妄想墓場   作:ひなあられ

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おもちゃ開発記4

「なんだ……これは」

 

 

 その日、宝珠研究所に激震が走る。

 

 騒めく技師達が取り囲むのは一本の杖。まるで小さな女の子が夢に描いたかのような、何処か夢見心地のするデザインは、この状況ではあまりにもシュールだった。

 

 ある男が作り出したという一つの宝珠。素材の構成が軍に使われている物と酷似しており、おそらく盗まれたのは確かだった。しかし問題はその中身。

 

 

「誰が、誰がコレを作ったのだ!?」

「有り得ない……最早神の領域ではないか?」

「何が何に干渉しているのかまるで見当もつかん……」

「コレを作り出した奴は狂っていたのか? それとも神に愛されていたのか?」

「巫山戯るな! 何故こんな物を作れる奴が今の今まで埋もれていたのだ……!」

 

 

 それは、余りにも異質。

 

 攻撃性能は皆無と言って良いほどに無い。しかしそれ以外の全てが破格の技術を持ってして作られていた。

 

 エフェクトは未知の光彩技術。変身時の浮遊は使用者の意図を無視する形で行われる自立式とも呼べるようなナニカ。加えて防殻の形成さえも自動で行い、魔力暴走さえも防ぎきる謎のカード。カードは魔力を貯蔵するというこれもまた未知の技術であり、魔力の放出に関するロスも驚く程に低い。

 

 極め付けは何処からともなく現れるドレスだ。質量保存の法則を軽く無視し、あまつさえ自在に操って見せている。この何処からともなくという部分さえ完全に未知であり、どうやって人体に着せ替えているのかすら不明。

 

 

「なんなのだ……これは。……どうすれば良いのだ……」

「これが個人の創作物だと? 古代の超技術と言われる方がまだ納得できる」

「同感だ。技術格差がどうこうの話ではない。50……いや100年は先の技術だろう」

「魔力をここまで緻密に操る干渉式……。是が非でも紐解きたい。だが……あまりにも異質過ぎる」

「このカードシステムだけで何人の魔導師が救われると言うのだ? 思いつくだけでも使い道は20を超えるぞ」

 

 

 議論は白熱し、夜中まで解析の手は止まる事が無かった。しかしどの技師も、その技術の一端すら掴み取る事が出来ない。

 

 彼等は技師の中でも中堅に位置する存在。兵器の開発ではなく他国の宝珠の研究を行う機関であり、シューゲル技師との関わり合いはそれほど深くはない。

 

 更にはその成り立ちにも少々問題があった。彼等はシューゲル技師に歯向かった技師達であり、新たなアイデアを産む事を拒否されたあぶれ者である。技術は確かなのだが、それ故に我が強く、上手く世を渡れなかったのだ。

 

 故にシューゲル技師とは反りが合わず、あまり積極的に関与する事も無かったのである。

 

 しかし研究所自体は同じ場所を使っていた為、ふとした時にシューゲル技師が割り込んでくる可能性も多いにあった。だが幸か不幸か、シューゲル技師はこの時神の啓示を受け、その狂気的な発想に酔いしれているばかり。

 

 足元の陰気な分解屋の事など気にも留めなかったのである。

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 翌日、シューゲル技師の考案した新作宝珠が見事起動を果たし、その名声は研究所全体を覆っていた。

 

 その歓喜に湧く研究所で、場違いな雰囲気を漂わせる男達。

 

 あの解析班の技師達である。

 

 

「くそ、あの程度で馬鹿騒ぎしおって……」

「やめろ、聞こえたらまずい」

「ならば問うが、お前はアレに納得出来るのか? たかだか宝珠を四つ繋げただけだろう……」

「しかし我々ではアレは作れまい。確かに不安定だったが、二つでも難しい宝珠を四つ繋げる事は凄まじい事だろう」

「あの杖を見てもか?」

「……うむ……」

 

 

 単純な出力で言えばシューゲル技師の作った宝珠が圧倒するだろう。だが中の干渉式を加味すれば、その評価は圧倒的に謎の宝珠へと傾く。

 

 例えばカードシステム。戦闘時に魔力が切れ、更には敵に囲まれるという最悪の状況に陥った際、このカードシステムが有れば最低限の防殻を作り出す事が出来るだろう。それだけで使用者の命を救える。

 

 更には使用者の意思を無視して自動で起動する干渉式。こちらは使用者の意識が途切れた時、自動で防殻を貼ることが出来るのである。カードシステムと併用すれば、兵士は余程の事が無い限り死ぬ事は無くなる。

 

 未知の光彩技術も恐ろしい。今まではデコイを振りまく程度にしか使われなかった光学術式の発展とも言えるこれは、使用者の全身を透明にする事だって出来るだろう。

 

