また、作者名で全てを察して、"あ、コイツ嫌いだわ"等と思った方もプラウザバックを推奨しております。
それでも残った酔狂な方々はどうぞお楽しみください。
カルデアのメイン盾
(我、降臨)
後にソレに対して歴史書を書くとすれば最初の一節はこのように始まった。というよりも、実際にソレは卵の殻を破り産まれた瞬間にそのように思ったらしい。何故そう考えたのかとソレに問えば可愛らしく小首を傾げながら逆に疑問符を浮かべてくるのでそういうものなのである。
まあ、かの釈迦は右脇から生まれた直後に七歩歩いて右手で天を指し、左手で地をさして天上天下唯我独尊と述べたそうなのでこれでもかなり控え目な方であろう。謙虚だなー、憧れちゃうなー。
ソレの見た目は蜘蛛に酷似しており、強いて言えば正面から見ると下半身多足の人型のようにも見える。大前足・小前足・小後足・中後足・大後足が2本づつ、計10本足を持つ蜘蛛のような姿をしていた。大きさは3m程である。生物で言えば小さめであるが、生物の幼体と考えるとあまりに巨大なサイズであった。
ここでは暫定的にソレのことを"クモさん"としよう。
クモさんは幾つかあった卵から一番に産まれたそうで、産まれた直後にまず自身の兄弟姉妹達の誕生を見守った。もてる秘訣はここにあるかも(謙虚)。
しかし、彼らが産まれるのを眺めながらクモさんは首を傾げた。何故ならば彼らは貧弱な黒い外皮をしていたからだ。それに引き換え、クモさんはクリスタルで出来た外皮をしていたのである。後にクモさんは自身が突然変異であるということを知ったが、 遥か遠い未来の話である。
虫に分類される生き物に似た生態をしているため、クモさんと兄弟姉妹は直ぐに巣立ちを迎え、この星で生き抜くべく旅立った。
が、クモさんは皮装備の兄弟姉妹達とは違い、直ぐに弱肉強食の世界で頭角を表した。
(我、さいきょー)
それどころか、クモさんは成長と共に瞬く間に自然界、引いては星の頂点まで登り詰めたのである。気付けば身体も40m程に成長していた。
クモさんよりも遥かに巨大な生き物もクモさんの前では傷ひとつ与えることは叶わず、ひと刺しで殺せる猛毒を持った生き物もクモさんの前にはひと刺しすることが叶わず、如何なる細菌・ウィルスも外皮を侵食出来ず逆にクリスタルに呑まれる。クリスタルの外皮の塊で出来ている巨大な蜘蛛が、皮装備の生き物に遅れを取る筈が無い。
クモさんは正に無敵、星の最高傑作、ただそこにあるだけの絶望であり、それを星に認められもした。
(飽きた)
しかし、クモさんは割りと直ぐに飽きてしまった。かつては星の頂点に君臨しようと躍起になっていたが、いざなってみると思った以上に意味もやることもなかったのである。
(暇)
その頃、クモさんがしていた事といえば一日中寝ているか、生えている草の本数やら通り掛かった小虫の足の数を数えるぐらい。要は暇なのである。
他に楽しみがあるとすれば……。
(かわいい)
たまに通り掛かる小動物を見てこのような感想を漏らすことぐらいである。ちなみにクモさんはかわいいと思うものにはとても優しい。
しかし、本来クモさんが暇を持て余したり、かわいいという感情を抱くことそのものが異常であった。何せ暇を持て余すとは、それを暇を暇と認識出来るだけの自我を持っており、かわいいと思えるだけの感情を持っていることに他ならないからだ。しかし、クモさんは本来ここまで強く自我も持てるようにも感情を持てるようにも設計されていなかったからだ。
何かの悪戯か、とある真祖の吸血鬼のようにバグが生じたのか、今となっては知るよしもない。
ただ、自我と豊かな感情を持ち、暇を持て余したクモさんがいるという結果があるのみだ。
だが、そんなクモさんにもある日、転機が訪れる。
(んー?)
