召喚勇者は死にました   作:黒桜@ハーメルン

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31 依頼という名の好き勝手

 早朝。冒険者ギルドにたどり着くと、そこにはすでに多くの冒険者がいた。おそらく彼らはいつもこの時間にきて、貼りだされたばかりの依頼を狙っているのだろう。昨日ギルドに来た時に人が少ないと感じたのはなるほどこういうことか。

 

 すこし見回してみると、見つけた。冒険者の集団の中で、ユースティは何やら話をしているようだ。相手を見て見ると、若い女性の3人組。

 

「……あ、ブランさん!」

 

 なんの話をしているんだろうかと少し気になっていたら、ユースティもオレ達に気付いた。手を振りながら、こちらに歩いてくる。そして先ほどまで話していた女性たちはむっとしたような表情をオレ達に向けたかと思うとすぐに驚きの表情に変わり、顔をそらした後ひそひそとしゃべり始めた。そしてそれを見た周囲の人たちも、オレ達の方を見てすぐに顔を伏せる。

 

 …………うん、軽く小一時間ほど問い詰めたいんだが。

 

「おはよう、ユースティ。髪切ったのによく一発で分かったな」

「そりゃあ、ブランさんたちは特徴が多いからね。髪型が変わったくらいじゃあ、見間違える人なんていないと思うよ」

 

 それもそうか。確かに、ここ数日いろんな人に会ったけど真白い髪の人も黒コート着こんだ人も見たことがない。……冒険者としても、オレとディナの容姿がどう見ても子供だし。

 

 ちなみに昨日の散髪の結果だが、オレは肩にかからない程度のショートに、ディナはウルフカットになっている。なんでウルフなのかわからないが、非常に似合っているとだけ言っておこう。ユズハとラピスは細部を調整した程度でほとんど変化なしだ。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

「それにしても人が多いな。まさか、この人数の中で依頼の取り合いをしなきゃいけないのか?」

「あはは……その通りだよ。でも春になれば依頼とかは激増するから、それまでの辛抱だよ」

 

 春って、全然まだまだ遠いじゃないか。あと一ヶ月はあるぞ。

 

「あ、安心して。私が誘ったんだから、責任もって私が依頼を確保するよ。……慣れてないとかなり危ないし……」

「え? 危ない? なんで?」

 

 もしかして、依頼を巡った乱闘でも起きるのか? 

 

「こんだけ多い冒険者がギルドが開いた途端なだれ込むんだから。屈強な人が多いし、新米冒険者は大体怪我するかな。私は今でもたまにするし……」

 

 ……危ないなあ冬の冒険者ギルド。

 

「あ、ならユズハにやらせたらいいんじゃない? ユズハ、すごい硬いし」

 

 ディナがそう提案すると、推薦されたユズハは首をぶんぶんと横に振る。

 

「嫌っすよ! オレが行ったところで踏まれるだけじゃないっすか」

「あ、そっか。ユズハ耐久はあるのに筋力ないもんねー」

「その通りなんすけど、釈然としねえ……」

「あはは……私が行くから2人は待っててくれればいいよ」

 

 口先を尖らせるユズハに、あくまでも自分が行くというユースティ。オレとしては別にけがをしてまでいい依頼を入手しようとは思わないんだが。

 というか、別にユズハが行かなくても安全に入手する方法はあるし。

 

「なあユースティ。参考に聞きたいんだけど、どんな依頼を受けるつもりなんだ?」

「え? えっと……狩猟型の依頼で、できれば数に応じて報酬があがる、って感じのかな? 中型魔物の討伐もいいけど、それは居場所がわかんないとリスクが高いし、多分ない」

「ランクは?」

「四のがいいかな。身の丈以上というのは怖いし」

 

 ふむ…………なら、この辺か? 

 

 と、その時、鐘の音が町中に鳴り響く。同時にいくつもの戸を開く音が生まれ、街の朝が始まった。

 

 そしてそれは、ギルドが開くことをも意味する。

 

「「「うおおおおお!」」」

 

 屈強な冒険者たちは、その自慢の身体頼りに入口へと突進。入り口を開けたギルド員は心得ていたようで、一目散に奥へと退避していた。

 

 そしてユースティは突進する軍団に紛れ、蹴られ殴られながらも掲示板へと到達。再び蹴られ殴られ戻ってきたときには、体中にあざができていた――そんな未来は、しかし起きることはなかった。

 

「ちょ、ブランさん! 力つよい! 弱めて! ちょっと弱めて!」

 

