何ルダ姫(もう不埒者が現れたなんて言えない………)
その頃の、胸を触った不埒者「宿が埋まってたぜ………木の上で寝よう」
「ん~………よく寝たが、時間はまだあるな」
あの後、シークと別れ、木の上で夜を過ごした。宿が祭りの為、全部屋埋まってた。
日が上がると共に目を覚まし、野宿する中、シークとの待ち合わせまで時間はまだある。いまは朝飯を食って、その後にシークと落ち合うことになっている。
(しかし、睡眠ができたってことはどういうことだ?)
あの〝体験〟であろうと、眠ると一時終わる。寝ることは現実世界に帰る行動であり、セーブである。
いまの現状が〝体験〟であるとしたら、木の上で眠り出したら現実の自分が活動し出すはず。
(なのに普通に寝て起きた。意識だけが仮想世界のテイルにログインして、その身体のまま異世界に来たような状態)
な訳がない。それならばALOを初めとしたゲームのテイル装備になる。だがGGOを初めとした容姿、装備が混ざっている。
まるでこの世界の旅人テイルと言うテーマで、仮想世界の装備や容姿を選んで合わせたようだ。できればALOの弓か、GGOのUFGがあれば助かるのに、それが無い。
(ルピーはあるのもなんでだろう?)
そう思いながら朝飯を食う為に、空いている店を探す中で………
「………」
顔を上げた、空を見た、そして歩き出した。それを目指した。
早朝の朝に響く歌は優しく、透き通る中で、町から少し離れた海岸から奏でられる歌。
そして………
「―――あれ? テイル?」
俺は歌姫、彼女と再会した。
◇◆◇◆◇
あたしは彼を家に上げて、朝ごはんの残りを食べさせてあげた。
「パンとシチューしかないけどいいかな?」
「別にかまわないけど、いいのか?」
「いいのいいの、この前のお礼だよ。おじさんもいま祭りの打ち合わせでいないし」
そう言いながら彼に朝食を出し、彼はそれを食べ始める。
「いただきます」
「?」
そう呟いてから彼はパンとシチューを食べ始める。あたしはその様子を眺めながら見ていた。
「ごちそうさま。おいしかったよ」
「うん。けどいまのがあなたの国のお祈りなの?」
「ん? ああ、食材に感謝するって意味だよ」
そんな話を聞きながら、神様へのお祈りなのか色々聞く。いただきますは彼からすれば食事のあいさつで、食材への感謝らしい。
洗い物をしながら彼はすぐに出て行こうとするが、まだ時間があるらしく、少し外について色々な話を聞く。
「やっぱり島の外はすごいな~」
彼から聞く話は珍しく、なかなか聞かない文化で、聞いていて楽しい。
この島は多くの人が行き来する。だから様々な文化や歴史、様々な国があるのは知っている。知っているだけで、あたしは何も知らない。
「………気になるのか、外が?」
「うん♪ けど少し怖いな………」
危険なことだってあるのは知っている。素敵なことばかりではないのを知っている。
だけど夢見てしまう。海の向こうの世界、その先が見てみたい。
けど………
「それにあたしは〝歌姫〟なんだ」
「〝歌姫〟?」
「この島で守り神様を起こす歌を歌う、その歌を伝える一族なの」
そう言いながら凄いでしょと胸を張る。彼はそれに苦笑しながら話を聞く。
「開拓された島なんだろ? なんでそんな伝統があるんだ?」
「ん~詳しいことは知らないけど。大昔にそう神託があったらしいとかなんとか、あたしはそう聞いてるの」
「誰かに任せられないのか?」
「あたしのお父さんと先代であるお母さんはもういないし、おじさん一人だけ、この島に残せられないもの」
それもあるし、もう一つだけ理由はある。
「それに守り神様を寝かせ続けてはダメなんだ」
神託の話、この島の守り神の話。
守り神様は夢を見る。その夢は世界になり、悪夢へと変わる。
悪夢になった世界を覚ます為、世界の外から〝目覚めの使者〟が現れ、夢の世界を壊す。
それを繰り返してはいけない。目覚めの使者は世界を壊す。その世界に生きる全てを壊す為に。
目覚めの歌を絶やしてはいけない。その歌がある限り、守り神は眠りについてもすぐに目覚め、世界は生まれない。悪夢は生まれず、使命を背負う者も現れない。
「だからあたしたち〝歌姫〟たちが、歌を歌い続けないといけない。誰かに世界を壊す使命なんて、誰にも背負わしちゃいけないの」
そう微笑むと、彼は悲しそうな顔になる。
なんでこの話を彼に話すんだろう? あまり外の人に話しちゃいけないのに……?
