―聖アストライア女学院
レイは細心の注意を払って、女学院に辿り着いた。なぜ彼がここにいるのかと言うと、話はレイが帝都に到着した頃に遡る。
―数十分前
レイ『よし、帝都に到着だ。……だが、あの白銀の船は?』
レイが貴族連合の旗艦〈パンタグリュエル〉を遠くから見ていると自身のARCUSに着信が入った。
レイ『こちらレイ・リーヴェルト。』
ミルディーヌ『レイ兄様、ミルディーヌです。』
レイ『ミルディーヌ!?無事か!?』
ミルディーヌ『ええ、大丈夫です。ですがやはり私達の予想通りになりましたね。オズボーン宰相は狙撃され、その後は白銀の船から人型兵器が投下され、第一機甲師団は壊滅。帝都は貴族連合に支配されつつあります。』
レイ『そうか……。とりあえずお前を迎えに行く。今、どこにいる?』
ミルディーヌ『聖アストライア女学院です。まだここまでは貴族連合も来ていませんので。』
レイ『分かった。すぐに行くから動くなよ?』
そしてレイはARCUSの通信を切り、聖アストライア女学院へと走っていった。
そして話は冒頭に戻り、レイは聖アストライア女学院の扉を開けて中に入る。
レイ「ミルディーヌ、いるか!?」
ミルディーヌ「レイ兄様!!」
レイの呼びかけに物影に隠れていたミルディーヌが姿を現す。
レイ「無事だったか!!アルフィンやエリゼ嬢は?」
ミルディーヌ「お2人はトヴァルさんという遊撃士の方と一緒に先に脱出しました。」
レイ「そうか、トヴァルさんが一緒なら安心だな。それじゃ、俺達も早く脱出しよう。」
その後、レイはミルディーヌと一緒に女学院から出て、周囲に〈
レイ「クソッ!俺が入ってきた出入口はもう封鎖されたのか!」
邪神竜「レイ、他の出られそうな場所を見てきたが全て封鎖されていたぞ。」
ミルディーヌ「八方塞がり…ですか。」
レイ「どうする?このままだといつか捕まるぞ?」
邪神竜「なら我の力を使え。我の力を宿しているお前なら苦もなく使えるはずだ。」
レイ「そうか。ここ最近は使う必要が無かったから忘れていたが……確かにあれなら帝都から脱出出来るな。ミルディーヌ、俺に掴まれ。絶対に離すなよ?」
ミルディーヌ「は、はい。」
そしてレイは意識を集中させる。すると彼の足下に魔方陣のような物が出現し、レイとミルディーヌそして邪神竜は光に包まれて消えた。
―ヒンメル霊園
先ほどと同じ魔方陣が出現し、光が収まるとレイとミルディーヌ、邪神竜が現れた。
ミルディーヌ「凄いですね。まさか、一瞬でここまで来るとは……。」
レイ「まぁ、かなり久しぶりだからここまでしか飛べなかったがな。」
邪神竜「〈
レイ「そんな事より早くここから離れよう。脱出したと言っても、帝都は目と鼻の先だ。貴族連合に見つかる可能性もまだある。」
ミルディーヌ「そうですね。」
そして3人はこの場から離れようとヒンメル霊園から出るが……
『見つけたぞ!』
無慈悲にも背後から来た2体の〈
『目標発見、これよりミルディーヌ様を保護する。』
レイ「チッ!もう見つかったか!」
ミルディーヌ「まずいですね…」
そして2機の〈
『その制服、Ⅶ組の者だな?』
レイ「だったら何だ?」
『貴様らⅦ組は拘束するように仰せつかっている。大人しくミルディーヌ様と共に来てもらおうか。』
レイ「……。」
ミルディーヌ「どうやらこの兵は叔父直属の者らしいですね。内戦で私に動かれては面倒と思い、保護という名の拘束を行うつもりなのでしょう。」
レイ「そうか。なら、ミルディーヌはここを動くなよ。」
ミルディーヌ「レイ兄様……。お気をつけて。」
レイ「フウゥゥゥッ。邪竜吼!!」
『抗うか、愚か者め。』
邪竜吼を発動したレイはカイザークローを装備し、目の前の敵を睨む。
『拘束せよとの事だが、抵抗するのであればやむを得ない。ハアッ!』
そう言って中にいる兵―おそらく隊長は〈
レイ「フッ!」
しかし〈邪竜吼〉で身体を強化されたレイは当然、反射神経も目も強化されているのでいとも簡単に剣をかわす。
レイ「デスクローラッシュ!!」
―ズガガガンッ!!
