すまない、番外編を付けるから許してくれ………
「はい、はいでは………」
男はある記録を見ながら上に報告する。
今回のAIボスの暴走にて良いデータが取れた。
「アバター名テイル君か。キリト君と同じSAO
彼は総務省の人間で、今回のイベントであるデータが正確なものであることを証明する実験を担当していた。
かくして、〝アンノウン〟と呼ばれるデータは、正確無比のデータであることは決定される。
あるプレイヤーの行動、データがそのデータと完全一致して、その他のプレイヤーが基準となるデータも取れたためだ。
「彼にもアプローチをかけたいが、彼の周りは固いな」
そう苦笑しながら一部〝アンノウン〟データをコピーしておく。
こうして彼らが知らないところで物語に繋がる話であった。
◇◆◇◆◇
エンディングと言うものがある。壊れた城ではなく別の大きな屋敷、そこで大々的なパーティーが開かれた。
パーティーは世界全体であり、お祭り騒ぎの中、勇者は魔王を討ち取り、冒険者たちは英雄になり、パーティーの主役となる。
「逃がしてくれ」
「秘宝を手に入れたプレイヤーはぜひって言ってるのよ。お願い、今回のボス戦でかなり怪しいところがあるから、少しでも盛り上げておきたいの」
セブンからそう言われ、仕方なく秘宝の勇者として運営側からの出席依頼を受けた。
結果、
「一人しかいないな」
「うんそうだね」
「あっははは………」
どこからか聞こえる仲間の声の中、姫の隣にいる俺。これって放送されるらしいんだが、他のプレイヤーはどうしたんだろう。明日は平日だから出席できないのだろうか?
ともかくシロから元に戻ったゼルダ姫が隣にいる中、周りに手を振り城下町を馬車に乗って一周すると言う拷問を受ける。
◇◆◇◆◇
「テイルのことだから拷問って思ってるんだろうな」
俺がそう呟きながら、彼を知る俺たちは苦笑いか頷くしかない。
運営側はボス戦で起きたテイルとの一騎打ちや、その際に起きた出来事など、バグやエラーであると正式に発表した。ただし一部の情報、AI搭載型のラスボスにGМ権限を奪われたことなどは隠して。
一部のことを素直に認めて、隠したいものから世間の目をそらすことで事なきを得て、いまはそれによるバッシング回避のため、セブンがこのお祝いに彼に頼み込むところからかなり忙しいのだろう。
「しっかしまあ、なんって言うか」
「ゼルダ姫さん、すっごい美人ですね」
魔王にすり替えられていた頃は一瞬見たが、こちらの方が可愛らしい顔をしている。年齢はテイルくらいだろうか? 綺麗な長い金髪のお姫様。クラインが鼻の下を伸ばしている。
周りのプレイヤーに感謝の言葉を述べながら、いまは彼と共に町を凱旋していた。
「………けどさ」
「少しだけ、彼、近くない?」
「そうか?」
俺はよく二人の方をよく見た。ゼルダ姫は頬をうっすらと赤く染めて、彼の隣で手を振る。よく見ると心ここに非ずと言う顔の彼の手の上に手を置いていた。
「むむむっ」
「テイルったら………」
「む~」
「彼奴はもう」
アファシスを始め、ユイやクレハ、レインとティアたちが凄い顔をしていた。彼は本当にNPCにモテるな。
だけどユイの反応はその、な………
ともかく今日はお祝い騒ぎの中、彼は疲れた顔でパーティーに付き合い続けた。
◇◆◇◆◇
「………疲れた」
「お疲れ様」
現実世界。彼は桐ケ谷和人と朝田詩乃をカフェに呼び、今回の件について情報をまとめ上げるつもりだ。
セブンもとい、運営側からの依頼で必ず秘宝を手に入れたプレイヤーとしてインタビューなどを受けて欲しいとのこと。メディアからも、凄腕のプレイヤーとしてテイルは話題に尽きないネタらしい。
いまMMOストリームなどからのインタビューや、リアルでのインタビューまで頼まれてメッセージボックスが知らないものばかり。
「まだまだ頑張らないといけないってのが辛いな」
ティラミスと紅茶を楽しむ詩乃とミルフィーユを食べる和人。ともかくと区切り、テイルのVR活動はしばらくメディア対応になるらしい。
それとセブンから聞いた話。それは、
「〝アンノウン〟についてだけど、これは規制がかかるらしい。今回の件と良い、このデータもブラックボックスとして認識された」
使うには使うが、理解できる範囲でのみ利用する。カーディナルと言う未知のシステムと同じ扱いで、今後の研究材料扱い。カーディナルは今後、このデータをどう扱うかは不明だが、今回のように使用されることはないだろう。
「仮想世界であるゼルダの伝説も、SA:Oと繋げたりするらしい。今後はSA:Oからあの世界へログインできるのは嬉しい限りだ」
「確かに、あのままあの世界が消えるのは寂しいもんな」
「大変だったぜ、ずっとゼルダ姫とエスコートするの」
「まあ、あなたの場合、目で見てわかるけどね」
なにか言いたげに詩乃は非難する目でこちらを見る。どういうことだ?
