ソードアート・レジェンド   作:にゃはっふー

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画面越しなのだろう。彼らは俺を見る。

『なかなか面白いデータだね。これは誰かの……感情データ? それにしても興味深い』

そう言いながらその男は俺に話しかけて来る。

『君の願いはなんだい?』

願い?

………

なんで俺はあの時動かなかった………

知っていた、分かっていた、理解していた。

なのに、なぜ動かなかった? 動けなかった?

『ふむ……後悔? 君は何に後悔しているのかな?』

彼らを救えなかった、なにも守れなかった。見捨てた。

『なるほど、興味深い……もしも叶うのなら、何がしたい?』

叶える? そんなことはあるはずはない。俺は偽物………

『反応が薄い。少しデータを動かそうか』

『どのように?』

『そうだね。それが〝叶う〟と想定してだね。彼が〝叶う〟としたらどんな感情を生み出すのか興味ある』

『分かりました』

………

叶う………俺の、願い、叶う………

ああそうだ、叶えなければいけない。守られなければ、いけなかったッ!!

『感情に動きがありました。これは……ただのデータ、思考ルーチンなのか?』

『このままこのデータの観測を続けてくれ』

俺は、俺は取り戻すッ!! 彼女を、彼らを、あの島を取り戻すッ!!

俺は……俺は取り戻したいッ!!

だけどそれは間違いなのだ。

だから倒せ、決めろ。

力の勇者、黒の剣士………


第68話・悪夢の終わり

 シャドーはある悪夢を取り込んだ。それは勇者の記録を持つ自分と同じ影の力。

 

 その力を振るう為に姿を変え、彼らを倒す。

 

 はずだった。

 

「でぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 キリトが両手剣を弾き、テイルがユウキとラッシュを放つ。

 

 シャドーは困惑していた。性能は確実に目の前にいる剣士の力を手に入れているはず。

 

【なぜだ?】

 

 攻撃は読まれている。全ての行動が先読みされて、うまく躱され、攻撃が突き刺さる事に疑問に思う。

 

「そんなの、決まってるだろ………」

 

 力を込めて片手剣を弾き、テイルは睨む。

 

「俺はそれを置いて前だけ突き進んだ。それよりも前にいる」

 

「なによりさあ、君ってテイルのコピーなんでしょ?」

 

 槍をかいくぐり、そう呟くユウキ。リズとシリカも微笑む。

 

「全部の攻撃はテイルさんみたいです」

 

「ええ。だけど」

 

 弓矢を放つシノンも不敵に笑う。

 

「纏めて使えば、いいってもんじゃないわよ」

 

 テイルは自分の技術を無理に纏めて使わない。使うとしても二刀流で戦う時だけ。

 

 槍を構えた足さばき、剣と盾の攻撃と防御の切り替え等々。身体一つで十全に使うとしたらそれのみで戦う方が一番強い。

 

 キリトたちからすれば、欲張って全ての能力を使うコピーに、怯える理由は無かった。

 

 正直下手なボスよりも強いが、テイルの強みを知る彼らは、こんなコピーに怯むことは無い。

 

「テイルの強いところって、これと言うポジションやスタイルをきっちりするところだからな~………」

 

 そうキリトはしみじみ思う。このボスは正直に言えば器用貧乏だ。

 

 魔法ダメなら魔法装備で整えたり、遠距離なら遠距離装備に整えたりする彼。そうしないと火力が足りない。

 

 無理矢理全能力を前に出しても、テイルの強さを発揮することはできず、こうして押す事はできる。

 

 刀を居合切りのように踏み込んで振るうが、ユウキとアスナは同時に踏み込んでかいくぐる。

 

「閃光!!」

 

 アスナの細剣が光り輝き、ユウキの剣も輝く。

 

「絶剣!!」

 

「「『マザーズ・ロザリオ』ッ!!」」

 

 剣舞が放たれ、片手剣も両手剣も砕け散り、キリトが懐に入る。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 切り裂かれる身体から暗闇が噴き出す。リズとシリカ、リーファとクラインが刀と槍を押さえ、弓を構えたシノンが相手の矢を持つ手首を貫く。

 

「これでッ!!」

 

「終われッ!!」

 

 クラインたちと共に腕を破壊して、テイルとキリトが畳みかけた。

 

【マダオワラヌッ!!】

 

 欠片になる肉体を気にも留めず、シャドーは形を維持せず、口を開く。

 

 人型だったそれが巨大な咢を開きながら迫るが、二人の剣士が剣で抑え込む。

 

【勇者でも無い貴様らにッ!! 悪夢は晴らす事はできぬうぅぅぅぅぅ!!】

 

 それに歯を食いしばり、ギリィと音を立てたテイル。

 

「俺はなあ………」

 

 その時、その手の甲が光る。

 

「例え勇者じゃなくても………」

 

 キリトの目の色が変わり、その手の甲が光る。

 

「仲間の為なら」

 

