「おはようございます店長」
「おはよう薫香ちゃん」
私は毎日の日課とも言える店長への挨拶をした。もちろん今の状態は学校へと行く制服である。
「そういえば昨日いい忘れてしまったが、今日から新しくもう一人、新人さんが来るから頼むよ」
「バイトですか?」
「いいや、ちゃんとしたカヤちゃんや円児くんと同じ正式な店員さんだよ。腕も私が保証できるほどのものだ」
「店長が認めるほど、ですか。わかりました。それじゃあいってきます」
「いってらっしゃい」
店長のその言葉を聞くと、私はそのままあんていくの扉を開き学校へと向かった。
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「新しく店員さんが増える?」
私の目の前で弁当を食べながら話を聞いてる小坂依子は何やら興味津々な様子だった。
「で、どんな人?」
「それが今日店長に新人が入るって言われたから、どんな人なのかは私もまだ知らないんだよね」
「え、そうなの?」
いつもと同じように依子との話し合いをしていると、横のグループから話が聞こえてきた。
「そういえば、最近いっちゃん顔がにやけてるけど、何かあったの?」
「え、いや、そのゼンゼンソンナコトナイヨ」
「ほら、目を反らした。何よ彼氏でもできた?」
「いや、あの人はそんな…」
へぇ恋かぁ、私にはあんまりわからないけど、ああいう感情は何かとクラスが盛り上がるんだよね。
「いいなぁ~、花崎さんも春が始まったかぁ。あの子、私と同じ中学だったんだけど、大人しい性格だったからなぁ」
「へぇー」
そういえば、先週くらいにあんていくで店長と話してた人がいたな。もしかしたらその人かも。
「トーカちゃんもボーっとしちゃんてもしかして…」
「ち・が・う。いや、さっき言ってた新しく入る人、少し心辺りが…」
「えー、トーカちゃんの嘘つきw」
「嘘なんかいってない。今思い出しただけだって」
「本当かなぁ?」
こうして楽しい昼休みは終わり、今日の学校もいつも通り過ぎていった。
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「はぁ、困ったなぁ」
「何よ、ため息ついちゃって。運命の王子様に会いに行くのにその顔はどうなのよ?」
「そうそう、なに、誰もその人をとったりしないって」
「う、うう…」
何も言い返せない、というか恥ずかしすぎて言葉が出てこなくなってる。顔も鎌犬さんに見せられないほど赤い、どうしよう…
「ほら着いたよあんていく」
「さあ、どんな相手かお手並み拝見、拝見」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
私はクラスメイトの二人、佐々波岬と稲山かごめからかわれながら、あんていくの扉を開けた。
「いらっしゃいませ。あ、花崎さん本当に来てくれたんだ」
黒いエプロンを身につけ、爽やかな笑顔を見せ、私達を出迎えたのは紛れもない鎌犬さんだった。
「「……」」
一緒に着いてきた二人は呆然としていた。
「こちらの席へどうぞ。ご注文が決まり次第およびください」
そういい、私達を席へ案内し、また接客へと戻っていった。
鎌犬さん、どんな服でも似合うなぁ。
「あ、メニューどうする?」
「「……」」
「二人ともどうしたの?」
「いっちゃん…」
二人が私の肩を強く押さえた。
「ごめん、いっちゃん。やっぱり、とらないという約束なしで」
「一句、貴方にはまだ早い」
「え?」
私の思考は一時的に停止し、思考の処理と同時に二人の状況を把握しようとした。
えっと、今どうなって、あれ、岬ちゃんとかごめちゃんが肩をつかんできて…とらないと約束をなしにして…まだ早いって、あれ?
