転生者として、彼はなにをするか………
「お帰りなさいマスター」
ヒカリがホームでそう言い、イツキやクレハ、ツェリスカたちがいる。
「昨日は突然真っ暗になってびっくりしました」
「ヒカリたちもか」
ヒカリたちアファシスも、しばらくの間活動していなかったようで、色々話を聞いたが問題ないらしい。
「もう、昨日のサーバーダウンってなんだったかしら? すぐに復旧しないし」
「今頃ザスカーは苦情のメールが殺到しているだろうね」
「そうね~、きっと担当の方は大変でしょうね……」
そんな雑談をしつつ、とりあえず、
「今日は……。まずはキリトたちを待つか」
◇◆◇◆◇
「この前はびっくりした、急に切断されるんだもんね~。結局、あの時ログインしてたのは、みんな強制ログアウトされたの?」
「だろうな、ユウキは平気だったか」
「ボクは平気だよ!」
微笑むユウキに、それはよかったと安堵した。
可愛い妹のために、リアルの方で先生に連絡していたのだが、本人の口から聞いてやっと安心できる。
キリトが言うには自分を含めて、他のプレイヤーもほとんどログアウトされていたらしい。
リーファは先ほど、アナウンスで調査の結果、サーバーの不具合らしいと聞いたようだ。
本当に全員集まる中、仕切り直しにパーティーで狩りに出るかと話が出るが、イツキが、
「待ちなよ、リーダーの意見を聞かないと」
「リーダー? ああ、キリトさんも参加できますか?」
イツキの言葉に、クレハはキリトたちへと確認を取る。
「もちろん、だけど、このスコードロンのリーダーは」
「………存在感を消していたのに」
ため息を付き、楽しようとしたのがバレたらしい。
「あ……、スコードロンのリーダーに登録されているのは、確かにあんただけど」
「勘弁してくれ……。ただでさえ胃が苦しい。人の意見を優先すると言うことで、このままキリトに変わっていたことに」
「君はなにリーダーを下りようとしてるんだ」
ずっとみんなの意見が出る中、胃を押さえている男をこれ以上リーダーにしないでほしい。
どうやらこのままなし崩しはダメであるようだ。キリトたちは苦笑しながら、俺は頭をかく。
「ともかく、ここはトッププレイヤーである、キリトさんやツェリスカさんの意見を優先すると言うことで」
「それはおかしくないかい? テイル、キミはもう名実ともにトッププレイヤーなのだから。それに、みんなキミを気に入ってこのスコードロンに入っている。もっとキミが積極的にリーダーシップをとってほしいな」
正論になにも言えなくなる。かわりに顔色を変えよう。
「キリト、テイルの顔色が青ざめています」
「あんた、どこまでそういうのいやなの」
プレミアとレインがそういうのだから、だがまあ仕方ないのだろう。
元々他人との会話とか、拒絶反応するレベルであり、もうそろそろやる気も消えた。
果たして俺にリーダーをやる資格はあるか? キリトにあげようってのが本音だ。
例の件もあるし………
「まあまあ、リーダーだって色々な形があるだろうしさ。俺はクレハと二人三脚でいいコンビだと思うぜ」
「みんながいいなら、それでいいさ。ただね、少しどうかな……と思っただけなんだ」
キリトが終わらせようとしているが、なぜか今日に限り、イツキは話を引き延ばす。
それにはさすがに異を抑えつつ、内心首をかしげる。
「イツキさん、それってあたしの力が……、このスコードロンにふさわしくないってことですか………」
ん? 一番相応しくないはこの状況で胃が危険な俺ではないか?
「どうしたのクレハ? そんなこと、誰も言ってないわ」
「言って無いだけ?……なーんてね」
「イツキさんっ」
さすがにこれにはイツキの悪乗りが過ぎる。とはいえ、いま俺があれこれ言うのも、まずい気がした。
アスナたちの方を見ると、少しだけ頷いてくれて助かる。
「クレハ、あなたは十分強いわ。だから、そんな自分を否定するようなこと言っちゃダメ」
「……でも……」
シノンが静かに、クレハが気にかけていることを言ってくれる。やはり俺がリーダーとか間違ってるね。
「シノンくん、力にこだわっているのはクレハくんのほうだよ」
「真剣な人をおちょくったのはあなたでしょ」
「あー、それは謝るよ。すまなかった。むしろ僕は、リーダーは強さだけで選ぶのか? と聞きたかったんだよ」
「え、そんなわけないでしょ。だけど、そうね……。リーダーの基準なんて考えたことなかった」
「うーん。自然にそうなったかというか、いつの間にかみんなの中心になってたものね」
なんか旗色が悪い。胃が痛い、少し胃薬飲みたい。セーフティ起動してくれないかな?
