それは突然の事であった。
いつものようにユウキたちと仮想世界を巡り、ログアウトする時間になる。後はそのまま寝るだけだ。
ただそれだけのはずなのに、いつの間にか俺はここにいた。
「………森?」
一瞬、仮想世界にログインしたのかと思い、ウインドウを開こうとしたが何も起きず、それでも………
「この格好は……SA:Oのアバターテイルの格好だ」
ここはどこだろう? 夢の中にしては意識がはっきりしている。
森の中だろう。日差しが差し込む光景は神秘的であり、気のせいが何かの話し声が聞こえる。それも聞いたことのある話し方をしていた。
しばらく歩いていると、そこにそれは眠るように、それでも異質の存在感を放つ。
「マスターソード?」
『ほっほっほ』
その時、老人の声が森に響く。顔を上げると大きな大木があり、それはこちらを見ていた。
『うたた寝していたようじゃのう。久しい、そう言っておくべきじゃろて』
「デクの樹様」
『ふむ………』
デクの樹様。勇者リンクと深く関わるその精霊が話し出すと共に、この迷いの森の住人であるコログ族も木々の間から姿を現す。
その光景を見て俺は怪訝な顔で周りを見つめ、頭に付けた《アミュスフィア》を外そうとしたりするが、それが無い。
ならばこれは、体験なのだろうか? だがすぐに首を振る。体験ならば自分は勇者に成り、この場にいるはずだ。けしてテイルと言うアバターであるはずはないのだ。
「ここはなんだ? 俺に何か用なのか?」
俺は全ての疑問を後回しにして彼の賢人に聞くことにした。
彼は僅かに微笑み、静かに問う。
『何か用があるのはお主では無いのか?』
「俺はもうこの世界に関わる理由はありません」
『理由が無ければ関わってはいけないのか?』
「俺はこの世界にとって偽物です」
それに苦笑しながら、僅かにマスターソードが輝いた気がした。
『果たしてお主は偽物かのう? 試しにその剣に触れてみてはどうか?』
「まさか、俺に資格は無い」
そうだ資格なんて無い。俺は勇者でありたいとは思わない。
『じゃが願いはあるはずじゃ』
心の中を見透かされたようにデクの樹様はそう言い、俺は仕方ないと肩をすくめ、マスターソードの前に立つ。
静かにその剣を見て、柄を握る。
その時、光が辺りを包み込んだ。
◇◆◇◆◇
耳障りな悲鳴を響かせ、それは私へと光の槍を向けた時、辺りが光で包まれた。
私、ここで死ぬんだ。姫様や彼を置いて、ごめんなさいお父様、シド。そう思った時、
「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
その剣士は光の中から現れ、その槍を弾き、辺りを見渡す。見たことの無い人だ、耳は短くて、普通の人の雰囲気では無い。
「ここは、まさか、いや」
彼が持つ剣、それはあの人が持っているはずの物だった。
「あなた、どうして退魔の剣をっ!?」
「………ミファー?」
驚いた顔で私を見て、その時、ガノンの手先が氷のブロックを創り出した。
「危ないッ!」
私が叫ぶとすぐに横に飛び、ガノンの手下を睨みながら、周りを見渡す。
「ここはなんだ? 俺に何が、くそッ!!」
剣を構えながら、それでも相手の猛攻を剣で捌く。その様子はまるで彼のようだ。
「急いでここから、ルッタから脱出してくれッ!」
「それは」
「こいつを奪われるかもしれないけど、だけどッ!!」
腰に下げた剣も抜き、二刀流で槍を弾き、それは私の方へと走っていく。
「いまここであんたが死ぬところなんて見たくないんだッ!!」
そう言って私を抱き寄せて、ルッタの外に出る。その時に不思議な光の鎖を出す道具を使い、私たちはルッタの外へと脱出した。
「ルッタ………」
「GGOのアイテムが使えて助かった………」
私はガノンの手下に奪われたルッタを見たとき、身体が濡れているのに気づいた。
それは剣士さんの血だ。お腹を少し切っている。
「あなた、傷が」
「これくらい、まだ平気だ」
「ダメっ! じっとしていて」
私が手をかざして治癒の力を使う。それよりも早く退魔の剣が光り輝いている。
「待ってッ!」
私には分かった。この退魔の剣は本物である。そして私の下に彼を連れてきたように、退魔の剣は彼を別の場所に連れていく。
まだ傷は癒えていない。だけど彼は優しく微笑み、
「ありがとう、おかげで楽になった」
いまだ流れる血を見ながら彼は光の中に消えていく。
そこにいたのはまるで彼のような剣士。そして彼のように不器用な人。
