デジタル リアライズ 作:棃音
「……ん?」
「やあ、兄さん、奇遇だね」
そういい座席横の鉄棒を掴む
「終わりか?」
「そうだ」
ドアにもたれかかりそういう
「楽しんでるようで何より、ってことで」
「やけに適当だな」
「大丈夫、元からこうだよ」
「喧嘩売ってるなら降りろ」
「事実じゃん」
深いため息をついてつり革に通した手を抜き、握り直す
「いいか、お前らみたいに無駄に騒いで疲れるのが嫌だからこうしてるんだよ、わかるか?」
「すーぐそういうね」
「人を見下す発言は良くないよな」
「君たちが小さすぎて見下す形になっちゃうんですよー、もっと物理的に削ってやろうか?あ、これ以上削ったら見えなくなるか?」
「べー」
「電車内で騒ぐな、二人揃って……そろそろ着くぞ」
駅に着くと軽い揺れに体を揺らす
一呼吸置いた頃にドアが開き、雪崩のように駅へと出る
くだらないことを喋りながら帰路を進み、10分もすれば家へと着く
それぞれが家に着いたら前以て決まった通りの動きをする
例えば本を手に取ること
[.hack//ZERO vol.1ファントムペイン]
2003年6月1日発行
vol.1などと着いているが未完の作品
しかし濃密な世界観に哲学者のような重みを感じる
[人間的なあまりに人間的な]
1958年発行
このニーチェの独特な世界観の深みと、たかが薄っぺらいライトノベルに同じ質量を感じ
大きな世界に呑まれるかのような感覚へと脳を浸らせる
読む本はその時の気分だ
同系統であれば教科書でもいい
なんなら英和辞典なんかもありだ
鼻を鳴らしつまらなそうに英和辞典を閉じたのは記憶に新しい
ドタドタとかけてくる音がすると間も無くドアが開く
「クリア!クリアしたよ!」
「……何時間」
「30時間!20時間早いから私の大勝利!」
「まーじか」
数日前に貸したゲームだ、タイムアタックという事だった
「あれ、トラどうしたの」
「贔屓プレイしたら余裕だった」
「ウッソだろ、あれのHPカウンターで死んだんだけど」
「うん、だから、一回で削り切った」
「は?どうやって」
「70まであげたー」
「はぁ!?それは……」
「ほか20台」
「あー、黒狐とガチムチサイコパワーとかとにかくいないシナリオどうしたんだよ」
「黒狐……?沙耶とかベガとか?回復ゴリ押しでっす!あとHPカウンターばっかり」
ふふんとドヤ顔をして自慢げに語る
非常に腹立たしかった
「まあ、なんだ、おめでとう」
「よーし、明日、例のアレ、頼むよ」
「……あー、考えとく」
「言い出しっぺはそっちだからね、逃げるのなしだから!」
「……まあ、わかってる」
こっちに利のない話は受けない、こいつに限っては
こいつとの間でこちらに利がない賭け事は絶対にしないと決めている
勝とうが負けようが手のひらであってもらう
それをポリシーとしている自分に嫌気がさす
「……いまからでもいいか」
軽く外へとぶらつく
「買い物か」
「ええ、まあ」
「付き合ってもいいか?」
「並ぶだけですよ」
「そうか、まあ、暇なんだ、どれくらいかかる」
「20分、といったところか」
「それは合計?」
「待ち時間」
「なるほど、なかなか人気店な訳だ」
「ええ、まあ」
「時間は有り余ってる、やっぱり行くよ」
「ラジャラジャ」
そう言いながら目的地へと向かう
「なんだそれ」
「スターウォーズのバトルドロイド、単純な言葉を繰り返すんですよ、ラジャラジャって感じに」
「だから妙に声震わせてたのか」
「機械っぽいでしょう?」
「いや全く」
「こいつは手厳しいな」
「しかし徒歩で行く距離にそんな行列あったのか?」
「まあ駅まで行きます」
「……自転車で良くなかったか?」
「止める場所とたまには歩きたくなった」
「まあ、遠いわけでもないからな、10分かからんし」
「そういう事です」
「あれか」
「それはスイパラのですね」
「スイパラ?ああ、あの甘ったるいやつか」
「ええ、まあ」
後日その店へと誘われたのはまた別の話ではあるが……
