〈同日、17;30〉
―Ⅶ組の教室にて
窓の外からは徐々に帰っていく来場者の声が聞こえてくるが、Ⅶ組の教室は静寂が支配していた。
あの後、無事にステージを終えてⅦ組の教室に戻ってきたのだが誰も一言も言葉を発せずに背もたれに寄りかかったり、机に突っ伏したりと全員が脱力していた。
アリサ「ステージは……成功したのよね?」
フィー「多分、成功……」
クロウ「安心しろよ。ちゃんと盛り上がってたぜ。」
予定通り、2曲歌い終えるとクロウの読み通りにアンコールが起き、3曲目を歌った。全てノーミスでこなしたので完璧なステージと言ってもいい。
エマ「アンコールの3曲目もバッチリでしたね。」
ラウラ「有名な曲だから来場者も歌ってくれていたな。」
エリオット「その辺はクロウの作戦勝ちだよね。」
レイ「まさかお前の言う通り、アンコールが起きるとはな。」
ちなみに3曲目のアンコール曲は『I swear』。帝国民なら多くの人が知っている曲だ。
ミリアム「でも、ボクもう動けないよ……」
フィー「このまま寝ちゃいたい……」
サラ「ほらほら、あんた達シャキッとしなさい。」
全員が脱力し、ボーっとしているとサラが扉を開けて入ってきて、その後ろにはトワ会長、ジョルジュ、アンゼリカがいた。
トワ「えへへ、皆お疲れ様!」
ジョルジュ「素晴らしいステージだったよ。」
アンゼリカ「うんうん。無理言って見に来た甲斐があったよ。」
リィン「ありがとうございます…」
ユーシス「しかし、何故先輩方が?」
サラ「あんた達ねぇ……一般来場者による投票を忘れたの?」
それを聞いて全員が思い出し、ハッとした表情になる。どうやら余韻に浸っていて完全に忘れていたようだ。
トワ「なんとⅦ組の出し物が1位になりました!!皆、本当におめでとう!」
リィン「あ……。」
マキアス「そうでしたか……。」
クロウ「何だよお前ら、反応薄いじゃねーか。」
マキアス「いや、他の出し物も結構楽しめたしな。」
アリサ「そう思うと私達だけが誇るのも違う気がするのよね。」
エリオット「そもそも優劣を決めるものじゃないし。」
ガイウス「生徒全員で作り上げてこその士官学院祭だろう。」
レイ「そうだな。みっしぃパニック、東方茶屋、Ⅰ組の劇、その他の全ての出し物が良かったから士官学院祭は成功した。」
サラ「さて、それじゃいい加減復活しなさい。もう少しで後夜祭が始まるわよ。」
ガイウス「そういえばそれがあったか……。」
ユーシス「せっかくの打ち上げだ。参加しないわけにはいくまい。」
クロウ「うし、もうひと頑張りしますか。」
全員、何とか気力を振り絞って立ち上がって教室から出ていく。そしてグラウンドに来ると既に後夜祭の準備が始まっていた。
〈同日、18;00〉
―グラウンド
クロウ「おっ、丁度始まったところみたいだな。」
グラウンドに続く階段を降りていくと丁度キャンプファイヤーの火が点火され、その周囲には何人かの生徒が談笑したりしており、Ⅶ組の親族も何名かいた。
アリサ「お祖父様、母様……。」
マキアス「父さんも残っていたのか。」
ユーシス「兄上まで…まったく、物好きな人だ。」
アリサ、マキアス、ユーシスのように親族が来ている人はその人の元へ向かっていく。そしてレイはミルディーヌを探す為に周囲を見渡すと……
ミルディーヌ「レイ兄様、こっちです!」
アルフィンと一緒にいるミルディーヌが手を振っているのが見えたのでレイも手を振りながら彼女の元へと歩いていく。
ミルディーヌ「お疲れ様ですレイ兄様、とてもカッコよかったです!」
レイ「ありがとう。」
