普通じゃない艦娘と自称普通な提督   作:rainy@執筆開始

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第一話の別視点ルート

彼視点では見えていなかった事が少し見えてきます。


第一話 旅立ち 裏

 

アタシは目が覚める。

窓に目を向けると外はまだ真っ暗だ。早朝とも深夜とも呼べる時間帯に目を覚ました。

ゆっくりと体を起こして体を伸ばす。朝に強い方ではないけれど、何年も続けていると流石に慣れる。

軽く頬を叩き気合いをいれる。

「よし、今日も一日頑張れアタシ。」

のろのろと立ち上がって洗面台に向かった。

 

 

外が段々と明るくなっており、鳥たちも鳴き始めた。

時刻はマルロクサンマル、私は点呼の為に廊下へ出た。

小さな銅鑼を二度打ち鳴らす。

すると次々と訓練生達が廊下へ出てきた。

 

「よーし、お前ら全員起きてるな。点呼をとる!」

「はい!1!」

「2!」....

 

いつも通り元気よく答えてくれる。

最初の頃は眠たげな返事によく怒鳴られていた訓練生。

「5!」

最後の一人へ目を向ける。

少し眠たげな眼。頭上では妖精さんがピシッと敬礼をしている。

微笑ましい光景に少しだけ口元を緩めたが、すぐに表情を引き締める。

 

「結構だ!食事は“マルナナマルサン”までには摂りおえるように!解散!」

この口調にも慣れたものだと苦笑を浮かべながら、部屋へ戻った。

 

部屋で準備をしているとき、コンコンとノックの音が響き渡る。

はーい、と返事をしつつ扉を開く。

そこにはいつもの笑顔を浮かべた“大井教官”が立っていた。

 

「北上さん。おはようございます。食事に行きませんか?」

この3年間、欠かさず毎日誘ってくれる大井っち。

アタシも笑顔を浮かべて挨拶を返し、部屋を後にした。

 

 

食堂についたアタシ達は席を確保した。

8人で使用できる長机が並んでおり、4人で使用できる机が少し外れた場所に置かれている。

利用する人数が少ないから、すべてが埋まることはない。

訓練生は思い思いに座っており、大きめのテーブルを4人で使用していた。

少し離れた場所に一人で朝食をとっている訓練生が見える。

 

「ん~。ちょっち行ってくるね。先にご飯とってて~大井っち。」

大井っちに告げ、返事を聞く前に動き出す。

背後から小さなため息を共に返事が聞こえる。

ごめんね、と心の中でお詫びをしつつ、足早に小さなテーブルへ向かった。

 

 

 

「あんたっていつも一人でご飯食べてるよねぇ?」

背後から突然声をかける。

妖精さんはいち早く気づいていたようで、大きく手を振っていた。

彼は特に驚いた様子もなく、そのまま返事がきた。

 

「いいんですよ。僕が輪に入っても相手が気を遣うだけでしょうし。それよりも

このような場所で、その話し方でいいのですか?教官。」

何時ものやり取りであるが、少しの事でも嬉しく感じてしまう。

ぶっきらぼうな言い方だが、アタシを心配してくれているのが伝わる。

 

「いいのいいの。あんたの近くにいつも人はいないし。バレやしないって。」

笑みを隠し切れず、少し声にも表れたかもしれない。

でも、いっか。と、気にしないことにする。

彼は少し呆れたようなため息を零しながら振り返った。

 

「どうなっても知りませんからね。それで?僕に何か用がありましたか?」

頭上の妖精さんも、彼の真似をしてるのか、やれやれと頭を振っていた。

四六時中一緒にいる訓練(?)の賜物か、一糸乱れず同じ動きを披露している。

可笑しくて笑い声をあげそうになったけど、それを抑え込んで質問をした。

 

「いやね、もう卒業でしょ?そろそろ何処の鎮守府に配属されるか決まったかな~って…。」

少し白々しいかな、と思わなくもないけど、彼の口から聞かないと意味がない。

アタシも教官だから、本当は誰が何処に配属されるかは知っている。

 

“横須賀鎮守府”

訓練生の中で成績が一番良かった彼の配属先は決まっていた。

・・・はずだった。

 

「はい、昨日に辞令が下りました。僕は“舞鶴鎮守府”へ配属されます。」

多分、無意識だったと思う。

怒気を隠せなかった。あのおっさん(元帥)・・・。アタシに嘘を教えたの・・・?

