魔術師と王様   作:からくさ

4 / 12
願うことはたった一つ

 

 

 

 

 聖杯は願いは何かと問うてきた。

 

 

 

 

 やはり解呪は叶わないようだが、落胆はしなかった。

 

 元々今回は、聖杯を得られるとも思っていなかったのだ。

 

「じゃあ、せっかくだからお願いしようかな」

 

 こんな機会は、そう何度も、それも楽に得られるようなものではない。

 

 まあ今回、他のマスターやサーヴァントを排除したのは九割方ギルガメッシュなのだが。

 

「何を願う」

 

「えー? 内緒」

 

「ほう、我に言わぬと」

 

 呪いを解くこと以外に、聖杯への願いはないと言っていたから、気になったのだろうか。

 

 ギルガメッシュに聞かれて、些細なことだと、リンドウは彼を見上げて笑った。

 

「明日よく眠れますようにって。ギルガメッシュいなくなっちゃうから」

 

「……」

 

 彼はうんともすんとも言わなかった。

 

 嘘だとばれただろうか。いや、あながち嘘ではない。

 

 

 結局本当の願いはギルガメッシュには聞こえないように、そっと願いを口にした。

 

 

 

 

 そして、容赦なく別れの時はやって来る。

 

「……そのように笑うな」

 

「え?」

 

「無理に笑うなと、言うておるのだ」

 

 そう言われても、困るもので。

 

 眉を寄せているギルガメッシュに、笑みを向けることしかできない。

 

「嫌だ」

 

「嫌だと?」

 

「嫌だよ。ギルガメッシュだって、湿気た顔より、笑った顔で見送られた方がいいでしょ」

 

 そうに決まっている。

 

 だが、直後、胸ぐらを掴まれた。

 

 息がかかるほど近くに、彼がいた。

 

「我がおらぬ場所で泣くのならば、今、ここで泣け!」

 

 びっくりした。

 

 驚いたけれど、リンドウは弱く微笑んで、緩く首を横に振った。意地でも泣かない。

 

 泣きそうで、泣きそうで、仕方ないけど、絶対に泣かない。

 

「貴様は……最後の最後で強情になるとは」

 

 悪かったな。そうじゃないと、崩れてしまいそうだから仕方ないだろう。

 

 

 そうしているうちに、淡い光とともに、ギルガメッシュも淡くなっていく。

 

 ああ時間だ。

 

 涙腺の限界が来る前に、時間が来て、安堵が混ざるという妙な心地になる。

 

 ギルガメッシュは、舌打ちでもしそうな表情をした。

 

 そんな顔もするんだな。

 

「うわ」

 

「置き土産だ」

 

 なぜに耳を引っ張るのか。

 

 解放されると、耳に、耳飾りが、つけられていた。

 

 見ると、ギルガメッシュの耳にあったものの片方がなくなっている。

 

 

 どうして、と呟きかけた口は、キスで塞がれた。

 

 まるで、刻み込むような、深い口づけだった。

 

「覚えておけよ」

 

 それはさっき嫌だと言ったことに対して、腹いせにどこぞの悪党が吐くようなセリフの意味で言ったのか。

 

 単純に忘れるなということなのか。

 

 聞く暇は、なかった。

 

 

「……さようなら、ギルガメッシュ」

 

 愛してしまった英雄。

 

 リンドウは、光の粒が見えなくなるまで、その王を笑顔で見送った。

 

 

 

 

 残ったのは、魔術師が一人と還った王の耳飾り。

 

 彼が消え去った瞬間、涙が流れ、その場に崩れ落ちた。

 

 嗚咽を噛み殺しながら、感じたのは明確な喪失だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──また、会えますように

 

 聖杯よ、この願いを、叶えてくれますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「願うことはたった一つ」はここでおしまいです。

次、舞台を変えて、はじめます。ちなみに舞台はカルデアです。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。