「――――あの館に、聖遺物が?」
「ああ」
ルナアタックが解決し、装者の謹慎も解除された頃。
特異災害対策機動部二課に所属するシンフォギア装者『雪音クリス』は、司令たる『風鳴弦十郎』にそう打ち明けていた。
「つっても、名前も、どこにあるんだかも分からねぇんだけどさ・・・・」
「分からないって・・・・」
「どういうことだ?」
同じく耳を傾けていた『立花響』と『風鳴翼』の疑問に、クリスはバツの悪そうにうなじをかいた。
クリスが語るには、ルナアタックの下手人である『フィーネ』の根城には、隠されている聖遺物があるらしい。
カ=ディンギルを中心とした計画に比べると、優先順位はやや低かったらしいが、フィーネは何か思い入れがあったらしく。
『ソロモンの杖』起動後は、度々その聖遺物の前で歌わされたということだった。
「『四年かけて見つけ出した』って言うとおり、結構厳重に隠しててさ。連れてく時なんか、目隠しした上でたっぷり寄り道した後でだったんだぜ」
「だから場所が分からないのか」
納得した様子の藤尭に、クリスはまた一つ頷いた。
「クリス君、その聖遺物の特徴はどうだったか、分かるか?」
思い出せる範囲で構わないと弦十郎が言うと、クリスはしばし考え込んで。
「・・・・棺桶っぽい、かな。あと、霜が所々についてて、部屋全体も妙に寒かったから、何か冷やしてたんだと思う」
「冷やす・・・・冷凍か冷蔵か・・・・氷に関係する聖遺物か?」
「あるいは熱に関係するものかもしれません、発火および発熱していたら効力を発揮する、とか」
考察にふける友里と藤尭を横目に、弦十郎もまたしばし考え込んだが、決断は早かった。
「・・・・そいつがソロモンの杖のように被害をもたらすものだった場合、放置するのは危険だろう。どちらにせよ、確かめる必要があるな」
提案に異を唱えるものは、いなかった。
閑話休題。
直ちに手続きと申請が行われ、フィーネの根城に赴いた一行。
未だ破壊の跡が残る地を見上げ、クリスの顔がやや陰っている。
思うところしかないだろうことは、容易に想像できた。
「――――時間だ、行こう」
「はい!」
「・・・・分かった」
そんな彼女を気遣うように、翼はあえて任務の遂行を促す。
シンフォギア装者を先頭に、二課の小隊が館へ突入する。
ターゲットの所在がつかめていないので、複数グループに分かれて行動する。
仕掛けられたトラップが生き残っていることを懸念し、慎重に進んでいく部隊。
「うん?」
と、ある廊下を進んでいた響は、壁に違和感を覚えて立ち止まった。
無人になってそこそこ時間が経っているからだろうか。
埃をかぶりつつある壁に、うっすらと段差があるのを発見した。
「んー・・・・あっ」
一旦首をかしげた響だったが、師匠たる弦十郎が見せた映画で似たシーンがあったことを思い出し。
耳をすませて、壁のあちこちを叩いてみる。
――――思ったとおり。
明らかに音が違う箇所があった。
思い切って強くド突いてみれば、派手な音を立ててずれる壁。
光が差し込む階段は、遥か下の暗闇へ続いていた。
即座に連絡を取り、他の隊と合流。
奥へと進んでいく。
最初は自信なさげだったクリスも、覚えのある空気に確信を持ち始めたようだ。
歩く速度は、誰よりも速かった。
やがて階段を降り切ると、肌をくすぐる地下特有の湿った空気。
そして一行の目の前には、白い無機質な『棺桶』が鎮座していた。
「これが?」
「ああ、間違いねぇ。こいつだ」
「お手柄だな、立花」
響が目を向ければ、しっかり頷くクリス。
翼の褒め言葉に響が笑う横で、クリスは恐る恐る『棺桶』に歩み寄る。
うっすら積もっている砂埃を拭えば、名称らしい一文が読み取れた。
「・・・・・
改めて触れてみれば、かすかに感じる振動。
どうやら装置はまだ生きているらしい。
