ソードアート・レジェンド   作:にゃはっふー

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第66話・そして時は重なる

 本来ならばカメイワはかなり広いダンジョンだが、ただ一本の道、洞窟が広がるだけだった。

 

 そのまま奥へと進むと、たどり着いたのは階段だった。そのまま下へと続く道を歩くと、一つの台座と共に楽器がある。

 

「『えんらいのドラム』?」

 

「無事な楽器があったっ!?」

 

 そう言い、シークと共に近づき、シークがドラムを持ち上げる。

 

「………間違いない、これは『セイレーンの楽器』の一つだ」

 

「これだけは無事だったのか………」

 

 ほっとしたようにドラムを持つシーク。ここだけはまだ無事であり、残っていたのだろうか?

 

「シーク、楽器は全て知っているのか?」

 

「一度だけ、幼い頃に全て。だが………」

 

 昨年の祭りで発見されている楽器は古いがちゃんと管理され、厳重に保管されていた。

 

 だが全ての楽器は粉々に破壊され、一度島中を探し回ったらしい。

 

「今年は新しい楽器を使う事になっている。古くから『セイレーンの楽器』を使う人達は苦い顔をしていたが、新しい楽器は見つからなかった。壊れた三日くらい経ってから、どこからともなく見つかるはずの楽器がな」

 

「壊れたら、新たな楽器が生まれるのか? なら他の楽器も生まれる?」

 

「だと思うが時間が無い。もう祭りの時期が迫っている」

 

 残りの楽器はどうするか? そう考え込むと悲鳴が響き渡る。多くの人、若い人間の声。男女問わず響き渡った。

 

 シークと共に武器を構え、背中合わせで周りを見ると、唯一の入り口が暗闇に染まる。

 

【………何故だ?】

 

 影のような暗闇が現れ、形を取る。それにテイルは目を見開いて、苦笑する。

 

「懐かしい顔だなおい」

 

「知っているのか?」

 

「あれは俺の影かなんかだろう」

 

 彼はその姿を良く知っている。なぜならば、この世界に来る前はよく鏡で見ていたから………

 

【そこまで分かるのならそこをどけ。最後の楽器はここで壊すッ!!】

 

 牙が生え、充血した目から赤い涙が流れる。それに対して剣を向ける。

 

「そう言われてもな。俺なら分かるはずだろ?」

 

 対するテイルは目を見開き、剣を握る手を強める。

 

【もう一度世界を壊す気か? 目覚めの使者ッ!! 偽物で紛い物の、勇者が!!】

 

「………そうだよ偽物」

 

 そう言った瞬間、光と闇が激突した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 金属音が鳴り響き、シークは絶句しながら見守っている。

 

 早すぎて目で追うのでやっとの速さの中、悲鳴が響き渡っていた。

 

「この悲鳴はなんだ? テメェは一体何してる?」

 

【俺はお前が、勇者の紛い物が生んだ〝モノ〟。だがお前と違い、俺は俺の選択を選ぶ】

 

「だからどういうことかって聞いてるんだッ!!」

 

【コホリントを守るッ!!】

 

 それに驚く中、一歩前に踏み込んだ足が床を砕き、白刃が光を纏い闇を斬る。

 

「………ふざけるな」

 

 気配が変わった。シークはそう思う中、それは叫ぶ。

 

「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなざけんなざけんな………フザケルナッ!! 悲鳴も何もかもふざけてるんじゃねぇぞおいッ!!」

 

 鬼気迫る怒りを感じながら、それらは激突し合う。

 

【お前は勇者なんかじゃないッ! 救えたはずなのに何もせず、助けられたはずなのに何もしなかった。見ていただけの紛い物】

 

「あの島はもうねえんだよッ!! もう無いもん守るってどういうことだ説明してもらおうかッ!?」

 

【答える必要は無い。何もしないお前に、負けられるかアァァァァァァァッ!!】

 

 激突し合う剣がつばぜり合い、憎み合う二人。

 

【消えると知っていて何もしない。死ぬと分かっていて何もしない。後悔から、絶望から、罪悪感から逃げているお前が、しゃしゃり出て来るなッ!!】

 