 どこからかって? 最初からだ。突っ込もうとするユースティの右腕をオレが捕まえる。しかしどうやら力加減をいささか間違えたようで、ユースティからギブアップの声が飛ぶ。

 

「いてて……ってブランさん、なんで私を止めたの? これじゃあ依頼が……」

「依頼ならもう取った」

 

 腕をさするユースティの前に、2枚の紙を持った右手を掲げる。

 

「いやいや、中にも入っていないブラン君がいった……い……どうやって? え、どうやったの?」

 

 初めは信じていないユースティだったが、オレの持つ紙をよく見るにつれて、純粋な疑問へと変化していた。

 

「残念ながら企業秘密だ」

「……そう言うと思ったよ……ってブランさん……君、やらかしたね……」

「え?」

 

 やらかした? 何が? ちゃんとユースティに聞いた参考通りに取ったはずなんだが……

 

「その顔じゃあ、絶対わかってないよね……まあ、仕方ないか」

 

 ため息を一つつくと、ユースティはオレの選択の何がいけないのかを説明してくれた。

 

「まず、この常駐依頼の『ゴブリンの掃討』。確かにゴブリンを倒せば倒すほど報酬は上がるけど、ゴブリンって単価が低いしこの季節だとなかなか姿を現さないんだよ」

 

 ふむ。

 

「ソレのどこに問題が?」

「え? いやだって、見つからなかったら全然儲け出ないんだよ?」

「え? 見つければいいだけじゃないか」

 

 オレとラピスからすれば、そんなの朝飯前である。またユズハとディナに限っても問題はない。食物センサーとでもいうべきなのか、こいつらは獲物の位置が勘でわかるのだ。

 

「いやいや、それが難しいんじゃん……うん、まあ一旦置いといて、もう一個の方」

 

 難しいのかけらもないんだがなあ……まあ、いっか。

 

「依頼名『ワームの皮の納品』、依頼主は工業ギルド。場所も西の大森林、約一時間の圏内にいると、信頼できる依頼だね。Cレート下位のワームでも最低4匹分っていうところが結構大変そうだけど……」

 

「それが、なんでダメなんだ?」

 

 聞いた限りじゃ問題が思いつかない。というか、普通にいい依頼だってユースティ自身も言っているんだが。

 

 ちなみに、西の大森林というのはオレが転生し、サバイバル生活を送り、そしてアラクネの村があるあの森のことだ。

 

「うん、この依頼にダメなところはないね……だけどブランさん、君はゴブリン掃討の依頼の場所をちゃんと見たかい?」

「え? ……いや、見てないけど。同じ西の大森林じゃないのか?」

「まさにその通り、ゴブリンの依頼は、東の森なんだよ」

 

 ……なん…………だと…………? 

 

 いや、森の存在は知っていたよ? 一応アンジェリーナのなんとか講座で話に出たし……はいごめんなさい、すっかり失念しておりました。

 

「いやなら、片方だけ受けるとか……」

「それはできるけど……取った依頼は原則受ける。破棄する場合は、報酬金の2割が罰金に取られるんだよ」

 

 え、マジで? やだ聞いてないんですけど。そしてお金も全然ないんですけど。

 

「アンジェリーナさんは複数の依頼は同時に受けないほうがいいって言ってたじゃないか……」

「いや、てっきり実力的な意味かと……」

「……まあ、とっちゃったものは仕方ない……少し高くなるけど、ゴブリン掃討の依頼を破棄しておくよ」

 

 ため息をつき歩き出そうとするユースティを、オレは再び腕を掴んで止める。今度は力加減を間違えることはなく、ユースティも痛みの訴えを上げることはなかった。

 

「ユースティ、なら両方受けよう」

「…………え? いや、確かにゴブリンは期限が3日あるけど……」

「何を言ってるんだ? 一日で終わらせる」

「…………え?」

 

 何言ってるんだこいつ? とでも言いたげな表情になるユースティ。いやまあ、自分でもかなりの無茶苦茶を言った自覚はある。

 

「……ブランさん、それは流石に……片方だけでも一日は必要な依頼だよ?」

「問題ない」

 

 まあ、ただの人間にとったら、だが。

 

「オレ達の実力が気になるんだろ? この依頼2つこなすことできっとわかるはずだ」

「いや……もういいや、任せるよ」

 

 呆られたのか諦められたのか、ユースティはため息をつくとそういった。

 

 

 

「……え? ブラン、それはやめた方がいいんじゃない?」

 

 ですよねえ。

 

