現代にカムイコタンの巫女がいるのは間違っているのだろうか 作:N9999
今回はよりグロテスクな表現がありますので、やさしいナコルルがいい!という人は見ない方が良いかもしれません…
ナコルルの絶命奥義にロマンを感じた方、またはキャラ崩壊を許せる方はどうぞ笑って許していただければ幸いです。
自然の悲鳴を聞き付け、現代に蘇ったナコルル。
しかしふとしたことで温泉旅館の壁を破壊してしまい、借金返済のために働くことになったのであった…
「ナコルルー」
「むぅ…」
ナコルルは旅館の一室に住んでいる。なかなか起きてこないのでれらはナコルルを起こしに来たのであった。
「起きなさーい」
「うぅ~ん…リムルル…勝手にお菓子食べないでってあれほど…」
訳のわからない寝言を呟くナコルルに対してれらはリボンの両端を掴み、
「起きろぉぉぉ!!!!」
「なこっ!?」
思いきり締め付けた。
「あれっ!?ここは…そうでした、私は未来に来たんでしたっけ」
ようやく起きたナコルルは、寝巻きから旅館の従業員服に着替え始めた。
「やっと起きたわ…あんた一体どんな夢見てたのよ」
「それだけは言えません」
ナコルルがこの旅館で働いてから一週間が経った。
基本は身体能力の高さを活かした高所の掃除や配膳等を任されているが、その可憐な容姿から客受けは良い様だ。
事実、旅館の客が増えると思い密かに作ったナコルルのポスターを町中に貼り付けて来たところ、僅か一夜にして片っ端から強奪されていた。
問題があるとすれば未だに器物損壊を繰り返している事と隙あらば客に自然の素晴らしさを説いている事だろうか…
「…ねえナコルル」
「なんですか?」
「実は今日は別の仕事を頼みたくて…」
「自然を汚す悪い人間達の駆逐ですね!?任せてください!!」
ナコルルは嬉々とした表情で部屋に置いてあった模造刀を手に取った。
「アホか!!」
「うたげぇっ!?」
人殺しを依頼する旅館など存在しない。ナコルルの頭にれらの拳が突き刺さった。
「頼みたいのは料理係よ!今日は神威兄さんがいないから人手不足なの!」
「えっ!?あの神威さんが亡くなったんですか!?やった!これで私の最大の障害が消え失せました!!」
「このバカ!死んでないわよ!!というか死にそうにないわよ!!」
神威というのはれらの兄、「六辺神威」の事だ。
この旅館の当主で、主に料理を得意としている。
一見すると非力な優男なのだが本気を出すと凄まじい力を発揮し、家族で登山に行ったときは謎の波動のようなもので熊を追い払った事もある。
その超人ぶりからこの辺りでは「ヤマタノオロチの子孫だ」だの、「秘密結社に改造された最強の人類だ」だの、ぶっ飛んだ噂が絶えない。
ナコルルが彼の事を恐れている理由を説明するには、少し時間を遡らなければならない…
三日前…
れらと神威は、旅館の前で空を見上げていた。
「今日は暖かいわね…昨日はあんなに寒かったのに」
「これだけ暖かいとさすがに客も来そうにないねぇ」
この日の札幌は久しぶりの快晴であった。恐らく地球温暖化の影響だろうが、うっかりそんなことを言えばまたナコルルが紫色になりかねないのでその事に関しては口をつぐんでいる。
「まぁ、おかげで久々にゆっくりできるわね」
れらのその発言にナコルルが問い掛けた。
「…暖かいと人は温泉に入らないのですか?」
「こんな天気でわざわざ温泉に来る人はあまり居ないわね」
その言葉をナコルルは聞き逃さなかった。
(いつもあんなにたくさん居た客も今日は居ない…つまり今この旅館に居るのはこの二人だけ、ということは…!)
(この家を奪い取る絶好のチャンスよ!!)