「しかしいつも通る道だが、騒がしいよな」
「まあ、そらそうでしょ」
「こんな繁華街、なんでみんなして必死に並んで遊んで……」
「それがリアル、嫌気でも指しましたか?」
「……退屈しなくていいさ、それより、まだ抜けきらんのか?」
「…さあ?どうでしょう」
「なんというか本心がわからん、面倒な事この上ない、扱いづらい」
「ひどいな、ひどい言われようだ」
そう言いながら歩くのをやめる
「どうした?なにかあったか?」
「いや、ここです」
こじんまりとした店がある、しかし人は並んでいるように見えない
「誰も並んでないじゃないか」
「まあ、穴場の時間くらい把握してます、すいませーん、チーズケーキ一つ」
慣れた手つきでお釣りのないように小銭を置き、渡されるのを待つ
「なんで並んでるといったんだ」
「……気分」
「…わからんやつだ」
「ま、そんなもんでしょう」
チーズケーキを買い、そして別方向に歩む
「おい、どこ行くんだ」
「別に買い物一つとは、言った覚えありませんけどね」
「……こりゃ、長くなりそうだ」
戦果としては卵2パックと小麦粉1袋
砂糖みりん鶏むね肉542g
「まあ上々……かな」
「なんだ、親子丼でもするのか?」
「ご名答、よくわかりましたね、小麦粉なんて完全ブラフで買ったのに」
「おい、無駄遣いか」
「金は、あるんでね……」
「ふん、万年金欠が何を」
「誰から聞いたのか」
「吐くと思うか?」
「喋った主を拷問にかけることはとても容易いのだが?」
「可能性の段階でか?」
「コミュ障に他に喋る人間はいませんよ」
「………それは私の事か?」
「勿論」
「ったく、貴様は!」
大振りに蹴るが空を切る
「ははは、事実って事で」
「……わからんやつだ」
「わからない人ですね」
「……ふん」
「おい、明らかに親子丼の工程ではないだろう」
「よく考えたらそんなのにチーズケーキなんて……」
「……」
「と思いまして、パスタでもいかがかと」
「なるほどな」
麺を茹で始め、そして鶏肉をグラグラと煮えた鍋に放り込む
そして殻付きの卵をいくつかいれ、フライパンでベーコンを炒める
「カルボナーラと、チキンサラダか?」
「ええ、まあ」
「スープは?」
「無茶言わないでくださいよ、味噌汁か吸い物くらいしか出せません、コンソメスープ作ってもいいですが単調で美味しくない」
「……こだわりすぎじゃないか?」
「昔からですので」
「そうか」
「ええ」
パスタをフライパンに乗せてソースを絡める
パセリを散らし、卵黄を落とす
「スパゲティ アッラ カルボナーラ」
「なぜ正式名称」
「気分です」
卵と鶏肉をブロックにカットしてレタスの上に落としてゴマ風味のドレッシングを回しかける
「サラダも完成っと」
「食事にするか」
「食後は?」
「コーヒーで頼む」
「なるほど、背伸びですか」
「……コーヒーくらい飲めるわ、流石にな」
「ははは、大丈夫、飲めない奴もいるもんですよ、案外」
そう言いながら配膳し、取り分けたものにラップをかける
「ご両親はいつも遅いな」
「いつもじゃないですよ、たまたまです」
「……そうか」
「ま、そういうことですよ」
「相変わらずわからん」
「お互い様と言ったところかな」
「ふむ?」
「いや、実はここの戦いにおいてはですね、ルーデルは自分の参加を他の友軍のものとして申請させてまして、さらにこのわからない撃破車両等も実はルーデルのものとされてるんですよ」
「そうなのか、流石にこんな量を覚えきれんからなら助かる」
「まあ全く学校では出てきませんけどね」
「なっ……つまり無駄じゃないのか」
「……そうですよ?なに行ってるんですか、リアルには合理性なんてかけらほどにしかない、違いますか?」
「……無駄と合理の副産物が、私たちな訳だからな」
「ま、そうなってしまいますね」
「ところでここのだな」
「おっと理数系は範囲外だ」
「いや、流石に分かるだろ」
「わかっても面倒なんですよねぇ……」
「お前なぁ……」