下手に停止させるとどうなるか分からないので、外付けの電源を取り付けて運び出すことになった。
邪魔になるといけないので、装者達は警備がてら外で待機する。
「はぁー、外があったかーい・・・・」
「かなり冷えていたからな」
冷たく湿った空気から解放された三人は、思わず伸び。
微笑ましげな視線に少し照れくさそうにしながら、それとなく周囲を警戒する。
「・・・・クリスちゃんはさ」
その最中、響が徐に口を開いた。
「あの聖遺物が目覚めたら、どうする?」
「どうって・・・・」
唐突な質問に呆れた顔をしながらも、クリスは少し考えて。
「・・・・そいつが、ソロモンみたいな、命を奪いかねないもんだったら、ぶっ壊す。他の誰かが修理できないくらいに、完璧にな」
「うへぇ・・・・でもでも、いいものだったらどうするの?」
彼女らしい物騒な答えに怯んだ響だったが、切り替えて次の疑問をぶつけた。
するとクリスは、今度は長めに悩み始める。
翼も横目で見守る中、木々のざわめきが聞こえてくるくらいに黙り込んで。
「・・・・わかんね」
申し訳なさそうに、目を伏せた。
「そういうお前はどうすんだよ」
「んー、そうだなぁ。やっぱり分かり合いたいかなぁ、戦うことになっても、ちゃんと話し合いたい」
「だろうなぁ・・・・」
逆に響に問いかければ、返ってきたらしい答えにクリスは肩の力を抜いてしまった。
「さて、世間話もそこまでにしよう。今は任務中だ」
「はーい」
話が一段落したのを見計らい、翼が集中を促したときだった。
耳元の通信機が、アラートを咆える。
『現場付近に、ノイズ出現!!』
「ソロモンの杖は二課が持ってる、ってことは、マジもんの自然発生か!?」
『タイミング悪ぃ』とはき捨てて、即座に臨戦体制。
オペレーターが示すポイントへ、烈風の如く駆けつければ。
すっかり見慣れた色とりどりな群れが、所狭しとならんでいる。
「やああああああッ!」
「せいっ、はっ、ぇいやっ!!!」
「吹き飛べぇッ!!」
今回は背後に二課の仲間たちがいることもあいまって、三人の勢いは血気迫るものがあった。
打ち砕き、切り捨て、片っ端から射抜く。
シンフォギアの前ではもろいも同然なノイズ達だが、いかんせん数だけは立派だ。
――――しかし。
「なっ・・・・!?」
新たに現れた大型達に、言葉を失ってしまった。
慌てて我に返った装者達を嘲笑うように、次々小型が追加されていく。
一気に膨れ上がった数は、装者達のキャパシティを容易く飛び越えてしまい。
「しまった!!」
その結果として、数体、また数体と、防衛ラインを突破された。
「まだ二課の人たちがいるのに!」
「ッ立花、いけ!!室内なら、無手のお前が適役だ!!」
「分かりましたッ!!」
翼に促された響は、一度強い攻撃を放って、ある程度薙ぎ払い。
マフラーを翻して、とんぼ返りする。
「――――急げ!ノイズが来るぞ!」
一方の二課エージェント達。
ノイズとの接触を避けるため、また、装者の妨げにならないために。
反対側からの脱出を試みていた。
運び台に乗せた『棺桶』を数人がかりで押し、駆け足で急ぐ。
「来たぞォッ!」
「くッ!」
「うわぁッ!?」
しかし、壁や障害物をものともしないノイズ達は、無情にも追いついてきた。
全員が紙一重で突撃を回避したものの、複数人の体重がかかった所為で傾く『棺桶』。
瞬く間に放り出され、重々しく転がった。
エージェント達が気が付けば、前も後ろもノイズに囲まれている。
万事休すかと、絶望しながらも腹を決めた。
その時だった。
「わっ!?」
ぶしゅん、と、音。
弾かれるように見れば、明らかに開いている『棺桶』の蓋。
傾いたその隙間から、女性のものと思われる腕がはみ出ていた。
押し寄せる状況に、さすがの彼らも混乱で硬直する中。
指先が、ぴくりと動いたのが見える。
次の瞬間、落ちる蓋と一緒になだれ込むようにして。
予想通りの女性が、全裸で床に転がった。