 ずっと外で話していたオレ達は、ギルド内に入るとすぐに受付の列に並んだ。まだギルド内にいた人たちは依頼版に行かないオレ達を不審な目で見たが、オレが視線を向けるとすぐに目を逸らす。

 …………いったい、オレが何をしたっていうんだ…………

 

 まあ、周囲の様子は置いといて。

 

 順番が回ってきたので、オレは受付――レヴィに二枚の依頼書を渡したところ、予想通りの反応が返ってきたってわけだ。

 

「といってもな、もう取っちゃったし、今オレ達に余裕はないし」

「あー、それで罰金を払えないから受けると……ブラン、一応言っておくけど、罰金の方が依頼失敗の時の違約金より低いからね?」

「大丈夫だ。失敗するつもりはない」

 

 オレの宣言に、額に手を当てため息を吐くレヴィ。一体今日何回目のため息を吐かれたんだ? 

 

「……ま、君たちが強いのは私も知っているし、冒険者は自己責任だから私が止めても意味ないんだけどね。……ところで、ブランたちってまだパーティ組んでないでしょ?」

「あー、そういえばそうだったな」

 

 パーティとは数人の冒険者で作るグループ、まあファンタジーでありふれたアレだ。詳しい規定では、最低3人最高9人までが一パーティに入ることができる。ただランクに制限があり、一番ランクの高い人と一番低い人の差が3ランク以内というものだ。おそらく、寄生行為を防止するためだろう。パーティで依頼を受けた場合、全員に平等に評価が与えられるのだ。

 

「なら、今手続きをしてくるから冒険者証をちょうだい」

 

 言われた通りに、コートの内ポケットから取り出してカウンターに置く。レヴィがそれをとって奥に行こうとすると、ユースティがそれを引き留めた。

 

「あの、私も今日彼らと一緒に依頼を受けますので、臨時パーティの手続きお願いできますか?」

「え? あ、はい。わかりました」

 

 若干驚いた顔をするも、差し出された5枚目の冒険者証を取り、レヴィは今度こそ奥へと去っていく。そして1分もしないうちに戻ってきた。

 

「手続きは終わったから、はい。…………それにしてもユースティさん、パーティを組むなんて珍しいですね」

「そうですか? たまに誘われたときは臨時組んでますよ」

「というより、そもそもパーティ組んでいない人が珍しいですよ」

「あはは…………」

 

 はぐらかすように苦笑するユースティ。そういえば冒険者になってから3年くらいって言ってたけど、未だソロで活動するのは何か理由でもあるのだろうか? 

 

 

 

 冒険者ギルドを出たオレ達は、まず東門に向かう。先にゴブリンの依頼をこなすと決まったためだ。

 

 街を出るときには、特に検問などはない。もし何か重大な事件でも起きてたら敷かれることはあるが、まあそんなことがいつも起きるわけない。外壁に寄りかかる衛兵に見送られながら、オレ達は堂々と門をくぐった。

 

 東門からは、遠く見える東の森へと一本街道が続く。両脇には広大な畑が広がっており、冬場の今そこにはわずかに雑草が生えているのみだ。

 

 

 

「それでブランさん、やっぱり私には今日中に依頼2つを終える方法が思いつかないんだけど……」

 

 道中、ユースティが心配そうに聞いてきた。

 

「どうって言われてもな……とりあえず、ゴブリンを狩るのは午前中だけで、午後は大森林に行こう」

 

 ブランの返答に、ますます不安を感じるユースティ。彼の経験からして、ゴブリンを午前いっぱい狩ったところで大した数になるとは思えなかった。またワーム4匹という依頼も、午後だけで終えるというのは到底不可能に見える。地下にすむワームを探し出すのは結構大変なことであり、地上に出したらすぐに殺さないと地下に逃げ戻ってしばらく出てこなくなってしまう。以前臨時パーティで同じような依頼を受けたときは、確か丸一日かかった記憶がユースティにはあった。

 

 だが、今日の自分は頼んで連れて行ってもらっている側。彼らの実力を見るためにも、あまり余計な口出しは控えることにした。

 

 しばらく歩き、一同は森の入り口にたどり着く。大森林に比べ木と木の間隔が広く、また葉が全て落ちた森の内部は結構な明るさがある。

 

「ユースティ、ゴブリンってだいたいどっちの方向に生息しているんだ?」

「えーっと、確かこっちの方向だったかな?」

 

 そういって指さすのは、林道から外れ、森の表層に沿うような北の方向。

 

「なるほど……よし、行くか」

 

 

 