アタシの雰囲気に充てられてか、大井っちからも似た雰囲気が感じられる。

“私の北上さんに何をしたの?”と、目がありありと訴えていた。

 

「ねぇ…。横須賀に配属“だった”んじゃないの?」

アタシは努めて冷静に聞く。

彼は少し頬をひくつかせていたが、すぐに立ち上がり答えた。

 

「はい!いいえ!辞令は頂きましたが、私のような若輩者に務まるとは思えず

辞退した次第であります!」

・・・綺麗な敬礼つきで。

アタシは小さくため息をついた。

ここで彼に当たるような態度をとっても仕方がないと思い直し、すぐに席を立った。

 

「そうなんだ~。わかった。ちょっち用事を思い出したからもう行くね。」

ごめんね、少しおっさん(元帥)とお話合いをしなくちゃいけないから―。

 

 

 

「それでは、失礼します。」

大きな扉を開き、退出する。

アタシがあの勢いで部屋に入ってきたことに驚いたのか

おっさん(元帥)は酷く慌てていた。

聞くところによると、おっさん(元帥)も何度か説得はしたそうだ。

しかし、彼の意思は固くて折れなかった為、妥協して舞鶴になった。

彼自身は少しコミュ症で、自身を過小評価しがちだから・・・。

 

仕方なく、アタシ自身出していた異動届を話し合い(?)の結果、無かったことにしてもらい

新たに舞鶴への異動を認めさせることができた。

 

「少し予定と違ったけど、まっいっか~。」

軽く伸びをする。

そろそろ授業の時間だから少し急がなければ。

そこでアタシは思い出した。

 

「朝ごはん・・・食べてないじゃん。おなか減ったぁ・・・。」

朝食を食べ損ねた事を。

 

 

 

「あ~ぁ。昨日は朝食抜きだったし、散々だったな~。」

おっさん(元帥)の長く意味のない話を聞きながら一人ごちる。

今日は卒業式。たった5人だけの。

漸くこの日がきたと、アタシの内情は喜びでいっぱいだった。

 

「北上さん、何やら嬉しそうですね。」

ボーっと眺めていると、横から大井っちが声をかけてきた。

表には出していないつもりだったけど、大井っちにはばれてたみたい。

 

「あ、わかる?教官も楽しかったけどね、やっぱり艦娘としては海で戦いたいというか・・・

提督の元で戦いたいというか・・・。」

ちょっと恥ずかしくなり、段々と小声になってしまった。

特に問い詰められたりしなかったから、最後は聞こえてなかったんだと思う。

 

大井っちには、アタシの提督が見つかったことは伝えていない。

式の後に発表されるであろう、人事異動の件を聞くと卒倒しちゃうかな・・・って思う。

確実に来るであろう未来を思い描きながら、アタシは小さく息をついた。

 

 

「卒業生代表、海道くん。」

「はい。」

 

式も残すところあと僅か。

この3年間を振り返ると色々とあった。

提督の事は、一番に気にかけていた。

ほかの子達を蔑ろにしていたわけではない。

でも、どうしても放っておけなかったのだ。

 

思い出に耽っている間に、式は終わっていた。

慌てて提督を追いかける。

 

 

「卒業、おめでとさん。3年間なんてあっという間だったねぇ。」

何時ものように、軽い感じで声をかけた。

提督は振り返り、しっかりと瞳を見つめながら返した。

 

「そうですね。色々とありましたが、教官には本当にお世話になりました。」

そうだ。色々とあったのだ。

まだ一般人だった彼を、大本営へ推薦したのは“アタシ”だ。

彼はあの約束の際に、提督なんて知らなかっただろう。

守るとは本心で言ってくれていただろうけど・・・こんな事になるとは思ってもいなかったはずだ。

恨まれているかもしれない。本当はしたくなかったかもしれない。

どのような言葉をかけるべきか。迷っている最中に彼はつづけた。

 

「教官、この3年間本当にありがとうございました!貴女なくしては今の僕はありません。

辛いときにも厳しくも優しい言葉をかけて頂いた事も一生忘れません!

