ソードアート・レジェンド   作:にゃはっふー

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第59話・神様の贈り物

 それは突然の事であった。

 

 いつものようにユウキたちと仮想世界を巡り、ログアウトする時間になる。後はそのまま寝るだけだ。

 

 ただそれだけのはずなのに、いつの間にか俺はここにいた。

 

「………森?」

 

 一瞬、仮想世界にログインしたのかと思い、ウインドウを開こうとしたが何も起きず、それでも………

 

「この格好は……SA:Oのアバターテイルの格好だ」

 

 ここはどこだろう? 夢の中にしては意識がはっきりしている。

 

 森の中だろう。日差しが差し込む光景は神秘的であり、気のせいが何かの話し声が聞こえる。それも聞いたことのある話し方をしていた。

 

 しばらく歩いていると、そこにそれは眠るように、それでも異質の存在感を放つ。

 

「マスターソード?」

 

『ほっほっほ』

 

 その時、老人の声が森に響く。顔を上げると大きな大木があり、それはこちらを見ていた。

 

『うたた寝していたようじゃのう。久しい、そう言っておくべきじゃろて』

 

「デクの樹様」

 

『ふむ………』

 

 デクの樹様。勇者リンクと深く関わるその精霊が話し出すと共に、この迷いの森の住人であるコログ族も木々の間から姿を現す。

 

 その光景を見て俺は怪訝な顔で周りを見つめ、頭に付けた《アミュスフィア》を外そうとしたりするが、それが無い。

 

 ならばこれは、体験なのだろうか? だがすぐに首を振る。体験ならば自分は勇者に成り、この場にいるはずだ。けしてテイルと言うアバターであるはずはないのだ。

 

「ここはなんだ? 俺に何か用なのか?」

 

 俺は全ての疑問を後回しにして彼の賢人に聞くことにした。

 

 彼は僅かに微笑み、静かに問う。

 

『何か用があるのはお主では無いのか?』

 

「俺はもうこの世界に関わる理由はありません」

 

『理由が無ければ関わってはいけないのか?』

 

「俺はこの世界にとって偽物です」

 

 それに苦笑しながら、僅かにマスターソードが輝いた気がした。

 

『果たしてお主は偽物かのう? 試しにその剣に触れてみてはどうか?』

 

「まさか、俺に資格は無い」

 

 そうだ資格なんて無い。俺は勇者でありたいとは思わない。

 

『じゃが願いはあるはずじゃ』

 

 心の中を見透かされたようにデクの樹様はそう言い、俺は仕方ないと肩をすくめ、マスターソードの前に立つ。

 

 静かにその剣を見て、柄を握る。

 

 その時、光が辺りを包み込んだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 耳障りな悲鳴を響かせ、それは私へと光の槍を向けた時、辺りが光で包まれた。

 

 私、ここで死ぬんだ。姫様や彼を置いて、ごめんなさいお父様、シド。そう思った時、

 

「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 その剣士は光の中から現れ、その槍を弾き、辺りを見渡す。見たことの無い人だ、耳は短くて、普通の人の雰囲気では無い。

 

「ここは、まさか、いや」

 

 彼が持つ剣、それはあの人が持っているはずの物だった。

 

「あなた、どうして退魔の剣をっ!?」

 

「………ミファー?」

 

 驚いた顔で私を見て、その時、ガノンの手先が氷のブロックを創り出した。

 

「危ないッ!」

 

 私が叫ぶとすぐに横に飛び、ガノンの手下を睨みながら、周りを見渡す。

 

「ここはなんだ? 俺に何が、くそッ!!」

 

 剣を構えながら、それでも相手の猛攻を剣で捌く。その様子はまるで彼のようだ。

 

「急いでここから、ルッタから脱出してくれッ!」

 

「それは」

 

「こいつを奪われるかもしれないけど、だけどッ!!」

 

 腰に下げた剣も抜き、二刀流で槍を弾き、それは私の方へと走っていく。

 

「いまここであんたが死ぬところなんて見たくないんだッ!!」

 

 そう言って私を抱き寄せて、ルッタの外に出る。その時に不思議な光の鎖を出す道具を使い、私たちはルッタの外へと脱出した。

 

「ルッタ………」

 

「GGOのアイテムが使えて助かった………」

 

 私はガノンの手下に奪われたルッタを見たとき、身体が濡れているのに気づいた。

 

 それは剣士さんの血だ。お腹を少し切っている。

 

「あなた、傷が」

 

「これくらい、まだ平気だ」

 

「ダメっ! じっとしていて」

 

 私が手をかざして治癒の力を使う。それよりも早く退魔の剣が光り輝いている。

 

「待ってッ!」

 

 私には分かった。この退魔の剣は本物である。そして私の下に彼を連れてきたように、退魔の剣は彼を別の場所に連れていく。

 

 まだ傷は癒えていない。だけど彼は優しく微笑み、

 

「ありがとう、おかげで楽になった」

 

 いまだ流れる血を見ながら彼は光の中に消えていく。

 

