ソードアート・レジェンド   作:にゃはっふー

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その人は見た記憶の無い人だと思った。

血だらけで、爪で引っ掻いたような傷口を持って、目が充血するほど見開く、知らない男性。

だけど、けど、どうしても、ボクはその人を知らない人とは思えない。

そしてその人と〝彼〟が似ている気がした。どう見ても似ていない、別人のはずなのに。

ボクは彼を……血だらけの剣士を【テイル】だと思ってしまった。

誰にも言えず、いまテイルは【テイル】に戦いを挑んでいる………


第67話・悪夢が見る島

 気が付くとそこは暗闇と悲鳴が響き渡る空間だった。

 

 そんな中で金属音、誰かの叫び声が聞こえ、あたしはそこへと向かう。

 

 目にした光景はテイルと誰かが戦っている。

 

 禍々しく、見たことの無い衣服を着込み、二十歳ほどの男性らしいそれは、魔物のような姿に変わり果てていた。

 

 周りには傷付いた人?たちがいる中で………

 

【俺は取り戻す………取り戻すんだ。彼女たちをッ! あの世界をッ!! 必ず………必ずッ!!】

 

 その人はどこか悲しそうに泣いている気がした………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 なぜだ? なぜこんな事になっているんだろう?

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 俺はただ世界を、あの島を消したくないだけなのに。なぜこんな事になっているんだろう?

 

 何がいけなかった?

 

 きっとあの時、勇者と〝体験〟であの島を消す選択を選んだのがいけないんだ。きっとそうだ。

 

 だから間違っていない。俺は間違っていない。

 

 マリンを、フェリサを、フクロウおやじたちを………

 

 取り戻す事の何が悪いッ!?

 

「もう彼女たちはいない」

 

 違う。だから世界を取り戻す。

 

 お前は諦めた。助ける事も救う事も何もかも諦めた。

 

 あの場にいないからと言い訳して、いないいないと言いながら選択して絶望と後悔をし続けるお前がいけない。

 

 俺は選ぶ、助け出す救い出すッ!!

 

 それが本当の〝俺〟が選びたかった選択肢なのだからッ!!!

 

「………お前は根本的に間違えているんだよ」

 

 キリトと共に斬り込む〝彼奴〟は、そう言いながら睨んでくる。

 

「テイル。こいつは」

 

「ああ、前世の俺の姿だ。我ながらここまで後悔していたと思うと」

 

「いや、こいつは君じゃない」

 

 そう言いながらキリトは斬りかかり、俺はそれを防いでいる。

 

「気づいていないのか? お前とテイルの違いが?」

 

 剣戟の中でキリトがそう話しかけてきた。

 

【何を? 違いなんて一つだ。彼奴はあの場にいないと言って諦めて、俺は取り戻そうと】

 

「そうじゃないッ!」

 

 ガキンッ!!と甲高い音が鳴り響いてつばぜり合いながら、キリトは俺を見る。

 

「夢の世界はもう無い。君の求める世界はもう存在しないんだ」

 

【違う。だからこそ俺は、俺は取り戻すために】

 

「また新しく夢の世界、悪夢の世界を作る? ふざけるなッ! お前は彼と違って〝体験〟を、俺たちの世界を見ていないッ!!」

 

 ………

 

 なんだいまのは?

 

 キリトの言葉を聞いた瞬間、視界にノイズが走り、黒い刃と紅い刃にヒビが走った。

 

「また作る? 取り戻すって一体君は何を取り戻すんだッ!? 君は本当に彼らに何を求めてるんだ? 守りたいからか、救いたいからか? 違う、君がしたいのは自己満足だッ!!」

 

 ノイズが視界に走り、何かが削れ、ひび割れる音が聞こえる。

 

【違うッ!!】

 

「ならなんで〝また作る〟なんて言葉を使うッ!!」

 

 剣にヒビが走る。亀裂が、俺の中の中かが壊れていく。

 

 なんだ? 感覚が薄れていき、何かが狂いだしている感覚だ。

 

「彼がキレるはずだ。お前は、お前の取り戻そうとしているのは………」

 

 やめろ。

 

 その先を聞いてはいけない、知ってはいけない。

 

 俺が全ての攻撃をキリトへと向ける。身体の鎧が腕と成り、爪を広げてキリトへと迫る。

 