「彼女、すり替わっている間の記憶、猫の記憶はあるの?」
「あるって設定らしい。だからかな? 俺に対して親しい反応を返してくれる」
「………あなたキリトと同じね」
そう睨んできた。それになんのことだと思い、和人も急になんだと言う顔をする。詩乃は女心が分からない二人に対して呆れながら、新たに紅茶を頼む。
「ま、まあしばらくは全ゲームでログイン可能なんだし、気にすることではないか」
「そうだな。ミニゲームとか色々あるし、まだあの世界で遊びそうだ」
そんな話の中、詩乃は露骨な話の替えにため息をつき、それで彼女は静かに尋ねる。
「聞きたいことがあるのだけど」
「なんだ?」
「あなたはその、このままでいいのかしら?」
それは転生したことを話すかどうか。和人もまた少しだけ真剣になる。明日奈たちが少しだけ察していて、彼は考える。
「いまさら死んだことや、転生したことを伝えても関係は変わらないだろう」
それくらいは分かる。おそらく自分の知る仲間たちはそんな話を笑わず、ただ自分が抱える話を信じて、そして受け入れる。そこには彼が幸せになって欲しいと願った少女もいるのも分かる。
それでも話すタイミングは逃しているのは確かであり、少しだけ詩乃たちから視線を外し、思い出すように目を閉じた。
「俺があの世界にいた頃から、俺は夢の世界で現実として、異世界を冒険した。勇者の体験、記録をなぞるように。現実と言う形で無限に思える時間、SAO事件に備えていた」
「………それは」
「火山地帯で足を踏み外して溶岩に落ちることもあった。極寒地帯で肌が焼かれて、凍てつく川に飲まれること、雷に打たれたり、刃物で切られたりすることだって体験した」
それら全ては、SAO事件に生き延びてなお、同じプレイヤーを救うために必要なことだと言い聞かせてながら旅をしていた。
「五歳の頃から本格的に始まった備えは、本当に被害者を減らしたのか分からない」
「………」
「低年齢プレイヤーの保護は成功していたのは事実だが、俺が望んだのは被害者の救済だ。それでも被害者の数は減らなかったし、心に傷を背負ったプレイヤーがいる」
「あなたは全てのプレイヤーを救えるとでも思ってたの」
「そう思わなきゃ、やっていられなかった」
詩乃が厳しい声で言った言葉に、即座に返す彼は真剣だった。
和人も僅かに考える。もしも実際に痛みとして彼が言った全てを体験しているとしたら、彼は何回死んで、何回魔王に挑み続けたのだろうか。
「なにより俺は木綿季を救いたかった。家族を救いたかった」
「あの子はいま幸せよ、それを否定するの」
「確かにいまは幸せだ。だけど俺が夢見て願った幸せじゃない」
「………怒るわよ」
詩乃はそう呟く。それでも彼はそれだけは変えられないのだろう。静かにカフェオレを飲みながら呟いた。
「………分かっているんだ。だけどな、俺が気が付いたときには全部がまだ決まってもいない事態なんだ」
SAO事件が起きる前、木綿季の家族が死ぬ前。
もしかしたらなにか変わっていた。そんなことは無いのは理解できる。できるのにできない。
「変えられないと分かっていても、できることはしたんだろうけど、俺はいまの結果を受け入れられない。こんな性格なんだよ俺は」
「………損な性格だな」
「仕方ないさ。それでも過去は変えられない。だからいまも俺がしたいこと、できることをして望みを叶える」
「望みって」
「木綿季を幸せにする。そして仲間が関わるのならVR事件も解決する」
和人を見ながらそう宣言して、和人は苦笑いする。
「まるで俺が関わるようじゃないか」
「俺の知る物語の主人公はお前だから、お前を中心に問題は起きる星の下だよ」
「ふざけるな、そんなものになった覚えは無い」
「キリトガールズ」
「不名誉だっ」
詩乃だけはそのやり取りの中、和人と彼を睨みながら見る。
「あなたたち二人とも同じでしょ」
「ともかく、文句を言うなら和人も変なゲームや事件にほいほい首を突っ込むな」
「言われ無くてもそうするよっ。ったく………」
