〈10月1日・14:30温泉郷ユミル〉
ユミルはノルティア州北部、アイゼンガルド連邦の麓に存在する山間部の集落であり、冷涼な気候から冬場は雪に閉ざされる事が多いらしい
そんな場所にある為、ここに向かうには途中からケーブルカーに乗る必要があった
エリゼ「皆様、お待ちしておりました」
ユミル駅から出ると入口ではリィンの妹のエリゼ・シュバルツァー嬢が待機しており、自分達を見つけるなり慣れた動きで一礼する(ちなみに服は当然ながら私服です)
ラウラ「確かリィンの妹だったか」
アリサ「久しぶりね」
エリゼ「はい。その節はお世話になりました」
Ⅶ組のメンバーは一度会った事があるので軽く言葉を交わすが、後ろにいたアンゼリカが突然前に出てエリゼ嬢の手を掴んだ
アンゼリカ「話には聞いていたが確かに美しい。良ければ私と温泉に入らないかい?その後は一緒にベッドへ…」
エリゼ「え、ええっと…(汗)」
予想通りアンゼリカの口説きが始まり、エリゼ嬢は困惑している。彼女を知っている者からしたら見慣れた光景なので全員、苦笑いか呆れ顔を浮かべているがこのままにしていると話が進まないので強引に引き剥がす
レイ「止めんか。エリゼ嬢が困ってるだろう」
アンゼリカ「む?もしかしてレイ君もエリゼ君を狙って…」
レイ「ないから」
ジョルジュ「アン、少しは自重しなよ」
リィン「ははっ…(汗)エリゼ、案内を頼む」
エリゼ「あっ、はい。それではこちらへ」
エリゼ嬢を先頭にユミルを歩いていく。多少の田舎っぽさはあるが、それだけに落ち着いた雰囲気の場所だった
レイ(前回は都会であるルーレだったからこの落ち着いた雰囲気は新鮮だな)
―凰翼館
少し歩くとユミルでは目立つ、一際大きな建物に案内された。玄関の扉を開けると左手には2階へ続く階段があり、右手には『男』『女』と書かれた暖簾が掲げられていた
エリゼ「皆様にはこの凰翼館に泊まっていただきます。かつて皇帝陛下から恩賜され、今でも多くの貴族の方が保養に訪れている施設です」
マキアス「こ、皇帝陛下!?」
ユーシス「シュバルツァー家と交流があるとは聞いていたが…」
エマ「そんな場所に泊めてもらって良いんでしょうか…」
レイ「まぁ、そんなに緊張しなくても良いんじゃないか?別に皇帝陛下から恩賜されたとはいえ、敷居が高いわけじゃないし」
サラ「そうね。それに景色が良いからお酒が進みそうだしね」
レイ(やはり呑むのか)
アンゼリカ「付き合いますよサラ教官」
トワ「アンちゃん、未成年の飲酒は駄目でしょ!」
アンゼリカ「固いこと言わずに、トワも一緒に飲もうではないか」
トワ「ええっ!?ど、どうしようかな…」
クロウ「いや、そこは断るとこじゃね?」
レイ「帝都でギャンブル紛いの事をしていたあんたに言われても説得力0だぜ」
レイの言葉にクロウ以外の全員がウンウンと頷く
エリゼ「あはは…(汗)お部屋は2階にⅦ組の男性と女性で分けてありますので。2年生の皆様とサラ教官、レイ大尉にはそれぞれ個室を用意させていただきましたので」
フィー「ありがとう」
アリサ「それじゃ、早速荷物を置いてきましょうか」
リィン・レイ「ちょっと待ってくれ」
エリゼ嬢を先頭に各自が2階へ上がろうとした時、俺とリィンが同時に呼び止めた
ガイウス「どうしたんだ?」
リィン「荷物を置いたらⅦ組はまたロビーに集合してほしいんだ」
レイ「もしかして学院祭のか?」
リィン「ああ。話しておこうと思って」
ミリアム「分かった!すぐに置いてくるねー!」
ガイウス「それでレイは?」
レイ「俺はエリゼ嬢に聞きたい事がある。例の学院祭でやるやつの割り振りは事前にリィンに見せてもらって知ってるから、俺抜きでやってくれ」
フィー「ja」
そしてそれぞれが荷物を部屋に置き、一階のロビーにあるテーブルへ集まっている頃、レイとエリゼは凰翼館の食堂にいた
―凰翼館・食堂
エリゼ「それでレイ大尉、私に聞きたい事とは?」
レイ「単刀直入に聞こう。またあいつの指示か?」
エリゼ「えっ?えっと…何の事ですか?」
レイ「部屋の分け方だ。サラ教官と2年生が個室なのは分かる。だがⅦ組は男性と女性に分けられているのに、同じⅦ組である俺は個室。どう考えてもおかしいだろ?」
エリゼ「あっ、それは~…」
レイ「どうせ裏であいつが絡んでるんだろ?」
エリゼ「ううっ…」
レイの取り調べに目が泳ぎ始めるエリゼ。その時…
マキアス・ユーシス『ちょっと待ったあぁぁぁぁっ!!』
ロビーの方からマキアスとユーシスの叫び声が響いてきた
エリゼ「っ!?なっ、何かあったんでしょうか!?」
レイ「ああ。学院祭で歌を歌う事になっていましてね。男子の方のボーカルはマキアスとユーシスの2人組ボーカルなんですよ。あの2人、初めて会った時はそれは険悪で今はそれほどでも無いんですが、たまに漫才みたいなやり取りはしてますね。」
エリゼ「はぁ…?」
レイ「それより話の続きです。俺を個室にしたのはあいつの指示なんでしょ?」
笑顔で聞いてくるレイだが、目が笑っていないので恐怖を感じたエリゼは遂に折れた
エリゼ「…はい。あの子の言う通りにしました」
レイ「ちなみにあいつは今どこに?」
エリゼ「わ、私の実家であるシュバルツァー男爵家で寛いでもらってます…」
レイ「ありがとうございますエリゼ嬢」
そう言ってレイは凰翼館を出てシュバルツァー男爵家へと向かった