「―――――ぅう」
雪の様に白い髪を携えた彼女は、頭を打った痛みか、か細く唸り声。
間もなく起き上がり、焦点の合わない目で前を見る。
「ッ危ない!」
獲物が増えたことを喜ぶように、無情に突撃してくるノイズ達。
エージェントの一人が、彼女を庇うべく飛び出して。
「――――I am the bone of my sword.」
近づいた彼の耳、呟くような言葉が聞こえたと思ったら。
その次の瞬間には、花が開いていた。
「――――へっ?」
突如現れた花弁は、エージェント達を包むように展開。
突進するノイズを、尽く退けていく。
「――――
呆然とする傍らで、彼女の行動は終わらない。
寝言のようなはっきりしない発音で、また何か唱えれば。
一糸纏わぬ体が、肩を出した黒いライトアーマーに包まれる。
「――――
続け様に手を掲げると、頭上に展開・固定される。
様々な種類の刀剣達。
その切っ先は、まるで整列するように整った。
「
剣を生み出した主が、目もくれないまま確認した、刹那。
「
まるで猟犬のように解き放たれ、周囲のノイズを次々狙い撃っていく。
まるでそれが当たり前のように、瞬く間に刃に裂かれるノイズ達。
あたりには、真っ黒な炭の粉が充満していった。
「す、げぇ・・・・」
突如始まった蹂躙を目の当たりにして、それしか感想が浮かばないエージェント。
呆然と、だが確かに感心しながら。
まだ注意深く周囲を探る、朝焼けの瞳を見た。
「皆さん!!大丈夫ですか!?」
そこへ、響が駆けつけた。
よっぽど急いでいたのか、完全に息が上がっている彼女は。
一人も減っていないエージェント達に、目に見えてほっとした笑顔を浮かべる。
「って、その人は?」
「ああ、実は――――」
そして、見覚えの無い女性に疑問を抱いた響へ。
一番近くにいたエージェントが説明しようとして。
一層の揺れ。
振ってきた瓦礫を避けつつ見上げれば、鬼のような大型が見下ろしてきている。
「ッ下がってくだ――――」
響が前に飛び出すと同時に、やはり女性は行動を起こす。
「――――
「こし?え、えっ?」
耳慣れない言葉に不意を突かれた響の目の前。
一見ドリルのように見える剣が、弓につがえられて。
「――――
唖然とする響の前で、
「うひゃっ!?」
続く轟音に響が顔を跳ね上げれば、肩から上を抉られて、煙を昇らせる大型ノイズが。
残っている体も、まさに崩壊している最中だった。
威力に『ひぇ』と短く悲鳴を上げる横、がらん、と何かが落ちる音。
響がそちらに目を戻せば、女性が持っていた弓が床に転がり、煌く粒子となって消えていくところだった。
続くように、女性もまた静かに意識を手放す。
「お、っと!」
咄嗟に響が抱きとめたため、地面への強打はなんとか免れた。
各々ほっとしながら、改めて女性を観察してみる。
『棺桶』で眠っていたためか、どこか不健康な肌色。
翼より少し年上に見える顔立ちは、東洋人のものではない。
日の光を受け、きらきらと煌く髪はまるで絹糸のよう。
この状態だけを見せて、『ノイズを殲滅した』と伝えても。
きっと誰にも信じてもらえないだろう。
「・・・・皆さんを、守ってくれたんですよね?」
「ああ、そこから出てきたんだけど・・・・彼女のお陰で、何とか助かったよ」
もぬけの殻の『棺桶』を指差して、エージェントは頷いた。
響はもう一度、腕の中の女性を見下ろす。
「味方って、思っていいんですよね?」
「・・・・そうなれたら、いいと思っている」
信じたい子どもの問いと、疑わなければいけない大人の返事。
そんな彼らの胸中など露知らず、女性は静かに寝息を立てていた。
女性(仮)
『棺桶』の中でコールドスリープしてた謎の女性。
真っ白な髪に、朝焼けのようなきれいなオレンジ色の目をしている。
見る人が見れば、面影がほんのり誰かに似ていて・・・・?