「………それじゃ、俺は行くよ」
「うん。お祭り見に来てね、あたしの歌、綺麗だって評判なんだよ♪」
「ああ」
そう言い彼は出て行く。その後姿を見ながら、少しだけ懐かしくなる。
だけど………
(………これってなんだろう………)
緑の服を着こむ人、その後ろで彼が苦しみながら歩いている。そんな後ろ姿を幻視しながら、あたしは彼を見送った。
◇◆◇◆◇
森の中、待ち合わせの場所に来ると、シークは木々の中、木の上から飛び降り現れた。
「待たせたか?」
「いや。それより君はどこまで知っている」
すぐにその話をする中で、俺がすることは決まっている。
「楽器があるダンジョンを見に行きたい。まずはそこからだ」
「………分かった」
こうしてすぐに俺たちは動き出す。
テールのほらあなは崩れていて、すぐに中に入ることはできた。
だが中は壊されていて、奥へと進むと楽器の残骸がある。
「これは」
「『まんげつのバイオリン』。なぜここに………」
「次はつぼのどうくつ。『まちがいのホルン』に行くぞ」
そこに出向くとこれもまた壊れていて、カギのあなぐらの『うみゆりのベル』。アングラーのたきつぼの『しおさいのハープ』。
ナマズのおおぐちで『あらしのマリンバ』。かおのしんでんで『さんごのトライアングル』の残骸を見つけてから、昼食を取る。しっかりと町で買い物していた。
干し肉を噛みながら、パンを取り出す。シークももぐもぐと食べている中、
「んなぶっきらぼうに食うなよ。うまいぞこれ」
「別に。食事に興味は無い」
そう言い、黒パンを食べ始める。俺もまた食べたがあまりおいしくない。
「少し手抜き過ぎるだろ。なんかないかな?」
そう思いながら手持ちを漁ると、良いのを見つけた。やはり所持品が混ざっていた。
キリトからのおすすめの調味料があり、それをパンにクリームを乗せる。容器からスプーンでかけるタイプなのだが、直接かけて大量にクリームを乗せるのが好みである。
おかげで黒パンがクリームパンに変わり、一気に口の中に仕舞う。
(………?)
そうしていると視線を感じて、シークがこちらに意識を向けているのに気づく。
「使うか?」
「………」
静かに受け取り、スプーンも使いパンに乗せる。
「………」
急にパンを食べるベースが早まり、それを見ながら食事を終える。
クリームはすべて使い切られた。
◇◆◇◆◇
結局、オオワシのとうにある『ゆうなぎのオルガン』は壊れていて、最後を見つけに出向くまでに、シークが口を開く。
「君はどこまで知っている」
「答える気は無い」
そう言いながら進んでいる。シークはその姿を見ながら考え込む。
「………この島は開拓途中で偶然発見された島で、特別な伝統ができたのは、ハイラル王国の姫に神託が下ったからだ」
「やっぱりか」
そんなところだろうと思っていた。そのままシークは話を続ける。
「当時の姫がこの島に眠る存在について知り、守り神を悪夢から目覚めさせる楽器と共に歌が伝わった。歌は島に住みだした住人、その子供の一人がいつの間にか歌い出した」
「子供が?」
「ああ。歌姫の一族の伝承では、夢の中、空を泳ぐクジラと共に歌ったのが、歌姫たちが紡ぐ目覚め歌の正体だ」
それを聞きながら、楽器についてはこれもまた不思議な事に、島のどこかで見つかるらしい。
いつからあるか分からない遺跡、天熱のダンジョンからだったこともあれば、どこからか流れついたり、ふとしたきっかけから見つかったりする。
「壊れてもいつの間にかどこからともなくそれは見つかり、祭りの時、八つの楽器は歌姫と共に島中にその音色を響かせる。そのはずだ」
「はず?」
「………いまの、今世の巫女姫が予知夢を見た」
そう言いながら、楽器の残骸を回収したのだろうか、手の中のそれを見ながら呟く。
「悪夢から生まれた剣士が、楽器を壊し、悪夢の世界を創り出すと言う夢」
「………悪夢の世界をか?」
それにシークは頷きながら、こちらを不審者、疑わしい者として見る。
