普通じゃない艦娘と自称普通な提督   作:rainy@執筆開始

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彼視点ではわからなかったことが明らかに。

少しずつですが、段々と明るみになっていく彼のこと。

今回も少しだけわかるかもしれません。


第二話 着任 裏

 

「・・・それで?説明してくれるよね?」

彼は椅子に座りなおしてアタシに告げた。

もう少し掻きまわし・・・困らせてからでも良かったのだけど

怒られるのも嫌なので、素直に答えることにした。

 

「いやね~。本当は伝えても良かったんだけどさ~。

 サプライズの方が楽しいじゃん?」

本当は驚く顔が見たかっただけ。

“君の色んな表情が見たいんだよ”とは素直に言えない。

 

「北上教官、以前に僕が誘った時は“断った”よね?まだ教官を辞めれないって。」

・・・そうなのだ。本当にアタシもこんなことになると思っていなかった。

たまたま“新しい教官”が増えて、たまたま“前線に戻された”だけなのだ。

それならば、と彼のいる鎮守府に異動を希望した。

 

 

「だってぇ~・・・教官を続ける予定だったんだけどね~?事情が変わってきてさ~。」

詳しくは伝えない。

アタシにも意地やプライドが少しはあるのだ。

一度断っておきながら、調子がいいと感じるかもしれないが

前線に出るなら彼の元以外で戦う気なんて、さらさら無かった。

どのように言葉を続けるか考えていると、大淀が遮った。

 

「提督、お話しの途中で申し訳ありません。マルハチマルマル、着任の時間となりましたので

 秘書艦を務めるものが、もうそろそろ執務室へ来られます。如何致しますか?」

これはチャンスだと思う。

真面目な彼は断らないはず。

いつか追及されるかもしれないが、何度でも躱してやると一人誓った。

 

 

すぐに扉がノックされる。

相変わらず人見知りな彼は少し緊張しているようだった。

“そういうところは変わらないな”と思い、アタシの頬は緩んだ。

 

 

「はいはーい!白露型駆逐艦3番艦の“村雨”だよ。提督、よろしくね!」

駆逐艦 村雨。

駆逐艦はあまり好きではないけれど、その中でもマシな分類に入ると思う。

纏わりついてくるような子でもないし、姉妹の中でもお姉さんをしていそうな性格。

ただし、駆逐艦とは思えない胸部装甲。密かに“負けた・・・”と思っていた。

彼へ目を向けると、その胸部装甲を見ていた。

瞬間的に頭へ血が上ったアタシは、彼の足を勢いよく踏み抜いた。

 

「ていとくぅ~?女の子は視線に敏感なんだよ~?あまり見過ぎないほうがいいと思うな~。」

アタシは凄くいい笑顔をしていたと思う。

村雨へ目を向けると、彼女は小悪魔のような微笑みを浮かべていた。

 

「ははぁーん。さては、村雨に見惚れちゃいました?で・し・た・らー

 村雨の・・・ちょっといいとこ、見てみたいー?・・・うふふっ」

ある部分を強調するような姿勢になる村雨。

女のアタシでも見てしまうから、気持ちはわからなくはない。

でも、やっぱり面白くないアタシは踏んでいる足に力を込めた。

 

「こ、こら。村雨。はしたないから辞めなさい。婦女子が簡単に見せるものではありません。」

アタシの思いが通じたのが、彼が村雨を窘める。

少し時間がかかったことを、問い詰めたいという気持ちは少なからずあるけど

ぶり返す話でもないか、と思い直し、漸くアタシは足を退けることにした。

 

彼と村雨は自己紹介を進めているようだったが、アタシの耳には入っていなかった。

 

“貴方も大きいほうが好きですか?”

“小さいアタシはダメですか?”

