召喚勇者は死にました   作:黒桜@ハーメルン

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30 おとめバー

「……本当にここで、本当にこの建物で合っているのか?」

 

 昼前だというのに、薄暗く寂れた裏街道。灰色に染まった道路に通行人など一人もおらず、ネズミとカラスの歩行者天国となっている。

 

 そんな道端に、たたずむ人影が5つ。彼らの目の前にある建物は塗装がほぼほぼ剥げており、かかっている看板の文字も潰れてしまっている。かすかに読めたのは、“バー”という一番下に書かれた文字のみであった。

 

「……本当にここなのか……?」

 

 再び口から疑問がこぼれる。自分たちの目的地が、本当にここなのか確信を持つことができなかった。

 

 

 始まりは、決闘から3日後の今日の朝。ギルドに赴いたオレ達はレヴィの手から冒険者証を渡され、晴れて冒険者デビューを果たす。そして冒険者の規則やらを説明されたのち、そのまま食料補填も兼ねた初依頼に出かけようとしたところ、レヴィの言葉に引き留められた。

 

「実はこの後中ランク冒険者のためのノウハウ講座があるんだけど、ブラン君たちは参加する?」

 

 そういえば、ネブラがそういう勉強会があると言っていたっけな。それを思い出したオレは、素直に参加することに。ちなみに本来新米が参加するのはもう一つ別のものらしいが、そちらでは主に魔物の狩り方や解体の仕方、死なないための術などを教えているとのこと。サバイバル生活を続けていたオレ達にとっては、そんな知識はとっくに身に着けていた。

 

 レヴィに参加する旨を伝えると、一枚の手書き地図を渡された。曰く講師は元凄腕の冒険者で、引退した今は店を開いて生活しているとのこと。そして月に一回、講座を開いているらしい。

 

「ちょっとわかりにくいかもしれないけど、地図通りに行けばつく、はず」

 

 そして微妙に不安になるレヴィの見送りを受けたオレ達が地図を片手にたどり着いたのが、目の前の“バー”なのだ。

 

「……ユースティさん、オレは今までにどこかで道間違えていないか?」

 

 ちなみに、この講座を受けたのはオレ達4人だけじゃない、最初に言った通り、もう一人の参加者がいる。

 

「うーん……私の見たところブランさんは間違っていないと思うけど……」

 

 顎に手を当て思案顔になる青年、ユースティ。細身で童顔気味、身長も平均より少し低い彼は、オレ達同じく冒険者には見えないだろう容姿をしている。

 

「主、なんでそんな悩んでんの? 入ってみて、間違えだったらまた探そうよ」

「……ディナ、それはものすごく勇気のいることっすよ……」

 

 なぜオレが躊躇しているのかわからないディナを、半笑いで止めるユズハ。おそらくユズハも、この“バー”に不穏な何かを感じているのだろう。

 

「……ただまあ、ディナの言うことももっともか。……よし!」

 

 覚悟を決めて、入り口の前に立つ。

 錆の広がった、獅子ようなの装飾の付いたノッカーを3度打ち鳴らす。

 

少しすると中から、「はーい」と野太い男の声がした。

 

 一分もしないうちに、内側から扉が開けられる。

 

そして、出てきた人物の姿を見て、オレ達一同は言葉を失った。

 

 2mを超える長身、ボディビルダー並みの筋肉、堀の深い厳つい顔。頭に巻かれたタオルからは、長く黒い髪が肩まで伸びていた。

 

 しかし、それだけなら言葉を失う理由にはならない。オレが思考を停止してしまったのは、男のファッションに起因する。

 

 引き締まった肉体を覆うのは、ピンク色の薄い布一枚。エプロンとしか呼ぶことができないその布は巨体の全面しか隠すことができておらず、振り返れば裸同然の姿となるだろう。そして顔には今どきの女子高生でもなかなかしないような濃いメイクがなされていたが、その厳つい顔には全く似合わず、違和感をより一層引き立たせる。

 

「誰かしら……あらぁ、いい男じゃない」

 

 オレ達を――その中でユズハとユースティを視界に収めた目の前の大男は、その太いイケボで一言。

 その一言で、オレは悟る。

 

 ああ、ユズハ、終わったな……

 

 

「ごめんさないね、あまりにもいい天気だったからつい、煽情的な格好で出てしまったわ」

 

 バーのカウンター席に座るオレ達に、カウンターで何やらハンドルのついた器具を回しながら男はそう謝る。オレ達を案内した後すぐに着替えており、ジーパンにタンクトップといたって普通な服装に変わっていた。

