――有り体に言えば。その少女に起きた出来事は悲劇だった。
その少女には前世の記憶があった。第97管理外世界地球――そこに生きていた何者かの記憶。一般人に毛が生えた程の優秀さで、体のガタを自覚し始めた年齢の、とある男の記憶。
生まれた時から有していたソレ。生まれてすぐの赤子に自我なぞあるはずもなく、故にその記憶をもとに人格が形成されていく。結果として少女は、性同一性障害――厳密には違うが――になった。
それだけならば、別に良かった。
少女の両親は寛大だった。彼らは少女を娘ではなく友人として扱ってくれた。それこそ孤児になる覚悟をして対話に臨んだにも関わらずあっさり受け入れてくれたことに肩透かしを食らった様な気分になった少女だったが、何度も言の葉を交わし、仲を深めていくにつれて真意を知り。互いのことを理解した彼らは親友と呼べる関係になっていた。
少女にとって。記憶がある事実は、デメリットにさえ目をつぶれば多大なアドバンテージを得たといえる。加え新しい両親にあたる人間の理解。仮に自分と同じ境遇に遭った人間がいたのならば、自分は確実に恵まれているな、とその時の少女は感じていた。
――ある日。少女の家庭は崩壊した。
少女には姉がいた。容姿端麗、品行方正、文武両道。所謂天才と呼ばれる人種だった。
姉は齢八つにして歌手として業界にデビューし、いくつもの大きい賞を獲るほどの才能。メディアには引っ張りだこで、碌に家族とも喋れていなかった。それでも家族全員が姉のことを誇っていたし、姉は家族の気持ちに感謝をし、一層仕事に励んだ。
ある日、姉は自殺した。
同じ事務所に所属していた男に犯され、孕んだのだ。
気付いた時には堕胎は不可能で。ましてや15にも満たない少女が妊娠などと、笑い話にもならない。家族に迷惑はかけたくないと誰にも打ち明けれず。その末に、自殺した。
スター自殺の真相と、メディアは面白可笑しく取り上げる。近所の人間は売女の家族と蔑む。取り巻く環境すべてが、少女の家族を嫌悪した。
そんな中でも父親は家族を支えようと仕事に没頭した。睡眠時間を削って残業を繰り返した。
それでも上司や同僚の信頼は勝ち取れず。結局無理がたたって過労により体を壊して死んだ。姉の自殺、夫の死と悲劇が重なり、母親は鬱になり自殺した。家庭の崩壊まで、姉の事件から一年と経たなかった。
それは世界単位でみればよくある出来事。きっと今もどこかで起きているようなモノ。これはありふれた悲劇で、だからこそ理不尽で。
鉄のような心を持つわけでもなく、鋼の精神を持つわけでもない平凡な少女が腐っていくのも、至極当然であった。