時は過ぎ、恒例の〈特別実習〉の日になった早朝…レイはいつも通り早起きして身支度を整えていた
レイ「荷物良し。武器良し。後は…」
ミリアム「レーーイ!!」
レイが確認作業を行っていると扉が勢いよく開いてミリアムが入ってきた
ミリアム「あれ?いない?」
しかし、先程まで部屋にいたはずのレイがどこにもいなかった
レイ「こっちだ」
ミリアム「ん?」
―ガシッ!ギリギリッ!
ミリアム「痛い!痛い!」
背後から聞こえた声に振り返るとレイがミリアムの頭を掴んで手に力を込める。どうやらミリアムが来る事を予期して扉が開いた瞬間、彼女の背後に移動したようだ
レイ「やっぱり予想通りだったか」
ミリアム「なっ、何で分かったのさ~!?」
レイ「前にも同じ事をされたからな」
そしてレイはミリアムの頭を離した
ミリアム「あぁ~、痛かった~。もう~レイ、僕の頭が割れたらどうすんのさ~!?」
レイ「ちゃんと加減してるから安心しろ。俺は用意が出来たから、下で待ってるぞ」
そう言ってレイは荷物と武器を持ち、一階に降りていった
―数時間後
レイ「まさかリィンまでミリアムの餌食になるとはな」
ラウラ「フフ、朝から散々な目に遭ったようだな」
リィン「ああ…おかげでバッチリ目が覚めたけど」
ガイウス「実習がよっぽど楽しみで仕方なかったようだ」
ラウラ「で、その後ミリアムはどこへ?」
エマ「そういえばユーシスさんが遅いですね…」
ミリアム「おっ待たせー!」
ミリアムの声がしてそちらを見るとしっかりと服を着こなせておらず、なおかつウキウキのミリアムとは正反対のゲッソリしたユーシスがミリアムに引っ張られて降りてきた
リィン「ユ、ユーシス…!?」
レイ「やっぱりユーシスも餌食になったか」
ユーシス「誰かこのガキを何とかしてくれ……」
レイ以外「……(汗)」
レイ「それじゃⅦ組A班も全員揃ったし、駅に向かうか」
レイの号令でA班が駅内に入るとB班は既に列車を待っていた。そして列車を待っている間、話は3日前の実技テスト後の話になる
アリサ「それにしても2日後に合流する実習なんて初めてね」
マキアス「そうだな。ナイトハルト教官も一緒とは…」
―3日前
ナイトハルト『合流地点は帝国東部――〈ガレリア要塞〉だ。〈ガレリア要塞〉では自分も実習教官として合流する。――諸君には各々の場所での実習の後、そのまま列車で合流してもらう』
サラ『ちなみにレイは〈ガレリア要塞〉には行かないから』
リィン『え?何故ですか?』
サラ『レイはクロスベルで行われる〈通商会議〉でトワの護衛をしなくちゃいけないんだって』
サラの言葉にミリアム以外が驚きながらレイの方を見る
フィー『レイ、サボりたいから嘘言ったの?』
レイ『言うか!!歴とした仕事だ!!バルフレイム宮でオズボーン閣下に呼ばれただろ?あの時に言われたんだよ』
ラウラ『なるほど。確かに有能な生徒会長といえども知り合いが1人もいない状態で見知らぬ地に行くのは心細い。だからオズボーン宰相はそなたに白羽の矢を立てたと、そういう事だな?』
レイ『その通り。そもそも〈ガレリア要塞〉は鉄道憲兵隊に入った時に姉さんと見に行ったから、もう一度行く必要も無いしな』
マキアス「しかし本当にレイ1人で大丈夫なのか?」
クロウ「大丈夫だろう。なんせ帝国最精鋭と言われる鉄道憲兵隊の大尉だからな」
レイ「お前は帝国一のダメな見本だろうがな」
クロウ「いい加減俺をディスるのやめろ!」