ナコルルが紫色に変色しつつある事に、
「それじゃあ僕は調理場片付けてくるね」
「はいはい」
神威が部屋から出た。最早この場に居るのはナコルルとれらだけだ。
「さて私は掃除でもするかな…ナコルルーあんたも手伝いなさい」
「断ります」
「えっ?」
れらの思考は追い付かなかった。
何故なら次の瞬間、自らの腕が壁に釘付けられていたからだ。
「…!!」
視線を右腕に移すと、そこに居たのは自らの腕に嘴を埋める一匹の鷹であった。
「…ママ…ハハ…!!」
「…おっと、無闇に動かない方がいいわよ…?少しでもその腕を動かせば、二度と動かなくなるから…」
ここぞとばかりに魔が差したナコルルは、紫色に変色するどころか口調すら変わっていた。
それは巫女としての宿命に縛られる前の、感情が豊かだった頃の再演でもあった。
「…どういうつもりよ…!!」
「女の子に手をあげたあなたが悪いのよ。私は元々この旅館を自然の素晴らしさを説くための拠点として狙っていた…でも譲ってもらうのはもう諦めたわ。悪いけど、自然の為に死になさい」
「くっ…!!」
れらは出血多量で意識が朦朧としていた。このまま放置すれば、一時間ももたないだろう。
しかしれらは、最後の力を振り絞りナコルルに語りかけた。
「…ナコルル…!兄さんには、手を出さないで…お願い…!!」
「この期に及んで他人の心配をするのね…止めても無駄よ、今日の私は本気なの」
「ち…がう…!違うの…!!」
「ママハハ、黙らせなさい」
ナコルルの声を聞いたママハハは首を軽く捻った。れらの右腕の神経に、鋭利な嘴が食い込む。
「うっ」
「大人しくしておけばそのままにしておいてあげたのに…直にお迎えが来るわ、それまで自分の行いを悔やむことね」
ナコルルはチチウシが安置されている部屋へと向かっていった。れらは沈み行く意識の中で、己の行いを悔やみ続けた。
(違うの、ナコルル…!!)
(
ナコルルを救うことが出来なかった事を。
「ここが調理場ね…」
チチウシを奪還したナコルルは、三階にある調理場の扉の前に佇んでいた。そして、
「六辺神威…あなたも自然の礎となりなさい!!」
その扉をチチウシで真っ二つに切り裂いた。
しかし、思考が追い付かなかったのはナコルルの方であった。
「…ッ!?」
何故なら、先程切ったはずの調理場の扉は視線の遥か先へと遠ざかっていたから…
そして、肝心の神威はすぐ自身の目と鼻の先に迫っていたからである。
「お前はよくがんばった…次は自然の豊かな世界に生まれ変わる事だ。さらば!!」
「…ぉ」
ナコルルが気付いた時には、自身の体は窓から飛び出し宙を舞っていた。
「父様ぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
その目が最後に捉えたのは窓の奥の神威の、爬虫類のそれの様な形状をした瞳孔であった…
「…ここは…?」
『姉様…』
「…リムルル…?リムルルなの…!!」
『…久し振りだね、姉様』
「…!やっと会えた…リムルルが無事で、良かった…!!」
『…姉様、残念だけど…姉様はまだここに来ちゃだめなんだ』
「えっ…?」
『…だから、お別れ。悲しいけど…お別れしないと…』
「…いやだ…いやだ!確かに私はリムルルを置いて眠りに就いた!でも巫女になった事はあなたの…!!」
『…ごめんね、姉様…心配してくれて、ありがとう』
「待って!行かないで、リムルル!!リム…ルル…ムルル…ル…ル…」
「…ル…ル…ルル…コルル…ナコルル…!!」
「はうあ!」
ナコルルが目を覚ますと、そこは真っ白な部屋であった。
薬の臭いが漂い、液体の入った袋がぶら下がり、自身は布団のようなものに横たわっていた。
「良かった、目が覚めたのね」
「私は、一体…ガハァ!」
ナコルルが起き上がろうとすると、喉元から紅いものが込み上げてきた。
今の自分はまるで、あの橘右京のようだ。
「まだ動かない方がいいわよ。あんた全身複雑骨折だから」
「全身…!?いや、それよりも、れらさん!?」
「ここは病院よ、あんたは丸一日寝込んでたの」
ナコルルが視線を右に移すと、れらが椅子に座っていた。
その右腕には真っ白な包帯が巻かれており、昨日貫かれたとは思えない…
…貫かれた…
「…そうでしたね、確か昨日、私はママハハにれらさんの腕を貫かせて…その後チチウシを持ち出して…それから…」
「やあ」
「げえっ!?」
病室に入ってきたのは、たった今思い出そうとしていた…というか思い出したくもなかった、神威の姿であった。
「お見舞い持ってきたけど…二人とも仲良くしてる?」
「「も、もちろん!!」」
ナコルルとれらは、反射的に恋人繋ぎをした。
「それは良かった。これに懲りたらもう、あんな事しないでね」
神威は病室を後にした。
「…私も怖いのよ…ごめんね、ナコルル」
「…いいですよ、もう…こっちこそ、すみませんでした…」