「後は彼女いるのに他の女の子と仲良くするな。よくて直葉だけ」
「なに言ってるんだよっ!」
「あんたたち二人ともに言えることよ。女の敵」
詩乃はそう言いながら和人を睨む。
そんな話の中、
「?」
シノンはなにか和人のポケットから、ぶつりと言う音が聞こえた気がした。
◇◆◇◆◇
彼は和人たちに奢ってからとことこと歩き、木綿季のいる病院へと向かう。
いまはVRにログインしているらしいので先生と詳しい話を聞く。
「本当ですか」
「ええ。最近木綿季くんは最近身体の調子も良いですし、新しい薬も良好です。もしかしたら無菌室から出られる日も遠くありません」
その話を聞く、いまの病気の容体も回復しつつある。
奇跡的なことであり、木綿季の病気の特効薬と言うわけではないため油断できないが、そこからちゃんとした薬ができるか、それで木綿季が治る可能性がある。それだけが救いだ。
その話が終わり彼は病室の前に来る。まだこの話は話せない。実際まだ容態によって変わることなのだから。
それでも希望がある。彼が望んだ結末とは違う結果だが、それでも望んだ願いを叶えられる。
その願いはもういま、自分の中で確かにある願いなのだから。
「木綿季?」
話しかけるが返事が無い。それに首を傾げていると、
『テイル。ちゃんと話したい』
そう言われた為、彼は隣の部屋に備えられているアミュスフィアで木綿季だけの部屋にログインした。
仮想世界ではあるがここは木綿季、ユウキが治療するためだけに創り出された部屋。
「ユウキ」
そこにいる姿はリアルの姿であり、向こうのユウキもリアルの姿だ。
そっぽを向きながら枕を抱きしめているユウキ。
何も無い空間ではあるがウインドウが開いており、映し出されているのはユウキの病室と、
「?」
それはまるでポケットの中のように見えた。それからキリトの声が聞こえる。
「………ユイかストレアか」
それで全て察する。ユウキたちはおそらく話そうとしないから、和人の携帯にアクセスして、その映像と音声を拾っていた。
それを聞かれるとごめんと呟くユウキ。彼は頭をかきながら近づく。
「………俺にとって初めはこの世界は小説に似た世界だった」
そう言いながらユウキを背後から抱きしめる。一瞬びくっと震わすがユウキは身体を預け、抱きしめられた。
「なんで俺がこんなことしているか分からなくなったし、SAO自体ログインしなければいいとさえ思った」
そう言いながら座り込み、ユウキをただ抱きしめる。
「それでも、やっていることは正しいと思いたくってしてたし、実際それが最善だったんだろう。まあ、それでも納得できないことばかりだった」
「………そうなんだ」
「………ユウキ」
ギュと抱きしめながら、静かに言う。
「俺は勝手にお前の幸せを願って、失敗した。あの時の俺は覚悟もなにも足りなかった」
「………」
ユウキは少しだけ顔を上げ、震える唇で静かに、
「いま、は………」
振り向くユウキ。腕の中にいる少女の顔を見ながら、彼は静かに、
「俺はお前に幸せになって欲しい。だからいまも変わらない、勝手に俺は願う。お前が元気になったら、まずは母さんたちよりも先に抱きしめるつもりだ」
その言葉に頬を赤くして、ユウキは微笑む。
「ほんと? ボクが一番大事?」
「ああ」
「………レインやクレハよりも?」
その言葉に首をかしげたが、彼は迷いなくああと頷く。そうすると頬を膨らましてしまうユウキ。
「ユウキ?」
「………なんかもやもやする………」
そんなことを呟きながら、しばらくこのまま、そのままと言われる。
結局彼は仲間たちに抱えているものを知られてもなにもなく、ただストレアがキリトに怒られ、反省している様子だけであった。
いまはそれだけ、それだけが彼の救いであり、守りたいものである。
エンディングを作るか。
みんなに受け入れられて、また少しトラウマが晴れたテイル。彼は本名を呼ばれる日が来るのか?
それでは、お読みいただき、ありがとうございます。