カードキーを集める中、町中、クレハが一人でため息を付いているのを見つけた。
「クレハ」
「あっ……。テイル、さん」
さんと呼ぶとき、クレハはリアルのことを考えていた証拠か。さすがにここまでくれば分かる。
「クレハ、どうした。いまはリアルを知るのは俺だけだ」
「………」
少しだけ考え、しばらくして話してくれた。
「お姉ちゃんが、超難関の国家ナントカ試験を一発合格できるって話が、いま出てて」
「ああ、あの子か」
そう言えば、ゲームゲームでだいぶ忘れていた。
もうだいぶ時間が過ぎていて、もうすぐ一年ほどか。
「それはみんなでお祝いするのか」
「はい。たぶんですけど、お母さんが話してると思います」
「母さんたちは連絡し合ってるからな」
そう考え込みながら、クレハはどこか複雑そうだ。
あの家は、そのな………
クレハは別に悪いわけでは無い。
ただ周りはよく、クレハよりも姉の方に目が行く。
手のかからない子ではあるが、それでクレハを比べたりするのはどうかと思う。
一番面倒なのは、家族は別に比べたりはしていない。だが、どうしても意識するのだろうな。
「少し思い出します、お姉ちゃんの為に引っ越すときも、お兄さんは残念がってましたね」
「それは俺とまともに話をしてくれるのは、君たちしかいなかったからな」
「………」
クレハは少し黙り込み、そしていつものように話しかけて来る。
「ごめん、少し色々あって。さああとはこれからねっ、一番に攻略しなきゃ、また明日、一番にログインするからっ」
そう言って彼女と別れる中、俺は首をかしげたが、すぐに歩き出す。
◇◆◇◆◇
そしてカードキーを持つエネミーを倒し、閉ざされたゲートを開く。
メンバーはヒカリ、キリト、アスナ、イツキ、ツェリスカ、そしてクレハ。
ついにカードキーの先へとたどり着いた。
「ここが《SBCフリューゲル》の最深部なのかな?」
「誰の姿も見ないな」
「それって、もしかして一番っ!? 凄い、あたしたちが最速攻略だなんて!」
「やりましたマスター!早くおかあさんに会いに行きましょう!」
「まだ油断は禁物だよ、ほら」
静かに奥の方を指さす。奥に巨大なロボットエネミーがいて、その前にコンソールらしいものがある。
コンソールの前に来ると、なにか言葉やメッセージ画面が現れ出した。
エラーによりノイズが走るために、ヒカリにしか分からない言葉。ヒカリがコンソールを操作しつつ、内容を確認。
その言葉を聞き、ヒカリは驚いていた。
「どうした」
ヒカリの説明では、ここ《SBCフリューゲル》の基幹システム。マザークラヴィーアに異常が発生。
ただちにオペレーションマニュアルを実行せよと。
その内容はマザークラヴィーアを初期化して、機能を回復。
「それは………」
初期化、それはつもり、ヒカリたちアファシスの母親を、一度消すと言うこと。
「なるほど、再インストールの方法はどうするんだい?」
「イツキっ、あなた自分がなにを言って」
イツキだけが冷静に物事を見て、ツェリスカはすぐに睨むが、
「いいんですツェリスカ。わたしはマスターのアファシスです、だから………、ちゃんと説明するのです」
ここのコンソールから再インストールが可能。
そうしたらヒカリたちのお母さんが消えるらしい。
他に方法は、ヒカリがお母さんに会えれば、初期化せずに助けられる。だが………
「あのエネミーは、ようするにラスボスだろ? いまの僕たちじゃ、絶対にムリだ。そして全滅してしまったら、戻ってくるのに時間がかかる」
イツキの言葉も頷ける。いまでもここを目指し、多くのプレイヤーが向かっている。
「テイル……。正直に言うわ、せっかくここまで来たんですもの。絶対にクエストはクリアしたい………」
「クレハ」
「でもね、レイちゃんを絶対にお母さんに合わせてあげたい。あたしには決められない」
ちゃんと自分の意思を告げたクレハに安堵すると、ツェリスカも微笑みながら、
「私は……、リーダーのあなたの決断に従うわ~。それ以外は個人的信条につきノーコメントで」
「ツェリスカ」
「なんだそれは……。それで、どうする」
イツキたちの視線が集まる。
「………」
しばらく考え込みながら、
「俺の答えは」
そんなものは決まっている。
「これだ」
