ある日、レイシフト先にいると、カルデアとの通信が途切れた。
それだけならいいのだが、映像はないものの、音声だけ復旧した通信内容ではどうももっと何か起こっているらしかった。
それよりも目下の問題は、魔力供給ゼロということだ。
サーヴァントの契約維持にも、彼らの行動にも魔力は必要だ。
それらを賄っているのは、普段はカルデアにあるシステムの一つ。
それを、この場、このレイシフト先にいるマスターであるリンドウ一人で賄うとなると……。
「まあしばらくは大丈夫かな」
考えた結果、うん、と一人で頷く。
魔力は無駄にある方だ。
「とりあえず皆、魔力切れ起こしそうになったら言って」
前に立って戦ってくれているのは、彼らだ。
ひとまずの緊急性の高い知らせを聞き、リンドウはサーヴァントたちを振り返った。
「魔力切れを起こしたら、キスしてくれるのかい?」
「あはは、マーリン、キスがいいの?」
花を撒き散らさんばかりの雰囲気を纏っている、かの有名な魔術師が微笑みながら首を傾けて言ってきた。
魔力供給のやり方で考えられる手段はいくつかある。
手っ取り早いのは、マーリンが言ったキスに当たるのだろうか。
「うーん、ただの役得かな!」
朗らかに、彼は笑った。
その場に、深刻さは少しも漂っていなかった。
『最優先で復旧させるから、それまで何とか頼むよ』
「了解」
それから幸いにも魔力供給のシステムは復旧した。
最優先で、と言っていたから頑張ってくれたのだろう。
他も大事に至る出来事はなく、何とか事を済ませ、帰ってきたら。
「お帰り」
「ダ・ヴィンチちゃん、ただいま」
「皆無事で何よりだ」
「それはレイシフトの機械にもトラブルがあったとかいう問題?」
「気がついてたのか。今だから言うけど、実は最優先で復旧させたのだよ」
「何があったの?」
「カルデア中のシステムがダウンしたんだ」
不安を与えないように、支障をきたす魔力供給のことのみを伝え、あとは伏せていたらしい。
「立花は?」
確か、自分たちが別のレイシフト先に行く以前に旅立っていたはずだ。
「無事だよ。彼らは、システムダウン前に戻ってきた」
「それなら良かった。――まだ全部は復旧してないんだ?」
何となく、この雰囲気ではそう感じ取れた。
「大丈夫?」
「心配しなくていいよ。それによって何か起きたと言えば、ロマニが倒れたくらいだ」
「倒れた……?」
それは、大丈夫なのか。
倒れて強制休憩したことで、復活はしているらしい。
「一番頑張ってくれているのは、実はギルガメッシュ王だ」
「ギルガメッシュが……」
「そう、知っての通り、ギルガメッシュ王は立花くんたちの方のレイシフト先に同行していたため、システムがダウンしたときには戻っていた」
ギルガメッシュが、サーヴァントの中でも強いことはよく知っていた。
だから立花の方について行ってほしいと言ったのだ。
意外と丈夫なドクターが倒れたが、サーヴァントであるなら、大丈夫……だろうか。
「もう、ずっと不眠不休だ」
彼がいなければ、復旧具合はもっと遅れていただろうとダ・ヴィンチちゃんは言った。
さすが王様。いつかも思ったことを、また思う。
とりあえず、自分も戻ってきたのだから、出来る限り手伝わなくては。
「過労死するかもしれないね」
「え」
一緒に戻ってきたマーリンが背後で言ったことに、振り向く。
「……サーヴァントって、過労死すんの……?」
聞き返すと、当のマーリンは目をぱちくりしたあと、うーんと考える仕草をして、にっこり笑った。
その笑顔どういう意味? どうなの?
「する可能性はあると思うよ。絶対ない、なんて言い切れることはないだろう?」
驚愕の内容だった。
過労死?
まさか、そんなこと考えたこともなかった。
「ちょっとギルガメッシュ寝かせてくる」
「いや、サーヴァントは――」
ダ・ヴィンチちゃんの声が何か言った気がしたけど、それどころではなかった。
「ギルガメッシュ!」
「リンドウ、戻ってきたか」
「さっき」
走り回って、聞き回って見つけたギルガメッシュに駆け寄る。
「ギルガメッシュ、寝よう。今すぐ」
服を引っぱって、言う。
すると、ギルガメッシュは瞬いた。
「働きすぎ。休んで」
「働きすぎ? システムの完全な復旧がまだだ」
「目処は立ってるんだろ? とにかく休んで」
ぐいぐいと服を引いて言うのに、ギルガメッシュはと言うと。
「レイシフト先では問題はなかったか」
「なかったよ。じゃなくて、俺のことより、自分のこと考えてよ……とりあえず! 今すぐ寝よう! 倒れる!」
見上げ、見つめて訴えかけると、ギルガメッシュは黙し、しばらくして手元に持つ紙束に視線を落とし、辺りを見る。
「確かに、目処はついた」
そして、視線が戻ってくる。
ギルガメッシュは、口角を上げ、笑った。
「誘いは受けねば、男の恥よな」
「……うん?」
「後は任せる」
「はいはい、任せておいてー」
「マーリン?」
ギルガメッシュが持っていたものを受け取ったのはマーリンで、いつの間にいたのかとか思っている暇もなくなぜか肩に担ぎ上げられた。
「ギルガメッシュ、なんで俺も連れてくんだ」
「久方ぶりに会うことだ。誘い通り、寝るとしよう」
その「寝る」が普通の寝るに聞こえなかったのは気のせいか。
「いや、俺はその間働くのであって、」
「戻ってきたばかりだろう。共に休息に入れ。そうでなければ、我は休まぬ」
「えぇ」
何でそうなる。
というかマーリン、見てるだけならいいけど、なんでそんなににこにこしてたの。