 最もメイクはしっかりと残っているし、今が冬なのを考えると違和感はまだまだ強烈だが。

 

「そういえば、自己紹介がまだだったわね。あたしはアンジェリーナ。元ランク8冒険者だけど、今はこんな街の端のバーのしがない店長よ」

 

 今度はやかんに水を入れ、湯を沸かし始めるアンジェリーナ。やはり日本人として、されたらし返すというのが礼儀だろう。

 

「あ、ランク……4冒険者のブランです」

「同じくディナだよー!」

「え、えと、ユズハと申します、はい」

「ブラン様の配下のラピスラズリです」

「初めまして、ユースティと申します。噂はかねがね聞いております」

 

 三者三様ならぬ五者五様の自己紹介。ユズハの声に怯えが混ざっているように感じたのは、きっと気のせいではないだろう。

 

「あら、うれしいわ。ユズハにユースティ……かわいい名前ねぇ」

 

 ユズハが震えあがったのが手に取ったようにわかる。うん仕方ない、もしオレが対象だったら逃げ出す自信あるもん。初めてこの見た目に助けられたかもしれない。

 それに比べてユースティはすごい、アンジェリーナの口撃を苦笑いで耐えきってる。

 

「……食べちゃいそう」

「い、いやあの、主!ブランも男っす!」

 

 アンジェリーナの連続爆弾発言に、とうとう精神が耐えられなくなったユズハが主たるオレを売りやがった。ちょ、お前ふざけんなよ!? 

 

「あら? そんなこと気付いているわよ?」

「え?」

 

 気づいていた? それならなぜユズハとユースティだけ? ……いや、自分が獲物になるなどまっぴらごめんだが。

 

「うーん。確かにブランちゃんは女の子みたいにかわいいけど、あたしはいい男が好みなのよねぇ。だから、ブランちゃんは対象外なのよ」

 

 よ、よかったぁ……この体にしてくれた相棒、マジ感謝っす。

 

(これを想定していたわけではないので、いささか不本意なのですが)

 

「そ、そんなあ……」

 

 崩れ落ちるユズハ。意気消沈しているようだが、主を売った罪は重いぞ? 

 

「冗談よ冗談! 流石のあたしでも、無理矢理襲ったりしないわよ。……ところで、さっきラピスちゃんが配下とか言っていたけど、あなたたちって一体どんな関係なのかしら?」

「主の配下!」

「右に同じく、っす」

「何故か3人の主です」

「今日初めて4人とは会いました」

 

 順にディナ、ユズハ、オレ、ユースティである。

 

「あら? てっきり全員同じパーティなのかと思っていたわ。……そうねえブランちゃん、主としてユズハ君を後で貸してくれたりしないかしら」

「……すみません、勘弁してやってください」

 

 一瞬、主(オレ)を売った罰として差し出そうかと迷ったが、流石に勘弁しておく。なんせユズハの見た目は生前のオレなのだ。自分が男に食われる姿なんて想像すらしたくない。

 

「それは残念ねぇ……はい、おまちどおさま」

 

 そこまで残念そうでもない声でアンジェリーナがそういうと、オレ達の前にカップを置く。中に入っていたのは黒い飲み物――コーヒーだった。

 おそらく、さっき回していた器具はコーヒーミルだったのだろう。どうにも見覚えがあると思っていたけど、やっとわかった。

 

「ちょっとしたサービスだから、遠慮しなくてもいいわよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 とりあえず、一口。コーヒーは特に好んでいたわけではないのだが、不思議とこのコーヒーはおいしく感じた。

 

 しばらく、無言の時間が流れる。それぞれがそれぞれに、コーヒーをゆっくりと味わう。

 

「それじゃあ、飲み終わったしそろそろ『どきっ☆!アンジェリーナの中ランク冒険者講座!』を始めようかしら」

 

 ……それが正式名称なのだろうか。

 

 

 

 講座の内容は結論から言うと、今までの会話と一転して非常に為になるものだった。問題の起きない依頼の受け方や起きた場合の対処法、ランク4から受けられるようになる護衛依頼における注意やはたまた貴族との接し方について。豊富な冒険者としての経験談を混ぜながら、非常にわかりやすくアンジェリーナは解説をしてくれた。

 

「こんなものかしらね……何か気になることはあるかしら?」

 

 一息ついたアンジェリーナは、ポットに残っているコーヒーをカップにそそぐ。

 

「いえ、大変ためになりました」

「あらそう。最近の子は物分かりがいいのねぇ」

 