コンソールに《アンチマテリアル・ライフル》の弾丸をぶっ放す。
「マスターっ!?」
乾いた銃声が乱射され、破壊不能の物で無かったのか、煙を立てて壊れてくれた。
「さすが《アンチマテリアル・ライフル》、壊せた壊せた」
これで他のプレイヤーが来ても再インストールはできない。
やられるつもりはないけどな。
「キミは……」
全員が驚きながらこちらを見るが、キリトとアスナだけは笑っていた。
「相手の情報無しに戦うのは、いつものことだ」
弾丸もあれば、HPゲージも多少あればいい。
剣がある、ダメもどんなことがあろうと与えればいいだけ。
「ここにはヒカリに母親に会わせて、一番に攻略しに来たんだ。これ以外に選ばない」
「君らしいことだよテイル。勝とう」
その言葉に、ただひたすら集中力を上げて、ラスボスを睨む。
「ああッ」
◇◆◇◆◇
そして戦うバトルの中、彼の動きはいつもと違う。
「セイッ」
ただひたすら、ダメージを与えることしか頭になく、攻撃は避ける。
全てがギリギリで、一歩間違えれば終わる戦いだが、彼は躱し続けた。
装備の切り替え、的確な攻撃、道具の使用。
彼はアイテムを使うことに関して右に出る者がいないんじゃないかと思う。
だからこそ思う………
キミは、何者なんだい?
俺だけでなく、アスナも疑問に思うほど、彼はSAO時代から、変わっている。
そして長い時間が過ぎた。
「終わった……」
彼がなんとか言葉を出すとそれしか無く、そして気持ちをすぐに切り替えて、すぐに奥へと進みだす。
「ヒカリ、急いで接続を。お母さんを助け出すんだ」
「はいっ、分かりましたマスター!」
◇◆◇◆◇
「まさか本当に勝つなんてね」
二人を見ながら、後ろで彼らは話し合った。
「ほんと、よく勝てたな………」
「普通なら、試しに何度か戦って、戦闘パターンを確認しますもんね」
クレハの言葉に、ある人物は彼の動きを思い出す。
「そんな中、彼はまるで、知っていたように動いてた……。どうしてあんな動きができたんだ?」
イツキはその疑問だけがぬぐえず、つい言葉にしてしまう。
「きっとそれは、ここで負けるわけにはいかなかったからだ」
「そうだね、レイちゃんのお母さんを助けるには、これしかなかった。ベストな選択だったと私は思うわ」
「ああ、アファシスにとっても、彼にとっても、この戦いはゲームでは無かったんだろう」
キリトとアスナは分かり切った答えだと、彼の選択がそれしか選ばないことを確信していた。
「ゲームではなかった……」
イツキはそう呟く中、彼らは勝利し、エンディングへと向かう。
◇◆◇◆◇
正直、やっと気が抜ける。
スコードロンの名前や、俺の名前とヒカリのことが、メインコンソールに刻まれて、オリジナルスキルを得た。
このスキルは自分と合わせれば使えそうだ。としか思えない。
クエストクリアに、キリトのホームでパーティーをする。
スキル《ハイパーセンス》と言うのも確認しつつ、みんなから祝われ………
「………胃が痛い」
いま話を合わせて外に逃げた。
だけど外もクエストクリアで話でにぎわっていて、メールボックスを見ると、インタビューが今度こそと言わんばかりに来る。
「………ヒカリがいなかったらログアウトし続けられるのに」
セブンに頼み、ヒカリを別ゲームに連れて行けるようにしなければ、俺の精神が終わる。
「胃が………」
最速クリアのスコードロンリーダーは、プレッシャーと言うものに押しつぶされようとしているのだった。
◇◆◇◆◇
「相変わらず、ここぞって時は凄いことをするな彼は」
「そうね、狙撃の腕前じゃ負ける気は無いけど。一対一じゃ勝てるかどうかわからないわね」
テイルホームでのパーティーの中、仲間たちは雑談していた。
シノンがそれはUFGがある無しなく、彼ならば高速で接近しそうだと分かるためだ。
「彼奴、皆さんに慕われてるんですね」
クレハは、そんな彼らの話を聞き、そう呟く。
「普段はぼーとして、あまり前に出ないけど。ここぞという決断をしたときは、誰にも負けない気がするよ」
「そういうところ、キリトそっくりね」
「ぼーとしてるところだけじゃないよな」
そんな会話の中、クレハは静かにその光景を見る。
「彼奴は認められてる……彼奴は」
◇◆◇◆◇