 そこにいたのはまるで彼のような剣士。そして彼のように不器用な人。

 

「あの人は一体………」

 

 私は困惑しながらも、いまは姫様たちの下に出向かなければいけない。彼もきっと、無理をしている。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ちッ! ここまでか」

 

 俺の守りを突破して、ガノンの手下は大量の熱を集める。どうやら俺はここまでのようだ。

 

 そう思い、それでも一矢報いようと考えると、

 

「でえやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 雄たけびと共に傷付いた剣士がルーダニアの背に下りて来た。

 

 腹から血を流しているが、それでも剣を振るい、ガノンの手下に一矢報いやがったが、

 

「お前さんっ!?」

 

「いまはここから避難しろッ! 勇者や姫が危険なんだッ!!」

 

「だ、だが」

 

「ここは俺が引き受ける。だから頼む………」

 

 その時、俺はこいつと初対面のはずだ。だがなぜかこいつの言葉は胸に響く。

 

 こいつは必至だ。何か分からないが、俺はこいつの言葉を信じたくなる。

 

「分かった。だがお前さんも一緒だッ!! こればかりは譲れねえぞ」

 

「………分かった」

 

 二本の剣を振るい、ガノンの手下へと構える。その一本は相棒が持っているはずの退魔の剣だが、いまは細かい事を気にしていられねえ。

 

「俺の守りでここから一気に脱出する。それまで守りを使うことはできねえが、攻撃はお前さんが弾いてくれッ!」

 

「ああッ!」

 

 大剣のようなもんを構えるガノンの手下を睨みながら、俺はこいつと共に一気にルーダニアを駆け出した。

 

 炎を斬り裂き、相手の武器を弾いて、俺たちはルーダニアから脱出する。

 

「ここまで来れば………ルーダニア」

 

 彼奴には悪い事をした。必ず助け出さなきゃいけねえな。

 

 そう思っていると、剣士の野郎が退魔の剣の光に包まれ出す。

 

「お、おいっ!?」

 

「俺は別の所に行きます。あなたは勇者と姫様の下に」

 

「待てッ!? お前さんその傷で」

 

「気を付けて」

 

 光の中に消える剣士。

 

 バカ野郎。気を付けるのはテメエの方だろうに。

 

 まるで相棒がもう一人いるような感覚で、俺は急いで姫さんの下に走り出した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 あーあ、もうダメ。羽根が傷付いているし、さすがに無理だな。

 

 弓の弦も切れて、これじゃもう………

 

 その時、ガノンの手下が悲鳴を上げて顔を抑えた。誰かが弓矢で射貫いた。

 

「は?」

 

「せいッ!!」

 

 剣で弾き飛ばして、それがいきなり現れた。彼奴の剣を持っている。

 

「誰だ君は!?」

 

「いまは答えている暇は無いッ」

 

 そう言って彼は僕を担いで、メドーの外へと飛び出した。

 

 なぜか《パラセール》をなぜか持って、傷付きながらしゃしゃり出る。まるで彼奴みたいだ。きっと好きになれないね。

 

 ともかくメドーから脱出して、僕はそいつを見た。

 

「僕よりボロボロじゃない。君、一体何なの?」

 

「知らない。だけど………止まれない」

 

 そう言って退魔の剣が光り輝く。彼が弓矢を渡す。うん、これは良い物ではあるね。

 

「………死ぬ気かい?」

 

「そんな気は無い」

 

 彼は光の中に消えた。ああ嫌だ。きっと彼とは仲良くなれないね。

 

 ともかく、メドーはガノンに奪われてしまったけど、やることは変わらないか。

 

 まずは姫様と彼奴の所にでも行ってやらないとね。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 悲鳴のような雄たけびを上げて、素早く動くそれには私の雷は効かない。

 

「こりゃまずいねえ………」

 

 向こうも雷を自在に操って攻撃してくる。私には雷を防ぐ手は無い。

 

「ここまでか………」

 

 高速が奴が動いた瞬間、振り下ろされる剣が見えたが反応できない。

 

 だけど………

 

「なっ………」

 

 ガノンの手下が持つ武器を、退魔の剣が阻んでいた。だけど退魔の剣を持つ者が違う。

 

「ぐっ……ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 雄たけびを上げて無理矢理剣を弾き、感電しながらも吹き飛ばし、私を見る。

 

「あんたは一体………」

 

「ナボリスを置いて、ここから避難しろ。姫や退魔の勇者が危険だ」

 

「それは………」

 

「こいつは強いッ! 頼む………」

 

 確かにいまの状態でこいつと戦うのは得策じゃないね。

 

「あんたも傷を負っている。分かったよ、きっかけは作るから、彼奴にきついの頼むッ!」

 

「分かった」

 

 雷を降り注ぎ、その隙間を閃光のように飛び立ち、奴を吹き飛ばした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 一人の勇者が姫君を守る為、無数のガーディアンを相手に力尽き、姫は最後の瞬間に力に目覚めたときだった。

 

 いまだ動くガーディアンに雷鳴が降り注ぐ。

 

