〈10月24日 6;00〉
レイ「セヤッ!ハアッ!」
早朝の東トリスタ街道ではレイが鉤爪〈カイザークロー〉を装着して訓練していた。
邪神竜「早朝の走り込みを終えてから休む間もなく筋力トレーニング、そして武器による訓練か。よく倒れないな?」
レイ「鉄道憲兵隊に入った頃は何度も倒れたが、2年もすると慣れてきたよ。今じゃ逆に、この訓練メニューをしないと体が不調になる。」
邪神竜「まぁ、ほどほどにな。」
リィン「精が出るなレイ。」
声をかけられて振り返るとそこには刀を片手に持ったリィンがいた。どうやら素振りをしていたようで彼の額にも汗が滲み出ている。
レイ「リィンも早朝からご苦労だな。」
邪神竜「あの後、しっかりと眠れたか?」
リィン「あぁ、いきなり色々ありすぎて実感が沸かなかったからよく眠れたよ。」
本人の言う通り、目の下にはクマは出来ておらず疲労しているような顔ではなかったのでレイも安心する。
レイ「それじゃ俺はもう少しだけ訓練してから戻るから、お前は先に帰ってろ。」
リィン「分かった。」
そしてリィンの姿が見えなくなると、近くの木に向かって一言。
レイ「もう出てきて良いぞセリーヌ。」
セリーヌ「フウ~、ようやく行ったか。」
上から声が聞こえたと思ったら、木の枝からセリーヌが降りてきた。
レイ「お前もリィンが心配だったのか?」
セリーヌ「昨日は深刻そうな顔をしていたって聞いたからね。でも、必要なかったみたいね。」
邪神竜「ふむ、いわゆる……ツンデレというやつだな?」
セリーヌ「ハアァァァァッ!?な、何言ってんのよ!!///そんなんじゃないわよ!!///」
と言いつつ顔を真っ赤にしたセリーヌは逃げ去っていった。
レイ・邪神竜「………。」
邪神竜「やはり彼女はツン―」
レイ「やめてやれ。」
邪神竜「分かった。」
その後、訓練を終えたレイは邪神竜を体に戻し、第3学生寮に戻ってきた。
レイ「おはよう皆。どうやら俺が最後のようだな。待たせてすまない。」
アリサ「フフッ、大丈夫よ。」
マキアス「さっき集まったばかりだからな。」
シャロン「皆様、朝食をお持ちしました。」
すると全員が揃うのを見計らったようにシャロンが朝食を運んできた。
フィー「相変わらずタイミング良いね。」
シャロン「恐れ入ります。今日は皆様の演奏会成功を祈って特別メニューにしました。」
確かに彼女の言う通り、今日の朝食はいつものより手が込んでいるのが分かる。
エリオット「確かに今日のはいつものより気合いが入ってるよね。」
シャロン「私の役目は皆様のサポートですから。」
リィン「ありがとうございますシャロンさん。」
クロウ「よしっ!それじゃあ食い終わったらすぐに学院に向かおうぜ。」
〈同日、10;00〉
―トールズ士官学院
昨日と同様に全員で正門を潜り、ステージが始まる1時間前まで自由行動となった。
レイ「さて、学院祭2日目か。どのように過ごすか?」
ミルディーヌ「お待たせしましたレイ兄様♥️」
レイ「ああ、ミルディーヌ。昨日は眠れたか?」
ミルディーヌ「はい、ぐっすりと。それで今日はどこへ?」
レイ「昨日行ったのは〈みっしぃパニック〉、〈東方茶屋・雅〉、それから屋台を回ったな。なら今日は馬術部がやっている〈マッハスタリオン〉、ブレードで遊ぶ〈ゲート・オブ・アヴァロン〉、それから星空が見れる〈ステラガルテン〉はどうだ?」
ミルディーヌ「良いですね♥️早く行きましょう!」
―1時間後
レイ「楽しかったかミルディーヌ?」
ミルディーヌ「はい、とても楽しかったです!馬に乗ったのも久しぶりでしたし、ブレードというゲームは女学院でも流行りそうですし。でも〈ステラガルテン〉は…」
レイ「ん?何かまずかったか?」
ミルディーヌ「いえ、凄く良かったです。学生が作ったとは思えない位に。でも…あんな雰囲気の中でレイ兄様と一緒にいたのにキスの1つも出来ないなんて……」
レイ「まぁ、俺も残念ではあるが学院内だからな。我慢してくれ。…っとそろそろ時間か。」
ミルディーヌ「どうしたんですか?」
レイ「実はオリヴァルト殿下とアルフィン殿下がこの学院祭に来るらしくてな。案内役を頼まれたんだ。」
ミルディーヌ「まぁ!それは急がないと…」
そして2人はオリヴァルトとアルフィンを迎えるべく、校門で待機していると1台の大型導力車が姿を現し、中から待ち人が降りてくる
オリヴァルト「やぁ、レイ君。今日はすまないね。」
アルフィン「お久しぶりですレイさん。」
