ミルディーヌと別れたレイはリィン、アリサと共に旧校舎へと来て〈Ⅶ組〉全員で明日のコンサートに備えて機材のチェックを行っていたのだが……
レイ「ん?おいエリオット、キーボードとリュートの調子がおかしいぞ。」
エリオット「えっ?ちょっと見せて。」
そう言ってエリオットは最初にキーボードの鍵盤を順番に押していき、次にリュートを弾いてみる。
エリオット「ホントだ。一部の音が出にくくなってるね。」
クロウ「ヤベェな。両方とも今回のコンサートの要だぞ。」
ガイウス「他の楽器は大丈夫なのか?」
エリオット「他のは特に異常は無かったよ。」
マキアス「という事は、この2つは使い過ぎたという事か。」
マキアスの言う通り、昨日のリハーサルで何時間もぶっ通しで使い続けたのでどこかに異常を来しても不思議はない。
ラウラ「しかし、どうするのだ?このままでは……」
エリオット「そうだね。このままだと考えていた物が出来なくなっちゃう。」
アリサ「何とかしなくちゃ……」
ユーシス「簡単な事だろう。新調すればいいではないか。」
ユーシスの言葉に皆が頷く。確かに修理に出しても間に合うかどうか分からない。かといって壊れたままで使用するわけにもいかない。ならば新調するしかない!
エリオット「だったら、帝都の導力楽器店なら今から行けば間に合うと思うよ。」
レイ「なら俺が行こう。導力バイクもあるし、帝都の楽器店は俺もよく知ってるからな。」
エマ「よく知ってる店って…。レイさん、普段から楽器を弾いてましたっけ?」
レイ「いや、弾いてない。だがその店の事はこのメンバーの誰よりもよく知っている。」
レイの言葉に一同はどういう事だ?という顔つきになるがクロウが手をパンパンと鳴らして一言
クロウ「よっしゃ!そこまで言うならお前に任せた。導力バイクがあんなら、そんなに時間はかからねぇしな。」
リィン「それじゃレイ、すまないが頼む。」
レイ「ああ、任せろ。」
そしてレイは第3学生寮の前に停車させている導力バイクに跨がり、エンジンをスタートさせて帝都へと向かった。
―帝都ヘイムダル
レイ「到着っと。さて……」
帝都ヘイムダルにある楽器店―〈リーヴェルト社〉に到着したレイは何とも言えない表情で店を見る。
レイ(姉さんの両親が建てた会社か。また来る事になるとはな。)
物思いに耽っていたレイだが、意を決して店内に入る
店員「いらっしゃいませ~…あっ、レイ様!」
店長「おおっ!レイ様、お久しぶりでございます!」
レイ「皆、久しぶり。というか『様』付けはやめてくれって言ってるだろ?俺はリーヴェルトの血を引いていないんだから。」
店長「いえいえ、そんな事はありませんよ。確かに最初は何故こんな素性も分からない者を、と思いましたが貴方とふれ合う内にお嬢様と同じ優しさを感じました。」
店員2「もし、〈リーヴェルト社〉の次の社長を決める事になったら私達は迷わずお嬢様かレイ様を選びます!」
店長と店員達の言葉に苦笑いするレイだが、自分がここに来た目的を思い出して店長に訪ねる
レイ「ところで店長。実は自分は明日〈トールズ士官学院〉の学院祭でコンサートをするんだが、それに使うキーボードとリュートが壊れてしまってな。高価な物じゃないキーボードとリュートってあるか?」
店長「分かりました。少々お待ち下さい。」
そう言って店長は奥に引っ込む
―数分後
店長「お待たせしましたレイ様。こちらなど、どうでしょうか?」
店長が持ってきたキーボードとリュートは一般的に販売されている物より少しだけグレードの高い物だった。
レイ「これがこの店で一番グレードの低いやつか?」
店長「はい。一般的に販売されている物と合わせての演奏でも違和感なく使えます。」
レイ「これなら大丈夫か。値段は?」
店長「いやいや!!レイ様からお金を頂くなんて……」
レイ「今の俺はトールズ士官学院の一学生だ。金を払うのは当然だ。」
店長「レイ様がそう言われるなら……。2つ合わせて5000ミラになります。」
店員「レイ様割引で半額ですよ~♪」
レイ「そういうのは止めろと言ってるのに……。まぁ、今さら言っても無駄か。」
そしてレイは代金5000ミラを払い、店から出てキーボードとリュートをサイドカーに乗せて自分も導力バイクに跨がり、走り出そうとした時……
「貴方がここに来るなんて珍しいわね。」
レイ「……。姉さんこそあの一件以来、ここに来てないって話してたのにどういう風の吹き回し?」
背後を振り返ると私服を着たレイの義理の姉、クレア・リーヴェルトがいた
クレア「たまたまよ。この先の喫茶店で夕食を食べようと思ってね。」
レイ「……。」
クレア「良かったら貴方もどう?奢ってあげるわよ?」
レイ「それじゃ、お言葉に甘えて。」
レイはバイクから降りて喫茶店まで押していき、クレアと共に喫茶店に入る。
レイ「それで?あそこにいた本当の理由は?」
クレア「……やっぱりレイには隠し事は出来ないわね。私があそこにいた本当の理由は、皆がどうしてるか気になってしまって……」
レイ「当時やった事、まだ気にしてるんだ?」
クレア「当然よ。私のせいで……」
クレアが何か言い出そうとした時、レイの指がクレアの唇に当てられた
レイ「それ以上は言わない約束じゃなかったっけ?当時、姉さんがやった事は正しかった。確かに代償は大きかったけどもし、姉さんが動かなかったらそれ以上の代償を支払う事になっていたはずだ。〈リーヴェルト社〉の信頼がガタ落ち……いや、もしかしたら無くなっていたかもしれない。」
クレア「……。」
レイ「でも、だから皆に顔を見せたらなんて事は言わない。姉さんの心の整理がついたら連絡してくれ。」
それを聞いてクレアはクスッと笑う。
クレア「ありがとうレイ。その時が来たら一緒に行ってね。」
レイ「ああ。」
そして姉弟水入らずで食事を終えた後、レイは姉に見送られてトリスタへと導力バイクを走らせた。
ちょっと軽いシリアスっぽくしてました。(シリアスになってたかな?)
閃の軌跡をⅣまで書ききったら、今度はヒロインをクレアにして書きたいなぁと思い始めてるんですよね。