別人物視点で進みます。
少しだけ彼のことがわかるかもしれません。
今回の戦闘描写は殆どなしで進みます。
敵、てき、テキ
何処を見渡しても敵だらけの中、私は戦った。
何故戦うのかはわからない。
だけど、そうしなくちゃいけないって心が叫ぶ。
奴らが敵だということは、生まれながらわかっていた。
だから私は今日も戦う。
何処に味方がいるのか定かではない。
そもそも味方がいるのかもわからない状況で私は海上を走る。
砲を打つ。機銃を打つ。
最初から多勢に無勢。こちらが1発撃てば5発はかえってくる。
「ちぃ、痛いじゃないのー。」
避けながら慎重に戦っていても、段々と傷は増えていった。
何隻沈めたか覚えていない。
自分の状態を見て、小破かな…。と一人ごちる。
小さな相手はすぐ沈める。しかし大きくなってくると装甲が固くなかなか沈まない。
私の砲では殆どダメージが通らず、魚雷で沈めるしかない。
魚雷の射程に無理やり入ろうとすると砲がよけにくくなる。
ジレンマだった。
「どうせ沈むくらいなら、少しでも多く道連れにしてやりましょうかね~」
自分自身に活を入れるように呟く。
体はすでにボロボロだ。弾薬も燃料も殆ど残ってやしない。
例え特攻になろうとも、少しでも多くの奴らを道連れにしてやる。
あれからどれほどの時間が経ったのだろうか。
すでに痛みすら感じなくなっている。
段々と視界もぼやけていき、自分はもう長くない事を悟る
「大井っち・・・だいじょうぶかな。」
私は大好きな相方が無事な事を、切に祈る。
「あ・・・。」
私に迫る雷跡が見えた。もう避ける事は叶わない。
みんな・・・。先に沈んでごめん。次に生まれる時は・・・。
「-----っ。」
何かが聞こえる。
死後の世界だろうか。体がふわふわと浮かんでいる感じがする。それに・・・温かい。
温かい何かに包まれるような感覚に陥り、意識が急速に浮上した。
「あの!だいじょうぶですか!あのー!」
はっきりと聞こえる。私を心配している声。温かい声。
ゆっくりと目を開き、声がするほうへ目を向ける。
そこには心配そうに此方を覗いている瞳があった。
今にも涙がこぼれ落ちそうなほどたまっており、本気で心配していると感じ取れる。
「よかった…。目を覚まして。だいじょうぶですか?」
少年はホッとしたような表情を作り、温和な笑顔を浮かべながら声をかけてきた。
吸い込まれるような真っ黒な瞳に、私は返事をすることも忘れて見惚れていた。
すると少年は訝しながら、再度声をかけてくる。
「あの・・・本当にだいじょうぶですか?」
少年の問いに私は慌てて返答した。
「えっと・・・ちょっと近いかな~って・・・。」
刹那、少年は飛びのき顔を真っ赤にしていた。
多分、私も顔が赤いだろうな~と思いつつ声をかける。
「ごめんね、少し恥ずかしくて・・・。助けてくれたんだよね?ありがとね。」
少年は落ち着けないのか、ぶつぶつと呟いた後に深呼吸をして、此方に向き直った。
落ち着いて見てみると、まだ若い―学生だろうか。
中性的な顔つきで真っ黒な瞳。長くもなく切りそろえられた髪。その上に乗っている小人―。
「えっ!?」
私は再度見直した。うん、小人だ。
目を擦ってみる。うん、小人だ。
「ええええ~!?」
私は叫んでいた。
少年は驚いたのか、体をびくつかせながら言う。
「ど、どうしたの?何かあった?」
私は驚きを隠せなかった。
何度見ても彼の頭の上には“妖精”が乗っているのだ。
指をさし、口をパクパクさせていると少年も驚きながら聞いてきた。
「ま、まさか頭の上の・・・。見えてるの?」
私は言葉にすることができず、何度も頷くことで返した。
あり得ない。普通の人間に妖精が見えることなどない・・・はず。
更に“親しそう”にしているなんて・・・-。
頭の中が真っ白になっていた私は、暫く思考を放棄していた。
「落ち着いた?急に驚かせちゃって、二重でごめんね。」
顔を紅潮させて少年が謝罪してくる。
先ほどの顔が近かったこともあわせてということだろうか。
それに関しては全く嫌だとは思わな・・・。
「ああぁ!いいよいいよ!こちらこそほんとごめんね?それと、ありがとね。」
余計な思考は打ち消す。
最初に目が合った時からこの感覚は何だろうか。
生まれて間もないの私にはわからない感覚だった。
「それと・・・頭の上の子って、“妖精”だよね?」
ずっと気になっていたことを恐る恐る尋ねる。
少年は少し首を傾げたが答えてくれた。
「妖精っていうのかな?わかんない。でも、小さい頃からのお友達だよ。」
私は更に驚愕とした。
これまでに海上で出会った人間は妖精の声が届くどころか、姿さえ見えていなかった。
何度も妖精が「ムシサレタ・・・」と拗ねているのを見てきたのだ。
わけがわからなくなった私は、再度思考を放棄した。
「そう言えば、どうしてここに倒れてたの?傷だらけだったし、吃驚したよ。」
少年の声に私の意識は再浮上する。
どうして忘れていたのだろう。今は戦いの最中だった。
「そうだ!奴らを倒しにいかないと!」
私は勢いよく立ち上がった。
そこで気付いたのだ。体の傷がなくなっている。
体も軽い。燃料と弾薬もフルにある。
「・・・あれ?」
私は意味がわからなかった。
首を傾げていると、少年が気まずそうに言った。
「ご、ごめん。僕は救急車を呼ぼうとしたんだけど、この子が私に任せてって言ってね・・・。」
少年は呟きながら、頭に乗っていた妖精を掌に載せてこちらへ突き出してくる。
掌の上の妖精は、満足そうに頷きながら胸を反らしている。
まるで、エッヘンと言ってるように。
「工具を取り出してカンカンと叩いて・・・すると急に光りだして・・・
収まったと思ったら、君の傷は治っていて服装が変わっていたんだ。」
少年は心底わけがわからないと話す。
言われて自分の服装を見てみた。
服の形は変わっていないが、セーラー服も緑色になっている。
そして何より、酸素魚雷が増えていた。
「なに、これ?」
私にも何が何だかわからなかった。
すると少年の掌に乗っていた妖精が言う。
「かいそうしました」
かいそう?海藻?改装?