「マスター、ここにいたんですね!」
「ヒカリ、ああ」
「マスターに渡したい物があります。返却はできません」
そう言い渡されたのは、なにかのお守りらしい。
「マスターのために用意したものですっ、マスターに持っていてほしいです!」
「ああ、ありがとうヒカリ」
嬉しそうに撫でられるヒカリ。
微笑ましい存在だ。胃の痛みが少し和らいでいった………
◇◆◇◆◇
「イツキ」
「やあ、キミか」
パーティーが終わりに差し掛かり、イツキと会話する。
彼もまた、パーティーから離れ、一人でいた。
「クエストクリア、おめでとう。まさかあっちが正解だったなんて。まああながちだけど、あそこが分岐点だった」
「まあ普通はOSの再インストールだろうけど、ヒカリのことがあったから」
「そうかい? 僕はやっぱり、再インストールだね……。そして、トゥルーエンドには至らない。やはり、僕には英雄になる素質は無いのか」
「英雄なんて、なるほどいいもんじゃないさ」
その言葉に、イツキがこちらを見る。
「なぜ、そう思うんだい?」
「勇者や英雄は、人が作り上げたものだよ。キリトを見たりして、分かった。能力がある、力がある、そんな理由で色々な物を背負うのは、苦しい」
その言葉を聞きながら、イツキも色々思うことがあるらしい。
長い話の中、なにが言いたいかと言えば、
「キミは特別な存在だということさ。そんなキミが……今日、英雄になった。GGOの世界においても、特別な存在になった」
そう言って、ストレージから銃を取り出す。
「これをキミに」
「これは?」
「僕がこの世界に来て、最初に買ったモノさ。キミに持っていてほしい」
「そうか」
それを受け取りながら、ストレージに仕舞う。拳銃らしいそれは、あまりテイルが使わないものだが、
「この銃、大切にさせてもらうよ」
「はは、キミは律儀だね」
そして彼らは、別々の道を歩き出す………
◇◆◇◆◇
「………キミの世界はキラキラしてるんだろうね」
そう彼は言いながら、静かに街並みを見下ろす。
「人は簡単に裏切る生き物なんだよ……。始めてくれ」
その瞬間、プレイヤーが次々とログアウトする中、彼は呟く。
「僕とキミが見ている景色は、やはり違うらしい」
孤高の荒野に風が吹き、プレイヤーは全員ログアウトした。
◇◆◇◆◇
「あら、どうしたの? 今日はゲームのパーティーでログインしてるんじゃ」
「少し」
現実世界、GGOにログインできなくなり、頭をかく。
仕方なくリビングに行き、ミルクを飲みながら、
「事件といい、今回の事と良い……。また事件か」
そんなことを呟くと、今日は帰っていた父さんが反応した。
「事件? VRゲームでなにかあったのか」
そう言い、新聞から顔を上げた父親。
ここ最近は帰ることが少なくなり、なにやら忙しいようだ。
「いや……父さんこそ気になるの」
「………仕事のことは言えん」
そう言われ、少し考え込んだが、ともかくいまGGOで強制ログアウトが起き、ログインできないと伝える。
「………仕事に出るかもしれないな」
そう重々しく呟く。それには静かな頷く。
「分かった、なにかあれば言うよ」
「そうしてくれ、あの子や木綿季ちゃんもいるんだろ?」
「あら、それは大変」
会話を盗み聞きしていた母親。ユウキ、木綿季のことは息子以上に大事にしている両親。まあ自分も命より大事だが………
「息子を心配してくれ」
「私の子だ、そう簡単に死ぬことは無い」
信用されているのか、そんなことで終わらされた。
まあいいかと、なにも言う気にはなれず、ミルクをまた飲み干す。
「………はあ」
ともかく、攻略が終わったのだから、次は
「父さん」
「どうした」
「……話があるんだ」
あまり褒められた手じゃないが、色々考えて動かなければいけない。
すでにセブンに協力と、可能性は相談していた。
(悪いなキリト)
この世界は、キリトと言う人物を中心に、全てが回る物語ではない。
彼に全てを任せられるほど、もうできていないのだ。
こちらも色々動かさせてもらうことにし、考え、行動するのみ。
こうして、今日は時間だけが過ぎていく………
テイルもテイルで変わり始め、なにか企んでいる。
この辺りビビりながら作っています。
それでは、お読みいただきありがとうございます。