今後先にも厳しい戦いが待っていることでしょう。しかし貴女の教えがある限り、私は折れません。絶対に負けることはないと誓います!」

 

アタシは言葉にならなかった。

気にはかけていたが、勿論厳しいこともいっぱい言ってきた。

嫌われていないと信じていたけど・・・感謝されているとは思ってなかった。

零れ落ちそうな涙を必死で堪え、出きるだけいつも通りに返した。

 

「あっはっは。いいってことよ~。これからは国のため、ひいては人の為に頑張ってねぇ。」

ビシッと敬礼を返し、すぐに身を翻した。

その後自室へ戻り、彼の言葉を噛みしめ一人で泣いた。

 

 

「ちょっと!北上さん!どういうことですか!?」

肩を捕まれ、揺さぶられながら早口で大井っちが問い詰めてくる。

やーめーてーよー。

話そうにも話せない状況に、落ち着いてもらおうと腕をつかむ。

 

「大井っち。落ち着いて~。ちゃんと説明するからさ~。」

まだ興奮した様子だけど、揺さぶるのはやめてくれた。

会議室から出てすぐの場所での出来事である。

流石に目立つので、移動して話そうとアタシは提案した。

 

「それで?どういうことなんです?私何も聞いていませんっ。」

アタシの自室へ入り、お茶を出したところで大井っちが切り出した。

もう落ち着いているけど、今度は少し拗ねている。

そんな様子を少し可愛いと思いながら、アタシは話し出した。

 

「えっとね、大井っちにはまだ伝えてなかったんだけど・・・アタシ、提督を見つけたんだ。」

大井っちは酷く驚いた表情をしている。

そりゃそうだよね。“教官は訓練生に指揮をされることはない”のだから。

 

「・・・いつ、ですか?いつ見つけたのですか?」

大井っちは呟くように言葉を絞り出した。

アタシも誤魔化したくなかったので、包み隠さずに伝えることとした。

 

「アタシ達が“生まれて”すぐの戦いの時に。あの時に本当は一度沈んじゃってるんだよね。」

驚愕のあまり目を見開く大井っち。

アタシは構わず続けた。

 

「沈みかけた・・・が正しいのかな?正直、自分でもよくわかってないんだよね。

 自分では沈んだと思っていたら、砂浜の上に寝転がっていて。アタシを見つめる瞳と目が合った。

 そして気を失っている間に・・・“改装”を受けていた。」

 

咄嗟に言葉をかけようとしたのか、出しかけた手を戻して聞く姿勢に戻った。

そんな大井っちに心の中で感謝する。

 

「何言ってるかわかんないよね?アタシもイマイチわかっていないんだよね。

 でも、確かに言われたんだ。妖精さんに“かいそうしました”って。」

アタシ達ですら、殆ど意思疎通のとれない“妖精さん”。

彼女たちは基本的に人の話を聞かない。更に、何かを伝える時は端的である。

しかし、サポートは的確で彼女たち無しには魚雷すら発射出来ない。

 

「ボロボロだった傷は癒え、殆ど空になっていた燃料と弾薬も回復してた。

 酸素魚雷もその時に増えていたんだよね。」

支離滅裂で、説明にすらなっていない言葉。

あれから何度も妖精さんにも聞いてみたが、まともな答えは一度もなかった。

彼と一緒にいる妖精さんが特別なのか、或いは教えたくないだけなのか。

 

「その時に助けてくれた人がアタシの提督ってワケ。隠すまでもないから言うけど

 海道提督だね~。いつも頭上にいる妖精さん。あの子が“かいそう”してくれたの。」

大井っちは俯きながら肩を震わせている。

どんな言葉をかけようか迷っていると、大井っちが口を開いた。

 

「………す。」

小声で呟くだけで、何と言ったのかは聞こえない。

不信に思ったアタシは大井っちの肩に手をかけた。

 

「黙ってて、ごめんね?何度か伝えようとしたんだけど・・・。なかなか言い出せなくて。」

ゆっくりと顔を上げる大井っち。

瞳からは光沢が消え去り、虚ろ目になっている。

やばいかな、こりゃ。

 