 見た目に似合わない、優雅で繊細な動作でアンジェリーナはカップを口に運ぶ。すでに覚めてしまっていたコーヒーだが、特に気にした様子はない。

 

「主、お腹がすいたよ」

 

 隣に座るディナのその言葉で、オレはもう昼時かと気付く。アンジェリーナの店には窓が一切なかったので、すっかり気が付かなかった。

 

「あらごめんなさい、できれば何かを出してあげたいんだけど……あたしは料理ができないから無理なのよ」

「あ、いや、気にしないでください」

 

 コーヒーを無料(ただ)でいただいたのに、そこまでしてもらうと申し訳なくなる。

 

「ハニーが帰ってくれば何か出せるかもしれないのだけれど、買い出しに行ってもらっててねぇ……」

「……え?」

 

 待て、アンジェリーナさんは今なんて言った? 

 

「……結婚なさっているんですか?」

「あら、言ってなかったかしら?」

 

 驚いた。ユズハやユースティを(性的に)食らおうとするくらいなんだからてっきり女性に興味はないのかと……いや、待てよ。ここは別に地球じゃないんだ、同性婚も許されていたり……? 

 

 と、そこでオレは、外が何やら騒がしいことに気が付く。人のしゃべり声ではない、店の周りに大勢の人が集まり、何やらこそこそと動き回っているのを魔力感知で発見したのだ。

 

 ……怪しい。こんな人通りの少ないところに人が集まるのもだし、しゃべり声が一切しないのも変だ。これではまるで……

 

 コンコン

 

 ノック音が、室内に響く。

 

「あら? ハニーが帰ってきたのかしら?」

「アンジェリーナさん、待っ……」

 

 何の躊躇もなく、アンジェリーナは鍵に手をかける。そしてオレが止める言葉を紡ぎだす前に、扉は開かれた。

 

「……あれ? どちら様かしら?」

 

 戸を叩いていたのは、五人ほどの男たち。身長も風貌もバラバラの彼らだが、誰もがやせこけているという共通点がある。

 

「こ、こここにブランという冒険者はいるか!」

 

 アンジェリーナの巨体にビビったのか、男の声はわずかに上ずっている。裸エプロンで出迎えられなかっただけまだましと言えよう。

 

 しかしこの男たち、強盗か何かかと予想したのだが、違うのか? オレがいるか聞いていたけど……こんなやつとはもちろん面識がない。

 

「ブランちゃん? ちょうど今いるけど……」

「そうか、ならてめえに用はねえ!」

 

 アンジェリーナがそう言った瞬間、聞いた男は違う男が飛び出す。その手にはナイフが握られており、その切っ先はまっすぐにアンジェリーナに向いていた。

 

 まずいと感じ、咄嗟に飛び出しかける。いくらがたいがよくても、刃物が相手では――

 そんなオレの心配は杞憂に終わる。

 

「ぶへらぁ!?」

 

 ものすごい勢いでナイフを持った男は吹っ飛び、向かいの建物の壁に轟音を発しながら衝突。そのまま地に倒れこみ、壁にはひび割れが発生していた。

 やったのはもちろんアンジェリーナ。右手を振り抜いたその姿勢に、外にいた男らは唖然としている。

 

「んもう。ナイフで刺してくるなんて物騒ねぇ」

 

 いや、あんたの拳の方が物騒だわ!

 

「なんだ! 一体何があった!」

「な!? ジェフ!?」

「おい! てめえ何をしやがった!」

 

 今の音で、ぞろぞろと人が集まる。その全部がさっきまでこそこそしていた奴らであり、状況を把握した途端アンジェリーナに向かって武器を構えた。

 

 総勢11人。加勢しようとオレが席を立つと、アンジェリーナがそれを止める。

 

「ブランちゃん。心配無用よ」

「……大丈夫なんで?」

「あら、引退したとはいえあたしは元ランク8よ? そう簡単に後れを取ったりしないわよ。それに……」

 

 胸の前で、アンジェリーナは指をバキゴキと鳴らす。その顔には、凶悪と呼んで差し支えない笑みが浮かんでいた。

 

「あたしの店を襲うようないたずらっ子には、ちょーっとお仕置きしないとねぇ」

 

 

 

 圧倒的だった。元ランク8の腕前は、まだまだ健全のようである。

 

 アンジェリーナが腕を振るごとに、一人の敵が吹き飛ばされる。一発で相手を先頭不能にするその拳は、まさしく一撃必殺。

途中キスとかハグとか、攻撃じゃない攻撃を繰り出していたように見えたのはきっと気のせいなのだろう。

 

 5分もしないうちに、店の前に集まったごろつきどもが一掃される。

 

