現代にカムイコタンの巫女がいるのは間違っているのだろうか 作:N9999
「あんぬー、またねー」
「はーい」
ここは札幌市の住宅街。一人の少女が道を歩いていた。
「お土産にお菓子いっぱい作ったし、お兄ちゃんお姉ちゃんも喜ぶかな」
あんぬと呼ばれた少女は見たところ10歳ほどで、大きなリュックサックを背負っていた。
「ん?」
公園の近くを通りかかったところで、あんぬは変わった光景を目にした。
どこの公園にも置かれているブランコ。
そのブランコの前に座り込み、板を物珍しげに見つめる少女が居た。
(誰かな?この辺じゃ見ない子だ)
行動だけでも変わっているが、その少女の服装も奇妙なものであった。
(あれってもしかして…神社とかで巫女さんが着ている…)
この時代には不釣り合いな、紅白の巫女服。
ましてや公園で見ることはよっぽど無いであろう。
(それに…)
少女は座った姿勢のままブランコを回したり、押したりしていた。
(…なにしてんだろう…)
あんぬが様子を見ていると、それに気付いた少女が振り返る。
他人のふりをして立ち去ろうとしたあんぬであったが、そんなことはお構いなしに後をつけてくる。
「あの、すみません…」
少女はあんぬに声をかける。
「あっ!?いやその、今お取り込み中でして…」
「あの鎖で吊るしてある板は何なのでしょうか…」
「…え?」
あんぬは少女が指差した先を見た。
「あれって…ブランコのこと?」
キーコ、キーコ。小気味良い音を立てながら、あんぬはブランコを漕ぐ。
「こう。こうやって遊ぶの」
「おっ…おおっ!?」
少女は目を輝かせながら言った。
「これは…鷹に捕まって飛ぶ訓練の器具だったんですね!!」
「いや違うよ」
「やはり戦士達は誇りを捨てていなかったのですね…」
「聞いちゃいねえ…」
少女は隣のブランコに座ると、ブランコを漕ぎだした。
「やーっ!とおーっ!」
「あ、やり方はわかるんだ…それじゃあね」
あんぬはブランコから降りて、公園を後にした。
(変わった子だなぁ…ブランコ知らないのかな?)
そこまで考えたところで、ふと思い出した。
(あ、そういえばあたしがお泊まりしてる間にうちに変わった人が来たって…もしかして)
あんぬは無意識に後ろを振り返る。
「!?」
そこにあったのは、想像を絶する光景であった。
少女のブランコはいつの間にか、空中ブランコ並みの振り幅に達していたのだった。
「ちょっ、えぇぇぇぇぇ!?」
あんぬは驚いて少女に駆け寄る。
「手!手!手離しちゃダメだよ!!」
「て?」
少女は何を間違えたのか、ブランコから手を離してしまった。
それと同時に、少女の体は勢いよく宙へと投げ出される。
公園を飛び出し、歩道へと落ち行く少女の下には…
「…でよォ、あんまりムカついたモンだから、ドスで股間ブチ抜いちまった」
「流石ッス吉田の兄貴!そこに痺れる憧れ…やくざぁぁぁっ!?」
少女は空中で回転しながら、男の頭を蹴り飛ばす形で着地した。
男の姿は白服にサングラス、そして全身の傷跡…
それらの特徴から、彼等が俗に「極道」と呼ばれる者だということは、あんぬにも容易に理解できた。
「おい、サブ!しっかりしろ!誰にやられた!?まさか山崎か!?」
「すみません、つい条件反射でヤトロ ポックを出してしまい…」
少女は高そうな背広を纏った、吉田と呼ばれた男に頭を下げる。
「…テメェの仕業かゴルァァァァァァ!!!!」
吉田は拳を振り上げ、少女に襲い掛かった。
「!?いやぁぁぁっ!!」
少女の頭がトマトの様に弾け飛ぶ光景を想像し、あんぬは目を覆った。
「ッ…な…」
「…え?」
あんぬが次に目にしたのは、先程の空中ブランコ以上に衝撃的な光景であった。
少女は吉田の拳をスウェーで回避し、がっぷりと腰に組み付いていた。
「やめてください…私は戦いたくありません!!」
「な、なんだァ!?このガキ…!!」