 

頭の中で、浮かんではすぐに消えていく言葉。

弱虫なアタシは、口に出すなんてことは絶対に出来ない。

どうしようもない思いに苛まされながら、アタシは大きくため息を吐いた。

 

 

「そういえば、秘書艦ってなに?何するの?」

・・・聞こえてきた彼の言葉にアタシは絶句する。

どういうことだろう、アタシに喧嘩を売ってるのだろうか。

大淀は呆れながらも、彼へ突っ込む。

 

「提督は何も習ってないのでしょうか・・・?」

そう思われても仕方ないかもしれないが、そこは間違いだ。

アタシは責任をもって叩き込んでいるはずだ。

 

「村雨も、ちょっとあり得ないって思うなー。」

駆逐艦に呆れられる提督。

いい気味だと思う反面、アタシの風評被害にもつながることに気付いた。

 

「あのねぇ~。提督は3年間何を学んだのかな?アタシの授業とか聞いてなかったの~?」

教えたはずだ。と強く念を込める。

何も知らない二人に、アタシ達教官が何も教えていないと思われることは心外だった。

・・・それよりも提督自身が“無能”だと思われることが嫌だと気付く。

 

 

「面目ないです・・・。関係なさそうな授業はあまり聞いていませんでした・・・。」

彼は素直に謝っていた。

悪いことは悪いとすぐに認めれることは、彼の美点だと思う。

真面目な人柄だけど、授業中でも稀に話を聞いていない時があった。

窓から空を眺めるようにボーっとしていたのだ。

 

当時は特に気にも留めていなかったが、真面目な彼が“話すら聞いていなかった”事実がおかしいと気付く。

上の空になっていても、話は聞いてくれていると思っていた。

ただ、忘れているだけかもしれないけど、全く頭に入っていなかったのか。

一度気にすると、頭の中でぐるぐると回っているようだった。

アタシが一人考え事に耽っていると、何時の間にか話が終えていた。

 

 

「舞鶴鎮守府の現状は、駆逐艦 2名、重雷装巡洋艦 1名の合計3名です。

 私、大淀は基本的に出撃致しません。ですので、戦力としては3名ですね。」

彼が現戦力について尋ねたのだろうか。

現在の舞鶴鎮守府では、鎮守府近海にてはぐれ艦隊が数度潜り込む程度で

大型艦種が出現することも、殆どない。

駆逐艦が2隻で哨戒するだけでも事足りるだろう。

そこにアタシ“重雷装巡洋艦”が加わると戦力過多だ。

彼からすると少なく感じていると思うが、アタシに不安はなかった。

 

「それなら仕方ないね。わかった。そしたら、もう一人の艦娘も連れてきてくれる?」

彼が村雨にお願いをする。

命令で良かった気もするけど、彼らしいかな。と微笑ましい気持ちになった。

そこで彼を見ていると、少し難しい顔をしている。

悩みがある事はわかっていたので、アタシは声をかけた。

 

「提督~?空母いないのが不安なんだよね~?アタシがどうにかしてあげよっか?」

3年間、彼の指揮を見続けたアタシは彼の戦法をわかっている、と自負している。

全てを曝け出していたかはわからないが、大半は知っているだろう。

彼の基本戦術にて、一番大切にしていたことは“空母の眼”だった。

駆逐艦と重雷装巡洋艦では、艦載機はおろか偵察機すら積めない。

それがわかったので、彼の不安を少しでも軽減出来ればと思い、更に声をかける。

 

「“妖精さん”を連れて行っていいなら、どうにかするよ~?ねぇ、どうする~?」

彼は驚きのあまり固まってしまった。

唐突過ぎたかな?と思うが、アタシの感が正しければこの子は何かの鍵を握っている。

未だに解明されていない“妖精”と呼ばれる存在。その中でも一番謎に包まれているのだ。

アタシの急な問いかけに困ることもなく、妖精さんは笑顔で手を挙げていた。

そんな妖精さんを見ていると、アタシはイケると確信する。

 

 

「北上教官には何か考えがあるんですよね?なら、お願いします。」

彼はそう告げてアタシの頭へ妖精さんをのせる。

わざわざ頭にのせなくても・・・と思ったが、楽しそうな雰囲気を感じたから何も言わずにおいた。

 

「北上号、はっしーん。」

妖精さんのテンションにあわせて茶化しながら、アタシは執務室を後にした。

 

 

工廠へ向かう途中で、もう一人の駆逐艦を連れた村雨と遭遇した。

夕立だったかな・・・?癖のあるしゃべり方で、駆逐艦の中でも特に纏わりついてくる子だ。

アタシに気付いた村雨が声をかけてきた。

 

「北上さん。どこかへ行かれるのですか?」

アタシは足を止めて村雨へ向き直った。

 

「ちょっち工廠までね~。北上、空母を建造するであります~。」

固いのがあまり好きでないアタシは、空気を和らげるために茶化すように言葉を発した。

空気を読んだ村雨は、笑顔のまま軽く敬礼をした。

 