「骨のない子たちねえ。もっと鍛えなきゃあたしは落とせないわよ?」

 

 非常に物足りなさそうなアンジェリーナ。手を払う彼の額には、汗の一粒すら浮かんでいない。

 

「これが、ランク8……」

 

 一方、オレの隣、入り口に一番近い席に座っていたユースティはアンジェリーナの戦いぶりに感動を覚えているようだ。

 

「さて、この子たちはどうしようかしら」

「あ、私が衛兵を呼んできます!」

 

 そういうと、ユースティは駆けだす。華奢な体つきだというのに、実に見事な疾走だ。

 

 ……とりあえず、ユースティが戻るまでに逃げないようごろつきどもを拘束しておくか。

 

「ラピス、あいつらを縛っておいてくれるか?」

 

 声をかけるも、返事がない。不思議に思いつつ、オレはもう一度呼んでみた。

 

「ラピス? 何かあったか?」

「主、ラピ姉寝ちゃったみたいっすよ」

 

 ユズハの隣を見ると、ラピスが卓に突っ伏していた。

 なんでこんな真昼間に? 疑問に思いながらも、オレはラピスを揺する。

すぐにラピスは起きてくれた。

 

「……あれ? ぶらんさん? ここどこれすか?」

 

 ……ん? ラピスの様子がおかしいぞ? 呂律が回ってないし、頬も赤い。それに、目の焦点もどことなくあっていないような感じだ。

 

 これは……まさか……

 

「ラピス。お前、酔ってないか?」

「ええー? そんなことないれすよー?」

 

 うん確実に酔ってる。だけどなんでだ? 別に酒を飲んだわけでもな……

 

「あ」

 

 ほとんど減っていないラピスのカップを見て、オレは思い出す。

 

(そういえば、アラクネはコーヒーでも酔うんだっけ……)

 

 すっかり忘れてた……ていうか、何気に酔うラピスって初めて見るな。村じゃあ全く飲んでいなかったし。

 

「ラピス。外の奴らの捕縛を頼みたいんだけど、できそうか?」

「もちろん、れきまふよー」

 

 答えるラピスは立ち上がると、千鳥足のまま外に歩みでる。

 

「あれ? あれれ? うまくれきない?」

 

 手から糸を出したはいいものの、酔いのせいでうまく操作できないようだ。あらぬところに絡みついては、瓦礫などの関係のないものばかり縛り上げていく。

 

「あーもう、めんろくらいなあ……よし!」

 

 じれったくなったのか、ラピスがすべての糸を放棄。そして蜘蛛の足を背中から生やし、再度ごろつきの拘束に取り掛かった。

 

「あら? ラピスちゃんってアラクネなのねぇ」

「知ってるんですか?」

 

 アンジェリーナの言葉にオレは意外さを感じる。

 

 ぶっちゃけ、この街でのアラクネの認知度は低い。決闘で蜘蛛足を出したときでも、観客たちはまるで知らない様子だったし。

 

「ええ。あたしもアラクネとの交易に携わったことがあってね。もう二十年以上前の話よ」

「へえ……」

 

 20年前……アンジェリーナさん一体何歳だよ。

 

「もう! 漢女(ヺトメ)に年齢を聞くのはいけないことよ!」

「お、乙女?」

 

 一体どこら辺が乙女なのだろうか。

 

「違うわブランちゃん! 乙女(おとめ)じゃあなくて漢女(ヺトメ)よ! ほら復唱! さんはい!」

 

 どうやら、漢女の発音にはかなりのこだわりがあるらしい。咄嗟の無茶ぶりに、オレは戸惑うことしかできなかった。

 

「え? ぼ、ぼとめ?」

「違うわ! よく聞きなさい! ヺトメ! はい!」

「ヴぉ、ヴォトメ?」

「違うわ! もっと漢女らしく! せーの!」

 

 

 その後、漢女の発音練習は衛兵を連れてきたユースティをも巻き込み、およそ2時間ほど続くこととなった。

 

 一体どうしてこうなったんだろう……

 

 

 

「ブランさん。明日一緒に依頼を受けませんか?」

 

 地獄の漢女発音講座から解放され、げんなりした気持ちでバーを出たとき、唐突にユースティがそう切り出してきた。

 

「随分と急だな……というか、なんでだ?」

「ちょっと個人的な理由なんだけどね。実はブランさんたたちがあのヴァイン一味に勝ったって噂に聞いてさ」

「あー、まあ、そうだな」

 

 やっぱり噂になってるのか。

 