面倒だからシークが何者かなんかどうでもいいが、シークからすれば俺は一番怪しいのだろう。現に楽器は壊されているし、その場所を知るのだから。
(まあ理由が分からない、行動が不明だから、監視程度で済んでるんだろうが………)
そう考えながら、カメイワの前へたどり着いた。
そこはあの時のような状態であり、自然物にしてはあまりにも不自然な岩がある。
「ここは無事っぽいが………」
「この先はどうするんだ?」
「特殊な音色でゴーレム、岩を動かしてバトル。あのカメの頭っぽい岩を壊してダンジョンの中に入る。だがオカリナが無いから、音色を奏でることができない。爆弾無い?」
「岩を壊すほどの物騒な物は無い」
そう言って少し考え込んでから懐に手を入れて、何かを取り出す。
「これを貸すからその音色を奏でろ」
そう言ってオカリナを渡して来る。そのオカリナにはある紋章が刻まれ、あの日々の中、物語の中で大変お世話になった物。
なんていうかあえて考えないようにしているが、シークは………
(まあいいか)
思考を放棄してオカリナを吹く為に口を付ける。このオカリナ、他人に貸していいのだろうか? シークが少し目線を反らす中で、音色を吹いた。
奏でるのはあの世界で知った魂すら起こす歌だ。それが鳴り響き、演奏が終わると地響きが起き始める。
「戦闘の準備してくれ」
「ああ」
カメの岩が剥がれ、首を伸ばす。
「カメ?」
「俺に聞かないでくれ」
首は長いし俺もカメかと思ったよ。
そう思いながら二人して駆けだして、カメイワの首を叩き斬る。
◇◆◇◆◇
カメのような岩が口を開き、炎を吐き出しながら迫る。待て、混ざってないかテメェッ!?
「シークは下がってろッ!!」
攻撃を何度か当てたが変化がない為、頭部を連続で斬り込みながらそのまま首まで進む。
岩のはずが金属がぶつかり合う音が鳴り響く中で、一部の首の岩へと斬りかかると苦しむように変化した。
(トライフォースの『デグロック』が混ざってるのか? ん? なら………)
すぐに何かか来ると思い、膝を折り、無理矢理上半身を下げたら、冷凍ビームのようなものが通り過ぎた。
ブリッジの要領で後ろの、ビームが当たった場所を見ると凍り付いている。
(マジで混ざっているな。火も冷気も無いから斬り続けるか)
何度も何度も剣を振り回す。首が一つだけでよかった。
そんな中、決定打は無いものの、SAOで鍛えられた方法で戦う。
1でもダメージが通れば、後は時間が解決する。
永遠に思えるほど攻撃を繰り返し続け、倒れるまで敵を切り刻み続けた。
◇◆◇◆◇
自分が見る光景に目を疑った。
「入口が現れたぞ」
汗もかかず、息も乱すことも無く、長時間怪物と斬り合い続けたテイル。
彼の周りには岩の化け物の破片と共に、それが口から出した熱線などの跡がある。凍り付いた大地に、溶岩のように湯気を放つ黒焦げた岩。
その中でどんどん足場が限られる中でも気にも留めず、攻撃を繰り返すことができる剣士。
(こんな腕前を持つ者が国にいるか?)
答えは否。少なくても攻撃を避けつつ、その攻撃で変わった地形を把握し続けながら攻撃をかわし、攻撃を常に続ける剣士など聞いた事が無い。
彼は何者なんだろう。そう思いながら、彼と共にダンジョンの奥へと進む。
歌を途絶えさせては、あの夢を現実に変えてはいけない。
だからこそ気づかなかった。いつの間にか、彼を信用している自分がいたことに。それに疑問を持たないことに。
自分は気づかなかった。彼が何かに憎むようにダンジョンに入る瞬間を………
テイル「はいオカリナ。貸してくれてありがとう」
シーク「別に。必要ならば仕方ない」
テイル「ん? 待て、なにか吹くとこに汚れが………赤い? 唇でも切ってたか?」
そう言いながら口を触るが何もついていない中、シークは少しだけ考え込み、急に真っ赤になる。
シーク「はっ、早く奥に進むぞっ!!」
テイル「あっ? ああ?」
シーク(朝の稽古の時に吹いたけど、吹いたけどッ!? ちゃんと拭いたりして渡せばよかった………)
テイル「???」
お読みいただき、ありがとうございます。