オリヴァルト「いやぁ~、まさかアンコール用の3曲目を用意しているとは思わなかったよ。選曲も良いし、最高のサプライズだったね。」
レイ「喜んでいただけたようで何よりです。まぁ、3曲目については最初は予定に無かった事なんで……。」
邪神竜(既存の曲とはいえ、半日もかからずに完成まで持っていったからな。)
レイ(とんでもなく大変だったが、喜んでもらえたのなら頑張った甲斐があったよ。)
オリヴァルト「おっと、始まったようだね。」
オリヴァルトの言葉に振り返るとキャンプファイヤーの炎の囲むように何人かの生徒がペアを作ってダンスを始めていた。
ミルディーヌ「フフ、素敵な光景ですね。」
オリヴァルト「ではアルフィン、我々も混ぜてもらうとしよう。」
アルフィン「はい。参りましょうかお兄様。」
そう言うとオリヴァルトとアルフィンは手を取り合って踊り出す。
オリヴァルト「さぁ、見ていないで諸君も参加したまえ!」
アルフィン「ふふっ、今日は無礼講ですから楽しみましょう。」
燃え上がる炎を背景に様々な人がペアを組み、手を取り合って踊り始める。グエンとシャロン、イリーナとカール、ヴィクターとサラ教官という冷静に見たら凄い組み合わせもいたが…。
Ⅶ組の何人かもそれぞれでペアを作って踊り始めた。その中にはリィンとアリサの姿があった。
レイ「さて、それじゃ俺達も踊るとするかミルディーヌ。」
ミルディーヌ「はい♥️」
そしてある程度、踊るとレイとミルディーヌはキャンプファイヤーから少し離れた場所に移動する。
レイ「飲むか?」
そう言ってジュースの缶を差し出してくるレイ。それを見たミルディーヌは…
ミルディーヌ「ありがとうございます。」
と言って缶のフタを開けてジュースを飲んで喉を潤す。
ミルディーヌ「どこの学院でもこういったお祭りは楽しいですね。」
レイ「そうだな。今までこういうのとは無縁だった俺でも楽しいと感じる。」
ミルディーヌ「なら今度は私の故郷で2人っきりで海で遊びませんか?」
レイ「ほう?それも楽しそうだな。ん?」
ミルディーヌ「どうしました?」
レイ「いや、あの辺が騒がしいと思ってな。」
レイが指さす先にはⅦ組の親族と義理の姉のクレア、オリヴァルトとアルフィンが集まって何やら話をしていた。
ミルディーヌ「表情を見るに談笑している雰囲気ではありませんね。何かあったんでしょうか?」
レイ「只事じゃないのは確かだろうがな。」
しばらく様子を見ていると話が終わったようで1人ずつ校門へと向かっていき、そのまま帰っていく。するとアルフィンがこちらに近寄ってきた。
アルフィン「ごめんなさいレイさん。お兄様と帰らないといけなくなってしまいました。」
レイ「何かあったのですか?」
アルフィン「それは後で学院長から説明があると思います。」
ミルディーヌ「では私も姫様の付き添いとして一緒に行きましょう。」
アルフィン「ごめんなさいミルディーヌ……。」
ミルディーヌ「お気になさらずに。」
そしてミルディーヌはアルフィン、エリゼと共に帰っていった。入れ替わるように学院長が現れ、側にはハインリッヒ教頭とサラ教官、そしてトワもいた。
ヴァンダイク「来場者の皆様、それに学生諸君。落ち着いて聞いて下さい。先ほど帝国政府より正式な通達がありました。」
レイ(何か嫌な予感がするな。)
邪神竜(うむ。今までの日常に大きなヒビが入るような予感が…。)
ヴァンダイク「本日夕刻、東部国境にあるガレリア要塞が壊滅―――いえ、原因不明の異変により消滅してしまったそうです。」
後、2話くらいで終わりますね。