妄想墓場   作:ひなあられ

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おもちゃ開発記2

さて諸君、開発だ。未来ある子供達に大いなる希望のあらん事を。

 

 

 今もなお、初めて制作した宝珠型の女児向けおもちゃは改修が進んでいる。周囲に飛散する残存魔力を有効に使えれば、もっと派手な技が使えるのではないかと、新たな干渉式を模索中だ。

 

 取り敢えずはその研究を続けていたのだが、今回は同業者から仕事の依頼が入った。女児向けを作ったのなら、男児向けも作るべきだと。

 

 それはまさにその通りであるので、女児向けおもちゃで使った技術をベースに、新たなる分野へ挑戦しようと思う。

 

 同業者から受け取ったのは、相変わらず趣味が多分に発揮されたスーツであった。

 

 それは…前回以上に形容しがたい何かだった。ベースはよく伸びるゴムのような布。腕を通してみれば、ピッチリと肌に張り付く。

 

 肩や肘の関節部にはプロテクターが付属しており、胸や背中などの急所にはよりゴツい装甲が貼ってあった。それは見ようによれば騎士の甲冑に見えなくもないが、より機動力を重視して作られているように思える。

 

 相変わらず斬新であるものの、何か心の奥底を擽ってやまない魅力がある。乙女心があるなら男心もある、そんな男心を刺激する魅力的なデザインだった。

 

 俺が小さい頃にこれに出会っていたのなら、これを着て無敵感に酔い痴れ、悪党どもを討伐しなければならない使命に駆られていただろう。このフルフェイスのヘルメットが、その衝動に拍車をかける。正体不明の秘密のヒーロー。なるほど、これは良いかもしれない。

 

 

 

 早速このスーツをフルに活かす宝珠を作った。

 

 この見た目にはベルトしかあり得ない。なのでベルト型の補助具をベースに、組み込むべき干渉式を選定する。

 

 このスーツは見るからに空中にあるべきではない、地上において堂々と敵を討つべく存在するのが道理だろう。よしよし、良い感じにテンションが上がってきた。

 

 装甲、プロテクター、呼び名は何でも良いが、これを軸に干渉式を組めば中々凝った作りになると思う。防殻はルキフゲ系統のビナー色を強めれば良いので、光や音を入れる干渉式との相性は保たれるだろう。

 

 この防殻は、いわゆる紙風船だ。衝撃を受ければ光と音を伴って割れる。男児たるもの遊びも戦いなのだ、こうして勝敗が決まる要素も必要に違いない。

 

 少し干渉式の相性は悪いが、身体強化術式と爆裂術式を彫り込んだ宝珠も用意する。これは俺の開発した新要素であり、他には類を見ない機構であると断言できる。なにせ元いた工房で密かに温めて続けていたアイデアなのだから。

 

 

 突然だが、宝珠をパワーアップするにあたって必要な要素は何か分かるだろうか。

 

 干渉式のロスを少なくする、強大な魔力に耐えられる回路を作る、必要に応じた機能を取り付ける……そのどれもが正解であるし、あるとしても答えは無いのかもしれない。

 

 だが馬鹿でも出来るパワーアップの方法がひとつだけある。それは宝珠を複数同時に使用する事だ。

 

 これはもう、本当に誰でも思いつく理論だ。銃を2丁構えれば二倍の火力、人が2人いれば二倍の戦力、当たり前のようだが真理に近い答えだ。一つよりも二つの方がデカくて大きい。

 

 だがそれが何にでも当て嵌まる訳では無い。むしろ当て嵌まらない事の方が多い。

 

 銃を2丁構えれば装填や狙いが甘くなるし、2人いたとしても連携出来なければ個人と変わらない。一人で二つのと言うのは、いつの世も挫折と失敗を経験した要素なのだ。

 

 ではそれを使うには、それらの要素をクリアしなければならないのだ。そして実用性に足るだけの理由が無ければならない。

 

 二つの演算宝珠…これを同時に使うなどとても出来はしない。出来たとしても不安定過ぎて使える代物では無いだろう。ならば、その二つの演算宝珠を『連結』させるならどうだろうか。

 

 同発で使おうとするから問題なのだ。二つ目の演算宝珠を一つ目の演算宝珠の後付けとして使用する。そうする事で一つのものに特化した演算宝珠がその場で出来上がると言う寸法だ。

