聖杯は願いは何かと問うてきた。
やはり解呪は叶わないようだが、落胆はしなかった。
元々今回は、聖杯を得られるとも思っていなかったのだ。
「じゃあ、せっかくだからお願いしようかな」
こんな機会は、そう何度も、それも楽に得られるようなものではない。
まあ今回、他のマスターやサーヴァントを排除したのは九割方ギルガメッシュなのだが。
「何を願う」
「えー? 内緒」
「ほう、我に言わぬと」
呪いを解くこと以外に、聖杯への願いはないと言っていたから、気になったのだろうか。
ギルガメッシュに聞かれて、些細なことだと、リンドウは彼を見上げて笑った。
「明日よく眠れますようにって。ギルガメッシュいなくなっちゃうから」
「……」
彼はうんともすんとも言わなかった。
嘘だとばれただろうか。いや、あながち嘘ではない。
結局本当の願いはギルガメッシュには聞こえないように、そっと願いを口にした。
そして、容赦なく別れの時はやって来る。
「……そのように笑うな」
「え?」
「無理に笑うなと、言うておるのだ」
そう言われても、困るもので。
眉を寄せているギルガメッシュに、笑みを向けることしかできない。
「嫌だ」
「嫌だと?」
「嫌だよ。ギルガメッシュだって、湿気た顔より、笑った顔で見送られた方がいいでしょ」
そうに決まっている。
だが、直後、胸ぐらを掴まれた。
息がかかるほど近くに、彼がいた。
「我がおらぬ場所で泣くのならば、今、ここで泣け!」
びっくりした。
驚いたけれど、リンドウは弱く微笑んで、緩く首を横に振った。意地でも泣かない。
泣きそうで、泣きそうで、仕方ないけど、絶対に泣かない。
「貴様は……最後の最後で強情になるとは」
悪かったな。そうじゃないと、崩れてしまいそうだから仕方ないだろう。
そうしているうちに、淡い光とともに、ギルガメッシュも淡くなっていく。
ああ時間だ。
涙腺の限界が来る前に、時間が来て、安堵が混ざるという妙な心地になる。
ギルガメッシュは、舌打ちでもしそうな表情をした。
そんな顔もするんだな。
「うわ」
「置き土産だ」
なぜに耳を引っ張るのか。
解放されると、耳に、耳飾りが、つけられていた。
見ると、ギルガメッシュの耳にあったものの片方がなくなっている。
どうして、と呟きかけた口は、キスで塞がれた。
まるで、刻み込むような、深い口づけだった。
「覚えておけよ」
それはさっき嫌だと言ったことに対して、腹いせにどこぞの悪党が吐くようなセリフの意味で言ったのか。
単純に忘れるなということなのか。
聞く暇は、なかった。
「……さようなら、ギルガメッシュ」
愛してしまった英雄。
リンドウは、光の粒が見えなくなるまで、その王を笑顔で見送った。
残ったのは、魔術師が一人と還った王の耳飾り。
彼が消え去った瞬間、涙が流れ、その場に崩れ落ちた。
嗚咽を噛み殺しながら、感じたのは明確な喪失だった。
──また、会えますように
聖杯よ、この願いを、叶えてくれますか。
「願うことはたった一つ」はここでおしまいです。
次、舞台を変えて、はじめます。ちなみに舞台はカルデアです。