正直わけがわからなかった。
自分のことでもわからないことだらけで。
ただ一つ、はっきりとわかることは
私はまだ戦える。それにパワーアップした状態で。
「妖精さん。ありがとね。これでまだまだ戦えるよ~。」
私は礼をする。妖精さんは少し照れたのか、頭の後ろ掻いてソッポ向いてしまった。
その様子におかしくなった私は顔を綻ばせる。
「えっと・・・戦うって?」
少年は私の瞳を見つめながら聞いてきた。
そうだった。この子は私が人間だと思って助けてくれたのだ。
私の存在を伝えることは簡単だ。
でも、少年に怖がられるのは・・・嫌われるのは嫌だと感じていた。
答えられない私に再度問う。
「どういうことなの?もしかして―「私、艦娘なんだよね~。」
少年が言い切る前に遮るようにして私は言った。言ってしまった。
正直、怖い。心臓はばくばくしている。
自分が自分じゃなくなりそうな感覚。
返事を待つのが怖くて、私は更に捲し立てた。
「もうわかるよね?私はヤツらと戦うために生まれた、人形みたいなものなんだ~。
気持ち悪いよね?人間と思って折角助けてくれたのに、ごめんね?」
一息に捲し立て、逃げるように背を向けた。
自分で言っておきながら、肯定されるのが怖かった。
お前は人間じゃないと、突き付けられるのが怖かった。
逃げ出したい気持ちでいっぱいになり、私は足を踏み出した。
「待って!」
少年に腕を捕まれた。
壊れモノを扱うように優しく―。
「お願い!行かないで!僕の話も聞いて?お願い。」
触れられている腕が焼けるように熱い。
少年にお願い(命令)されると何故か断れない。
体ではなく、心が従えと叫んでいた。
私が少年へ振り返り、抵抗をしないことを肯定と捉えたのか、少年は話し出した。
「僕はね、友達がいないんだ。正確に言うと人間の・・・ね。
小さい頃からこの子は友達だった。」
少年は話しながら掴んでいない手で妖精さんの頭を撫でる。
妖精さんはくすぐったそうにしながらもニッコリと笑顔を浮かべた。
「物心がついたころにはもう一緒だった。僕の中では近くに居て当たり前の存在だった。
だから、皆に紹介しようと思った。僕の友達だよって。でもね、皆には見えていなかった。
嘘つき呼ばわりされたし、頭がおかしいとも言われた。
『友達がいないからって見えない自分だけの友達を作ってんのか?』って。」
少年は今にも泣きだしそうな表情をしていた。
その表情を見ているだけで胸が張り裂けそうだった。
私まで心が壊れそうになった。
今にも涙が溢れそうに―。
「ご、ごめんね。そんな顔しないで。昔のことだから。確かに言われたときは悲しかった。
僕だけが可笑しいのかなって思った。でもね、この子が見える人に出会ったんだ。」
『こんにちは、僕。その子と二人で遊びに行くのかな?』
「正直、僕に話しかけているわけじゃないと思って無視しちゃったんだ。そしたら
『待って行かないで!お願い話を聞いて!』ってね。今思い出しても、必死な形相が面白かったよ。」
くすくすと小さく笑いながら、幸せそうに笑って話してくれる。
幸せそうな顔を見れて安心した反面、少し胸がチクリと痛んだ。
その痛みが何の痛みかわからないけど、今は気にする必要はないと考えて痛みを無視した。
「少し話しをしてみるとこの子の事が見えていて、一緒にいるのが気になって声をかけたって言っていた。」
『へ~。その子とお友達なんだね。そっかそっか、いい人なんだね!』
『少し難しいお話しをするね。今は意味が分からないかもしれないけど、聞いてくれる?』
『近い将来、すごい困難なことが起こるかもしれない。でね、君の助けを必要とする人がたくさん出てくるの。』
『その時になったらね、是非その子たちを助けてあげて欲しいの。君にしか出来ないことだから。』
「その時はよくわからなかったけど、自分がヒーローになれると勘違いして勢いよく頷いたよ。」
少年は気恥ずかしそうに頬を掻いた。
私は黙ったまま、続きを促した。
「正直今がその時かどうかはわからない。でも僕が出きることはしたいと思っている。
正直、艦娘がどのような存在かはわからない。でもね、僕から見た君は・・・女の子にしか見えないよ。
