楽しんでもらえればと思います
『亜人』それは、人間とは違い、死亡した際に驚異的な再生能力を持つ生物である。しかし、外見は人間と同じ外見であり、それを見分けることは不可能である。
「ちっ…足の感覚がなくなってきやがった」
こんな所で死ぬはめになるとはな…。
亜人は、ほぼ不死身であるが、殺害方法がないわけではない。それは今の俺の状態、全身を氷結させられ、それを粉々に砕き、焼却すれば亜人は再生できず死ぬことができる。
俺は人が嫌いというわけではない、だが、今の俺は人を多く殺した種の生物の一人である。俺も人は自分のために何人かは殺したことがある。もちろん同族もだが。それのお陰で俺は、今や世界中に顔が知られている。
俺は今、巨大冷凍庫の中にいる。相手側が亜人か人なのかはわからないが、俺に恨みがあるものが俺を気絶させた後に手足を椅子に固定し、逃げられないようにした状態だった。意識がもうろうとする、今までに感じたことがない死に方だ。もうすぐ全身が凍る。今までに何回も死にもうその恐怖は無い。だがこれが最後の死だ。最後の力で腕を上げる。
「も…う…いち…ど…あの…あ…じ…を…」
ピシッー
俺は絶命した。この世界に俺の魂はもうない。そんなはずだった…
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「はぁ、はぁ」
逃げないと、早く逃げなきゃ…
「待てよお嬢ちゃん、痛くしないからさぁ~」
私は逃げていた。後ろからは喰種(グール)が歩いてきている。喰種のことはニュースでよく耳にしていた。
私は逃げるために路地裏に入り、走った。息を切らし、お腹もかなり痛くなっている。
とにかく逃げなきゃ…じゃないと…
ふと、前を見た。人だろうか、椅子に座っている男性がいた。下をうつむき、ぐったりとうなだれている様子だった。私は走りながら横目で見ると、男性は手足を椅子に縄で固定されており、動けない状態だった。
この人を身代わりにすれば…
私の中で一瞬その考えが浮かんだ。しかし、私の足は止まった。
助けなきゃ、あの人を…
私は男性の側へと歩み寄った。
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「ぉきてください!!んっ!この縄切れない…!!ハサミは確か…」
女の声?確か俺は…いや、確か俺は死んだはず…
「目が覚めましたか…!!こんなひどいこと誰が…」
ここはどこだ?先ほどまで冷凍庫に幽閉されていたはず、だが、俺と俺を固定していた椅子はそのままだが、ここは完全な外だ。
「切れた…早く逃げなきゃ」
「ここはどこだ?」
「あなたも早く逃げてください!!じゃないと…」
カツン―カツン―
「お嬢ちゃん追い付いたね。ん?これはまた一人飯が増えたな」
「あ…あ…」
なんだこいつ、目が黒い?新手の亜人なのか?
こちらに向かってくる男からは血の生臭い匂いがした。
後ろを見ると、顔が青ざめ、相手の男に恐怖している女子高生がいた。
グシュク!!