 森の中を歩くにあたり、オレ達は一列の縦隊をとる。先頭にはディナ、続いてオレが前衛につき、ユースティ、ラピスと続く。殿はユズハだ。

 

 ディナが先頭だとオレが言ったとき、ユースティは何か言いたげな表情をしていたが、特に何も言わなかった。まあ、大まかこんな幼女を先頭にしていいかとかそういったことだと思うけど。戦いを見れば納得してくれるだろう。

 

 全く気負いした様子もなく、軽い足取りで森を歩くディナ。というか森に入る程度でオレ達が緊張するわけもなく、唯一弓を構えているユースティが浮いてしまう始末だ。

 

 20分ほど森の中を進むと、不意にディナが駆けだす。あっという間に、薄暗い森の奥へと消えていった。

 

「え?! ディナさん!?」

 

 あまりにも急だったために、初動が遅れるユースティ。しかしすぐにディナの後を追おうとしたので、また肩を掴んで止める。

 

「ブランさん!? ディナさん追わなくてもいいんですか!?」

「いいんだよ。それより……」

 

 掬うような動作で、虚空にナイフを三本創り出す。そして上がった腕を振り降ろし、ユースティの背後上空へとナイフを投擲した。

 

「ギャ!」

「グェ?!」

「ギギャ?!」

 

 断末魔が3つ生まれ、木の上からゴブリンが3匹落ちてくる。ナイフはゴブリンの額へときれいに命中しており、落ちたゴブリンたちはすでに瀕死の状態だ。

 

「……木の上にいたのか……」

「ああ。もし気づかずに下を通ってたら、頭にナイフが刺さったのはオレ達かもしれんな」

 

 冗談交じりにオレがそういう。だがユースティはそれが冗談に聞こえなかったようで、心なしか顔が青くなっていた。

 

「主ー、四匹いたよー!」

 

 ディナも帰ってきた。その手には、左右2匹ずつのゴブリンの腕を掴んでいる。死体には頭部か腹部に拳大の穴が開いており、流れ出る血によって腐葉土に赤い線が引かれている。

 

 うん、ちょっといろいろと危ないな。横目でユースティを見てみると奇妙な笑いで軽く引いてるし。

 

「お疲れ。いろいろと見た目がヤバいから、頭に穴空けるのはやめような?」

「えー……頭つぶした方が暴れないから楽なのにー」

 

 なんとも物騒な文句を言うディナ。

 

「と、とりあえず解体しないかい? といっても耳を切って核を取るだけだけど……」

「あ、こっちはもう終えました」

 

 ユースティは何とか話を逸らすが残念、うちのラピスは仕事が早いのだよ。 

 

 ……ディナが持ってきた4匹はオレがやるか。グロいし。

 

 アイテムボックスから解体用ナイフを取り出し、ゴブリンの胸部を解体。耳もそぎ落とし、核とそれをラピスの作った2つの袋に別々にしまう。

 普通なら用済みなその余った肉塊は、我が家の食いしん坊たちの為にアイテムボックスにしまい込んだ。

 

「ブ、ブランさん……今のってもしかして、収納魔法……?」

「ん? そうだけど?」

 

 オレがそういうと、ユースティは半笑いを浮かべる。もうどういえばいいのかわからないといった感情がありありと読み取れた。

 

(確か、空間魔法って使い手が全然いないんだっけな)

 

 いろいろと追及されるのは好きじゃないので、何も聞いてこない今のうちに探索を再開してしまうか。

 

 

 

 そしておよそ15分後。

 

「ストップ」

 

 先頭のディナを右手で引き留め、後ろを歩く三人を左手で制する。

 

「どうしたんだい?」

「ゴブリンの巣だ」

 

 ユースティの質問に短くそう答える。

 

「え? 私は何も見えないけど…………」

「200m以上は離れているからな」

「……どうしてそんな遠くなのに見つけられるのさ」

 

 彼の言う通り、木の密集する森の中では視界は10mも通らない。だがそれは肉眼に限った話であり、『魔力感知』のあるオレには関係のない話だ。

 

「企業秘密だ」

「だよねえ。……それで、どうする? 普通ならギルドに報告して、レイド依頼をギルドが発行することになるんだけど……」

 

 言外にオレらは普通じゃないって言われているのだが……事実なんだよなあ。

 

「どうもしないさ。このままオレらで片つける」

 

 数は……全部で183か。巣にしては小さいな、さっき倒したやつらみたいに森に散ってるのかな? 