「テイル」
「? どうした」
クレハが真剣な顔つきでこちらを見る。もう少し頑張ろう。
「あなた、自分が『特別』だっていうの?」
「すまない、リーダーの重責でいっぱいいっぱいなんだけど」
特別な存在だなんてもうたくさんだ。
別の意味で俺はそれがどんなに酷い意味かを魂に刻まれた。特別? そんなものになんか成りたくない。
「あたしは、あたしはあんたの後ろは、後ろなんてもういやなの!」
「どうしたクレ」
「あたしと戦いなさいテイル!」
その後すぐさまホームから出る。アスナたちの静止も聞かず。
こうして、クレハが少し暴走気味に、俺に戦いを挑んできた。
◇◆◇◆◇
「なんでこうなった」
あの後の話をすれば、俺が勝って、クレハが一度俺たちから離れて行った。
手加減はクレハにはバレるし、悪いだろうと思ったが、やはり俺は卑怯なりだろう。
故に本気で戦うしか無かったとはいえ、俺は色々おかしいんだ。
特別、そう、特別なんだ俺は。
そう成ってしまった。なんだがそれは、周りを欺き、騙している気がする………
「クレハの奴」
元々思いつめるタイプなのは知っていたが、知らない間に酷くなっていた。
GGOの数あるトッププレイヤーではなく、一番のプレイヤーになる。
一番、何者よりも一番。
記憶や記録に残る自分が欲しかったのは………
(前々から知っていたが、酷くなったのは、引っ越し先でもお姉さんばかりか)
仲間からも、いまはそっとしておくべきと話になる。
お姉さんのいないこの世界で、お姉さんを超える。でなければ………
(嫌いになる……。か、そう相談されたときがあったな)
小さい頃、お姉ちゃんが居なければいいと言いかけたあの子がいる。相談され、静かに面倒を見ていた。
あの子は俺と一緒に居る時は嬉しそうであり、そんなそぶりは無かったはず。
(ああいや、俺があの子と一緒だと、必ずなにかしていても自分も混じろうとして我が儘言ってた。俺の所為か………)
ため息をつく中、ツェリスカもリアルが忙しくなり、イツキは自分のスコードロンに戻る。
急に仲間が去っていき、ヒカリは落ち込むため、頭を撫でるしかない。
「マスター、みんな出て行ってしまいました」
「出会いがあれば、そういうこともある」
「マスターは寂しくないのですか?」
「寂しいのは分かるが、イツキはスコードロンの仲間たちがいる。ツェリスカはリアルの仕事も大切にしている」
「クレハは」
「………」
クレハだけはどうにもできない中、キリトからメッセが来る。
◇◆◇◆◇
キリトからの用事は、なんとなく察しがついていた。
それは事件を追うため、スコードロンからしばらく離れることだ。
一応、アミュスフィアで人は殺せないとキリトがはっきりと分かっている。
だがGGOで撃たれたプレイヤーが死んでいるのは事実だ。
「ただ現状では、
「………」
「そして、これは極秘情報だから内密にしてほしいんだけど、ある研究施設から《ナーヴギア》が盗まれたらしいんだ」
「なに」
いまなんて言った?