レイ「ほんとに驚きましたよ。シャロンからもらった手紙に『学院祭2日目は僕とアルフィンも参加するから案内よろしくね♥️』なんて。」
オリヴァルト「ハッハッハッ!ドッキリ大成功だね!」
ドッキリが成功し、嬉しそうなオリヴァルトの笑顔を見て殴りたくなる衝動に駆られるレイだが…
クレア「貴方の気持ちはよく分かるわレイ。でも、ここは抑えて……(汗)」
クレアに腕を押さえられて殴ろうにも殴れなくなった。
アルフィン「ところでレイさん。エリゼが来ているかは分かりますか?」
レイ「ああ、それならさっき来てリィンと一緒に行動してますよ。」
アルフィン「なら良かったです。」
ミルディーヌ「ところで姫様、例の物は?」
アルフィン「もちろん、ちゃんと用意したわよミルディーヌ。」
そう言ってアルフィンが取り出したのは彼女の手より少し大きい導力カメラのようにレンズが付いている物だった。
レイ「アルフィン殿下?それってもしかして……」
アルフィン「あっ、やっぱりレイさんは知ってましたか。」
レイ「ええ。仕事柄使う事が多々あるので。」
ミルディーヌ「なら話は早いですね。実は姫様に頼んで最高級の導力カメラを調達してもらったんです。そしてこのカメラでレイ兄様の勇姿を撮るんですよ。」
レイ(抜け目無いなぁ~……(汗))
オリヴァルト「相変わらす仲が良いようだね。ところでレイ君、ステージの方はどうなんだい?」
レイ「ええ。鬼教官とこういう時にしか力を発揮しない裏方のおかげで良い感じに仕上がったので楽しんでもらえるステージになりますよ。」
オリヴァルト「それは楽しみだね~。そうだ。なら飛び入りで――」
レイ「却下です。」
オリヴァルト「冗談だよ。さて、ステージまで時間も無いだろうし、早めに回ろうか。」
アルフィン「お願いしますねレイさん。」
レイ「分かりました。ミルディーヌ、また同じ所を回る事になるが一緒に来るか?」
ミルディーヌ「もちろんです。姫様とお喋りもしたいですし。」
レイ「そうか。じゃあ先ずはオススメのみっしぃパニックから行きましょう。」
〈同日、14;30〉
―講堂にて
Ⅰ組の古典劇が終わると、来場者達が立ち上がり賞賛の拍手を送る。
ラウラ「凄かったな……」
アリサ「えぇ、まさかあそこまで気合いが入っていたなんて……」
ステージ衣装に着替えて舞台の袖から見守っていたⅦ組は圧倒されていたが…
クロウ「だが、こっちだって負けてねぇぞ。」
ユーシス「やる事はやって後はベストを尽くすのみ。ただそれだけだ。」
リィン「泣いても笑っても1度きりだ。俺達も気合いを入れていこう。」
誰も臆してはいなかった。何故なら絶対に上手くいくという自信があり、そう思えるだけの練習をしてきたからだ。
その時、舞台袖にある扉からノックの音が聞こえてきた。
レイ「どうぞ。」
?「ふふ、失礼するよ。」
レイが返事を返すとトワとジョルジュが入ってきて、そして――
アリサ「ア、アンゼリカさん!?」
リィン「来てくれたんですか!?」
アンゼリカ「小旅行の時に言っただろう、顔を出すとね。」
そう言いながらウィンクするアンゼリカの姿はいつものスーツ姿ではなく、ドレスを着ていた。
レイ(俺がミルディーヌと男爵邸で話している時にそんな事を話していたのか。)
アンゼリカ「いやぁ~、しかし来て良かった。ずっと父のむさ苦しい顔ばかり見ていたからね。」
するとアンゼリカはアリサに抱きつく。
アンゼリカ「あぁ……このままずっと抱きしめていたいぐらいだ……。さて、お次は……こちらだ!」
そう言って今度はフィーとミリアムに抱きつく。
フィー「不覚……。」
ミリアム「アハハ、くすぐったいよ~。」
アンゼリカ「うんうん、満足満足。」
トワ「あはは……(汗)それじゃ皆頑張ってね。」
そして3人は帰っていき、再び静寂が訪れた所で全員が輪になる。
リィン「Ⅶ組総員、ベストを尽くすぞ!!」
皆「おおっ!!!」
Ⅰ組の発表が終わって講堂内が静まり返りると、Ⅶ組は暗いステージ上で注意しながらそれぞれの持ち場へとつく。
邪神竜(レイ、緊張はしてないか?)
レイ(あぁ、不思議と緊張はないな。多分、練習を繰り返し行った事による自信だろうな。)
邪神竜(そうか。ならば我も客席でお前達の演奏を楽しむとしよう。)
そう言って邪神竜は透明のままで客席にむかっていった。それと同時にブザーが鳴り、目の前の幕が上がっていくと歓声が上がる。
レイ(ミルディーヌ達は……最前列か。しかも、しっかりビデオカメラ構えて今か今かと待ってるし……(苦笑))
トワ「それではこれより士官学院1年、Ⅶ組のステージを始めます。」