりここから、一つの可能性が生まれるのさ」

「……商会が意図的に援助した、という可能性ですか?」

 

 オレがそう答えると、ネブラが拍手をする。どうやら正解のようだが、なんかむかつくな。

 

「僕はその可能性が高いと思っているよ。おそらく、クロークがやってきたのは後始末の為だろうね」

 

 後始末……使えなくなったら、始末してハイおしまい。それはオレがエインズ王国にされたこと、そして親友の二人に将来訪れる結末と同じではないか。ヴァインはむかつくやつだったが、それ以上にオレはポルコ商会に対して腹が立っていた。

 

「……その商会、つぶしていいですかね」

「ぶ!」

 

 ついそんな言葉が口からこぼれる。驚いたレヴィが、飲んでいた水を盛大に噴出した。

 

「ダメダメ。確かにポルコ商会は悪いうわさが絶えないけど、まだ証拠がないから、やったら君たちが犯罪者になるよ」

 

 ですよねー。

 

「ただまあ、もしかしたらつぶしてもいい日が来るかもしれないね。近い将来」

「……?」

 

 どういうことだ? 

 

「これが、オリヴァー君の言っていた面倒ごとだよ。ポルコ商会がヴァインの援助をしたということは、ポルコ商会にとって何かの見返りがあるはず。そして、ヴァインたちが出せるものは限られている……たとえば、決闘に勝ったときの要求権とかね」

「……!」

 

 ここにきてやっと、オレはその面倒ごとを理解することができた。

 

「ポルコ商会がちょっかいをかけてくるかもしれない、ということですか」

「そういうことさ」

 

 つまり、ポルコ商会はヴァインの決闘相手のオレ達に、何らかの価値を見出したというわけだ。それが何かなんて全く予想はできないが……おそらく真っ当なものではないだろう。そして、あそこまでの高級品を持ち出してきたということは、その見出した価値は相当なものになる。大商人がそれを簡単に逃すはずもない。

 

「まあ、悪いうわさが多いって言っても大商会は馬鹿じゃないから、そうすぐに手を出すとは考えにくいけどさ……警戒ぐらいはしておきな?」

「……そうですね。ありがとうございます」

 

 オレは素直に礼を言う。もし何かが起きたときに、知っていたのと知らなかったのではそれからの行動に大きな差が出てしまうから、ギルマスのもたらしてくれた情報はかなり助かるものだった。

 

「さて、それじゃあ暗い話はここまでにして……実はもう一つ、重要なお知らせがあります♪」

 

 先ほどまでの雰囲気からは一転。真面目な表情は変わっていないのに楽しそうな目をするネブラに、何やらオレは悪い予感を感じた。

 

「ブラン君、君たち4人をランク4冒険者に任命します!」

「……は?」

 

 はああ!? 

 

「ちょっと待ってくださいギルマス。あれですか? 手助けの一環で一昨日言ってきたあれですか? ならもう遠慮したはずなんですけど」

「アハハ、違うよー? 君たちは十分な能力があるって僕が判断したからさ」

「というか、冒険者になるには明後日の試験を受けないといけないってレヴィさんに聞いたんですが……」

「そこはほら、僕のギルドマスターの特権だよ……新米一人のランクなんて、僕の権力でどうとでもできる」

 

 しょ、職権乱用だろ……いいのかそれで……

 

「というかブラン君、ランク4冒険者になったとして何か問題でもあるの?」

「ありますよ。こんな見た目でそんなランクあったら、絶対認めない人が……」

「今日の決闘を見た人が、果たしてそう考えるかな? それに見てないとしても、君たちのことは否が応でも噂になるだろうし」

「いや、でもオレ達に冒険者のノウハウなんてありませんし……」

「誰だって最初はないよ。基本的な知識だって、新人の為の勉強会もあるからそこで学ぶこともできるし」

 

 いやでも他にも……他にも……

 

「あれ……案外問題ない?」

「でしょ?」

 

 別に問題が多かったわけじゃないけど、こうして考えてみると問題はすでに解決した後だった。

 

「というか、もう既に書類にサインしちゃったから手遅れなんだよねー」

 

 随分と仕事が早い。いつの間に書類なんてつく……まさか。

 

「まさか、あの決闘はこれも計算に入れていた……?」

「お? そこに気付くとはブラン君、実は頭が良かったり?」

 

 実はってなんだよ実はって。確かに成績は学校じゃあ中間程度だけど、ボードゲームじゃあ負け知らずなんだぜ? うん、いいって言えないな。

 

「まあ、冒険者証とかも作る必要があるし他にもいろいろと手続きがあるから、活動できるのは四日ほど後になっちゃうけどさ」

「それじゃあ、試験受けるのと変わりないじゃないですか……」

「まあまあ、有名になれたんだからいいじゃないか。それとも、有名になるのはまずかった?」

「いや……」

 

 別にオレはよくあるラノベ主人公みたいに有名になりたくないわけじゃないし、むしろある程度はあったほうがいいと考えているが……なんか、ギルマスの思惑通りに進んでることが釈然としない。

 

「それじゃ、この話も終わり! 料理もそろそろ来るだろうし、ここからは普通に祝賀会と行こうじゃないか!」

 

 

 

 それから運ばれる料理をディナとユズハはことごとくその胃袋(ブラックホール)に飲み込み、全品4人前を平らげた後も満足せずにどんどん料理を頼み、品書きが長くなっていくにつれネブラの笑顔が引きつり始め、2人が満足するころには酒場の食料がほとんど食いつくされ、1メートルを超える勘定書を乾いた笑みでネブラが眺めるというのが今日の顛末だ。「今月の給料が……3分の1が消えていく……」と嘆いていたのだが、不思議なことに罪悪感とかは一切わかなかった。

 




読んでいただきありがとうございます
ストックが無くなってきた…
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