 

「……なんとなくそういう感じはしてたよ。それで、私はどうすれば?」

「ユースティはただぼーっとしてくれればいいさ」

 

 今度こそ、ユースティは表情に驚きが現れた。が、苦笑いとともに頷きが帰ってくる。

 

 急ぐことなく、ゴブリンの巣へとオレ達は歩む。100メートル、50メートル……低い崖に空いた洞窟の入り口で、3匹のゴブリンが立っているのを発見する。

 

「ギャギャ!」

 

 一匹がオレ達に気付き、耳障りな鳴き声を上げる。そして手に持つ錆びたナイフでとびかかってくるのを、瞬時に構築した魔力剣で切り落とした。

 

 門番のいなくなった、日の差し込む洞窟の中を覗き込む。そこまで広くはないが、大人数人が並んで歩けるほどの幅と高さはありそうだ。

 

「そんじゃ、突入しますか……ユズハとラピスは入り口を頼む。戻ってきたゴブリンを片つけておいてくれ」

「へーい……」

 

 オレの指示に、全然乗り気ではない声で返事するユズハ。

 

「ああそれと、耳を切ったら残りは好きにしていいぜ?」

 

 その言葉に、一転嬉々とした表情となる。ほんと、食い意地だけは立派だよな。

 

 元気になったユズハとラピスを残し、オレ達三人は洞窟に潜る。

 

「ちょ?! 真っ暗なのになんでそんなに早く!?」

 

 あ、やべ。魔力感知があるおかげで洞窟内が暗闇だってこと忘れてた。

 

 《|点灯(ライト)》を使い光源を生み出し、洞窟内を照らし出す。うん、これくらい明るければ十分だろう。

 

 灯りを付けた時点でこそこそもクソもないので、オレ達は堂々と洞窟内を歩く。途中、壁や天井に空いた横穴にゴブリンが潜んで待ち伏せをしていたが、すべて事前に察知し魔法で処理。奇襲をするはずが逆に奇襲されたゴブリンたちは、抵抗も逃亡もできるはずがなかった。

 

「……しかし、ゴブリンが奇襲を仕掛けてくるなんて……ブランさん、上位種が生まれていると考えたほうがいいかもしれない」

「わかってる。とっくのとうに確認済みだ」

「え?」

 

 確認済み? その疑問は、しかしユースティは言葉にしなかった。言ったところで、企業秘密と言われておしまいである。この短時間で彼はそのことを学んだ。

 

 突然、轟音が響き渡った。甲高く、それでいて重圧感のある、生き物の鳴き声。進行する3人は、その正体に瞬時に思い至った。

 

「どうやら、奴さんもオレらに気付いたらしいな」

「……この声ってまさか……」

「ああ、クイーンゴブリナだ」

 

 ゴブリナ――ゴブリンという種族は、基本的に他種族の雌をとらえ、孕ませることで繁殖する種族である。が、それはゴブリン種に雌がいないというわけではない。稀に、本当に稀に雌が生まれることがあり、ゴブリナという言葉はその雌を指し示す単語である。

 

 ゴブリナの出現は、人間からしてみれば非常に厄介なことである。なんせ他種族に無理やり生ませるだけでも蠅みたいに鬱陶しい数が生まれるのに、同種のゴブリナが、それも最上位のクイーンが現れたとなると、その繁殖力はもはや黒光りするアイツ(ゴキブリ)を超える。一匹見たら30匹? ノンノン、一匹見たらゴブリンが300匹いると思え。

 

「…………これは流石に……帰ったほうがいいのでは…………?」

 

 ユースティがそう言ってくるのも仕方ないだろう。普通のランク4冒険者に、3桁のゴブリンに対処する術などない。

 

「いや、行こう。オレとしては多いほうが嬉しいし」

 

 なんたってこの依頼、倒せば倒すほど報酬が増すんだろ? スライム2人の食事にもなるし、一石二鳥で万々歳じゃねーか。

 

「……危なかったら逃げるよ?」

 

 おや、この反応は意外だ。てっきり強く止めてくるかと思っていたんだけど……説得する手間が省けたぜ。

 

(ルシファー、奥までの最短経路を表示してくれ)

(かしこまりました)

 

 途端に、視界に光線が生まれる。青色のそれを辿って洞窟を歩き、穴を降りて穴を上って……

 

10分後。広い空間に、大勢のゴブリンと中心に居座るキングゴブリナを発見した。

 




読んでいただきありがとうございました
この話で書き溜め、というか小説家になろうの方でも公開してる範囲になります。なので次の更新からはなろうの方と同時に、でも私は今受験期で次話からは全然上がらないかと思います
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