魔術師と王様   作:からくさ

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舞台はカルデアに。
多忙ながら新たに始まる日々の話。




カルデアでの日々
召喚


 

 

 

 前回の聖杯戦争から、数年の時が経った。

 

 

 過ぎていくのは、多少環境が変われども後はそれほど起伏のない日々だった。

 

 元々、聖杯戦争というものはとても日常とは言えない特殊なものだ。

 

 けれど、今こうして前にも増して味気ない世界にいるような気分であるのは、あのときの聖杯戦争が、特殊なだけでなく特別な時となったからだろう。

 

 

 

 また会いたいと願った彼には会えていなかった。

 

 数年……。

 

 前までの自分であれば、あっという間に過ぎる時間で、感傷に浸ることもなかったのに。

 

 まだ会えない。

 

 とても、長い時間に思える。

 

 日が経つにつれ、朝目覚めるたび、ああまた一日と数えていく。

 

 

──聖杯は、自分の願いは叶えてくれなかったのかもしれない。

 

 もう、数年挟むとそう認めざるを得ない気持ちだった。

 

 二度と会えない。そんな考えが、気を抜くと思考の中に表れてくる。

 

 物によっては万能とも言われる願望機。その聖杯が叶えてくれないのであれば、会える可能性なんて、考えただけでも途方もない。

 

 考えてみると、彼は過去に一度生を終えた存在であるのだ。

 

 再会を願っても、そもそもこの地球上に存在していない状態だろう。どうやって再会するというのか。

 

 機会さえ生まれない状況と言える。

 

 絶望的な気分になる。

 

 

 

 

 そう思い、期待は捨てなければと言い聞かせているのに、ここにいると、願いを捨て切れなくなる。

 

 

 

 *

 

 

 

 

 カルデア。マスター適正があるとされたリンドウは、色々あったが、世界を救うための場所にいた。

 

「お疲れさん」

 

「クー・フーリンこそ」

 

 カルデアには、召喚された複数のサーヴァントがいる。

 

 これが、同じくサーヴァントが絡む聖杯戦争と比べるとするなら、特殊な点だろう。

 

 人理修復のために手助けをしてくれるサーヴァントとの契約関係が複数に及ぶ。それも少しややこしい契約関係。

 

 クー・フーリンはクー・フーリンでも同名が何人かいるので、クラス名などをつけて呼ぶことが多かった。

 

 が、声をかけられた側だったので、名前だけ呼んだのはキャスタークラスのクー・フーリンだった。

 

 リンドウは、たった今レイシフト先から、彼含め複数のサーヴァントと戻ってきたばかりだった。

 

「最後は三日連続徹夜だったんだ。よく頑張ったな、ちゃんと休めよ」

 

「そっちも」

 

 サーヴァントって休憩しなくても大丈夫なんだったか。

 

 魔力不足はさておき……でも皆寝てるから、やっぱり休息ってサーヴァントにとっても大事なのだと思う。

 

 ろくに頭は回っていない。

 

 カルデアの制服は何だか窮屈で、私服で勘弁してもらっているので、裾を摘まむ。

 

 黒いので、汚れが目立つ。着替えたい。

 

 戻ってきたら戻ってきたらで、報告書だの何だのとやることがあるのだが、とりあえず今は寝たい。

 許されるだろうか。

 

「あ、リンドウさん! お帰りなさい!」

 

「立花、ただいま」

 

 廊下の向こう側から手を振り、走ってきたのは他にいる唯一のマスターだった。

 

 リツカ。何度も生を繰り返すリンドウからすれば、当然年下の子だ。

 

 実に可愛く、しかしマスターとしては、傷だらけになろうと倒れぬ意思を持つ、サーヴァントからの信頼が厚い、一人前の人間だった。

 

 とはいえ、カルデアではこの癒しである。

 

 リンドウは、立花に呪いのことは言っていなかったが、ちょうど外見年齢はちょっと上くらいなので、先輩扱いされていた。

 

 さん付けは、止めてもらいたかったけど、律儀な立花はそのまま。

 

「あ、リンドウさん怪我が。手当てしてもらわなくちゃ!」

 