 

 このスーツに合わせて言うなら、モードチェンジが正しい言い方だろうか。身体強化に優れた起動型と、爆裂術式をそれぞれ使い分ける…。通常状態で普段の魔力を抑え、有事の時のみ全力で戦う。これがこのベルトのコンセプトだ。

 

 同発ではなく連結というのは、かなり苦労した。そもそも魔法の核となる力の中心を二つ繋げるというのだから、その苦労は押して図るべし。相当な年数を費やしたものだ。

 

 結果として行き着いたのは、魔法の核を半々に分けて入れ替える事。そうする事で核同士で一つの塊と魔法陣が誤認する。大昔のご先祖が悪魔同士を融合させるという、どう考えても馬鹿の発想が元だ。ちなみに融合召喚は成功したらしい。でなければこんな事をしないが。

 

 ちなみに同発もこの方式で試したが、正直連結の方が遥かに効率がいい。同発は核同士を連結出来ず、外周同士を繋ぐ事しか出来ないのだが、それだと概算の30%ほど出力が落ちるのだ。

 

 

 さて、この通常形態のベルトの宝珠は、三つの核に分けてある。それぞれの形態に変化する為だ。

 

 そして他二つの宝珠はカード式にした。これをベルトに設けた挿入口に差し込んで横に回す事で、宝珠同士の連結が完了する。魔力の消費は上がるがその出力は端数を除いて約三倍だ。

 

 これは子供達の魔力の暴走を防ぐ目的もある。まだ魔法に慣れないうちは通常形態で使用し、いざ暴走が起きた時は追加のカードを指して宝珠の容量を増やす。強制魔力排出が追いつかなかった時の為の安全機構だ。

 

 逆にカードを指して暴走した場合は、カードに過剰な魔力を送って強制排出する。これなら暴走が起こっても、子供の近くで爆発する事も無いだろう。

 

 更に今回は誓約を設けていない。子供が使うのもアリだが、個人的には世のお父さんが使って貰いたい一品だ。親から子へ、意思を受け継ぐ感じで渡すと尚良し。それを考慮して、どちらかというと大人向けに宝珠を組んである。

 

 

 今回のは中々に大作であり、音や光などのノウハウは前回の宝珠で学んだ為に何とかなったが、この連結式はかなり手を焼いた。完成するのに一月半かかった。だからこそ感動もひとしおなのだが。

 

 早速同業者に完成品を持って行く。試験者は引き続き元魔導師の男だった。

 

 試験は…動作、機能共に問題なし。暴走状態でも問題なくセーフティーが作動し、使いやすさも前作と同じだった。

 

 試験者の男は、これを大はしゃぎで使用。一作目より遥かに効率良く試験を終える事が出来た。やはりそうだろう、これは男を魅了してやまない何かがある。

 

 そして勝手に決めポーズなどを決めて、格好付けた変身なんて物をやっていた。最初は痛々しいと苦笑いしていたのだが、その動作にキレと慣れが出てきた所でその考えを打ち切った。

 

 これは使える。絶対に使える。

 

 そうだな、この決めポーズを宝珠に保存しよう。いや、いっそ姿が変わる瞬間も何かしらの工夫を入れよう。一作目も同じような改良が可能だ。やらない道理はない。

 

 カッコいい、そしてカワイイは永久不変の真理に相違ない。この胸の高鳴りと燻りは、きっと遥か未来の世界でも通用するだろう。あぁ、この感情はなんだろうか。あるいはこれを浪漫と言うのかもしれない。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、俺は宝珠の試験場ではなく重砲の試験射撃場にいた。ズンと低く轟く砲声は、目視出来る一杯まで煙を噴き上げて巨大な鉛を飛ばす。

 

 遠く、遥か彼方に着弾したそれは爆炎を撒き散らし全てを焼き尽くした。その光景はあまりにも衝撃的で、俺の魂の奥深くを揺らされたようであった。

 

 これが戦場。俺の作る宝珠の真の姿。おもちゃと言う子供の希望を、根こそぎ奪って消し去ってしまう驚異。

 

 アレに対抗する術は無いのか?ただただ蹂躙されるだけの命なんてとてもでは無いが耐えられない。…そうだ、力がいる。圧倒的な力が。

 