「なによそ見してるんだよ、お兄さん」
強い衝撃と痛みが腹部を襲った。先ほどの男の触手が俺の腹部を貫通した。
俺の意識は一瞬にして途切れた。
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「いや、いや、いやああああああ!!」
先ほどまで言葉を交わした男性が血を流し、その場に人形のように倒れこんだ。
死んだ…あんな簡単に人が…足が動かない。逃げたくても逃げられない…恐怖で体がゆうことをきかない…
「じゃあね、お嬢ちゃん、おいしくいただいてあげるから」
男が近づく、また一歩、また一歩と…
「おい、痛てぇじゃねぇかよ、俺を殺したってことはお前も殺していいんだよな」
男の後ろから声が聞こえる。まさか…
「お前も同じ喰種だった…グフォ!!」
「グール?グールってなんだ?」
喰種の男が何者かに捕まれているかのように、宙に浮いている。
「てめぇ…!!」
「まあいい、お前に聞かなくてもそこの俺を助けてくれた子に聞けばいいか」
宙に浮いた男の体が徐々に締め付けられている感じだった。
「どっかとんでいけ」
そう男性が言うと、宙に浮いた男は何かに投げ飛ばされたように消えていった。
「大丈夫か?」
「あなたも喰種…なの?」
「だからグールって何なんだ?後俺の顔を見て何も思わないのか?」
「顔?」
「俺の顔をテレビで見たことは?」
男の顔を見る。芸能人?私はテレビをよく見る方だけど…
「…見たこと無いです?」
「どういうことだ?じゃあ亜人という単語を知ってるか?」
「亜人?エルフや…ドワーフとか…ですか?」
私は前にたっている男性に向かい、震えながら答えた。
「いや、何でもない」
男性は椅子に腰を掛けると、顔を押さえながらうつ向いた。
「どういうことだ?俺の…俺達の存在が消えてるのか…?」
「あの、あなたは誰なのですか?」
私は男性に震えた体で質問を返した。
「俺の名前は鎌犬古門、不死の生物、亜人だ。君の名前は?」
「私ですか…?わ、私は…花崎一句です」
「ありがとう。助かった。それでグールっていうのはなんなんだ?」
「喰種を…知らないんですか?最近ではニュースでもやっているはずですが」
「俺はそのグールの情報を聞いたことも見たこともない」
「喰種は、短く言えば人のみを食べる生物です。外見はほとんどが人と見分けがつかないとか」
「人を喰らう生物か、それでそいつらはここ…東京であってるよな?」
私はうなずくと、鎌犬さんは手を顎に当てた。
「すまないが、もう少し質問していいか」
「は、はい」
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「だいたい掴めた。現金やこの世界全体は俺らのところと変わらないか。俺らの違うところは亜人と喰種の違いぐらいか」
「わかりましたか?」
花崎さんの話のお陰で大方は掴めた。それにしても、彼女は俺がその喰種という可能性が高いのに対し、律儀に質問に回答してくれた。
「ああ、それでだが、ここまで話を聞かせてもらったんだ。何かお礼をさせてもらえないだろうか?」
「ええ!!お礼ですか?」
「俺は手持ちはあるのだが、この場所、いやこの世界についての場所もあるかどうかわからない」
そう、先ほどどういうわけか、自分の荷物が入ったバッグと、俺が持っていた金が入ったジュラルミンケースが椅子の横に立てかけてあり、完全に捕まる前と同じ装備へと戻れた。
「わかりました、じゃあ最近気になっているお店があるのでそこで」
「わかった」
「あの…それと…」
花崎さんは頬を赤らめて目を反らした。
「できればその破れたシャツを変えた方がいいかと」
服を見ると、着ていたTシャツは先ほどの攻撃で破け、ほぼ上半身が露出していた。
「あ、すまない」
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「ここです。私の友人がカフェが好きで、美味しいって聞くし、クラスの子もここでバイトしていてるので一度来てみたかったんです」
「あんていくか、変わった名前だな」
ガチャーチャリンチャリン
「いらっしゃい」
扉を開けると、きれいに整えられた机、椅子が並び、カウンターにはこのカフェに溶け込むくらいに雰囲気があっているマスターがいた。
「珍しいですね。この時間帯はもうほとんど人が来ませんので」
「夜分すみません」
「いやいや、どうぞごゆっくり」
今の時間帯は夕方を過ぎ、夜の8時ぐらいだった。
「そういえば、花崎さんはこの時間は大丈夫なのか?」