 腕の数は剣と同化したものを含めて六本。爪と刃がキリトへと迫るが、キリトはそれを睨み、全てをソードスキルで叩き、弾き切った。

 

【な……ッ!?】

 

 その時のキリトは金色の瞳をしていて、データ処理のスピードを越えた速さと力で弾いた。

 

 ダメだ。その先は、ダメなんだ。

 

 なのに、手が足りない。身体が拒むと同時に、それを受け入れている。

 

 その言葉を、キリトの言葉を………

 

 ただ高速演算で周りの様子を見る俺からすればスローモーションの中で、その声は俺の中に溶け込んだ。

 

 

 

「『全部勇者が持っているものじゃないかッ!!』」

 

 

 

 その時、俺の中にある彼らの微笑みが、記憶が、俺自身が砕け散る。

 

【アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ―――】

 

 俺が消える。そうだ、俺は悪夢は偽物だ。彼奴が偽物のように、俺の元、彼奴が抱いた絶望は偽物だ。

 

 それを乗り越えた勇者(本物)と違い、(偽物)は乗り越える事が出来なかっただけ。

 

 彼らを消したくないと言う感情。砕ける俺は拳を振り上げて、キリトへと向けた。

 

 だけど、それをかいくぐり、キリトの双剣が煌めく。

 

「彼は〝体験〟であっても心を痛め、それでも無理矢理進んだ」

 

 俺しか聞こえない声で俺を射貫く目。

 

「だけどお前は他人の物を自分の物にしたいだけだ。例え勇者と同じように苦しみ、絶望し、耐えられなくても、それは君の物じゃない。物語を聞いて、話を聞いて苦しんでいるのと同じに過ぎない」

 

 その時のキリトからは、先ほどの覇気は無い。まるで俺のように苦しみ、キリトは俺を見る。

 

 切り裂かれる中、それでも抗う。

 

 それでも、彼らは………

 

「彼らは君を、テイルを仲間と認めても。他人を犠牲にするお前の行動は許されない」

 

 砕け散る身体。何か別の物も砕け散る音が響く。

 

「彼らの仲間と胸を張って名乗りたいのなら、悪夢の世界を、選んだ道を否定するな」

 

 ………

 

 分かっている。

 

 俺が抱く感情は本来勇者が持つもの。俺事態はただ勇者の話を聞いて抱くような嘘っぱちだ。

 

 なのに勇者や〝俺〟が選ばなかった道を選んで、自分の物のように見ていた。

 

 なぜそんなことを考えた? 俺はいつから〝勇者リンク〟だと勘違いしたんだ?

 

 なんで、俺はそんなことを………

 

『君の願いはなんだい?』

 

 その時、何者かの声が頭に響く。それは俺の思考に何かしている感覚。

 

 それでも俺のしたことは間違いでは無い。切っ掛けはどうあれ、俺はやはり、あの島を忘れられない。

 

 それでも俺は、ここで彼に討たれよう。きっとキリトが正しいのだから………

 

 そう考えながら、俺は〝俺〟に見られながら、砕け散った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「終わったの……?」

 

 アスナが首を傾げながら近づく。散りと成り消えるそれを見ながら、ユウキは悲しそうに見つめる。

 

「ねえあの人、どうしてあんなに苦しそうだったの……?」

 

「………どうにかしたかった」

 

 テイルは虚空を見ながら、手を伸ばして呟く。

 

「手が届きそうで届かず、その先を知っているのに変えられず、向けられた想いが別の人に対しても、彼らを大切に思ってしまった。彼らを助けたい、救いたい、そう願い、叫びたいほど願い望んだ」

 

 苦し気に言う彼の眼は、気が狂ったように喉や顔をかきむしるのを我慢するようだった。

 

「進まないと意味がないから進んだ。あれは俺だ、そんな理由で進んだ行ったから置いて行った感情だ」

 

 物語のページを勧めないといけない。先の展開を知り、それを食い止める事ができたのではと何度も何度も思った。

 

 それでも彼の知る物語通り、人が犠牲に成り、消え去り、救えない。

 

 自分がそこに居なくても、その場所にいたように〝体験〟する物語。それが耐えられない。それでも進まないといけなかった。止める事はできなかった。

 

 無理矢理進んでいった結果、あれが生まれた。勇者とは別の選択を選びたかった自分。

 