その後ナコルルは自然の加護からか短期間で回復し、退院した。
後から聞いた話によると自分が助かったのは、ナコルルの危機を察知したママハハが咄嗟に駆け付けナコルルを下から突き上げ衝撃を和らげたからだそうだ。ママハハは体が丈夫なので大きな怪我は無かった。
神威の手回しにより、れらの腕の怪我もナコルルが突き落とされたのも架空の強盗犯の仕業として片付けられた。しかし警察がその事を信じたのは、神威の殺気に怖じ気づいたからであろう…
そして話は現在へと戻る…
「料理ですか…まあ、苦手ではないというか、むしろ私の得意分野ですね。」
「えっ?あんた料理得意なの?」
「はい。朝作るラタシケプはみんなおいしいと言ってくれます」
ナコルルは自信満々に言った。
「ラタシケプ…確か、小さい頃に食べたことあるような…」
ラタシケプとはアイヌの伝統料理で、直訳すれば「混ぜたもの。」山菜や野菜等を柔らかく汁気がなくなるまで煮込み、軽く潰してから脂や塩で味を整えた料理である。
日常食としても親しまれるが、儀式の供え物や振る舞いには欠かせないハレ食でもある。
「使用する材料によって色々な種類があるんですよ」
「なるほど…」
「とりあえずこの旅館にある食材を見せてください」
「ええ、わかったわ」
れらは業務用の冷蔵庫から食材を取り出した。
「今うちにあるのはこの辺ね…」
テーブルの上に並んでいるのは、色とりどりの野菜や大きな生肉、様々な容器に収まった調味料であった。
「ふむふむ…よし、決まりました。今日は『カンポチャラタシケプ』を作っていきましょう。」
「か…カンボジアラタシケプ?」
れらが話に追い付かないまま、ナコルルの料理教室が始まった。
「まずは豆を柔らかくなるまで炊きます。」
「えっと…家電は使わないの?」
ナコルルとれらは現在、旅館の庭園で料理をしている。
「いりません。そんなものを使ったら排気ガスが出ますよ?」
(徹底してるわね…)
「っと、そろそろ切り干しにしておいた南瓜を水に戻しますよ」
ナコルルは手際よく料理を進めていく。
「本当に料理上手いのね、あんた」
「誉めても何も出ませんよ?この南瓜も一緒に炊きます。煮崩れたところで調味料で味を整えて完成ですね。見たところ香辛料として使うシケレペの実が無い様なので、この『しちみとうがらし』というもので代用します。」
「シケレペ…?」
「今の時代だと、『きはだ』と呼ばれてたような気がします」
家電を一切使わず、しかしそれでいて正確に料理を作るナコルルを、れらは見守る事しか出来なかった。
「はい、出来上がりです」
「……」
今テーブルの上に並んでいるのは、ナコルルが作ったラタシケプだ。
神威も料理は上手いが、文明の利器に頼らずここまで整った料理を作れるかどうかはわからない。
「れらさん、味見お願いします」
「えっ?わ、わかったわ」
れらはナコルルが大量に作ったラタシケプの一つを手に取り、一口食べてみた。
「う…うまい!」
「よかった…この時代でも私の味は通用するのですね」
「南瓜の素材本来の味が生きている…これは売れるわ」
「では、そろそろ食堂へ向かいましょう」
ナコルルとれらは食堂へと足を運んだ。
営業開始ー
「うまい!」
「メニューが一つしかないから手抜きかと思ったけど…」
「うーまーい、ぞーーーっっ!!」
「うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ」
ナコルルの作ったラタシケプは大好評であった。
あまりの美味しさに目と口からビームを放つ客も居た。
「おかわり!」
「こっちもおかわりで!」
「美味すぎる!」
ラタシケプを一心不乱に頬張る客達を見て、れらは言った。
「よかったわね、ナコルル」
「…はい!ありがとうございます!!」
ナコルルは現代を激しく誤解していた。
自分を認めてくれる人間も居るものだ。
「…あれ?そういえば神威さんは何処へ行ったんですか?」
「さあ…?昨日もあまり詳しくは言ってくれなかったし…」
同時刻 アメリカ ホワイトハウス
「おお、来てくれたかMrカムイ」
大統領の前に座っていたのは、神威であった。
「ゆっくりしていきたまえ。君にはいつも世話になっている。」
「いやぁ、大したことありませんよ。」
「ところで、君の旅館で働いている女の子…ナコルルだったか?彼女は、とても興味深いものを持っている」
「そんなこと無いですよ。ナコルルちゃんは…ごく普通の、女の子ですよ。」
六辺神威…単独でアメリカと友好条約を結ぶ、ただ一人の日本人。
この小説には多分関係無いが。
続く
…はい、少しやり過ぎたかもしれません…結局イカ娘ネタ入ってるし…
ラタシケプの作り方に関しては、実際にネットで調べました。私もいつか作ってみたいです。
次回の更新がいつになるかわかりませんが、どうか温かい目でお読みいただけるよう宜しくお願いします。
N9999でした。