 「それで私としては、ぜひその強さを直接見てみたいんだよ。あ、別に疑っているわけじゃないよ!? 本当に気になっただけだから!」

 

 いや、別に疑われたとは思ってないんだが。というか、疑われても別に気にしないし。こんな見た目だから侮られるのも仕方ない。

 

「ちなみにオレの噂って、どんな感じなんだ?」

「え? えっと、人間の丈以上もある巨剣を片手で受け止めたとか、指一本触らずに相手を気絶させたとか、全身鎧(フルメイル)を殴って吹き飛ばしたとか、化け物の右手を持ってるとか、爆発を食らってもぴんぴんしているとか、降参する相手にも容赦なくとどめを刺す鬼畜だとか……まあ、噂は誇張されるものだからね」

「あ、あはははは……」

 

 同意を求めるようなユースティの言葉に、乾いた笑いが口から洩れる。

 ごめんなさいソレほとんど事実です。誇張なんて全くされていないです。

つーか鬼畜ってなんだよ鬼畜って。言ったやつ出てこい。

 

「同じランク4冒険者同士、親睦を深めたいってのもあるけど……どうかな? もちろん、冒険者の財産である手の内を見せてって頼んでるも同義だから、断ってもらっても全然いいんだけど……」

「ああ、いいぞ」

 

 決闘の時に使った手の内なんてほんの一部だ。というか、オレ達の戦いなんて見たところで真似できるものじゃないからぶっちゃけ晒してもおそらく問題はない。念のために晒さないが。

 

「本当!?」

 

 申し訳なさそうな表情から一転、笑顔になるユースティ。

 

「手の内なんて結構見られているからな。今更隠せるわけないし……ラピス、ディナ、どうだ?」

 

 振り返って二人に確認すると、頷きが返ってくる。ちなみにラピスの酔いは、飲んだ量が少なかったおかげか比較的早く解けた。

 

 え? ユズハには確認しないのかって? 怠けてばかりのあいつに選択権はない。

 

「あ、決闘の時か……」

「そういうことだ……あと、冒険者としてはオレ達は何もやったことがないからな、色々教えてくれると助かる」

 

 アンジェリーナの講座でもいろいろと教えてもらったけど、話に聞いただけじゃあわからないこともある。

 

「任せてくれていいよ!」

 

 そういってユースティはドンと胸を張る。地道にランク四まで登った彼ならきっと経験も豊富だろう。

 

「それで、明日はいつくらいに集合する?」

「そうだね……この時期は依頼も少ないし、朝の鐘が鳴る前でいいかな?」

 

 この街、いやこの世界に時計はない。なのでこの街では、四方の城門の上に取り付えられている鐘を使って時間を知らせている。鳴るのは、日の出約一時間後、太陽が南中したとき、そして日の入り約一時間前だ。この街のだいたいの商店や冒険者ギルド含む公的機関は、その鐘の音を頼りに仕事を行っている。つまり、鐘が鳴る前というのはギルドが開く前ということを指しているのだ。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 明日の予定も決まったことだし、オレ達とユースティは別れる。

 

 さて、やることが無くなってしまった。街の探索はここ3日で十分にやったし、街の外に行こうにも時間が時間だ。3時間もすれば日が落ちてしまう今、森に出たところで対して成果は得られないだろう。日が落ちてしまうと門が閉まり、翌朝の鐘が鳴るまで開かなくなるから外泊も論外だ。

 

 困ったなあ、とオレは右手で頭をかく。そしてその手が後ろ髪に触れると、オレはあることを思い出した。

 

(そういえば、決闘の時に半端に切れちゃったんだっけ)

 

 転生当初から伸ばしっぱなしの白い髪。最初は肩口ほどしかなかったそれは気づけば腰まで伸びており、そして決闘で切られたことによって今は左右で5センチほどの不均一さが生まれていた。

 

 このままじゃあ非常に見栄えが悪い。何とかしたほうがいいだろう。

 

(短くなった髪の毛のみ伸ばすことも可能ですが、いかがいたしますか?)

 

 え、そうなの? ……いや、せっかくだし切ってしまおう。今までずっと放ったらかしていたし、少しくらい意識してみるか。

 

 3人を見てみると、やはりみんなの髪も長い。ユズハは目元が完全に前髪に隠れていたし、短かったディナの髪も肩にかかってきている。元から長かったラピスに至っては、軽く結わえられた後ろ髪がすでに膝に届くぐらい長くなっていた。

 

 ……オレだけじゃなくて、皆のも整えてしまうか。

 

 そう結論づけて、オレ達は“止まり木”へと帰った。

 




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