「私は一人暮らしなので、その心配はないです。マスターすいません、ホットコーヒーのブレンドを」
「俺はホットコーヒーのアメリカンで」
「わかりました」
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「美味しい。いいコーヒーですねマスター」
香り、苦味、酸味、どれをとっても豆の良さ、美味しさが出ている。今まで飲んできた中で、上位に入るほど美味しいと感じた。
「あなたはコーヒーについて何か思い入れがあるのでしょう、あなたの目からは懐かしさを振り返っているような目をしていますからね」
「わかってしまいますか」
このマスターはどうやら中々の人を見極める目があるようだ。
「鎌犬さん、もしよければその思い入れのお話を聞いても?」
「ああ、俺は父親がここと同じくカフェのマスターをしていて、うちはコーヒーはアメリカンしか出さなかったんです。ただ今でもそのコーヒーだけはどこのコーヒーを飲んでも負けない味だったんだよ」
「お父さんは今どこに?」
「父親は一年前に他界して、母親は俺が小さい時に家を出た」
「なるほど、父親のコーヒーですか、その後お店は?」
「父親の他界と共に店を閉めました。俺は色々事情があって継げなかったんです」
「そうだったんですか」
花崎さんは少し悲しい表情をした。
ありがとう、俺の父親のことを考えてくれて、俺はそれだけで……
「あなたはコーヒーを淹れることができますかな?」
マスターが唐突に質問してきた。
「はい、父親に根気よくおしえられたものですから」
「もしよろしければ、そのアメリカンを頂けないだろうか。もちろん、ここにあるものは全て使ってもらって構わない」
アメリカン、父親の味なら、あの時から今日まで何千回淹れてきた。味に問題はないはず。
「じゃあ、私もいいですかマスター、鎌犬さん」
「俺は構わないが、マスターいいかな?」
「ああ、構わんよ」
俺は承諾し、カウンターへ入った。
コーヒーの種類はカフェなだけ、多くあるな、だがアメリカンはミディアムローストぐらいのものがちょうどいい、これだな……
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「できました」
香りもいい、豆の見分け方も挽き具合もよくできている。これは楽しみだ。
カップを持ち、コーヒーを口に入れる。
「……」
ほどよい苦味に、アメリカンならではの強い酸味の味わい。入れ方も真剣で、彼の気持ちが伝わってくる。
「ああ、いい味だ。どの箇所からも豆の良さが出ている。これは私のものよりもいいかもな」
「ご謙遜を、ですがありがとうございます」
「鎌犬さんこれ美味しいですよ!お店出せますよ」
「いや、俺はアメリカン以外はそこまでだよ」
謙遜しつつも、彼の顔から笑顔が見られる。この空気、この感覚、やはりいいものだ。
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「ごちそうさまです」
「ごちそうさまでした」
「また、お待ちしております」
俺と花崎さんは一時の落ち着きを与えてくれるあの空間を名残惜しみながら外へと出た。
「美味しかったですねコーヒー」
「あそこは雰囲気もどこか落ち着ける感じだった。俺は亜人だったから、元いた世界だと追われる身だったんだよ」
「元いた世界?」
「まだ言ってなかったな。これは仮定なんだが、俺はこことは別の、平行世界から来た可能性が高い。俺も信じられないが、あの時、花崎さんが亜人を知らないことと、喰種という亜人種を俺がしらないことに対し、この仮説だとどちらとも辻褄が合う」
俺が今日起きた出来事を考えれば、この状態は異常だ。こうして、人と歩くのもそうだが、光がある場所をこうして平気に立てるのもいつぶりだろうか。
「それだとしたら、鎌犬さんは今日泊まる場所は?」
そういえばそうだったな。仕方がない、今日は野宿だな。
「あ、あのもしよければ、うちに来ませんか?」
「え?」
「あ、いや、その鎌犬さんがよければですけど」
泊まる場所ができる。それはありがたいんだが…
「俺は一応男だが大丈夫なのか?」
「あ、ああ…」
花崎さんの顔は徐々に赤くなり始め、ようやく自分の発言の意味に気づいたようだった。
「俺は大丈夫だから」
「そ、そんなことか、関係あ、ありません!鎌犬さんは私の命の恩人でもありますし」
目が潤んでいるのが見える。俺はこの後、断りきれず、花崎さんの住むアパートで泊まることになった。