「貴艦の任務、無事に成功をすることを祈っているでありますー!」

無邪気に笑う村雨に見送られながらアタシは踵を返す。

「夕立も、またあとでね~。」

二人に見送られてアタシは足早に工廠へ向かった。

 

 

“工廠”

艦娘の建造ドックがあり、その他にも装備品の開発や改修を行える場所。

妖精さんへ資材と資源と呼ばれる物を渡すと、気まぐれに作成してくれる。

もちろん、こちらから指定することもできず、出来上がるまで何が出きるかすらわからない。

殆どの場合が、失敗や艤装のみの作成となる。

 

 

アタシは建造ドックへ迷わず足を向けた。

そこには何人かの妖精さんがいる。

暇そうに寝転がっているものや、慌ただしく飛び回っているもの。

アタシは頭上の妖精さんを一度降ろして、お願いをする。

 

「あのね、彼の為に空母を建造して欲しいんだ~。建造のシステムは理解しているつもりだよ。

 でもね、アタシは彼が苦しむところを見たくないの。

 空母なしでも充分に戦える力を彼は持っている。だけどね、万が一ってこともあり得るの。

 万が一の時、きっと彼は自分を責めちゃう。“空母がいれば”“僕の指揮が無ければ”って。

 彼が空母を手にしたら、きっと“どんな敵にも負けない”。その力を持ってる。

 難しいお願いとはわかってる。でも、協力してほしいの。」

 

アタシは妖精さんへ向けてお願いをした。

人間では駄目でも、艦娘のアタシなら或いは・・・と考えはあった。

しかし、誰も見向きすらしてくれない。

だめだったかな・・・と、うっすらと瞳に涙が浮かぶ。

するとその時に、アタシの掌から連れてきた妖精さんが降り立った。

何を伝えているのかはわからない。

しかし一生懸命に身振り手振りで必死に伝えている。

徐々に妖精さん達が集まり、今では整列して敬礼している。

 

連れてきた妖精さんは此方へ振り返り、敬礼をしながら命令を待っている。

「おしごとします」

 

アタシは瞳から零れたモノには気を留めず、精一杯の笑顔を作って言った。

「報酬は甘いものだよ~。皆!空母を一隻お願いね~!」

ポケットにたまたま入っていたチョコレート。一人一人に配っていく。

妖精さん達は、一斉にいい笑顔で頷いて思い思いに作業を開始した―。

 

 

 

“妖精さん”

忙しなく飛び回る妖精さんへ目を向けて思考する。

彼女たちはどのような存在なのだろうか。

現場に指揮をとっている“彼のお友達の妖精さん”。

彼女は他の妖精さんとは違うように感じる。

ある程度の意思疎通は出きるし、何より“彼の事を想っている”。

アタシの“かいそう”をしてくれたのも彼女だ。

妖精さんを眺めていると、アタシの目に“火炎放射器”が映る。

 

「え!ちょ待って!それで何するの!?」

慌てふためくアタシ。

ジェスチャーで落ち着くように伝える妖精さん。

「だいじょうぶです」

そう告げて、一気に炎を放出した―。

 

 

すると建造ドッグの扉が開き、艦娘が出てきた。

茫然とするアタシと辺りを見渡す艦娘、それにどや顔の妖精さん。

「せいこうしました」

喜色一面なアタシは妖精さんを連れ、艦娘の名前も聞かずに駆け出した。

 

 

“彼は喜んでくれるかな?褒めてくれるかな?”

一秒でも早く報告をしたい一心で走る。

執務室の扉が見えてきたアタシは、ノックもせずに扉を開け放った。

 

「お待たせぇ~。・・・ん?どったの?そこのちっこいの何してんの~?」

執務室に入ったアタシを出迎えたのは、村雨の陰へと隠れる夕立だった。

何かあったのかな?と思ったけど、今はそれより提督に報告が先だ。

 

 

「まぁ、とりあえずいいや。提督、空母を連れてきたよ~?」

アタシが言葉を発した後に静まりかえる執務室。

あれ・・・?反応が薄い・・・?と、焦るアタシ。

そんな中、大淀が恐る恐るといった様子で口を開いた。

 

 