「ごめん、ごめん冗談が過ぎた。いやぁ、あんなにイケメンだとは知らなかったらつい」
「いっちゃん固まってたらメニュー選べないよ。早く」
「あ、うん」
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「いやぁ、彼には才能があるね。まさか初日でここまでできるとはね。覚えるのも早いし、後はメニューを少し覚えるだけ。店長、いい人材つれてきましたね」
「そうですね。彼にならすぐに仕事をまかせられそうですね」
ガチャッ
「薫香ちゃん。学校お疲れ様」
「はい。それで、新しく入った人は?」
「ああ、今接客の方にまわってもらっているよ。古門くん来てくれないか」
「はい」
店長がそう言うと、さっそうとテーブルの方から焦げ茶色の髪でオールバックで2爽やかな顔の男が歩いてきた。
「薫香ちゃん、新人の鎌犬古門くんだ。彼は以前にここで一度私にコーヒーを振る舞ってくれてね。彼の味を私は気に入ってしまってね、彼も仕事を探してるようだったので雇うことにしたのだよ」
「鎌犬だ。マスターから聞いているよ。よろしく霧嶋さん」
そう言うと、鎌犬は片手を前へと出した。
いい人そうだな。顔からも作ってるような感覚はないな。
「よろしく鎌犬さん。呼び方はトーカでいいよ。年上にさん付けで言われるのは」
「わかった。よろしくトーカちゃん」
私と鎌犬さんはしっかりとした握手を交わした。
「董香ちゃんには鎌犬くんにわからないところがあったら教えてあげなさい」
「といっても、後はメニューと道具の位置を覚えるだけで、ほとんどできちゃってるけどね」
「え?」
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「ふう、おいしかった」
「さて、いっちゃんの未来の旦那さんもみれたことだし、そろそろ帰りますか」
「旦那さん!?」
そうかごめちゃんに言われ、私の顔はさんざん二人に鎌犬さんのことをいじられ、真っ赤以上、もはやオーバーヒート状態だった。
「お願いしまーす」
「ごめん、鎌犬くんレジお願いできる?」
「わかりました」
その言葉を二人が聞き逃すはずもなく、二人の顔は完全な極悪人のような顔をしていた。
「3300円です」
「それじゃあこれでっと…」
チャリチャリン
「丁度ですね。ありがとうございました」
「あの~鎌犬さん、最後に一つ質問いいですか?」
「答えられるものであれば」
「ぶっちゃけこの子のことどう思います?」
嫌な予感は的中した。それは私が聞いてみたくもあり、同時に聞いてみたくない質問だった。
え、でも鎌犬さんがどう思っているのか聞きたいのもあるけど、もし嫌な印象を受けてたら…
私の心の中はより一層混乱していった。
「そうだね、花崎さんのことは素直で正直だし、俺にとって一番信頼できる人、それに…」
「「それに?」」
岬とかごめの押しが重なった。
「今みたいに感情が少し出てしまう所が凄く可愛いと思うな」
鎌犬さんの言葉に私の意識はショートした。
「あ~あ、ごちそうさまです」
「一句ちゃんもこうなってることだし、いこうか」
「またお越しください」
二人は私を手で誘導しながらあんていくを出た。
「「よかったね」」
「うん…」
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「ねぇ、あんた花崎さんと知り合いなの?」
バイトの時間が終わり、お店の中を掃除しながら私は聞いた。
私は今日の昼のことを思い出していた。まさか新しく入る新人が、クラスメイトと知り合いだったとは思わなかった。
「ああ、花崎さんは俺のアパートの隣の号室なんだ。それに俺はあの子に助けてもらった恩があるんだよ」
「へぇ、あんたここに来る前はどこにいたの?」
少なくとも彼の印象は人を無差別に喰らう喰種とは別で、こちら側の人間のはずだ。しかし、それでも人を喰らわなければ生きていけない。
「古門くん、少し味見を頼めるかな?」
「わかりました」
カウンターから店長の声が聞こえ、彼は返事を返すと、私に「ちょっとごめん」と質問を切り、店長の方へ向かった。
「これなんだが、私達、喰種はコーヒーと人肉以外は生臭くとても食べられたもにしか感じられない。だが、君ならわかるだろう」
「そうだったんですか。では」
私は彼の手元をみた。それは私達にとっては食べることさえできないサンドイッチだった。彼はおもむろにそれを手で口元へ持っていき、そして食べた。
口を動かし、まるで味わうように噛み締め、それを飲み込んだ。
「「「!?」」」
店長以外の全員はその光景に驚きを隠せなかった。
「あんた、それ…」
「そういえば、まだ全員に言っていなかったね。彼は喰種ではないのだよ」
喰種じゃない。それは私達にとって人間を意味していた。人間と喰種との関係性や関わり合いは危険を生む。それを一番知っている店長がなぜ?
「ただ、彼もまた人間ではない」
「え?」
「俺は喰種でも人間でもない生き物、亜人という生物だ」
「亜人?」
亜人、私の中では種として喰種も亜人種というものに分類されているらしいけど、亜人という名称で呼ばれているものは聞いたことも見たこともない。
「鎌犬くん、その亜人ってのはどういうものなんだい?」
円児さんはいつもの顔と違い、真剣そのものの顔をしていた。
「亜人というのは性別、体のつくり、容姿全てにおいては人間と変わらない。また筋力なども一般の人間と同じものです。ただ違うのは、寿命でしかほぼ死なない不死身であることというのが一番の特徴だということです」
生物にとって死は一つというのが世界の定義。これはどの生物でもあてはまるものだ。ただ、彼が言うには亜人というのは殺せない生物だと言うことになる。
「不死身ってことは傷とかもすぐに治るの?」
カヤさんは少し気を張りながら質問した。
「いや、傷の治りは普通の人間とたいして変わらない」
傷の治りは普通だと言った。私達喰種は一般的な人間よりかは治癒能力は高いが、亜人はそうではないそう思った。しかし、
「ただ…」
鎌犬さんは少し間を空けた後語った。
「ある方法を除いて、だが」
「その方法って?」
カヤさんは質問を返した。
「その方法は、自分が一度死ぬことが条件です。そうすれば全ての傷は消え、無傷の状態に戻るという仕組みです」
全員が絶句した。亜人という生物がどれだけ悲しい者かを。
「あんたは自分が亜人ってどうわかったんだよ」
そう、私達は理解した。亜人かどうかを知るすべ、それは一度死ぬことであり、自分が亜人と名乗れるのは死んだことがこれまでにあるということになる。
「俺が最初に死んだのは、父親と中学生の卒業祝いの旅行の時だった」
彼はそう言うと思い出を引き出すように少し上を向いた。