「えっ、で、ですけど、ナーヴギアは全部回収されたはずじゃないんですか」
シリカの言う通り、あんなものは二度とかぶりたく無い為、さっさと警察機関に渡した。
話では政府が資料として貸し出していた研究機関も、かなり厳重に管理していたらしい。
まあ、ナーヴギアは事実上、最先端の科学技術だからな。だが、
「だが、事件の後だろ」
「ああ。ナーヴギアが盗まれたのは、事件が起きた後だ。その事件で起きた被害者と思わしき二人はアミュスフィアを使っていた。だから直接の関連はないかもしれない」
その辺りは警察が必死で調べているらしい。
だからキリトは積極的に
GGOの頂点を決める戦いであるため、多くの注目が集まる大会。
さすがにこの大会に参加すれば、アバター名を隠していても直接対峙すれば知ることができる。打って付けと言うわけだが、
「キリト、ログイン状態はどうなる」
「明日から病院の一室を借りて、モニターされながらログインするさ」
「そうか」
他のみんなも苦肉の策で納得したらしい。
相手の手段が分からない以上、危険過ぎるからだ。
問題はクレハやツェリスカが大会に参加しなければいいんだが………
ともかく、これで話は解散し、俺はイツキのスコードロンに顔を出して、忠告しに出向く。
その時、
「ねえ、ちょっと」
「シノン」
ヒカリはそのままアスナたちとホームに残り、俺はイツキに報告しに出たとき、シノンが俺の腕を掴み、近づいて来た。
「悪いけど、私もしばらくパーティーに参加できないから」
「………シノ」
大きな声を出そうとしたが、それを手で覆われた。
「シっ、悪いけど、あの銃を持った男……
何をバカなことを言うんだこの子は。
「ダメだ狙われる」
「それでも、私は」
「ダメだ」
「………」
「………」
頭をかきながら、黙る条件として、リアルの住所と名前を明かすことを条件に黙る。
手口が分からない以上、現実世界に駆け付けられるようにしておきたいと伝えた。
「分かったわ、それでいいなら」
「………駆けつけられるのは、俺もログインする以上。大会後だぞ」
「それでも構わない」
そう言うシノンは、頑固として発言を取りやめない。
話を聞く限り、危険だとギリギリまで説得するが、それでも聞いてはくれなかった。
こればかりは仕方ない。むしろ、何も言わずに出られる方が危険だ。
(これ以上引っ張れば、ほんとなにするか分からない)
そう重々しい、久方ぶりの重りが身体に纏わりつく。
ああこの感覚、まったく……、嫌になるよ………
◇◆◇◆◇
イツキは忙しいために、大会に出ないようなので、危険だから出ないように伝え終え、ホームに戻る。
「マスター、疲れた顔をしているのです」
「考えなきゃいけないことが多いからな」
クレハはリアルで連絡はできる。
だが、もししたら大会に出ようとすると思うとなにもできない。
「メールが来ましたよマスター」
「差出人は」
こんな時にと思いながら、頭を盛大にかく。正直後にしてほしい。
「………」
ヒカリが驚きながら、差出人を言わないため覗き込むと、
自分を狙う犯行声明文に、仲間に連絡すれば仲間を狙うと言う内容。
「マスター」
「なんで
何かを送るらしい内容に、それに引っかかる。
「………まったく」
分からないことだらけだが、やらなきゃいけない。
「マスター、マスターはこのまま
「仕方ない、まあ、いつものことだ」
「マスター!」
ヒカリの頭を撫でながら、やはり自分に準備と言うものはできないらしい。
「初見で全てを見抜いて、看破して突破する。全ての準備が終わり次第、従って斬るさ」
あの体験でも俺はそう言うものだ。
変わらないやり方に、もう笑いすら出ない。
「マスターは守るのですね、大切な人達を」
「ああ」
クレハを初め、キリトだって大切な仲間だ。
その仲間を巻き込んだのだから、覚悟してほしい。
「お前を巻き込んだんだ、後悔させてやる」
「マスター……」
「大事なものが関わるときの俺は強い、信じてくれヒカリ」
「はいっ、了解なのですマスター!」
「なによりも」
「はい?」
首をかしげるヒカリに対して、俺は切り札を何枚か切る。
そう、相手は俺のことを知らない。
俺は、もう手段なんてもの知らないのだ。
「了解なのですっ」
「頼んだぞヒカリ」
できる手は全て打ち、後は自宅に送られるだろう品物を待つためにログアウトする。
こちらのことを舐めているようだ。
悪いが、
(俺は普通じゃない、転生者なんだぜ)
その所為で習得しなければいけないものは、全て習得した。
仲間に手を出すと言うのなら、
(いいだろう。ぶった斬るだけだ)
そうして、送り主の指示に従う。
相手が何者でも、俺は変わらない………
テイル「別に暗躍しても構わないだろ?」
ついにこの子、自立?しましたっ。
それでは、お読みいただきありがとうございます。