ソードアート・レジェンド   作:にゃはっふー

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第56話・魔城攻略

 探索の結果、ボス部屋らしい扉は開かない。そう言う情報を手に入れて、セブンたち運営側で調べたら、入る条件にゼルダ姫がいないといけないらしい。

 

「しっかし、話の内容聞くとクレームの嵐だろうな」

 

 クラインの言う通り、鍵を握るキャラクターがすり替えられていて、ボス部屋に行くことができないところだ。

 

 それだけでなくプレイヤーの敗北条件も簡単すぎる。初見殺しどころの話では無い。

 

 最後のアイテムを渡すイベントがどのような内容なのか分からないため、様々な憶測が飛び交い、その中でセブンが運営代表としてテイルに色々頼み込んでこんな内容になる。

 

 NOを選ぶと白い猫が現れ、まるで秘宝を姫に渡さないようにする中、姫は猫を強く払いのけると言う内容。ゼルダ姫は動物にも優しい心を持つ姫なのに、突然現れた猫への扱いに疑問を思いNOを再度選択。それでイベントが進み、姫にすり替わった魔王が姿を現したと言う。

 

 テイルはその時に白猫、魔王により姿を変えられた姫を保護した、そう言う内容にして欲しいとのこと。

 

 彼はそれを受け入れ、イベントは表向きには滞りなく進んでいることになっている。実際はゼルダ姫をテイルが偶然助けていたんだが。

 

 ともかくそういう経緯にして、その後彼は懐にゼルダ姫を入れて魔城を進む。

 

 城の中は数々のアイテムによる仕掛けばかりで、高難易度過ぎるため、運営にメッセージを飛ばすプレイヤーがいる中、彼は数々のアイテムを切り替えながら先に進んだ。

 

「とはいえきつい」

 

 クラインですらきつく、空が飛べるALOにコンバートして挑む中、彼だけはそれができないように設定されていた。コンバートすると自動的にテイルはゲームオーバーになり、プレイヤーの敗北になってしまう。

 

 だが彼は《アイアンブーツ》や《スピナー》。さらに《風のブーメラン》と《ダブルクロ―ショット》を使用して進む。ALO以外のプレイヤーはかなり苦戦している。

 

 だが俺たちALOプレイヤーも、

 

「ダメが低いよお兄ちゃんっ!」

 

「俺たちが与えられるダメージが一番低いからって、ここまで低いのは」

 

「七色が言った通り、カーディナルの暴走が原因なんだね」

 

 レインの言葉に、現在セブンたちはこのイベントの主導権を取り戻すために、現実世界で可能な限り支援している。

 

 だがモンスターのレベル操作はもちろん、ステータス操作すら受け付けず、中のマップもどんな風になっているか把握できないらしい。

 

 分かっているのは彼がボス部屋にゼルダ姫ことシロを連れて行かないと、そもそも扉が開かない設定になっている。

 

「少し休憩しますかテイルさん……」

 

「問題ない………」

 

 シリカが彼を心配する。無理もない。ここのモンスターは俺たちがどれだけ前に出ていようと、彼だけ狙ってくる。明らかにプレイヤーにゲームクリアさせないための設定。

 

 彼はずっと俺たちに援護されている。それでもかなり疲労していてもおかしくないが、

 

「少し呼吸を整えればすぐに動ける」

 

 そう言って少しだけ休憩しながら先に進む。唯一の救いは、帰りだけアイテムを使いダンジョンの入口へと戻れることだけだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「キリト君、シノのん、なにか隠してる?」

 

 それは唐突だった。俺たちがどうにかボス部屋前までのルートを進む練習をしていたときだ。

 

 ボス部屋はすでに他のプレイヤーが発見していて、彼らはボス部屋に入る条件を満たしていないために告知されて進むのかと言う声があった。

 

 運営はその声に乗っかり、ボス攻略戦を日程と時間をセブンに依頼して来たらしい。条件に合うプレイヤーがセブン、七色博士の知り合いと知った彼らの行動に、俺たちはあきれ果てるしかない。

 

 ともかくテイルはそれを承諾して、彼はボス部屋に指定された時間に行ける練習をする。

 

 そして明日と言う時、彼は宿で着いて、ユイにログアウトしても問題ないか聞いてから、彼はレインたちに武器と防具を渡し、必要最低限の行動をしてログアウト。

 

 これから俺たちはどうするか悩むとき、アスナが俺たちにそう聞いて来た。

 

「………なんのこと?」

 

 シノンは静かにそう聞き返す。俺はただ黙るしかできない。

 

「キリト君とシノのん、彼についてなにか隠してない?」

 

 シノンは動じないが、アスナたちはどうしてそう思ったんだ?