そんな話をしているとB班が向かう〈ジュライ特区〉へ向かう為の列車が到着し、それに乗り込んだ
レイ「さて、俺達の方ももう少しで列車が来るぞ。準備をして――」
?「おっ、ちょうど行くところみたいだな」
ミリアム「あれれ、レクター!」
レイ「何でお前がここにいる?」
レクター「明後日から俺もクロスベル入りすっからなぁ。今生の別れになるかもしれないし、こうして挨拶に来てやったのだ」
ラウラ「何者だ?」
ガイウス「帝国軍情報局の…」
リィン「レクター・アランドール大尉…!」
レクター「おお、ノルド高原以来だな。こいつ、怪しさてんこ盛りだろうが精々普通に付き合ってやってくれ。迷惑かけたら遠慮なくお尻ペンペンとかしていいぜ」
ミリアム「ムゥー。僕、いい子だもん!」
レイ「いい子は人の部屋にいきなり入ったりしないだろうが」
そう言ってレイはまたミリアムの頭を掴んで手に力を込める
ミリアム「痛い!痛い!」
その時、A班が乗る列車が到着し、レイはミリアムの頭を離した
リィン「大尉殿、すみません。俺達はこれで…」
レクター「おお、頑張れよ。それと俺の事は一応“書記官”って呼んでくれや。帝国政府に所属する二等書記官でもあるんでな」
エマ「そ、そうでしたか」
ラウラ「それでは書記官殿、失礼する」
そしてⅦ組A班は列車に乗り、実習先でありラウラの故郷でもある霧と伝説の街〈レグラム〉へと向かった
―列車内にて
レイ「……」
ミリアム「レイ、どうしたの~?目を閉じてずっと黙っちゃってさ~?」
レイ「いや、何でもない」
エマ「気分が悪いなら私が持ってきたお薬を飲みますか?」
レイ「いや、本当に大丈夫だ。〈特別実習〉が終わった後のクロスベル入りについて考えていただけだ」
ラウラ「そうか。だが本当に気分が悪くなったら言うのだぞ」
レイ「了解した」
そしてレイは再び目を閉じるが、実は彼はクロスベル入りの事を考えているわけではなかった
レイ『話を中断させて悪いな邪神竜』
邪神竜『気にするな。仲間が気にしてくれるというのはありがたい事だぞ』
レイ『そうだな。それより例の事だが、どこまで出来た?』
邪神竜『うむ。90%と言ったところか。レグラムに到着するまでには完全になっているだろう』
レイ『悪いな。面倒事を頼んで』
邪神竜『構わん。我もお前と同じ事を思っていたからな』
その時、レイの肩をユーシスが揺する
レイ「ん?どうしたユーシス?」
ユーシス「もう少しで到着するそうだ。忘れ物がないよう、荷物を持っておけ」
レイ「分かった」
そして数分後、Ⅶ組A班はラウラの故郷、レグラムに到着した
ミリアム「ウワァ~!」
ガイウス「噂に違わぬ光景だな…」
リィン「これが霧と伝説の街…」
レイ「俺好みの雰囲気だな」
ラウラ「フフ、気に入ってくれたようで何よりだ。生憎霧が出ているので見張らしはよくないが…晴れていると湖面が鏡のように輝いて見える事もある」
?「――お嬢様、お帰りなさいませ。トールズ士官学院Ⅶ組の皆様、ようこそ〈レグラム〉へ」
ラウラ「爺!出迎えご苦労」
背後からの声に振り返るとアルゼイド家の執事を務め、なおかつ〈アルゼイド流〉の師範代でもあるクラウスがいた
レイ「確か…アルゼイド流の師範代をされているクラウスさんでしたか」
クラウス「おや、私の事をご存じとは…。どこかでお会いしましたかな?」
レイ「いえ、お会いした事はありませんが、知っています。帝国における武の双璧ですから」