「あの人は一体………」
私は困惑しながらも、いまは姫様たちの下に出向かなければいけない。彼もきっと、無理をしている。
◇◆◇◆◇
「ちッ! ここまでか」
俺の守りを突破して、ガノンの手下は大量の熱を集める。どうやら俺はここまでのようだ。
そう思い、それでも一矢報いようと考えると、
「でえやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
雄たけびと共に傷付いた剣士がルーダニアの背に下りて来た。
腹から血を流しているが、それでも剣を振るい、ガノンの手下に一矢報いやがったが、
「お前さんっ!?」
「いまはここから避難しろッ! 勇者や姫が危険なんだッ!!」
「だ、だが」
「ここは俺が引き受ける。だから頼む………」
その時、俺はこいつと初対面のはずだ。だがなぜかこいつの言葉は胸に響く。
こいつは必至だ。何か分からないが、俺はこいつの言葉を信じたくなる。
「分かった。だがお前さんも一緒だッ!! こればかりは譲れねえぞ」
「………分かった」
二本の剣を振るい、ガノンの手下へと構える。その一本は相棒が持っているはずの退魔の剣だが、いまは細かい事を気にしていられねえ。
「俺の守りでここから一気に脱出する。それまで守りを使うことはできねえが、攻撃はお前さんが弾いてくれッ!」
「ああッ!」
大剣のようなもんを構えるガノンの手下を睨みながら、俺はこいつと共に一気にルーダニアを駆け出した。
炎を斬り裂き、相手の武器を弾いて、俺たちはルーダニアから脱出する。
「ここまで来れば………ルーダニア」
彼奴には悪い事をした。必ず助け出さなきゃいけねえな。
そう思っていると、剣士の野郎が退魔の剣の光に包まれ出す。
「お、おいっ!?」
「俺は別の所に行きます。あなたは勇者と姫様の下に」
「待てッ!? お前さんその傷で」
「気を付けて」
光の中に消える剣士。
バカ野郎。気を付けるのはテメエの方だろうに。
まるで相棒がもう一人いるような感覚で、俺は急いで姫さんの下に走り出した。
◇◆◇◆◇
あーあ、もうダメ。羽根が傷付いているし、さすがに無理だな。
弓の弦も切れて、これじゃもう………
その時、ガノンの手下が悲鳴を上げて顔を抑えた。誰かが弓矢で射貫いた。
「は?」
「せいッ!!」
剣で弾き飛ばして、それがいきなり現れた。彼奴の剣を持っている。
「誰だ君は!?」
「いまは答えている暇は無いッ」
そう言って彼は僕を担いで、メドーの外へと飛び出した。
なぜか《パラセール》をなぜか持って、傷付きながらしゃしゃり出る。まるで彼奴みたいだ。きっと好きになれないね。
ともかくメドーから脱出して、僕はそいつを見た。
「僕よりボロボロじゃない。君、一体何なの?」
「知らない。だけど………止まれない」
そう言って退魔の剣が光り輝く。彼が弓矢を渡す。うん、これは良い物ではあるね。
「………死ぬ気かい?」
「そんな気は無い」
彼は光の中に消えた。ああ嫌だ。きっと彼とは仲良くなれないね。
ともかく、メドーはガノンに奪われてしまったけど、やることは変わらないか。
まずは姫様と彼奴の所にでも行ってやらないとね。
◇◆◇◆◇
悲鳴のような雄たけびを上げて、素早く動くそれには私の雷は効かない。
「こりゃまずいねえ………」
向こうも雷を自在に操って攻撃してくる。私には雷を防ぐ手は無い。
「ここまでか………」
高速が奴が動いた瞬間、振り下ろされる剣が見えたが反応できない。
だけど………
「なっ………」
ガノンの手下が持つ武器を、退魔の剣が阻んでいた。だけど退魔の剣を持つ者が違う。
「ぐっ……ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
雄たけびを上げて無理矢理剣を弾き、感電しながらも吹き飛ばし、私を見る。
「あんたは一体………」
「ナボリスを置いて、ここから避難しろ。姫や退魔の勇者が危険だ」
「それは………」
「こいつは強いッ! 頼む………」
確かにいまの状態でこいつと戦うのは得策じゃないね。
「あんたも傷を負っている。分かったよ、きっかけは作るから、彼奴にきついの頼むッ!」
「分かった」
雷を降り注ぎ、その隙間を閃光のように飛び立ち、奴を吹き飛ばした。
◇◆◇◆◇
一人の勇者が姫君を守る為、無数のガーディアンを相手に力尽き、姫は最後の瞬間に力に目覚めたときだった。