「この雷は」

 

「御ひい様っ!!」

 

 姫はその言葉が信じられず、雨が降り、泥だらけの中で目に涙は貯まる。

 

「なに? 彼、寝てるの? こっちだって寝たいのにのんきなもんだねえ」

 

「相棒ッ! 姫さん! 無事か!?」

 

「姫様っ! リンク!」

 

 死んだと思われた彼らが現れ、姫様は首を振り、それでもすぐにいまのいままで自分を守っていた勇者を支えます。

 

「彼が、ミファーお願いしますっ!」

 

「はいっ!」

 

 ミファーの癒しが勇者を包み込む時、姫は彼の手にある退魔の剣を見つめた。剣から声が響いたからだ。

 

 その言葉は………

 

「勇者を助けたいんなら任せてくれ」

 

 そう言って彼と同じくらいボロボロの青年が現れた。傷付いた退魔の剣と同じ、退魔の剣を手に持ち、勇者に近づく。

 

「それは退魔の剣……なぜあなたが」

 

「………」

 

 青年は勇者を見ながら、傷付いた剣と自分が持つ剣を入れ替えた。

 

 青年が持つ退魔の剣が光り輝き、その光が勇者を包み込むと共に彼の傷を防ぎ、勇者は目を覚ます。

 

「ここは………」

 

「リンクっ!」

 

 全員が勇者の名前を呟き、彼の傷が癒えたことを喜ぶ中、どさっと言う音が鳴り響く。

 

「!? これは………」

 

 青年はまるで戦い続けたように傷付き、持っていた剣を支えにどうにか気絶することはしなかった。

 

「あなた、まさか!? 彼の傷をあなたは」

 

「………偽物にしてはよくやったな」

 

 そう言いながら、傷付いた退魔の剣を持ち上げて立ち上がり、勇者の傷を引き受けた青年は立ち上がる。

 

「あなたは」

 

「何者でもいい、勇者の偽物ができる範囲のことをしただけだ」

 

「にせもの………あなたは」

 

 その時、彼が持つ傷付いた退魔の剣が淡い光に包まれる。光の中で彼は消え、英傑たちと姫たちは困惑しながら彼がいた場所を見つめた。

 

「あなたは、まさか………」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「マジで痛い………なんなんだこれは」

 

 いつの間にか森の中にいた。傷付いた退魔の剣を持ち、台座に差し込み、やっと倒れることができた。

 

 夢にしては傷は痛いし、疲労が現実的過ぎる。体験なのだろうか? 彼はそう思いながら限界が近づいている。

 

「なんだっていいか……もう役目は終わった」

 

 役目と言ってもなし崩しに行動した、自己満足、勇者への借りを返す感覚。なにが変わると言うわけではないのに。

 

 傷から血が流れ、ここ最近忘れていた痛みを感じながら、意識が遠のく。目が覚めればいつもの家、布団の中だろう。そう思いながら目を閉じた。

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 意識が遠のいてから、身体が動かず、それでも優しい光に照らされている。

 

 目を開くと、そこにはゼルダ姫がいた。

 

「気が付きましたか?」

 

「………なんで」

 

 周りには英傑たちがいて、全員、彼が目を覚ましたことで安堵する。

 

「君のおかげで、神獣は取り戻すこともできた。厄災も倒すことができた」

 

 勇者がそう言いながら彼を見て、彼も勇者を見る。

 

 彼は何が何だかわからず、ミファーの癒しを受けながら、退魔の剣を見た。

 

「君が何者か彼女から聞いた」

 

「………なら分かるだろ? 俺はあんたの偽者だ、これがなんなのか分からないけど、行動したのは単に借りを返したかっただけだ」

 

「それでも、ありがとう。君のおかげで仲間を失わずに済んだ」

 

「………そうか」

 

 勇者は退魔の剣を柄を向けて渡すように差し向けて、彼はそれを見ながら身体を起こす。

 

「君に、代表して伝える」

 

「………なにを」

 

「君も俺の仲間だ、テイル」

 

「………ありがとうございます、勇者リンク」

 

 そう告げられ瞬間、光が辺りを包み込み、目が覚めた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「変な夢見た」

 

 彼は起きると共に休日であり、やることもないのでアミュスフィアに手を上す。

 

「………まさかな」

 

 レインの剣でかなり無茶した。だがそれは夢である、体験でも引きずることは無い。

 

 そのはずだったが………

 

「なにに使ったのよこのバカっ!」

 

「………」

 

 なぜか傷付いている剣に、レインにこっぴどく怒られる。

 

 彼は首を傾げながら、まあいいかと考え込む。

 

 退魔の剣を持つ勇者、その隣に物語の勇者が付け加えられる。

 

 そんなことは知らない彼は、今日も絶対負けない剣士たちと、仮想世界を過ごしていた。

 

「あれは夢なのかなんなのか、まあなんにしても」

 

 悪くない。そう彼は呟き、仮想世界を飛び回った………




この先どうするか、活動報告の方でアンケート取ります。

それではお読みいただき、ありがとうございます。

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