クラウス「そういう事でしたか」
リィン「レイ、今…師範代って」
レイ「ああ、こちらにいるクラウスさんは間違いなく〈アルゼイド流〉の師範代だ」
ミリアム「あ、ラウラのおとーさんが教えてるっていう?」
ラウラ「ああ。帝国伝統の騎士武術を伝える流派…〈ヴァンダール流〉と並んで帝国における武の双璧だ」
エマ「レグラムの領主にして〈アルゼイド流〉の宗家…」
ミリアム「〈光の剣匠〉だっけ、もの凄く強いんでしょ?」
ラウラ「ああ。娘の私が言うのもなんだが、軽く人の域を超えている。少なくとも帝国においては3本の指に入るのは確実だろう」
そして一行はクラウスに連れられてレグラムの街並みを見ながらラウラの実家に向かう
レイ「しかし、伝統的な雰囲気のある街並みだな。この石碑も精霊信仰の影響が強く残っているみたいだし…」
ミリアム「ねぇねぇユーシス!あれ何~?」
ミリアムが指さす先には3体の像があった
ユーシス「あれは…〈槍の聖女〉の像か」
ラウラ「うむ。それと〈鉄騎隊〉の面々だな。確か100年ほど前のものだったか」
クラウス「ちなみに左下に控えているのが子爵家の祖先にあたりますな」
リィン「へぇー、ラウラのご先祖さまかー」
ラウラ「〈槍の聖女〉リアンヌはこの地の出身ではあったが…人間離れした美貌と強さから“妖精の取り替え子”と囁かれた事もあるらしい」
ユーシス「ほう、面白いな。実際、獅子戦役の終結後、彼女が謎の死を遂げたせいでサンドロッド伯爵家は断絶した。そんな逸話があったとしても不思議ではないかもしれん」
レイ「妖精の取り替え子か…」
ラウラ「そして霧に霞んでいるが…あれが〈槍の聖女〉が本拠地にしていたという古城〈ローエングリン城〉だ」
エマ「わぁ、幻想的ですね…!」
ユーシス「湖のほとりにそびえ立つ〈聖女の城〉か…」
ガイウス「これは絵心をくすぐられるな」
ラウラ「さて、そろそろ実習に取りかからなくてはな。我が家に荷物を置いたら早速始めよう」
レイ「実習課題はクラウスさんがお持ちなんですか?」
クラウス「それなのですが…今回の課題については“プロフェッショナル”の方にまとめていただく事になりまして…」
そして一行はレグラムの北の街道へと出てきた。クラウスが言うにはその“プロフェッショナル”の人物には街道に出れば会えるとの事だった
エマ「どなたなんでしょうね?」
その時、草むらからガサッと音がなり機械で出来た魔獣が現れ、A班はすかさず迎撃に移る
―数分後
リィン「た…倒した…のか?」
ラウラ「“壊した”と言った方が正しい気がするな」
ユーシス「お前達なら何か知ってるんじゃないのか?」
そう言ってユーシスはミリアムとレイの方を見る
ミリアム「ガーちゃんは関係ないと思うよ?その子は金属でできてるみたいだし」
レイ「機械関係は必要最低限しか会得してないからよく分からん」
?「いや~、助かったぜ。そいつにはちょいと手こずってたんでね」
A班が機械の魔獣を倒した直後、森から1人の青年が現れた
ラウラ「トヴァル殿!」
トヴァル「お久しぶりだラウラお嬢さん。サラの所で励んでるみたいだな?」
エマ「あ!貴方は…!」
リィン「バリアハートで…!」
青年を見たリィンとレイとエマはバリアハートで彼を見た事を思い出す
トヴァル「帝国遊撃士協会所属トヴァル・ランドナーだ。よろしく頼むぜ〈Ⅶ組〉の諸君」
レイと邪神竜が何をしているかは後々分かりますのでm(__)m