 

 いや、俺は心のどこかで彼がなにを思っているかと心配していた。それが表に出ていたんだ。

 

「ねえキリト君、わたしたちだって昨日今日の関係じゃないの。彼がなにか考え込んでダンジョンに挑んでいるのくらい分かるよ」

 

 それに黙り込む中、ユウキが心配した顔で見つめていた。

 

「ねえキリト。それは、ボクたちには話せない話なの」

 

 その言葉を聞きながら、俺は言葉を選ぶ。

 

 彼が抱えているのは、きっとSAO被害者とユウキの家族。彼は昔の俺のようにこれらのことに負い目を感じている。

 

 彼はできる範囲のことをしていたが、それでもあの事件が起きる可能性を知っていた。それはきっと彼の中でずっと残り続ける黒い部分だろう。俺も彼と同じ立場ならどうしていたか分からない。

 

 少しでも被害者を減らしたいと願い、そしてユウキの家族が救われる未来を信じていた。

 

 だけど彼にできること、できたことがどうなのか分からないままだ。

 

 被害者は減ったのか増えたのか、ユウキはこれで幸せか不幸なのか。

 

 なによりそれが良くなると信じていたから、彼は体験を乗り切ることができたんじゃないのか?

 

「………キリト」

 

 ユウキ、レインと彼と親しい関係の、いや違う。みんなだ。みんなが彼のことを心配している。

 

「………ごめん」

 

 だけどこれはきっと、他人が勝手に話していい話じゃない。

 

「これは俺の口から話すのは、ダメなことなんだ」

 

「それはわたしたちだけじゃなく、ユウキたちも」

 

「ああ。彼が一番悩んで、苦しんで、辛い思いの中で俺たちに話したのはたまたまなんだ」

 

 いまはまだみんなに話せない。だけどきっといつか、彼がみんなに話してくれる。俺はそう信じている。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 キリトとテイルがいなくなってから、ボクは町を見て回る。ほとんどの人が今度のボス攻略戦に参加するため意気込んでいる。

 

 だけどテイル。あの人だけは少しだけ雰囲気が違う。そりゃ、もしもプレイヤー側が敗北するとALOやGGO、他のゲームにまで影響が出る。またVRゲームから人がいなくなるのは悲しいからボクも頑張るけど、テイルは少し違う。

 

 時々思う。テイルのあの顔はなんなのかボクには分からない。

 

 レインが言うにはSAOの頃みたいって言ってたけど………

 

「テイルはずっとあんな顔でゲームしてたんだね」

 

 ボクの知ってる最初のテイルは物凄く疲れている人だった。

 

 本当に疲れてたんだろう。後から話を聞いてそれも分かる。ずっと誰かの為に戦って、ずっとゲームを楽しむこともせず戦っていたんだもん。

 

 だけど………

 

 目を閉じるとデュエルを挑んだとき、少しだけなにか嬉しそうだったのを思い出す。

 

 本当は遊びたかったんだと思う。ただのんびり自分のベースで楽しんで、みんなと一緒に楽しむのが好きなんだ。だからいまの無茶をしているテイルが気になる。

 

 テイルはどうしてゲームを、この世界に来て戦ってるのか知りたい。

 

「ちゃんと教えてくれるよね」

 

 ボクはいまではテイルの妹なんだし、少しくらい我が儘言いたい。

 

「妹か………」

 

 ボクがテイルの妹って少し分からない。だけどテイルの家族であることは嬉しい。

 

「よし、全部終わったらどんなことしても聞きだしてやる。そして」

 

 それでいっぱいテイルと遊ぶんだ。この世界で、一緒に笑うんだ。

 

 そう思い、少しでもテイルたちと共にボス部屋に行けるよう、ルート確認やレベリングしにフィールドに向かう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「よし、彼奴の分の武器は整備のための材料はあるっと」