少女が拳を避けるのを目で捉えられなかった為か、動揺する吉田。
空気が張り詰めていく。
「た、大変だ…警察呼ばないと…!!」
あんぬはスマホを取り出し、警察に電話しようとした。
だが、吉田の視線はあんぬへと移った。
「ヒャアッ!!」
「あっ!?」
吉田は少女を振り払い、左腕であんぬの首を押さえ付けた。
「おいテメェ、こいつがどうなっちまってもいいのかァ!?」
吉田は右手をポケットに突っ込み、何かを取り出す。
刃渡り30cmのそれは…間違いない、ドスだ。
少女に見ず知らずの自分を助ける義理は無いだろう。あんぬは死を覚悟した。
しかし、
「…あ?」
吉田が気付いた時には、少女は既に眼前に迫っていた。
「たあっ!!」
「が、はぁ…」
少女は吉田の腹に蹴りを入れると、倒れた吉田の上に馬乗りになった。
「く、クソアマがァ…!!」
吉田が右手を振り上げようとしたその時、彼は違和感に気付いた。
「…んあ?」
右手に握っていたはずのドスが無い。
ついでに言えば左腕に抱えていたあんぬも居ない。吉田の視界からは離れていたが、腹を蹴られた際にあんぬは解放され歩道に転がっていた。
そしてドスはどこへ行ったのかというと…
「…これ以上やるのであれば、私も『
少女の手に収まっていたのは、先程まで吉田が握っていたドスであった。
可憐な巫女服に鋭い刃。一見すると不釣り合いに見える出で立ちであったが、不思議と違和感は無かった。
これが少女の、真の姿だ。
「あ…あ…!」
「自然の怖さを、教えてあげる」
少女は刃を吉田の胸に向け、
「さよう、なら…」
「ああああ~ッッッ!!!!」
思いきり振り下ろした。
「…ふう、こんなものですかね」
少女は吉田から降り、ドスを置く。
吉田は泡を吹いて気を失ってはいたが死には至っておらず、傷もどこにも見当たらない。
少女はドスが吉田の胸に達する直前で止めていたのだ。
「殺してしまったら今度は私が神威さんに処刑される番ですからね…元居た時代ならともかく、ここでは手加減が必要ですね」
立ち上がった少女は、歩道に座り込むあんぬの方を見た。
「お怪我はありませんか?…すみません、私のせいですよね…」
罪悪感に苛まれる少女に対してあんぬは言った。
「えっ!?えっと…その、全然大丈夫ですよ!?こちらこそ見ず知らずの自分を助けていただいて…ありがとうございます」
そう言うと、あんぬは頭を下げた。
「そう言っていただけると助かります。これからはあの訓練器具ももう少し安全な場所に設置してもらうべきですね」
(だから訓練器具じゃないって…)
あんぬがふと空を見上げると、真っ赤な夕陽が出ていた。
「あ、そろそろ帰らないと…すみません、ありがとうございました!!」
あんぬはリュックサックを担ぎ直し、駆け出していった。
「どういたしまして、お気をつけて~!!」
少女は手を振り、あんぬを見送った。
(それにしても変わった子だったな…名前聞いとけばよかったかな)
あんぬは少女の顔を頭に浮かべながら、自宅の扉を開けた。
「ただいま~」
「お帰りあんぬ。兄さん、あんぬが帰ってきたわよ」
「あ、お帰り~。お泊まり会どうだった?」
「楽しかったよ!ゲームもやったし、お土産もいっぱい貰ったし、それに…」
そこまで言いかけたところで、扉は再び叩かれた。
「ただいま~」
「ん、ナコルルもお帰り」
「ナコルル?…って、ええっ!?」
あんぬが驚くのも無理はなかった。
「あ、あなたは…ブランコの…!?」
ナコルルと呼ばれた少女が、昼間出会った少女そのものだったからだ。
「なんで、この旅館に…!?」
「ああ、この前メールで言った新人よ」
あんぬのフルネームは「六辺 あんぬ」。
温泉旅館「とまり」を営む三兄弟の末っ子である。
続く
…はい、今回はナコルルに血を流させずに済みました。それでも脅してますが…
次の更新がいつになるかは未定ですが、エタらないようがんばります。
ありがとうございました。