「えっと、連れてきたとは・・・何方から連れてこられたのでしょうか。」

アタシは大淀の言ってる事が理解できなかった。

工廠へ行くと言ってから部屋を出たのに、何を言ってるのか。

 

 

「え~?工廠からに決まってんじゃん。そこ以外どこがあるのさ~。」

当然でしょ?と答える。

3人の表情は更に強張った気がする。

 

「その・・・ですね。“建造”されたことはわかりました。ですが、時間は・・・?」

あ~、なるほど。アタシは気付く。

説明を端折ってしまっていたのだ。

逆の立場なら驚いてしまうとわかったアタシは、説明を行った。

 

「ん~とねぇ、妖精さんに“空母が欲しいなぁ”ってお願いをして・・・。

 賄賂(?)を渡したら、機嫌よくやってくれたよ~。」

わかりやすく説明したつもりだけど、アタシもよくわかんなくなってきた。

どうしようもないので、ありのまま起こったことを説明することにした。

 

「資材を入れた後はねぇ、火炎放射?で炙ってたよ~。そしたらすぐに出てきたねぇ。」

誰もが言葉を失っていた。

アタシだって見ていなければ信じれなかったと思う。

しかし事実は事実なので、信じてもらうしかないのだ。

暫くして、彼が口を開いた。

 

「北上教官、一ついいでしょうか。」

静まりかえった部屋の中に彼の声が響く。

アタシもゆっくりと答えた。

 

「ん~?なぁに?」

頭上で妖精さんが動く気配がする。

しかしアタシから見えないので、気にしないことにした。

 

「その、連れてきた空母は何処に・・・?見たところ、教官しかいないようですが・・・。」

彼の言葉にアタシは後ろを振り返る。何処にもいない。

左右を見渡す。何処にもいない。

アタシは血の気が引いた。

 

「あ~・・・。空母が出来たことに嬉しくて・・・、工廠に置いてきちゃったみたい・・・てへ。」

誤魔化すように言ってみる。

・・・彼の肩が震えている。こりゃぁ、大目玉かな。と、ごちる。

 

「一人で心細い思いしてるんじゃないの!?早く連れてこーい!!!」

噴火した彼から逃げるように、アタシは一目散に駆け出した―。

 

 

工廠へ戻ったアタシは艦娘を探す。

すると彼女は待っていてくれたのか、先ほどと同じ場所に座っていた。

 

 

大和撫子を体現したような子だ、と思う。

遠目から見てもわかる、長く艶のある黒髪に白いリボンが映えている。

大きな茶色の瞳からは何か強い意志を感じた。

スタイルもよく、女のアタシから見ても綺麗な子だと思う。

そこでアタシは見惚れている場合じゃないと思い直して、急いで声をかけた。

 

「ごめーん!焦って置いて行っちゃったみたいでさ~・・・。ほんとごめんね?」

彼女は此方へ気付くと視線を向けてきた。

少し、ジト目でアタシを責めていることがわかる。

小さくため息をつきながら、彼女は口を開いた。

 

「生まれた瞬間に、誰かが走り去っていって本当に吃驚したわよ・・・。提督も居なかったし。

 言ってもしょうがないから、もういいけど心細かったんだからっ」

そりゃそうだよね、とアタシは反省した。

アタシが逆の立場でも、凄く心細いと思うし・・・。

 

「本当にごめんなさい。次からは気をつけます!」

アタシは敬礼しながら返事をした。

彼女は許してくれたのか、微笑みを浮かべてくれた。

 

「じゃあ、気を取り直して自己紹介ね。

 名前は出雲ま・・・じゃなかった。飛鷹です。航空母艦よ。よろしくね。」

何故、名前を言い直したのか気になったけど、聞かなかったことにする。

アタシも飛鷹へ手を差し出しながら自己紹介をした。

 

「アタシは重雷装巡洋艦の北上だよ~。よろしくね。」

告げると飛鷹が手を差し出してきたので、握手をする。

飛鷹の視線が少し上を向いたので、妖精さんを気にしていることはわかったけど

今は時間がないので、説明せずにそのまま手を引く。

 

「じゃあ、皆に紹介するから執務室へいこっか~。」

アタシはそのまま飛鷹の手を引いて執務室へ向かった。

 

 

 




戦闘シーン全くなし。

チートとはなんだったのか・・・。

次回は少し戦闘シーンをいれる予定です。



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