「いいえ、北上さんは悪くありません。ええ、北上さんが悪いなんてことがあるはずないじゃないですか。

 お話しの途中すみません。少し用事が出来ましたので、席を外します。大丈夫です。心配ありません。

 北上さんは今まで通りでいてくれれば、結構です。それでは失礼します。」

ぼんやりとした瞳のまま早口で告げ、踵を返す大井っち。

アタシは引き留めることも出来ずに、苦笑いで送り出すことしか出来なかった。

どうか何事も起きませんように―。

 

 

翌朝

 

アタシは舞鶴鎮守府へ到着していた。

提督が到着するまで、あと1時間はある。先に荷物整理と簡単な挨拶は済ませておこう。

玄関先で花壇に水やりをしている大淀を発見したので、声をかけた。

 

「やっほ~。大淀、久しぶりだね~。」

大淀はゆっくりと振り返り、少し驚いた顔をしている。

 

「おはようございます。北上さん。それとお久しぶりです。お早い到着ですね。提督とは別々で来たのですか?」

アタシだけ先に到着したことに驚いているようだった。

笑みを堪えきれず、ニヤついた頬のまま大淀に答える。

 

「それがね~、実は提督に内緒にしてるんだよね~。アタシが着任すること。」

きっとアタシは満面の笑みになってることだろう。

大淀はわかってくれたのか、ポンっと掌を叩いて笑顔になった。

 

「なるほど。わかりました。でしたら、私からも言わないでおきますね。」

流石大淀・・・。理解が早くて助かる。

提督の驚く顔が目に浮かぶようで、凄く楽しみだ。

大淀への挨拶もそこそこに、アタシは部屋へ向かっていった。

 

 

荷物整理もひと段落したところで気付く。足音と共に男女の話し声が聞こえてきた。

少し早いけど、真面目な彼のことだ。遅れるより早く着きたかったのだろう。

足音が遠ざかっていったことを確認して、アタシも部屋を出る。

早く会いたい気持ちと悪戯心が混ざって、ウキウキ気分なアタシの足取りは軽かった。

 

 

執務室の前につく。扉は閉じられていなかったので、中の様子を伺う。

大淀と二人で海を眺めているようだった。

彼のほうは海というより、大淀を眺めているような・・・。

すると小声で彼は呟く。本当に綺麗だ・・・と。

何故かわからないが、アタシの心にどす黒い感情が渦巻いてることがわかった。

なんかイライラするし、チクチクする。

居ても立っても居られないアタシは部屋へ入っていった。

 

「あれぇ?提督じゃん。何~?着任して早々にナンパ?何が綺麗なのかな~?」

彼の肩が飛び上がり、凄く驚いていることがわかる。

その姿を見ることで、少し溜飲が下がる。

 

「ちっ、違うよ!海が綺麗だから!海のことだから!」

酷く慌てながら此方へ振り返った。

アタシはニヤニヤが止まらずにいい笑顔になっていたと思う。

 

「え・・・ちょ、ちょっと待ってください。何故貴女が・・・何故・・・。」

驚け驚け~。ナンパしていた罰だ。

 

「北上教官がここに!?」

アタシは挨拶の為に、軽く手をあげることで応えた。

 

「ふふん。それがね~?“偶然”舞鶴鎮守府に移動することになってね~。

教官も終わったから、そろそろ前線に復帰しないとね~?」

 

“驚く顔が見たかったの”

“貴方の元で戦いたかったの”

本心は伝えずに。

何時も通りのアタシはのらりくらりと躱しながら。

 

「というわけで~今度は立場が逆になるよね~。提督の指示で戦っちゃうからさ~。

大丈夫~40門の酸素魚雷は伊達じゃないからね。」

提督の剣となり盾となる。

アタシは貴方のモノ。

アタシが貴方を守るから。

貴方もアタシを守ってね。

 

 

「先に教えててくれよ!昨日の僕の言葉を返してぇ!!」

彼は頭を抱えながら叫ぶ。頭上の妖精さんも真似をして頭を抱えている。

そうそう、そのリアクションを待ってたんだよね~。

大淀の方を向くと彼女も此方を見ており

お互いに目を見合わせて、いい笑顔で頷き合った。

 

 




文字数5000前後で抑えようとしていましたが、若干足が出て6000程度。

長すぎると読む方も疲れるし、短すぎると物足りない。

難しいですね。この小説では大体5000~くらい目安にしています。

誤字脱字報告や、意見感想などお待ちしております。
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