いまだ動くガーディアンに雷鳴が降り注ぐ。
「この雷は」
「御ひい様っ!!」
姫はその言葉が信じられず、雨が降り、泥だらけの中で目に涙は貯まる。
「なに? 彼、寝てるの? こっちだって寝たいのにのんきなもんだねえ」
「相棒ッ! 姫さん! 無事か!?」
「姫様っ! リンク!」
死んだと思われた彼らが現れ、姫様は首を振り、それでもすぐにいまのいままで自分を守っていた勇者を支えます。
「彼が、ミファーお願いしますっ!」
「はいっ!」
ミファーの癒しが勇者を包み込む時、姫は彼の手にある退魔の剣を見つめた。剣から声が響いたからだ。
その言葉は………
「勇者を助けたいんなら任せてくれ」
そう言って彼と同じくらいボロボロの青年が現れた。傷付いた退魔の剣と同じ、退魔の剣を手に持ち、勇者に近づく。
「それは退魔の剣……なぜあなたが」
「………」
青年は勇者を見ながら、傷付いた剣と自分が持つ剣を入れ替えた。
青年が持つ退魔の剣が光り輝き、その光が勇者を包み込むと共に彼の傷を防ぎ、勇者は目を覚ます。
「ここは………」
「リンクっ!」
全員が勇者の名前を呟き、彼の傷が癒えたことを喜ぶ中、どさっと言う音が鳴り響く。
「!? これは………」
青年はまるで戦い続けたように傷付き、持っていた剣を支えにどうにか気絶することはしなかった。
「あなた、まさか!? 彼の傷をあなたは」
「………偽物にしてはよくやったな」
そう言いながら、傷付いた退魔の剣を持ち上げて立ち上がり、勇者の傷を引き受けた青年は立ち上がる。
「あなたは」
「何者でもいい、勇者の偽物ができる範囲のことをしただけだ」
「にせもの………あなたは」
その時、彼が持つ傷付いた退魔の剣が淡い光に包まれる。光の中で彼は消え、英傑たちと姫たちは困惑しながら彼がいた場所を見つめた。
「あなたは、まさか………」
◇◆◇◆◇
「マジで痛い………なんなんだこれは」
いつの間にか森の中にいた。傷付いた退魔の剣を持ち、台座に差し込み、やっと倒れることができた。
夢にしては傷は痛いし、疲労が現実的過ぎる。体験なのだろうか? 彼はそう思いながら限界が近づいている。
「なんだっていいか……もう役目は終わった」
役目と言ってもなし崩しに行動した、自己満足、勇者への借りを返す感覚。なにが変わると言うわけではないのに。
傷から血が流れ、ここ最近忘れていた痛みを感じながら、意識が遠のく。目が覚めればいつもの家、布団の中だろう。そう思いながら目を閉じた。
………
……
…
意識が遠のいてから、身体が動かず、それでも優しい光に照らされている。
目を開くと、そこにはゼルダ姫がいた。
「気が付きましたか?」
「………なんで」
周りには英傑たちがいて、全員、彼が目を覚ましたことで安堵する。
「君のおかげで、神獣は取り戻すこともできた。厄災も倒すことができた」
勇者がそう言いながら彼を見て、彼も勇者を見る。
彼は何が何だかわからず、ミファーの癒しを受けながら、退魔の剣を見た。
「君が何者か彼女から聞いた」
「………なら分かるだろ? 俺はあんたの偽者だ、これがなんなのか分からないけど、行動したのは単に借りを返したかっただけだ」
「それでも、ありがとう。君のおかげで仲間を失わずに済んだ」
「………そうか」
勇者は退魔の剣を柄を向けて渡すように差し向けて、彼はそれを見ながら身体を起こす。
「君に、代表して伝える」
「………なにを」
「君も俺の仲間だ、テイル」
「………ありがとうございます、勇者リンク」
そう告げられ瞬間、光が辺りを包み込み、目が覚めた。
◇◆◇◆◇
「変な夢見た」
彼は起きると共に休日であり、やることもないのでアミュスフィアに手を上す。
「………まさかな」
レインの剣でかなり無茶した。だがそれは夢である、体験でも引きずることは無い。
そのはずだったが………
「なにに使ったのよこのバカっ!」
「………」
なぜか傷付いている剣に、レインにこっぴどく怒られる。
彼は首を傾げながら、まあいいかと考え込む。
退魔の剣を持つ勇者、その隣に物語の勇者が付け加えられる。
そんなことは知らない彼は、今日も絶対負けない剣士たちと、仮想世界を過ごしていた。
「あれは夢なのかなんなのか、まあなんにしても」
悪くない。そう彼は呟き、仮想世界を飛び回った………
この先どうするか、活動報告の方でアンケート取ります。
それではお読みいただき、ありがとうございます。