振り向いた先で見つけたギルガメッシュは、すぐに何やら眉を寄せた。
「私はこの辺りで失礼しよう」
「え、マーリン」
マーリンがさっさとギルガメッシュと入れ違いに去り、その場に残るのはリンドウと、ギルガメッシュのみ。
マーリン何してんの、と呆気に取られているうちに、ギルガメッシュが歩み寄ってくる。
さっきマーリンと話し、吐露した内容が甦り、そちらに向く動作が少しぎこちなくなってしまう。
「このような処で何をしている」
「あー……外、見てた」
「マーリンと何を話していた」
「えーっと、」
言葉が詰まるどころではなくなってきた。
心の底からマーリンを恨んだ。せめて前もって言っておいてくれと。
何を話していたか。何を。
無防備に思い出して、顔を歪めそうになった。駄目だ。
本当、マーリンを恨む。
「その、アヴァロンについて、とか。ほら、マーリンって本体はずっとアヴァロンにいるだろ? 退屈しないのかなって」
嘘ではない。
見下ろしてくる目から逸らさないようにして、そう言って、笑ったら。
「なに」
頬っぺたを引っ張られた。何だ。
人の頬を引っ張るギルガメッシュの表情が険しい。
「誤魔化しが以前より下手になったな」
「……なにが」
「その笑い方は止めろと言ったはずだ」
頬が解放されて、わずかにじんじんしたが、頬にやろうとした手は動かなかった。
ギルガメッシュの視線に、射ぬかれた。
「――いや、普通に笑ってるんだけど」
「我が誤魔化されるとでも思ったか。侮られたものよ」
実は笑い方という指摘をされた瞬間、心臓が凍りつきかけていた。
けれど誤魔化せると思い、誤魔化さなければならないと思ったから、笑ったのに。
逆効果だったらしい。
「此度は泣くようではなさそうだな」
「……泣きたそうなときなんて、あったっけ」
「は、以前我が還る前、止めろと言うのに下手な笑い方をしておったのは誰だ」
間違いなく俺だね。
そこを持ち出してきたか、と思う。自分にとっては、何年か前のことになる。
「我と距離を置こうとしているのはなぜだ」
「……距離なんて、置こうとしてない」
「それならば、このような場所に居らず、以前のように我の目の届くところにおればよい」
「それは、仕事の関係があるだろ」
「我が居れと言っている」
何だ。何かがおかしい。
ギルガメッシュの言に、違和感を覚える。
側にいればいいとは、前にもこんなやり取りをしたはずだった。一度、終わった話。
「今一度聞く。マーリンと何を話していた」
「だから――」
「アヴァロンの話をしていて、その顔になる理由は何とする」
だから顔って、今どんな顔をしているというのか。分からない。
けれど詰められるたび、逃げ場がなくなるような、誤魔化すための壁が崩れるような感覚がする。
脆く、脆く、崩れかけている感覚だ。
このままいっては、いけない気がした。
「……ギルガメッシュ、いきなりどうしたんだ」
「いきなり?」
「別に俺は距離を置こうとしていないし、ずっと側にいるいないの話は前にもした。ギルガメッシュにも俺にも別々にやることがある」
それなのに。
「リンドウ、何を恐れておる」
心臓が今度こそ、止まるかと思った。それこそ図星、核心を突かれたからだった。
だが急だ。
何を、何の話をしようとしている。どこまで気がついている。
「何をって、なに、が」
「いきなり、ではない。少し前からだ」
リンドウがレイシフト先で死にかけ、戻ってきてからだという。……そんなときから、気がついていたというのか。
「気がついておらぬだろう。眠る間、泣いているぞ」
「……え」
夢を見る。
死にかけ、夢を見て、現実を思い出したときからまた夢を見る。以前、聖杯戦争の折にも見ていた夢だ。
――あなたがいなくなる夢だ。
けれど起きたときには沈んだ気分のみで、まさか、泣いていたことなんて、気がつかなかった――。
「何も言わぬから聞かなかっただけのこと。そのようになるのも我の前でならばよい。言うまで待とう。だがマーリンの前でそのような顔をするとは、――我に話さず、マーリンに話すか」
「ちがう」
違わないけど、違う。
一部は話した。でもそれは、昔からのものであって、今の具体的な恐れの話ではなかった。
「ならば何を考える、リンドウ。――『以前』から何を押し隠す。表に出さんとする。もう待つ気はない。言え」
何も言えなかった。
リンドウにとってはいきなりだった。これからも隠し、笑い、そのときが来るまで過ごしていくはずだった。
だから。
「仕方あるまい。マーリンに聞くとよう」
「――ギルガメッシュ」
話す気配がないとして、去っていこうとする彼の手を掴んでいた。
目は逸らせなかった。再度合った目は、逃げることを許さず、そうさせてはくれなかった。
何秒、何分、どれくらいの時をそうしていたか分からない。
揺れそうになる瞳をぐっと堪えて、やっとのことで口を開く。
これを、言ってしまうべきなのか分からない。これだけは隠しておくべきなのではないか。
でも、決意して、口を開いた。
「……俺だって、本当は、ギルガメッシュの側にいたい」
「そうすればよい」
「だけど、その『本当』のもっと奥底で、止めておけって言う自分がいる」
赤い眼を、自分から見て、本音の本音を吐き出す。
「悲観的だって笑ってくれてもいい。だけど、俺は恐れてしまう」
ギルガメッシュが言ったように、恐れている。そうせずにはいられないのだ。
言え、言うしかない。もう、言ってしまうしか。
「ずっと続くことはないと知っているから」
知りすぎているから。
「また会いたいと願っていたのに、会えて嬉しいのに、考えてしまう自分がいるんだ」
再び別れが来るという事実を。
また会いたいと願っていたときには、彼の夢を見た。
目が覚めて、夢だと分かってどうしようもなくなったときが何度もあった。
でも、会えて、何も考える必要がないくらい幸せで、温かな気持ちになった。
――だからこそ、次、それがなくなるときのことが襲いかかってきたのだ
以前の聖杯戦争のときのように。
「恐れるなと、我が言ってもか」
誰かのその言葉だけを信じられていたときもあった。……当然、裏切られる結末があった。
そんなに純粋な段階は、とうの昔に過ぎていた。
ごめんとも言えず笑うと、彼は笑うなとも言わずにリンドウの頭を引き寄せ、その胸に抱き込んだ。
――あのね、ギルガメッシュ。永遠はないんだ。ずっとはなくて、いずれ終わりが来る。
今ある時間は一時の夢。人理修復による特異な状況による、一時のことに過ぎないのだ。