「俺の仲間を傷つけるのなら」

 

 その光にシークの手の甲も鼓動するように光る。

 

「これは」

 

 シークははっとなり彼らの手の甲を見ると、それは三角の黄金に近い輝きを放つ。

 

「偽物の勇者ぐらい何度でもなってやりぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「何者にも、負けるものかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 シャドーは見た。勇気、知恵、力の黄金の三角形の集まり。

 

【バカな………お前は、偽物のはず………】

 

 その目が見るのは、勇者の偽物であるはずの男の甲。

 

 三つある三角形の真上に輝くそれを見ながら、それは消し飛んだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「終わったのか?」

 

 俺がそう言うと光が消えている。手に輝いたのはなんだったのだろうか?

 

「なにがどうなってるんだ? キリトたちはALOか」

 

「君はどうしてここに?」

 

「寝てたら体験みたいに異世界にいた」

 

 そんな事を言いながらユウキが彼に抱き着き、顔を隠すテイルの連れのシークと、マリンと言う少女が仲間たちと共に近づく。

 

「テイル。この人? たちは………」

 

「俺の仲間。それより、ここは?」

 

「ああ………」

 

 俺と彼らの話を纏め、二つのコホリント島の話を聞き、しばらくしてテイルは口を開く。

 

「考えられるのは、まだたまごすら生まれていない夢の世界。俺たちの世界で誰かか何かして、悪夢がかなり早い段階で生まれて行動したんだろうな」

 

「それじゃ、ここは守り神様の夢の世界なの?」

 

 マリンと言う少女が不安そうにつぶやくと、テイルは静かに頷く。

 

「ともかく楽器は一つここにある。おそらく〝現実にある〟セイレーンの楽器だろう」

 

「俺たちをここに導いた彼女は、現実の楽器が壊されているから、仮想世界の楽器を生み出して解決しようとしたんだろうな………」

 

 アスナたちは困惑する。まあ確かに、彼から色々聞いていないと分からないところがある。シノンも苦虫を噛むような顔だ。

 

「だが君らが言う、君たちの世界の楽器も壊されている。現実の楽器は一つ」

 

「歌はあたしが歌っても良いけど、楽器は八つ必要だよ」

 

 シークとマリンがそう言い、全員が考え込む中………

 

「問題ないよ」

 

 そう言いフェリサが姿を現した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 彼女を見た時、俺の視界が歪んだ。

 

「………フェリサ」

 

「こんにちは、馬鹿な人間さん」

 

 そう彼女は悲しそうに呟く。

 

「………そうか。君がキリトたちを導いたのか」

 

「ええそうよ、私の役目は目覚めの使者のサポートよ。いまも昔も変わらない」

 

 そう言いながら俺に近づいて、その小さな体を使って頬を蹴る。

 

「ばっかじゃないッ!? あんたにとってあんなの夢物語みたいなもんなのに、あの馬鹿勇者みたいに苦しんで、しまいにはぐちぐち、女々しいったらありゃしないわよッ!」

 

「………そうだな」

 

 そう苦笑したら、彼女は悲しそうに俺の頬に手を当てる。

 

「………あんたには選択肢なんて無かった。物語を進める以外に無いんだから、気にしなくてもいいのに。どうしてあんなに苦しんでるのよ………」

 

「………」

 

「私たちはあんたがいたことすら知らなかった。あんたが心を痛め、苦しみ、それでも………彼奴みたいに頑張ってくれたあんたに、気付かなかった」

 

「フェリサ………」

 

 そう言い、フェリサは悲しそうな顔から微笑み、俺の胸に手を当て、光を取り出す。

 

 それは七つあり、それぞれ楽器へと変わる。

 

「これは貴方の中にあった、夢見る島の楽器。貴方の中で育まれた、あの島の記憶から生まれた楽器たち………」

 

「………なんだよ。最初から俺を呼べば解決したんじゃないか」

 

「………私は貴方なんて呼びたくなかった」

 

 初めから俺を呼べばよかった。その言葉を否定せず、悲しそうに苦笑する。

 

 なぜ俺を呼ばなかったのか、それはここに来れば俺が苦しむから。

 

「フェリサ、君は〝どの〟世界で生きている」

 

「………」

 

 それにみんなの様子を見る。

 

 仮想世界のキリトたち。

 

 もう一つの異世界にある、コホリント島から来たシークとマリン。

 

 なら彼女は?