どこからどう見ても人間だよ。」
もう限界だった。涙があふれ出す。
自分でも自分がわからないのに、この少年は人間だと言ってくれる。
心が温かいモノで満たされてゆく。
今ならわかる。この少年は・・・この方は・・・
私の提督だ。
そう自覚するだけで不思議と力が湧いてくる。
何者にも負ける気がしない。
泣いている私の頭にポンッと掌が乗せられる。
よしよし と撫でながら少年は言う。
「ここで会えたことも、君を助けられたことも縁だと思う。だから、これからも
僕が君を助けるよ。君の事を守るよ。」
これ以上に幸せなことはあるのだろうか。
涙が止まらなかった。
見ず知らずな私を・・・人間ではない私を守ると言ってくれた。
「・・・ひっく。わ、私を守ってくれるの?ほんとうに?」
涙声ながらも、私は必死に伝えた。
すると、あやすように優しく撫でながら、少年は告げる。
「うん、君さえ良ければね。」
「守らせてくれますか?」「守って・・・くれますか?」
これは儀式。
私と・・・提督の。
これは契約。
私は貴方のモノ。
海へ駆け出す私の足取りは軽いものだった。
今なら少しだけ艦娘というモノを理解できる。
提督を得て初めて艦娘になるのだ。
自分が艦娘であることに疑問なんてない。寧ろ喜びを感じている。
今なら何だってできる!
「さ~って。やっちゃいますかね~。」
奴らを目視できる距離まで来て呟く。
今までなら近づかないと当たらなかった魚雷。
今ならわかる。“当たる”と。
「20射線の酸素魚雷、2回いきますよ~。」
私の両手両足から酸素魚雷がばら撒かれる。
何発か当たればいい・・・と思われる魚雷だけど
わかる・・・全部当たる。
「40門の魚雷は伊達じゃないから!ね!」
響く轟音。
周囲を見渡すとあれだけいた奴らが殆どいなくなっていた。
「まっ、今の“アタシ”が外すわけないよね~。この調子でどんどんいきましょ~。」
もう奴らは敵ではない。
アタシの的なのだ―。
「北上さんっ!!」
遠くからアタシを呼ぶ声が聞こえる。
目を向けると心配そうな形相で向かってくる大井っちが見えた。
小さく手を振ることで応える。
「大丈夫ですか!?北上さん!お怪我は!?一番奴らが多いところにいたと聞いたので、心配で心配で・・・!」
がくがくと揺さぶられる。
やーめーてーよー。
落ち着いてもらうために手を掴んでから伝える。
「アタシは大丈夫だよっ。大井っちのほうも大丈夫だった~?」
「私は大丈夫です!それよりも北上さん・・・!あれ、その服装は・・・?」
大井っちが服装に気付いたみたいで、訝しんでる。
どう答えようか迷っていると―
「服の!色が!変わってる!!お揃いじゃなくなってる・・・!」
この世の終わりのような表情をしている大井っち。
例えるならば、そう。ムンクの叫びみたい。
アタシは慌ててフォローするように答えた。
「形は変わってないから~。お揃い、だよね?」
すると大井っちは、はにかんで答えてくれた。
はい! と―。
海軍本部 大本営にて
緊急会議が行われていた。
重々しい雰囲気の中、緊急会議が行われている。
曰く 奴らはまだまだいる。
曰く 今回は退けられたが、次回はどうなるか分からない。
曰く 艦娘とは、個人で戦うには限界がある。
曰く 提督と呼ばれる存在を見つけ、指揮を執らせることによって無限の可能性がある。
曰く 提督の条件はまだ明らかになっていない。しかし第一条件として妖精が見えることである。
曰く 提督を見つけた艦娘がおり、一人で100体以上を殲滅した艦娘がいるという。
彼らの中に妖精と呼ばれる存在が見えるものはいなかった。
大本営は急遽立候補者を募ることとなる―。
彼らはまだ知らない。
提督になれる条件は予想以上に厳しい事を。
彼らはまだ知らない。
提督を見つけている艦娘の計らいによって、今後莫大な資金がかかってしまうことを。
彼らはまだ―知らない――。
余談ではあるが、名称がなければ判別がつきにくいので
奴らは“深海棲艦”と呼ばれるようになった。
過去編ということで、第零話としました。
次回、第一話の裏ルート教官視点でお送りいたします。
誤字脱字報告や感想などお待ちしております。