 それでも………

 

「それでも俺はこんな事を望まない」

 

 巻き戻そうとする様子はまさに、ゲームか何かを巻き戻そうとするようだった。

 

 彼らはそこに生きて、そこで彼らの物語を生き抜いたのだ。あの時自分が居れば変える事ができた結果を夢想することはある。

 

「だけど、巻き戻すなんて考えない。もう戻れない、巻き戻れない。もう終わった。勇者が選んで、彼らが選んで、もう物語は終わったんだ。だってそうだろ………」

 

 キリトはテイルの顔を見て、悲し気に反らす。

 

 彼にとって体験の中の世界は全て現実であるように、仮想世界での日々を、もう一つの現実として考える。

 

(だからこそおかしい。彼がここまで戻れるのなら戻りたいほどの後悔なのは分かる。だけど、巻き戻したり、また一から作り出すなんて決して考えない)

 

 キリトは思う。彼がそんな〝ゲームか何かのように、巻き戻そうと思うはずがない〟。

 

 キリトは確信している。彼がここまで体験の日々や自分の選択を後悔するのは、それを現実として、もう一つの世界として真摯に受け止めているからだ。

 

 なら彼はこんなことをするわけがない。

 

 その時、ノイズが走る。

 

 ――愚かな人間――

 

 ――埋め込まれた言葉に踊らされ、世界を作ろうとした愚かな散り――

 

 それは彼の塵を集め、身体を創り出し、彼らの前に現れる。

 

「なんだ………」

 

 ――異界の人間に取り出され、偽りの感情を与えられたただの偽物――

 

 ――所詮は悪夢、神足る我らの代わりに過ぎない。仮想の幻想――

 

 ――だが、我らは違うッ!!――

 

「きゃあああああああああああっ!?」

 

 女性の悲鳴が響き、暗闇を見る。

 

「マリンっ!?」

 

「テイルっ!!」

 

 暗闇の腕に捕まり、悪夢が目を覚ます。

 

【愚かなニンゲン。貴様のおかげでこの世界は永続される】

 

 閃光のように走り出すテイル。獣のようにすでに本能で目的を理解して、マリン救出に全神経を回した。

 

 砕け散る闇が集まり出し、それに巻き込まれたマリン。テイルは闇を薙ぎ払いながら、マリンへと手を伸ばす。

 

 無数の影の欠片が刃のように鋭くなり、テイルへと降り注ぐが………

 

「銃弾より、遅いッ!!」

 

 盾と剣で全て蹴散らす中でマリンへと手を伸ばす。

 

「オレらも」

 

「忘れないでよねっ!!」

 

「でっやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 クライン、ユウキにリーファが闇を斬り、マリンを救出してそれを見る。

 

「よお、何時ぶりだ? 『シャドー』ッ!!」

 

 人の姿に無数の腕、武器を持ち、紅い血のような鎧を纏うそれは、胸の鎧から巨大な瞳を開く。

 

【我らはユメの世界の、安定を築く者。この世界を滅ぼさせはせぬ】

 

「ふざけるなッ。その夢の住人たちを苦しめ、絶望する世なんて誰も望んでいないッ!!」

 

【決めるのは貴様らでは無い。我らだッ!!】

 

 片手で持てる禍々しい斧、黒い片手剣、紅の刀身の刀、片腕で持てるはずの無いほどの大きさの両手剣、黒い弓と矢、鋭いトゲのような槍、竜の頭部のような盾を持つそれは構え、キリトたちも武器を構える。

 

「ともかく、もうラスボス戦ってことでいいんだなテイル」

 

「ああ、その後で話し合いだ。ともかく」

 

「勝ってハッピーエンドだよね?」

 

「そう言うことよ」

 

「いくぜみんなッ!!」

 

『応ッ!!』

 

 こうして悪夢との最終決戦は、始まりを告げた。




シャドーはダークテイルを飲み込み、その力を使って姿を現した。

ダークテイルは前世の彼が血まみれになるほど気が狂った姿がベースです。ちゃんと人物像が無いのは、ほとんど傷と身体が壊れていたため、キリトたちはテイルと、見ただけでは気づきません。

キリトも覚醒しながら、シャドー戦、SAO版、夢をみる島は終わりへと向かいます。

それでは、お読みいただき、ありがとうございます。
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