〈同日、12;00〉
―帝都ヘイムダル・ドライケルス広場
オズボーン「帝都市民、並びに帝国の全国民の皆さんご機嫌よう。エレボニア帝国政府代表、ギリアス・オズボーンである。」
ドライケルス広場の真ん中に立っているギリアス・オズボーンの周囲には複数の戦車が待機しており、厳重な警備が敷かれていた。
そして広場には直接彼の声明を聞こうと詰めかけた人々で埋め尽くされており、その場にいる全員がこれから出される声明がいかに重要か理解していた。
オズボーン「諸君もここ数日の信じ難い凶報はご存知かと思う。帝国の属州であるクロスベルが独立などという愚にも付かない宣言を行い、あろうことか帝国が預けていた資産を凍結したのである!当然我々はそれを正す為に行動した。それは宗主国としての権利であり、義務ですらあると言えよう。しかし彼らは余りにも信じ難い暴挙に出た。帝国を守るガレリア要塞を謎の兵器を持って消滅せしめたのである!諸君、果たしてそのような悪意を許していいのか!?偉大なる帝国の誇りと栄光をきずつけさせたままでいいのか!?否――断じて否!!鉄と血を購ってでも正義は執行されなければならない!」
オズボーンの話が一区切りつくと広場にいた人々から怒号のような歓声が湧き上がる。
オズボーン「これは紛うことなき国難である!そして国難の前にあらゆる対立は乗り越えられるべきであろう。既に皇帝陛下からも心強いお言葉を頂いている。このギリアス・オズボーン、帝国政府を代表し、陛下の許しを得て今ここに宣言させていただこう!正規軍、領邦軍問わず帝国全ての力を結集し――」
その時、広場に銃撃音が響いた。そしてその直後、広場の中央に立って演説をしていたオズボーンは左胸から大量の血を流して倒れた。
「キャアァァァッ!!」
その場にいた誰かが叫び声を上げるとある者は広場から逃げ、ある者は呆然と立ち尽くす。
その様子をとあるマンションの屋上で冷静に眺める者がいた。帝国解放戦線リーダー〈C〉だった。
「……呆気ないもんだな。これで一区切り、後は最後の仕上げか――」
?「手を上げなさい!」
「ん?」
―ズガンッ!
背後からの声に振り返ると、頭部に導力銃から放たれた銃弾が直撃する。だが仮面によって守られた為にダメージは無く、代わりに仮面にヒビが入って剥がれ落ちた。
そして仮面の下から現れた素顔にクレアは特に動揺する事なく、導力銃を構える。
クレア「やはり貴方でしたか……旧ジュライ市国出身クロウ・アームブラスト!」
クロウ「やれやれ、出身は完璧に偽装出来たつもりだったんだが。」
クレア「特定出来たのは先ほどです。よくも――よくも閣下を!!」
クレアは導力銃をギュッと握り締めながら珍しく声を荒げる。
クロウ「ま、8年前にジュライが帝国に併合された時と同じさ。気を抜いた方が負け、これはそういうゲームだろ?」
クレア「とにかく腹這いになりなさい!……これだけの仕込み、必ずや背景を喋ってもらいます!」
クロウ「あぁ、それは無理だな。」
クレア「えっ……っ!?」
クロウが空を見るとクレアもつられて空を見上げる。するとそこには太陽を隠すほどの巨大な影、規格外の大きさの白銀の船――貴族連合の旗艦〈パンタグリュエル〉が降下してきた。
それを見た人々は呆然としていたが1人が恐怖で叫び声を上げると瞬く間に伝染していき、異常な事態に人々は逃げ惑う。
すると〈パンタグリュエル〉はそれを嘲笑うこのように更なる恐怖を投下した。人型の兵器が数体降り立ち、帝都を守護する第一機甲師団をあっという間に壊滅したのだ。
クレア「あ、あれは……」
クロウ「古の機体を元に、貴族連合に取り込まれたラインフォルト第五開発部が作り上げた現代の騎士……通称〈
クレアが〈
クレア「動かないで!」
クレアは導力銃を向けて制止する。
クロウ「悪いがそういうわけにもいかないんでね。帝都は〈西風〉に任せるとして、俺は俺でケジメをつけなきゃならないんでね。」
そう言ってクロウはマンションから飛び降りる。クレアは慌ててマンションの下を見るが、そこにいたのは翼を広げて飛翔している〈蒼の騎神オルディーネ〉だった
クロウ『じゃあな、
〈オルディーネ〉に乗ったクロウはそのまま何処かへと飛び去っていった。
1204年10月30日午後12時10分、エレボニア帝国政府代表ギリアス・オズボーンはクロウ・アームブラストの銃弾に倒れ、貴族連合による帝都制圧が開始された。
次で雷の軌跡は終わります。