本来ならばカメイワはかなり広いダンジョンだが、ただ一本の道、洞窟が広がるだけだった。
そのまま奥へと進むと、たどり着いたのは階段だった。そのまま下へと続く道を歩くと、一つの台座と共に楽器がある。
「『えんらいのドラム』?」
「無事な楽器があったっ!?」
そう言い、シークと共に近づき、シークがドラムを持ち上げる。
「………間違いない、これは『セイレーンの楽器』の一つだ」
「これだけは無事だったのか………」
ほっとしたようにドラムを持つシーク。ここだけはまだ無事であり、残っていたのだろうか?
「シーク、楽器は全て知っているのか?」
「一度だけ、幼い頃に全て。だが………」
昨年の祭りで発見されている楽器は古いがちゃんと管理され、厳重に保管されていた。
だが全ての楽器は粉々に破壊され、一度島中を探し回ったらしい。
「今年は新しい楽器を使う事になっている。古くから『セイレーンの楽器』を使う人達は苦い顔をしていたが、新しい楽器は見つからなかった。壊れた三日くらい経ってから、どこからともなく見つかるはずの楽器がな」
「壊れたら、新たな楽器が生まれるのか? なら他の楽器も生まれる?」
「だと思うが時間が無い。もう祭りの時期が迫っている」
残りの楽器はどうするか? そう考え込むと悲鳴が響き渡る。多くの人、若い人間の声。男女問わず響き渡った。
シークと共に武器を構え、背中合わせで周りを見ると、唯一の入り口が暗闇に染まる。
【………何故だ?】
影のような暗闇が現れ、形を取る。それにテイルは目を見開いて、苦笑する。
「懐かしい顔だなおい」
「知っているのか?」
「あれは俺の影かなんかだろう」
彼はその姿を良く知っている。なぜならば、この世界に来る前はよく鏡で見ていたから………
【そこまで分かるのならそこをどけ。最後の楽器はここで壊すッ!!】
牙が生え、充血した目から赤い涙が流れる。それに対して剣を向ける。
「そう言われてもな。俺なら分かるはずだろ?」
対するテイルは目を見開き、剣を握る手を強める。
【もう一度世界を壊す気か? 目覚めの使者ッ!! 偽物で紛い物の、勇者が!!】
「………そうだよ偽物」
そう言った瞬間、光と闇が激突した。
◇◆◇◆◇
金属音が鳴り響き、シークは絶句しながら見守っている。
早すぎて目で追うのでやっとの速さの中、悲鳴が響き渡っていた。
「この悲鳴はなんだ? テメェは一体何してる?」
【俺はお前が、勇者の紛い物が生んだ〝モノ〟。だがお前と違い、俺は俺の選択を選ぶ】
「だからどういうことかって聞いてるんだッ!!」
【コホリントを守るッ!!】
それに驚く中、一歩前に踏み込んだ足が床を砕き、白刃が光を纏い闇を斬る。
「………ふざけるな」
気配が変わった。シークはそう思う中、それは叫ぶ。
「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなざけんなざけんな………フザケルナッ!! 悲鳴も何もかもふざけてるんじゃねぇぞおいッ!!」
鬼気迫る怒りを感じながら、それらは激突し合う。
【お前は勇者なんかじゃないッ! 救えたはずなのに何もせず、助けられたはずなのに何もしなかった。見ていただけの紛い物】
「あの島はもうねえんだよッ!! もう無いもん守るってどういうことだ説明してもらおうかッ!?」
【答える必要は無い。何もしないお前に、負けられるかアァァァァァァァッ!!】
激突し合う剣がつばぜり合い、憎み合う二人。
【消えると知っていて何もしない。死ぬと分かっていて何もしない。後悔から、絶望から、罪悪感から逃げているお前が、しゃしゃり出て来るなッ!!】
「ああ俺は何もしない。何かをする資格なんて無いはずだッ!!」
【俺はあの場にいた】
「違う。俺はあの場にいなかったッ!!」
【そう言って何もしなかった事を正当化する気か?】
「ならいたとして何ができたッ!? 彼らの物語に、勇者の物語にできた染みがッ!!」
【そう言って逃げている貴様に、俺は、俺は負けるわけにはいかないッ!!】
流れる血が刃になり、迫る中でそれを全て剣で叩き落す。
だが………
「なんでお前は、俺はそこまで後悔していたのか……?」
【………分かっているはずだ。俺はお前、お前は俺だ】
流れ出る血の中で、それはたたずむ。
【後悔しているだろ? 夢の世界を壊した事。なら、いいだろ? 抗っても】
「………あの世界をあのままにしていいはずがない。夢は覚めるものだ」
【だから壊すのか? 殺すのか? あの島を、また】
「またも何も無い。あの島はもう無い。なにより、俺に向けられた全ての感情は、勇者へ向けられたものだ」
【ならなんでこんなに心が痛いッ!? そう思うのならなぜ俺が生まれたんだッ!?】
それを言われた時、僅かに剣が揺らいだ瞬間、鮮血が針に成り、テイルの身体を貫いた。
「テイルっ!?」
「ぐっ………痛みまでしっかりとあるのかよ………」
そう言いながら、目の前の影を見る。影はその様子を見て口元を釣り上げた。
【俺はお前とは違う。意味を、理由を、価値を手に入れる。あの島の日々も】
「なにを言ってる?」
両腕から血が流れ、悲鳴が響き渡る。
【あの世界を創り出す。多くの者で悪夢を創り出し、俺はもう一度、あの島】
その瞬間、それは………
◇◆◇◆◇
「クラインさん、みんなっ!?」
全員がボロボロで、キリトの首を掴み上げ、締め上げている影。
