次回は原作通りになると思います。
オリジナルストーリーにお付き合いいただき感謝の限りです。
「はぁ…はぁ…」
身体から漂う血生臭い匂い、足元に広がる肉片と、その中から見える砕かれた骨。
周囲を見渡すと、IBMがつけたであろう壁の爪痕、原型を微かにとどめた喰種であったであろう死体。この場所は血で溢れ返っている。そんな状態だった。
IBMは俺が今の状態になった時には消滅しており、自分自身の身体もかなり疲弊しており、地面に膝をついている状態だった。
俺はゆるりと立ち上がると、彼女、花崎一句の所へと向かった。彼女を縛り付けていた鎖を壊し、彼女を抱き抱えると、俺はその場所を出た。
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「お前の力は危険だ!いつかお前は、世界から狙われることになる。だが、忘れるな…いつか、お前が信じられる大切な人に出会えたら…その人を自分の命に代えても守れ!父さんは母さんを守れなかった。だが、お前には守れるだけの力がある…強くなれ古門…!!」
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俺には大切な人などもういない。そう思っていた。守るべきものも全て奪われた俺に…
「っ…!!」
病室で未だに寝たきりで目を覚まさない彼女、花崎一句を見ながらそう思った。
あの日、一週間前の俺が倉庫内で起こした事件はニュースで大きく報じられ、喰種同士の争いによる集団死ということで幕を降ろした。しかし、政府からは新たな喰種の危険性があるとして、ここ20区には警戒態勢がはられた。
俺は本来いるべき存在ではない。俺がいればまた、彼女やあんていくの全員に危険が及ぶ。それなら俺がとるべき行動は一つ。
俺は覚悟を決め、彼女の顔を見た。
これでお別れだ、ありがとう花崎さん。俺のことは忘れて…
俺は目に浮かんだ涙を拭うと、病室を出ようとした。その時だった。
「ま…って」
俺がはっとして振りかえると、うつろながら目を少しあけ、俺の服の裾をしっかりと握る彼女がいた。
「いかないで…」
彼女の目からは涙がこぼれていた。
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夢を見ていた。あの時、私に起きた迫りくる恐怖、絶望。私の中で刻まれた喰種への恐怖は今の私の身体を、精神を砕くような形で残っている。
あの世界にいれば、私はまたあの感覚に襲われる。それならいっそこのまま…
その時私の身体から温かい何かを感じた。
『『一句』』
両親の声が聞こえる。
『『いっちゃん』』
友達の声が聞こえる。
『花崎さん』
あの人の声が聞こえる。
私の目の前には多くの映像が流れるようにフラッシュバックした。どれも私を支えてくれた声。自分の大切な人たちの声。
私の視界は大きく開け、暗闇が崩れ落ち、地平線まで光る世界が広がった。そして、そこには一人の少女がいた。
「あなたは?」
『あなたは私、私はあなた』
その言葉は私の中ですんなりと、何の驚きなどもなく、自然としっくりとくるものだった。
『あなたはまだ世界に絶望していない。彼を助けて、このままじゃ、彼は世界に絶望して一人になってしまう』
少女は私の後ろに向かって指をさした。私は振り返り、後ろを見た。先ほど同じ暗闇の世界が広がっており、そこには、いつもの笑顔ではなく、暗い顔をした男、鎌犬古門がいた。彼は振り返ると、暗闇の方向へ歩き出した。
「待って…」
私は追いかけようとした。しかし、私の足は動かない。
何で…?動いてよ…、ここままじゃ…
『あなたはまだどこかで怯えています。彼を助けるにはあなたの覚悟が必要です』
覚悟…、私はあの人助けられた。それだから…?
違う、そうじゃない。私は……
あの人が好きだからだから今度は私が、私があの人を助ける!!
私は一歩踏み出し、彼の手を掴んだ。視界は今まで以上の光に包まれた。
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振り絞りながら出された声は、俺を反射的に彼女の方へ振り向かせた。
「花崎さん…」
彼女の顔をまた見たとき、自分の中でまた先ほどの決断に躊躇しそうになった。
「いかないで!」
彼女の力強い声に俺の心が震える。だが、
「聞いてくれ花崎さん、俺は人殺しなんだ。この世界でも、前の世界でも…もう、君には傷付いてほしくない」
俺の心は苦しい気持ちで一杯だった。彼女は俺にとっての信頼できる唯一の人になっていたからだ。だからこそ、俺は彼女に幸せになって欲しい。俺との関わりを捨てた人間としての幸せを
「鎌犬さんは…鎌犬さんは何もわかっていないです!私は…そんなのどうでもいいです!」
「どうでもいいわけないだろ!!」
強い口調でいい放った。お願いだ、もう止めてくれ。もう君を…
「君は、俺とは違う。俺の手は多くの人間を自分の生きるために殺して汚した、君の思う以上に…。だが君は違う。お願いだ…俺に君の手を汚させないでくれ」
俺は涙が止まらなかった。失いたくないからこそ俺は、俺の罪に巻き込ませたくない。
その時だった。俺の首に彼女が腕をまわしてきた。そして、
「……!!」
彼女は俺の唇に口付けをし、数秒間たった後、彼女は離れた。
「私は…、私は鎌犬さんが好きです」
彼女は俺と同じように涙を流しながら、いつもと違う真剣な顔でそう言った。
「鎌犬さんは、自分を責め続けて罰しようとしてきたんだと思います。でも…そうだとしても、私はあの時、鎌犬さんに救われた人間、命です。鎌犬さんは私みたいな人の命を救ったことを思う権利があるんです。自分を許す権利が…」
俺が救った命……。俺は…自分を許していいのか…?
彼女はそっと抱き寄せるように俺を引き寄せた。
「私は鎌犬さんの味方です。いつまでもどこまでも、優しい鎌犬さんを好きになったんですから。だから私のために戦ってくれた鎌犬さんを私が許します」
拒否され続けた俺に居場所があっていいのか。父さん、ようやく見つけたよ。大切な人、守るべき人に…
この日、新たな一組が生まれた。それは世界の隔たりを越えたもの、あるべきではないもの。それは一つの幸せとなり、また多くの人々を救うだろう。彼らはその一歩を踏み出した。