「あぁ……いいよ。大丈夫。怪我は死ぬほどのものじゃないから……とりあえず寝る」

 

 心配してくれる立花とそこで別れ、私室に戻るべく歩いていく。

 

 でも、やはりすぐに寝るのはよくないだろうか。

 

 いくら今回後半からかなりハードで、終盤はもはや連日徹夜せざるを得なかったとはいえ、しなければいけないことがある。

 

「誰か!」

 

 大きな声が聞こえた。

 

「召喚、今なら召喚できそう! 誰か! 誰かって言っても立花くんか、リンドウくん!」

 

「……はい?」

 

 呼んだ?

 

 寝不足と疲労で、若干遅れた反応をして、緩慢な動作で振り向く。

 

 ドクターこと、ロマニが走ってきていた。

 

「あ、リンドウくん! そうだ、帰ってきたんだった! 疲れてるところ悪いんだけど……」

 

「召喚ね。おっけー、今行く」

 

 サーヴァントの召喚は毎日毎日、都合よく出来るものではなかった。

 

 稀に来るその機会を逃さないことが大切で、ちょっとしたずれで召喚できないこともある。

 

「おっと、大丈夫か?」

 

「……おー、ありがと」

 

 転びかけたところを、クー・フーリンが支えてくれた。

 

「運んでやろうか?」

 

「……ちょっと揺らぎかけた。でも大丈夫」

 

 さすがにそこまでしてもらうわけにもいかない。

 

 クー・フーリンは冗談で言ったのだろうが、若干運んでもらいたいなんて思ってしまった。ダメだ。

 

 貧弱なわけではないが、何しろ長く何度も続く人生、隠居生活みたいな過ごし方をしていたため、こういう多忙な日々は慣れない。

 

 まったく、困った。寝不足なんて、それこそここに来てからなって、どれくらいぶりかくらいで。

 

 何か病気になったかと勘違いして、寝不足だと気がついたのだった。

 

 でも世界が滅んでしまうのは良くないし、今みたいな状況となればなおさら放り出すことなんてできない。

 

 見ていられないと思ったのか、クー・フーリンに付き添われながら、召喚するための部屋に行った。

 

 いつ機会が来てもいいようにと常時整えられており、すぐに召喚に取りかかるようになっている。

 

「あ」

 

 ふらっとした拍子に、カチャン、と何かが落ちた。

 耳にしていた耳飾りだ。

 

 ずっと身につけているそれは、落ちないようにとしていたので、落ちるなんて初めてだった。

 

 レイシフト先で落とさないようにしなければ。なんて、落ちたことに考えつつ、しゃがみこんで拾う。

 

 拾ったそれを、見つめる。

 

 ぼんやりと、眠気に偏る意識でそれに触れ、ちょっと泣きそうになった。

 

 眠気にやられて、弱くなっているのだろうか。

 

「大丈夫か?」

 

「……大丈夫。ちょっと寝そうになった」

 

 返事をして、立ち上がる。

 

 早速召喚に取りかかると、召喚陣が光りはじめ、どうやら機会は逃さずに済んだらしいと察する。

 

 どんなサーヴァントが、来るのだろうか。期待することは止めた。

 

 この世界には数多の英雄が存在し、サーヴァントになり得る人たちがいるのだ。

 

 そもそも、奇跡のような確率で彼が現れたとしても、『同じ人』が来るかどうかも分からない。

 

 

 

 

 

 

 そう、考えていた。

 

 だけど、召喚の光が収まって現れた姿を見て、リンドウは溢れんばかりに目を見開いた。

 

 その先に立っていたのは、忘れもしない姿。髪、目、顔立ち、服装、全てが過去に出会った彼のもの。

 

 彼は、召喚されたに当たり、何か言おうとしたのだろう。

 だが、その目もまたリンドウのことを捉え、一旦止まった。

 

「――リンドウか」

 

 

 

 

 

 

 神様、これは、夢ですか。

 

 

 

 信じられない光景を見た衝撃がとどめを刺したとでも言うのか。

 

 疲労が極まり、意識は一番途切れてはいけない瞬間で途切れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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