プロローグ
王が出会った魔術師は、複雑な身を抱えていた。卓越した才能を持ち、一介の魔術師としては大きな力を持つ。
それなのに、魔術師は聖杯を得ようとしなかった。
これは、惹かれ合った魔術師と王が聖杯を得る話。
*
魔術師リンドウは、聖杯戦争に参加することになったため、サーヴァントの召喚に及んだ。
気負うことはなかった。狙うサーヴァントはいない。弱くとも、強くともどちらでもいい。
なぜならリンドウは、此度の聖杯戦争に挑もうとは思っていないのだから。
ただ、マスターとして選ばれたからには、体裁は最低限整えなければならない。
そうしなければならない運命にあった。
出て来てくれたサーヴァントにも、聖杯戦争に挑む気がないことを伝え、他のマスターとの再契約の段取りを作ることを提案する。
これまでと同じように。
そうするつもりで、召喚に及び、サーヴァントが現れ、提案した。そのサーヴァントは、その提案を飲んだ。
そしてリンドウは他のマスターを見つけ、サーヴァントを倒し、そのマスターに話をつけた――ところまでいったはずだったのに。
今、視界には、綺麗な顔立ちをした男が見えている。当初は契約関係が、すぐに切れるはずだったサーヴァントだ。
「予想外の展開ってこういうことを言うんだろうなぁ」
見上げていると、呟きがこぼれた。
「起きたか」
「うん。……いや、いつの間に寝てたのか、枕にしてごめん」
彼は「構わん」と言った。心広い。
目を覚ますと、畏れ多くも膝を借りている状態のようで、そのまま視界に姿が映り込んでいたのだ。
記憶を探るに、隣で本を読んでいて、寝落ちたらしい。
リンドウは身を起こし、ソファーの隣に座り直した。
隣には、金色の髪に、赤い眼をした男がいる。
彼は、肘をついて、何やらこちらを見ていた。
「それで、『予想外の展開』とは一体何のことだ?」
「え? ああ……」
聞こえていたのか。
さっき声に出ていたことを思い出して、リンドウは深くソファーにもたれかかりながら、隣に笑いかける。
「ギルガメッシュと、こうしてここにいることだよ」
こうして、彼とゆっくりと時間を過ごすことだ。
聖杯戦争がまだ続く中、家にいて、本を読んだり話をしたり。
出会った当初には、想像できなかっただろう。
そんなことを考えながら言うと、ギルガメッシュは首をかたむけた。それの何が予想外の展開だ、と言うように。
まあ彼がそうなるような選択をしたのだから、彼自身にしてみればそんなことはないのかもしれない。
「まあいい。起きたのであれば、我の相手をしろ」
そう言って、尊大な王は、魔術師を引き寄せ唇を重ねた。
この温かさが、いつまで続くのか。
この心地よさが、いつまでも続くことはない。
ギルガメッシュといられる時間の期限は、すぐそこにまで迫っていた。
――他に残るマスターはただ一人、近いうちにここを突き止め、決着が着くだろう
いつの間にか好きになってしまっていたサーヴァントは、同じ時を生きる存在ではない。別れは、すぐそこに。