 

「俺はもう一度、君を泡に変えなきゃいけないのか」

 

「………そうよ」

 

 その言葉に動揺する仲間たち。俺は………

 

「………シーク。オカリナを貸してくれないか」

 

「テイルっ!?」

 

「目覚めの歌は俺が奏でる。この世界を終わらして、彼奴を起こす」

 

 そう静かに覚悟した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 暗闇が囁くように響く。

 

【フェリサを殺すのか?】

 

「これって」

 

 もう声しか無いそれは、虚しく辺りに響く。

 

【なんでだ? お前はその選択肢を選びたくない。だから俺は生まれ落ちた】

 

「ああ」

 

 彼は迷いなく呟く。それに悲鳴の代わりに形を創り出す。

 

 傷付き、血を流し、血の涙を流す影。それはもう一人の、自分が選んだこととはいえ深く考えもせずに、力を求めた愚か者だった。

 

【お前は自分が助かりたいからまた勇者の真似事をするのか?】

 

 ユウキが何か言いたそうに前に出ようとしたが、その前にテイルはその前に出る。

 

「言ったはずだ。仲間の為なら、俺は偽物でも勇者に成る」

 

【そう言って彼女を殺す事を正当化する気か?】

 

「彼女たちは勇者の中で生き続ける」

 

【だから消すと言うのか?】

 

「それが、彼女たちの願いだ。よそ者の、偽物がしゃしゃり出でどうする?」

 

 それがはっきりとした姿に成り、何か口を開こうとして黙り込み、その場に座り込む。

 

【………俺はお前が置いて行った感情だ】

 

「………」

 

【現実世界でコピーされ、思考ルーチンを刺激され、行動するデータが元】

 

「なんだって!?」

 

 キリトが驚く中、それは血の涙を流しながら、静かにその手を見る。

 

【助けたいと望み、救いたいと望んでいながら、俺は勇者の体験をなぞるだけで、勇者ですら防げなかった悲劇を止める事はしなかった。起きると知っていて、そうなると分かっていながら】

 

「そして後悔がここで一気に噴き出した」

 

【そうだ。勇者ですら目を背きたくなる現実と真実に、偽物が耐えられなかった。だが、お前は置いていくことで先に進んだ】

 

 そしてその身体が崩れていく。

 

【お前がまた絶望を置いて進むのなら進めばいいさ。俺はもう疲れた………】

 

「………ふざけるな」

 

 そう言ってその手を掴み、無理矢理立ち上げらせる。

 

「俺は確かに偽物だ。だがいまは違う」

 

【偽物がいまさら本物になるとでも言うのか?】

 

「なんだっていい。なら聞くが、お前はフェリサをこのままにしたいのか?」

 

 それに初めてそれは動揺した。

 

「この島を悪夢のまま永遠に縛るのか? このまま苦しみ続く世界に閉ざすのか? 勇者の偽物の癖に、勇者がどんな思いで島を解き放ったのか分からないのかっ!?」

 

【お前は】

 

「今度は勇者だからじゃない、テイルと言う人間として選ぶ。あの野郎は起きてもらわないと困るんだよッ!!」

 

 そう言って影の胸を叩き、睨みながら訪ねる。

 

「このまま悪夢を、閉ざされた世界をまた生み出す気か? 誰かにフェリサたちの世界を壊させるのか?」

 

【………俺は】

 

「俺は他人の手にゆだねる気は無い。言ったはずだ、偽物になってでも、目覚めの使者の使命は俺がする。他人に渡さない」

 

【………こんなに苦しんで、選びたくないと叫んだのに、それを選ぶのか?】

 

「それはもうとっくの昔に選んだ道だ」

 

 それに影から血が消え、僅かに影は笑う。

 

【ああそうだな。俺はもう、選んでいたな………】

 

 その時、ユウキを見つめ、キリトたちを見つめる。優しい穏やかな顔で………

 

【最後に、消える前に願いがある】

 

「なんだよ」

 

【あの野郎が二度と世界を作らずに済むようにクレーム付けろ】

 

「………ああ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 奏でられる歌は目覚めの歌。絶望に光が差し込み、悪夢が終わる。

 

 彼はシークからオカリナを受け取り奏で、その周りで八つの楽器が音を鳴らす。

 

 消えていく世界の中、影は最後まで世界を見続けた。

 

【………】

 

 間違っていたのだろうか? もう答えが分からない。

 

 所詮は偽物、考えることも間違えなのかもしれない。そう思いながら歌を聞いていた。

 

 その時、その手を掴む少女がいる。

 

【………ユウキ………】

 

「………間違ってないよ」

 

 ユウキはそう言いながら強く握りしめた。テイルでは無く、影の手を………

 

「優しすぎるから、どうしても頑張って生きる人たちの為に頑張りたがるのは、ずっと変わってないんだね」

 

【………俺は】

 

「偽物なんか言わないで。ボクにとって、みんなにとって」

 

 そう言いながら満面の笑顔を見せて、影の両手を握る。

 

「君は大切な仲間だよ」

 

 そう言った時、肩に乗る妖精がいた。テイルでは無く、自分の肩に………

 

【………そうか】

 

 そして影は優しい涙を流して泡へと変わる。

 

 こうして悪夢の物語は終わりを告げた………




絶剣と閃光の必殺技、キリトも何気に覚醒しています。さすがキリト。

それでは、お読みいただきありがとうございます。
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