 

「それじゃ頑張りましょうかレイン」

 

「うん。けど彼奴の武器はわたしがやるよ」

 

 そう言って全部の武器を見る。彼奴のアバターはSA:O。弓矢以外全ての武器が使えるため、念のため全ての武器、特に片手剣と盾は念入りに整備しないと。

 

「あんた、時間大丈夫なの?」

 

「大丈夫、ちゃんとスケジュール管理はできないと、アイドルなんてやれないよ。それに」

 

 彼奴のあの顔はなにか一人で思い詰めて、一人でどうにかできないか考えている顔だ。

 

 あの顔を見ていると武器を整備してフィールドに行く昔を思い出す。彼奴は誰に言われるでもなく、ただひたすらアイテムとお金を集めてギルドに渡していた。

 

 そのおかげで色々な人が助かったし、わたし自身も助かっていたのは確かだ。

 

 いつの頃だろうか、わたしが彼奴の専門鍛冶師になったのは。偶然だろうけど、彼奴はずっとわたしの武器に命を預けて、戦い続けていた。

 

 いまのわたしにできることは彼奴が命を預けられる武器を整備して渡すこと。

 

「けどまあ」

 

 全部終わったら彼奴からどんなことしても聞きださないといけない。なにをそんなに思いつめているのかを。

 

(SAO時代からの付き合いなんだからね)

 

 そう静かに決意して、彼奴の武器を整備し出す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 部屋の真ん中で倒れて天井を見る。

 

「………仮想と現実と体験の区別がつかなくなる」

 

 仮想世界でラストダンジョンであるあそこは、体験で味わったダンジョンのようであった。

 

 磁石床やらアイテム、使っていると少しずつ記憶の中のそれと重なる。

 

 あのダンジョンだけはまるっきり体験の中、おそらく〝アンノウン〟によって作り出されたステージなんだろう。おかげで思い出したくないことばかり思い出す。

 

 火山地帯、極寒地帯、砂漠、山頂、地下から古い神殿。

 

 色々なところを足や馬などで出向き、少しのミスで死んでは繰り返して。クリアするまでやり直していた日々。

 

 それで得たものがあったのか分からない。だって俺は詳しく〝物語〟を知らない。

 

 だけど俺が行動しなければいけなかったときはあった。なにより、

 

「ここは〝物語〟なんかじゃない」

 

 体験の中でもない、仮想もここも関係ない。全て〝現実〟だ。

 

 木綿季が生きているこの世界が俺の世界で、虹架は少しずつメジャーになり、和人は明日奈と仲が良く、珪子、里香、直葉、詩乃、琴音が和人たちの周りで二人を祝う。

 

 エギル、アンドリューの店でクライン、壺井が酒を飲みながらみんなでパーティー。

 

 仮想世界ではユイ、ストレア、プレミアを始め多くの仲間がいる。

 

 クレハ、紅葉ちゃんが少しずつお姉さんや家族と打ち解けて、ツェリスカ、星山翠子である彼女とはメールで会話するようになり、バザルト・ジョーとも話すようになった。

 

 そしてユウキが、紺野木綿季が少しずつだが抱えている病気が治り出している世界。

 

「俺はもうこの世界の住人だ」

 

 今回の件は間違いなく俺が引き起こしたものだろう。

 

 身の丈を考えず、あの勇者のように動ければSAOでどうにかできると考えた愚か者が見た〝記録〟が原因。それが木綿季たちの大切な世界を壊そうとしている。

 

 それだけは許されない、決して許していいはずはない。どうにかしなければいけない。仲間たちと共に。

 

「そうだよな」

 

 今回は仲間がいる。体験の中では一人だった。仲間になる者、慕う者たちは俺ではなく退魔の勇者に対して、けして俺ではない。

 

 だけど、今回は助けてくれる仲間がいる。そして守りたいと思う気持ちは勇者の物でも、自分で勝手に作った義務でもない。本当に俺の気持ちだ。

 

「明日の休み、昼間か」

 

 そう静かに呟き、備えるしか無かった。




下準備は念入りに。そして勘付くアスナたち。

それでは、お読みいただき、ありがとうございます。
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