「ああ俺は何もしない。何かをする資格なんて無いはずだッ!!」

 

【俺はあの場にいた】

 

「違う。俺はあの場にいなかったッ!!」

 

【そう言って何もしなかった事を正当化する気か?】

 

「ならいたとして何ができたッ!? 彼らの物語に、勇者の物語にできた染みがッ!!」

 

【そう言って逃げている貴様に、俺は、俺は負けるわけにはいかないッ!!】

 

 流れる血が刃になり、迫る中でそれを全て剣で叩き落す。

 

 だが………

 

「なんでお前は、俺はそこまで後悔していたのか……?」

 

【………分かっているはずだ。俺はお前、お前は俺だ】

 

 流れ出る血の中で、それはたたずむ。

 

【後悔しているだろ? 夢の世界を壊した事。なら、いいだろ? 抗っても】

 

「………あの世界をあのままにしていいはずがない。夢は覚めるものだ」

 

【だから壊すのか? 殺すのか? あの島を、また】

 

「またも何も無い。あの島はもう無い。なにより、俺に向けられた全ての感情は、勇者へ向けられたものだ」

 

【ならなんでこんなに心が痛いッ!? そう思うのならなぜ俺が生まれたんだッ!?】

 

 それを言われた時、僅かに剣が揺らいだ瞬間、鮮血が針に成り、テイルの身体を貫いた。

 

「テイルっ!?」

 

「ぐっ………痛みまでしっかりとあるのかよ………」

 

 そう言いながら、目の前の影を見る。影はその様子を見て口元を釣り上げた。

 

【俺はお前とは違う。意味を、理由を、価値を手に入れる。あの島の日々も】

 

「なにを言ってる?」

 

 両腕から血が流れ、悲鳴が響き渡る。

 

【あの世界を創り出す。多くの者で悪夢を創り出し、俺はもう一度、あの島】

 

 その瞬間、それは………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「クラインさん、みんなっ!?」

 

 全員がボロボロで、キリトの首を掴み上げ、締め上げている影。

 

【この悪夢は終わらせない。コホリントはもう泡になんてさせないッ!!】

 

「ち、がうッ! そんなこと、誰も望んでいないッ!!」

 

【俺が、俺が望んでいる。そう、それが俺の、絶望の中で生まれた俺の叫び声だッ!】

 

 そう言い黒い影の剣が巨大になり、キリトへと振り下ろされる。

 

 小さな妖精は叫び声を上げた。その叫び声は多くの悲鳴にかき消された。

 

 

 

 ザンッ!!と言う音と共に………

 

 

 

「えっ……?」

 

 影は半分斬られ、血と共に流れ落ちる。

 

【………なん】

 

【で………】

 

 空間が砕ける。

 

 ひび割れた空間から、片足が飛び出て影を蹴り壊す。二体いた影が一つ、粉々に砕け散った。

 

「………いまなんて言った?」

 

 砕けた空間から一人の剣士が現れる。

 

「多くの者で悪夢を創り出し、ってなんだ?」

 

「テイル………」

 

 紫の妖精剣士。ユウキはその顔を見て驚いていた。

 

 彼を知る者からすれば驚く。彼が怒りと憎しみを表に出しているのだから。

 

「テメェは俺だ。過去の、前世の、絶望に押しつぶされた俺の姿をした俺だと思っていた」

 

 そう言いながら、暗闇と鮮血が集まり、赤と黒で彩られた化け物が姿を会わらす。

 

「だが違う。テメェは俺の絶望から生まれた別のもんだッ!! 他人を犠牲に『マリン』たちの島を作る? ふざけた事言ってるんじゃねぇぞカスッ!! テメェを認めないッ!! 俺はどれほど絶望したとしても、これは俺だけのもんだッ! 人の絶望で悪さするな、返してもらうぞ化け物がァァァァァァァァァァ」

 

【理解できない………理解できないッ!! 愚か者がァァァァァァァァァッ!?】

 

 紅と黒の剣を構え、二つの色を纏う男とテイルが激突し出す。

 

 どちらも激高しながら、ぶつかり合いが始まった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 すぐに分からなかったが、ユウキは現れた剣士を見てテイルと呟く。なら彼はテイル本人だろう。