【この悪夢は終わらせない。コホリントはもう泡になんてさせないッ!!】
「ち、がうッ! そんなこと、誰も望んでいないッ!!」
【俺が、俺が望んでいる。そう、それが俺の、絶望の中で生まれた俺の叫び声だッ!】
そう言い黒い影の剣が巨大になり、キリトへと振り下ろされる。
小さな妖精は叫び声を上げた。その叫び声は多くの悲鳴にかき消された。
ザンッ!!と言う音と共に………
「えっ……?」
影は半分斬られ、血と共に流れ落ちる。
【………なん】
【で………】
空間が砕ける。
ひび割れた空間から、片足が飛び出て影を蹴り壊す。二体いた影が一つ、粉々に砕け散った。
「………いまなんて言った?」
砕けた空間から一人の剣士が現れる。
「多くの者で悪夢を創り出し、ってなんだ?」
「テイル………」
紫の妖精剣士。ユウキはその顔を見て驚いていた。
彼を知る者からすれば驚く。彼が怒りと憎しみを表に出しているのだから。
「テメェは俺だ。過去の、前世の、絶望に押しつぶされた俺の姿をした俺だと思っていた」
そう言いながら、暗闇と鮮血が集まり、赤と黒で彩られた化け物が姿を会わらす。
「だが違う。テメェは俺の絶望から生まれた別のもんだッ!! 他人を犠牲に『マリン』たちの島を作る? ふざけた事言ってるんじゃねぇぞカスッ!! テメェを認めないッ!! 俺はどれほど絶望したとしても、これは俺だけのもんだッ! 人の絶望で悪さするな、返してもらうぞ化け物がァァァァァァァァァァ」
【理解できない………理解できないッ!! 愚か者がァァァァァァァァァッ!?】
紅と黒の剣を構え、二つの色を纏う男とテイルが激突し出す。
どちらも激高しながら、ぶつかり合いが始まった。
◇◆◇◆◇
すぐに分からなかったが、ユウキは現れた剣士を見てテイルと呟く。なら彼はテイル本人だろう。
そして彼は激怒している。自分の姿をした悪夢に。
「空間が壊れている。君は」
「これは……? あなたたちは? ここはどこ?」
ヒビ割れた空間から顔を隠している人が現れ、俺たちに話しかける。
「俺たちは〝コホリント島〟で戦っていた者だ。君は?」
「コホリント? 我々も『コホリント島』からここに来た」
「!?」
二つのコホリント島の話を聞いて、何かがおかしい事に気づく。
「ともかくここで目覚めの歌を響かせないといけない。だけど【セイレーンの楽器】が」
「『セイレーンの楽器』? それならここに一つ」
「!?」
ドラムらしい楽器を見せてくれるが、確か楽器は八つ。数が足りない。
「フェリサッ!! 力を貸してくれ、フェリ」
その瞬間、全身から冷や汗が噴き出した。
【それの名前を気安く使うなッ!!】
一瞬で俺の側に来た影。紅と黒の剣が交差する中で俺はすぐに防いだ。
「キリト君ッ!?」
「そっちは任せたアスナ。行くぞテイルッ!!」
「ああ、手を貸せキリトッ!!」
二人の剣士が走り出し、クライン、リーファ、ユウキたちは各々の顔を見て頷いて走り出す。
◇◆◇◆◇
コホリント島。あたしが住む島はそう呼ばれ、あたしはこの島の歌姫。自分の家でシチューを煮込みながら、あたしは考え込む。
別にそれに不満は無い。歌を歌う事に抵抗は無いし、この島が大好きだ。
何より、この伝統が始まる切っ掛けを母から聞いたとき、あたしはとても悲しくなった。
『この島の守り神は眠りにつくと夢を見る。最初は小さなたまごが産まれ、それを中心に世界が生まれるの』
守り神は眠り過ぎると島が生まれ、悪夢が生まれる。悪夢は夢の世界を維持する為に、守り神様を目覚めさせないように、悪夢の世界を創り出す。
そして守り神様は目を覚ます為に、外の世界から人を招き入れて起こしてもらう。
『目覚めの使者は夢の世界を壊す為に現れるの』
夢の世界にはその世界に〝生きる〟人はいる。目覚めの使者は彼らの住む世界を壊さないといけない。
『私が聞いた時、それは悲しい物語だと思ったわ』
あたしもそう思う。その話、物語を知って考えた。
目覚めの使者はきっと辛いと思う。あたしもこの島に生きている。外の世界を知らないあたしの世界。
この島が夢で、覚めて泡にならなきゃいけないと知ったら、それはとても悲しい。
だけどもっと悲しいのは、それをしなきゃいけない目覚めの使者なんだと思う。
歌は絶やしてはいけない。たまごの時に守り神様を起こしてあげないといけない。
そうしなければ、誰かが苦しむんだから………
「………なんで思い出すんだろう………」
テイルと出会ってから、あの日の記憶が蘇る。彼になんとなくお世話を焼く。
なんでだろうと思いながら、あたしは歌を歌おうと口を開こうとした時………
「………誰……?」
誰かがいる気がして振り返る。
火を止め、あたしは暗闇へと歩き出す。
「部屋の灯り、消したっけ……?」
そう思いながら、誰かの叫び声が聞こえる。
それを聞き悲しい気持ちに成りながら歩く。いまあたしはどこを歩いているんだろう……?
『お願い、彼を止めて………もう一人の目覚めの使者。あたしの歌は彼の為に成らない。あなたの歌で、彼を救って………』
そう聞こえた時、テイルたちと黒い影は剣を交える場所へとたどり着いた。
テイル君だってキレる時はキレるのです。しかもいま彼、徹夜からやっと寝て起きての出来事。キリトたちのおかげでコミ力も上がりました。
それでは、お読みいただき、ありがとうございます。