クモさんがいつものように惰眠を貪っていたところ、クモさんのいる星から少し離れた惑星から信号をキャッチしたのである。
その内容を要約すると、その星がはやくきて~はやくきて~と泣き叫んでいたのである。
(行くー)
元より暇で暇で仕方がなかったクモさんの行動は早かった。背負っているように見える巨大な円盤状のものに、身体や足をすっぽり納めると、そのまま宇宙へと舞い上がり、助けを求める惑星目掛けて飛んでいったのである。その姿はUFOそのものだったであろう。
(到着)
生身で大気圏を突入して大地に叩き付けられようと無論、それは無傷であった。
その行動力に地球と呼ばれるこの星も、もうついたのか! はやい! きた!盾きた! メイン盾きた! これで勝つる!と大歓迎状態かと思えばそんなことも無かった。
何せクモさんがキャッチした信号をよく読み返してみると、その日付は今から約5000年程先の話だったからである。
なんとクモさんはドジっ子属性と天然属性を兼ね備えていたのだ。まあ、更に言うとその信号は本当にクモさん宛なのかも疑問であったが、言わぬが華だろう。
(えー……)
クモさんは途方に暮れてしまった。しかし、悪いのは信号を読み違えた自分であるため誰に当たり散らす訳にもいかない。そして、今更星に帰るのも億劫である。
その時のクモさんを言葉にするのならば、今日は学校が1時間目に試験だけがあると思って早めに学校に来た学生が、学校に着いてから1時間目ではなく、3時間目に試験だった事を知って時間を無駄にしたような感覚と同時に帰るにも帰れなくなったような状態であろう。
(むー……)
仕方なく、クモさんは渋々納得して先のことを考え、あることをすることにした。
(くかー)
ズバリ寝て待てである。学生かお前は。
まあ、元より悠久の時を生きる生物。時間をどう使うかはクモさんの勝手であろう。クモさんは5000年間を落ちてきたところから動かず、寝て待つことにしたようである。寝ていれば5000年などあっという間である。
(うるさい…)
しかし、寝て待つのは余り上手く行かなかった。どうも地球の生き物に何度も叩き起こされるのである。
元の星ならば全ての生き物がクモさんの恐ろしさを理解しているため、このようなことは無かったことが誤算だった。
その度に起こされてキレたクモさんが生き物を殺したり、おやつにしたりしてまた眠るということが数えるのも億劫になるほど繰り返されていた。
(うすい)
そして、おやつにするにも地球の生き物は薄味らしい。無礼な上に使えない生き物である。まあ、毒にも薬にもならないだけマシといえばそうなのだろうか。
(あ、濃い)
でもたまには当たりもあるらしい。なんだか、死徒だの捕獲するだのほざいていた気がするが、クモさんにとってはどうでもよいことであった。
(かわいくない)
勿論、可愛くないモノも極刑である。 おるとさんは基本的にかわいいか、そうでないかで物事を判断している節があるのである。
(くかー)
まあ、ぶちキレたついでに地球を滅ぼさない辺り、なんだかんだクモさんはここで寝て過ごす日々を楽しんでいたのかもしれない。
そして、クモさんが地球に来てから二千年以上の月日が流れた頃。
地球の地表が突如、"空からの光"によって焼き払われた。
(おー?)
光は大地を焦がし、星を焼き、クモさんの水晶渓谷すら焼き払った。流石のクモさんもこれには驚きが隠せない様子である。
もし自我が薄ければ時期的に地球の信号とは関係のないことのため、クモさんは気に止めることなくまた眠りについたことだろう。しかし、このクモさんは違った。
自我を持っているせいで、地球を救いに来たというのは建前で暇を潰しに来ていたからである。
(なんだろう?)
つまり、興味の対象が地球のSOS信号から謎の光りに変わったのである。
クモさんは二千年以上振りに身体を円盤に収納すると大空へと飛び立ち、宇宙から今の地球を確認することにした。
するとそこには来たときは青かった筈の地球は見る影もなく、地獄のように赤熱していた。そして、空を見上げれば、地球の衛生軌道上に地球以上の熱量を持った奇妙な光の帯が連なっているのが見える。クモさんは地球の時間で数時間程、衛星軌道上を漂ってそれらを観察していた。
(あれは……?)
そして、漂う内に今の地球には不釣り合いな人工の光がある場所をクモさんは見つけた。そこは決して空から見つけられる事の無いように幾重もの結界や魔術で秘匿されていたようだが、そんなものクモさんには無意味であり、また知るよしもないことであった。
そして、クモさんは決断する。
(行ってみよう)
クモさんはゆっくりと地球の"南極"へと落ちていった。
そして、月日は1ヶ月程流れ、現在__。
「あ、"おると"さん! おはよう!」
「おはようごさいます! "オルト"さん!」
《おはよう。りつか、マシュ》
人間に擬態してカルデアに転がり込んでいた。
これはちょっと個性的で感情豊かでユーモラスになったクモさんこと、アルテミット・ワンの"ORT"の物語である。