ギルガメッシュはよく働く王だった。
今日も仕事してる、とリンドウは遠目で、カルデアの職員と話すギルガメッシュを見かけた。
彼は、根っからの性分なのか、カルデアの運営方法に口出しせずにはいられないらしい。
召喚されて早々カルデア内の設備を見回ったりして、運営の即戦力となり、あれやこれやと仕事に関わり、働いていた。
さすが王様。
以前は聖杯戦争での召喚だった。仕事も何もなかったから、そんな姿を見ようもなかった。何やら新鮮だ。
「……難しい」
「そう簡単に習得されちゃあ、堪んねぇよ」
リンドウの前には、クー・フーリンがいた。
戦闘訓練ができる部屋の真ん中で、二人して座っているのには、理由がある。
リンドウは、彼にルーン魔術を習っていた。
カルデアのいい点の一つに、サーヴァントと「普通に」過ごせる点があると思う。
聖杯戦争だと、まずこうはいかない。
聖杯戦争では、自らが召喚した一騎以外、七分の六が敵となる。
腹の探り合いをせず、複数のサーヴァントと仲良くするなんてまずあり得ない。
魔術師であるリンドウは、長い時間の中で、自分が生まれた土地とは別の場所へ行くようになってから、新たな魔術のようなものがあれば、学ぶことが元からあった。
今回、クー・フーリンが使用しているルーン魔術に興味を持ったというわけだ。
教えてほしいなと軽く言ってみたら、彼は少し考えた表情のあと、筋があるならいいぞと言った。
筋があったので今に至る。
しかし難しい。
「何でだろ。別に全然慣れないことをしてるわけじゃないのに」
むしろ複数の系統の異なる魔術を習得しているので、ちょっとくらいすんなり行ってもいいと思う。
中々思うようにいかないなぁ、と首を捻ることとなっていた。
「始めたばかりにしては上手く出来てる方だ」
「そう?」
それならいいのだが。
「あー……ちょっと休憩」
とりあえず一旦リセットする、と、ばたんと横に倒れる。
床がひんやりする。冷たい。
他に誰もいない空間は、静けさに包まれる。
「この前来た王様と、元からの知り合いみたいだな」
「……ギルガメッシュのこと?」
この前と王様と言われて心当たりがあるサーヴァントはギルガメッシュだ。
そもそも最近来たサーヴァントは彼のみだから。
ごろん、と転がって、クー・フーリンがいる方に向く。
あぐらをかいたクー・フーリンが、こちらを見ていた。
「いやになついてるじゃねぇか」
「なついてるって……」
犬猫ではあるまい。
苦笑していると、手が伸ばされてきた。わずかに、触れる。
「嬢ちゃんたちと同じくらいの歳のくせして普段は大人びてて、他のサーヴァントにもそういう感じなのに、何つーか……なついてるよな」
結局なついているに落ち着くのか。
大人びているというのは、精神年齢が停滞していようと、実際はかなりの歳月を生きているからそんな風にも見えるだろう。
クー・フーリンの言い方では、つまりそうではないということで、幼くとでも見えているということか?
それとも――
「あぁ、そっか」
ギルガメッシュほどに無防備になれる人はいないから、そういう風な印象を受けるのかもしれない。
それはきっと、以前彼に会い、過ごした日々で深く、深く嵌まってしまったからだ。
「まあ、なついてるって言うのは、そうかもね」
自覚はある。当然だ。好きなのだから、なついているも何も、という感じだ。
しかしわざわざそう言うこともなく、以前からの関わりを口にする。
「以前に、聖杯戦争で召喚して来てくれたサーヴァントがギルガメッシュだったんだ」
「聖杯戦争に参加したことあるのか」
「あるよ」
クー・フーリンが思ってるより、たくさん。
呪いのことは言っていないので、彼らはリンドウが外見以上の時を生きてきたことを知らない。
「へぇ、道理で。――そのとき、聖杯は得られたのか?」
「うん」
家でのんびりしていて、襲撃してくるマスターとサーヴァントを撃退していると、成り行き上最後に得られた。
「願いは叶えてもらったのか?」
「まぁね。――あ、教えないよ」
「何だよ、気になるだろ。聖杯を得た魔術師が何を願うのかなんて、そう聞ける話でもない」
「じゃあクー・フーリンなら、何を願う?」
彼は考え込んでしまったから、「それと引き換えになら教えるよ」と笑っておいた。
ルーン魔術の練習を終え、他の用事を済ませたりしていると、夜になった。
本日の仕事は終えたらしいギルガメッシュと同じベッドに横になっていると、こういうことが当たり前に戻ってきたことが嬉しい。
「クー・フーリンに、ルーン魔術を教えてもらってるんだ」
いつもどこにいるのかと問われたので、訓練用の部屋にいたことと、ルーン魔術を習っていることを明かした。
「……でも、なんか、不思議な気分だな。前はほとんど一緒にいたからかな」
同じ家の中にいて、それもこんなに広い建物の中でのような距離ではなかった。
同じ建物内にいるのには変わりなく、会えもするのに、不思議な心地になる。
四六時中一緒にいたいなんて、重い考えはさすがにないはずなのだが。
「ならば我の近くにおればよい」
「そうすると、絶対邪魔になるよ」
カルデアの運営云々はよく分からない話で、システム関係も同様だ。出来ることがないだろう。
側にいるだけ、絶対邪魔になる確信があった。
「我が構わぬと言っている」
自分が許せば全て良し。彼らしい言い方である。
ふっ、と突然、ああ本当に目の前にいるとまたも再認識したようになる。
ギルガメッシュと再会してから、度々あることだ。
「……んー、まあ止めとく。こうやっていられるだけで十分かな」
それに複数のサーヴァントと契約するマスターならば、サーヴァントのためにも研鑽しなくてはならないだろう。
ルーン魔術を習うのだって、体を動かすことだって、研鑽。大切なことだ。
ギルガメッシュが働いているのなら、なおさら怠けているわけにはいかない。
「つまらぬな」
ふん、と彼は不満そうにも言った。
ぎゅう、と不満さを込めるように体を囲う腕の力が強まるので、ある意味分かりやすい。
でも、カルデアにいてだらだらするのも良くないよなぁと思うので。
しばらく王様は無言だったけれど、ふいに体に沿う手が、腰を撫でた。
不意を突かれて、ぞわりと震えが走りかけた。
「まあ良い。その分、ここで埋め合わせるとするか」
「え?」
意味不明な繋ぎの直後、隣が大きく動いて離れた、と思ったら。
仰向けにさせられて、馬乗りされていた。
「――ん」
急に何だと聞くより前に、首に吸い付かれ、さらに服の中に手が入り込んできた。
指が、腹を撫で、体の線をなぞる。
その手つきに、ビクリと体が反応してしまう。
どのタイミングで、スイッチが入ったというのか。
「――ギルガメッシュ」
「運が良いことに、夜はそこそこ長い」
間近で笑うギルガメッシュの顔は、凄まじいまでの艶を帯びていた。
先ほどとは、明らかに空気は異なっていた。
これは、逃げられそうにもない。
魔術師は観念し微笑み、王は気が済むまで、魔術師の体を貪った。