 

 

 全ては力だ。力こそ全てなのだ。

 

 

 

 早速俺は宝珠を作った。目指すはただ一つ、至上の宝珠。さてそれを製作するには何が必要だろうか。

 

 綿密な干渉式、完璧な効率、淀みなき魔力の流れ。基礎にして至上、これを成さねば最上級はあり得ない。

 

 だがそんなものは皆分かっている。問題はそれを成した後の力の求め方だ。

 

 俺は前回、連結式という新型宝珠の製作に成功した。ならばやる事は一つ。それを倍にして更なる火力を得るのだ。理論上に必要な魔力量は成人男性のそれを超えるが、それは起動時のみに限った話。

 

 その後の起動は通常の半分以下の魔力で十分だろう。勿論、魔力を込めた分だけ出力は増加するが。

 

 2の2倍で4つ?そんなまどろっこしい事など出来る訳がない。魔法的にも意味のある6にしよう。6連式の超精密演算宝珠だ。これは脳が震えるな。

 

 操作性?魔力消費量?知るか、つまりはそれを超える馬鹿力を叩き出せば良いのだろう?

 

 第一宝珠に魔力を込めた状態で、更に魔力を込めれば第二宝珠が自動で起動する。意図的に繋げなければロックが外れない仕様な為、揺れた魔力が勝手に第二宝珠を動かす事はない。

 

 ロックを解除すればするだけ魔力消費量は跳ね上がり、発揮される出力は指数関数的に跳ね上がる。身も蓋もない言い方をすればギアチェンジに他ならないのだが、核の構成は更に先の改良が施されている。

 

 核を分けて核同士の連結を図る方式は、仕組みは簡単だが切替時と接続中の魔力のロスが大きく核に掛かる負担もあって、あまり長く使えなかった。

 

 だったら魔法陣ごと重ねてしまえばいい。

 

 第一宝珠は中央に核を配置した典型的な魔法陣だ。ここに込められた魔力は魔法陣を通して干渉式となるが、出力は通常の範囲を出る事はない。

 

 第二から第六までの魔法陣は『円環型の宝珠』だ。核を真ん中に配置せず、それそのものを魔法陣としている。

 

 当然ながら起動しない。力の点が円の中心から外れた力は、力として認識されないからだ。しかしこれには例外が存在する。魔法とは得てして認識の誤認であり、つまるところあやふやな論理で成り立つ奇跡でしかないからだ。

 

 この円環を起動時に『回転』させるとどうなるか。魔法陣は動くように出来ていない。しかし動かしても効果は変わらない。だが事象が認識する範囲は魔法陣ではなく、『魔法陣が描く記号』を認識するのだ。

 

 暗闇でライトを点けたとしよう。君たちは事象だ。故に君たちはそれを『光の点』として認識する。そしてこのライトを何度も往復させてみよう。すると君たちは光の点を『光の線』として認識する。それと同じ事がこの宝珠内で起こると言えば、なんとなく掴めるだろうか。

 

 核を内包した魔法陣は第一宝珠の外縁と接続される。事象はそれを『一つの魔法陣』として誤認するのだ。すると矛盾が起きてしまう。魔法陣内に起動した核と起動されてない核が同時に存在するという矛盾が。

 

 そして事象はまたしてもそれを誤認する。回転する宝珠が描く外縁を『核の外縁』と解釈して第二宝珠が起動するのだ。しかし第一宝珠は効力を失わず、そのまま起動し続ける。その現象を事象は更に誤認して『一つだけの宝珠だが出力は二つ分の宝珠』とするのだ。

 

 このシステムを便宜的に『タロットシステム』と名付けた。今はただ出力の増大に絞られているが、行く行くは発動する宝珠の組み合わせで無限の干渉式を使う事も可能になるだろう。

 

 問題点として、あまりにも製作が難しい事が挙げられるだろうか。こんなもの、大隊分を揃えるだけでも相当な時間がかかる。ネームドに持たせて士気の高揚を図るのが一番良い。

 

 このダウングレードとして量産出来る範囲の三連式を作った。こちらは試作的に五つ。もし改良点があれば随時改良する予定だ。

 

 

 

 ……あぁこれが力。俺の求められる最良の物。コレがあの恐怖に対抗しうる力とならん事を願うばかりだ。


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