『ムウッ!?』
カイザークローを連続で突き出すクラフト―デスクローラッシュを受けて相手は少し後ずさる。
レイ「よし、さらに――うっ…。」
更なる追撃を行おうとした時、レイはふらついて膝をつく。どうやら先ほどの転移の術で力を大量に消費した事が原因のようだ。
それを見た隊長は再び剣を振り下ろそうとする。
ミルディーヌ「レイ兄様!!」
レイ「このまま…やられて、たまるかぁぁぁぁっ!!」
そう叫んだ瞬間、レイが邪神竜の試練を突破した日から腕に装着していたブレスレットが光り、レイと〈
『何事だ!?』
歪みがさらに大きくなると人型の何かが姿を現れ、レイに斬りかかろうとしていた〈
そして待機していたもう1体に直撃し、バランスを崩して倒れこむ。
『グハッ!?』
『な、何が起こった!?』
レイ「まさか、このタイミングで現れてくれるとはな……」
邪神竜「レイよ、今こそ使うがよい。〈翡翠の騎神スペランザ〉の力を!」
レイ「ああ!」
力強く頷いたレイは光に包まれ、翡翠の騎神スペランザの操縦席に入り、基本設定を行う。
レイ「お前を手に入れてから鉄道憲兵隊に入るまでずっとお前をスムーズに動かせるように特訓してきたが、実戦はこれが初めてだ。いけるか、スペランザ?」
『うむ、問題ない。』
レイ「なら、一気に倒すぞ!」
『良かろう!』
するとレイは〈魔剣カイザーブロード〉と〈魔槍カイザートライデント〉を取り出すとその2つは手元から消え、スペランザの手元に巨大化した状態で出現する。
一方、相手はいきなり自分達と同じような人型兵器が現れた事に一瞬動揺するが…
『くっ、翡翠の騎士人形だと?』
『だがこちらは2体だ。挟み込めば勝機はある!』
そう言ってスペランザを挟み込もうとするが、それよりも早くレイが動く。
レイ「甘い!!」
レイの言葉にスペランザは〈魔槍カイザートライデント〉に暗黒の雷を落とし、エネルギーをチャージする。そして2体の〈
レイ「ヘルライジングショット!!」
―ズガァァァンッ!!
『グアッ!!』
黒い雷の光弾、〈ヘルライジングショット〉を受けて1体目の
『おっ、おのれぇ!!』
怒った隊長は足に装備されているローラーのような物を使い、接近して剣を振り下ろす。
レイ「ハッ!」
―ガギィィィンッ!!
だがレイは〈魔槍カイザートライデント〉で相手の剣を防ぎ…
レイ「ハアァァァッ!ヘルライジングスラッシュ!!」
―ズドォォォンッ!!
今度は雷を纏った斬撃で相手を攻撃し、斬撃を受けた相手は吹き飛んでピクリとも動かなくなった。
レイ「久しぶりだが、上手く動かせて良かった。初めての実戦お疲れ様スペランザ。」
『レイもお疲れだったな。』
レイ「ありがとう。それじゃ、ミルディーヌと邪神竜を乗せてくれ。」
『承知した。』
レイは離れてスペランザと〈
ミルディーヌ「こ、ここは……さっきの騎士人形の中?」
邪神竜「うむ。そうだ。」
レイ「このまま帝都から離れるぞ。」
ミルディーヌ「どこに行きましょうか?」
邪神竜「ノルド高原はどうだ?」
レイ「なるほど、良いかもしれないな。ノルド高原なら第三機甲師団のゼクス中将がいるからな。スペランザ、ノルド高原へ向かってくれ。」
『承知した。』
スペランザは背中の翼のような物を展開して飛び上がる。
ミルディーヌ「しかし、レイ兄様の同級生の皆さんは大丈夫でしょうか?」
レイ「あいつらなら大丈夫さ。何度も逆境を乗り越えてきた奴らだ。」
邪神竜「ああ。彼らならきっとこの内戦も乗り越えるだろう。」
レイ、ミルディーヌ、邪神竜がそんな話をしているなか、スペランザはノルド高原へと飛翔していく。
雷の軌跡完結!!
次回からは雷の軌跡Ⅱを連載します!!
―――
スペランザとはイタリア語で「希望」という意味です