 

 そして彼は激怒している。自分の姿をした悪夢に。

 

「空間が壊れている。君は」

 

「これは……? あなたたちは? ここはどこ?」

 

 ヒビ割れた空間から顔を隠している人が現れ、俺たちに話しかける。

 

「俺たちは〝コホリント島〟で戦っていた者だ。君は?」

 

「コホリント? 我々も『コホリント島』からここに来た」

 

「!?」

 

 二つのコホリント島の話を聞いて、何かがおかしい事に気づく。

 

「ともかくここで目覚めの歌を響かせないといけない。だけど【セイレーンの楽器】が」

 

「『セイレーンの楽器』? それならここに一つ」

 

「!?」

 

 ドラムらしい楽器を見せてくれるが、確か楽器は八つ。数が足りない。

 

「フェリサッ!! 力を貸してくれ、フェリ」

 

 その瞬間、全身から冷や汗が噴き出した。

 

【それの名前を気安く使うなッ!!】

 

 一瞬で俺の側に来た影。紅と黒の剣が交差する中で俺はすぐに防いだ。

 

「キリト君ッ!?」

 

「そっちは任せたアスナ。行くぞテイルッ!!」

 

「ああ、手を貸せキリトッ!!」

 

 二人の剣士が走り出し、クライン、リーファ、ユウキたちは各々の顔を見て頷いて走り出す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 コホリント島。あたしが住む島はそう呼ばれ、あたしはこの島の歌姫。自分の家でシチューを煮込みながら、あたしは考え込む。

 

 別にそれに不満は無い。歌を歌う事に抵抗は無いし、この島が大好きだ。

 

 何より、この伝統が始まる切っ掛けを母から聞いたとき、あたしはとても悲しくなった。

 

『この島の守り神は眠りにつくと夢を見る。最初は小さなたまごが産まれ、それを中心に世界が生まれるの』

 

 守り神は眠り過ぎると島が生まれ、悪夢が生まれる。悪夢は夢の世界を維持する為に、守り神様を目覚めさせないように、悪夢の世界を創り出す。

 

 そして守り神様は目を覚ます為に、外の世界から人を招き入れて起こしてもらう。

 

『目覚めの使者は夢の世界を壊す為に現れるの』

 

 夢の世界にはその世界に〝生きる〟人はいる。目覚めの使者は彼らの住む世界を壊さないといけない。

 

『私が聞いた時、それは悲しい物語だと思ったわ』

 

 あたしもそう思う。その話、物語を知って考えた。

 

 目覚めの使者はきっと辛いと思う。あたしもこの島に生きている。外の世界を知らないあたしの世界。

 

 この島が夢で、覚めて泡にならなきゃいけないと知ったら、それはとても悲しい。

 

 だけどもっと悲しいのは、それをしなきゃいけない目覚めの使者なんだと思う。

 

 歌は絶やしてはいけない。たまごの時に守り神様を起こしてあげないといけない。

 

 そうしなければ、誰かが苦しむんだから………

 

「………なんで思い出すんだろう………」

 

 テイルと出会ってから、あの日の記憶が蘇る。彼になんとなくお世話を焼く。

 

 なんでだろうと思いながら、あたしは歌を歌おうと口を開こうとした時………

 

「………誰……?」

 

 誰かがいる気がして振り返る。

 

 火を止め、あたしは暗闇へと歩き出す。

 

「部屋の灯り、消したっけ……?」

 

 そう思いながら、誰かの叫び声が聞こえる。

 

 それを聞き悲しい気持ちに成りながら歩く。いまあたしはどこを歩いているんだろう……?

 

『お願い、彼を止めて………もう一人の目覚めの使者。あたしの歌は彼の為に成らない。あなたの歌で、彼を救って………』

 

 そう聞こえた時、テイルたちと黒い影は剣を交える場所へとたどり着いた。




テイル君だってキレる時はキレるのです。しかもいま彼、徹夜からやっと寝て起きての出来事。キリトたちのおかげでコミ力も上がりました。

それでは、お読みいただき、ありがとうございます。
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