 それに加えて干渉式を発動する際にどうしても漏れる魔力光の隠蔽、範囲が広過ぎて不可能だった煙幕、弾丸自身に使用してのデコイ弾、被弾したように見せかける偽装、随時変わる空の色に紛れる偽装……。

 

 挙げ出せばキリが無い。

 

 極め付けは質量保存を無視した干渉式。これはもう戦争の形を変えてしまうと言っても過言では無い。

 

 魔導師といえば高い機動力と不可視性。爆撃機、戦闘機未満の火力と、それを上回る俊敏性が持ち味だ。当たらなければどうという事はないのと同じように、爆撃機や戦闘機に対してある種のイニシアチブを取れる。

 

 だがそれも万能ではない。魔導師の致命的とも言える欠点として、抱えられる装備の少なさがよく問題視される。

 

 いかに訓練されていようと、魔導師は人間。極端に重い火器を持つ事は出来ず、大量の弾薬を抱え込む訳にはいかない。そこに救命具や野営開設の荷物、飛行補助装置も合わさる。

 

 そんな問題がこの干渉式一つで全て消え失せる。兵士の負担の軽減は計り知れない物となるだろう。何なら補給任務にすら就かせる事が出来る。それはもう、魔導師の運用を根本から変えてしまう程の技術だった。

 

 

「どんなに議論したところで、解析出来なければ意味がない。なんとしてもアレを複製出来れば良いのだが……」

「……難しいだろうな」

「あぁ。全くだ」

「干渉式だけでも未知だと言うのに、それを応用して更なる干渉式の在り方を作り出しているようにも思える。……これは勘だが、我々が把握している何倍もの未知なる干渉式が埋もれている事だろう」

「我々の間で語られた夢物語の立体干渉式まで当たり前のように鎮座しているのだからな……。そうであっても不思議はない」

 

「そう言えばなんだが、良いかね?」

「なんだ。もう今更驚く事も無いぞ」

「先程、改めて少尉に使って貰ったのだがな……。やはり充填魔力と消費魔力が釣り合わないのだ。それも時間を経る毎に充填魔力が減っている。……聡明な諸君なら分かるだろう? この意味が」

 

 

 その言葉に、今度こそ男達は机に突っ伏した。可視化出来るほどに暗いオーラが立ち込め、中には怨嗟の言葉を吐く者もいる始末。

 

 無理もない。現在の宝珠には少なからずロスがある。込められた魔力に対して消費される魔力は少なくなってしまう。全ての魔力を拾い切る事など不可能とされているからだ。

 

 魔導師の練度によってその差は大きくなるが、新兵であれば6割から7割。熟練の兵士でも4割から5割のロスが出る。新作宝珠など更に酷く、かのターニャ・フォン・デグレチャフ少尉をもってしても6割のロスが出ていた。

 

 それを6割に抑えたと褒め称えるべきか、そんなにロスが多いから余剰魔力が暴走するのだとなじるかは個人の自由だろう。

 

 それに比べてこの杖はどうだ。

 

 充填魔力は減るのに消費魔力は変わらない。それはつまり、宝珠としての常識が根本から覆る問題だ。充填魔力が少なければ魔力の消費は抑えられる。しかしそれでは消費魔力も抑えられ、干渉式の出力も落ちてしまう。

 

 それが常識。だからこそいかにロスを少なくするかが技師達の使命でもあった。それが逆転しているのだ。質量保存の法則を軽く無視したかと思えば、今度は魔力量への矛盾。彼等に何かを言う気力は残されていなかった。

 

 ちなみに、この矛盾した魔力消費の答えは、周囲に飛び散る残存魔力を再利用する事による消費魔力量の削減であり、時間が経つ毎に周囲の魔力レベルも上がる為、必然的に消費量も少なくなるというカラクリがある。

 

 だがその干渉式には『ロスした魔力を粒子と捉えて周囲空間に固定する干渉式』『周囲の漂う使用者の魔力を収集する干渉式』『消費される魔力に沿わせて干渉式への魔力レベルを調整する干渉式』『これら全てを残存魔力で補う干渉式』と、かなり複雑な物となっている。

 

 大雑把に分けるだけでも五つ、その他諸々を含めれば50は下らない。そんな物が掌サイズの宝珠に収まりきっているのだ。どうやって書き込んだかすら見当も付かないのは当然と言える。

 

 

「……あぁお前たち、集まっているな」

「おや班長」

「お疲れ様です。ささ、席は空けておきましたぞ」

「酒は足りませんが、それなりの一本はご用意させていただきましたよ」

「こうでもしなければやってられませんからね……」

「ありがとう、では一杯失礼するとしよう」

 

 

 そう言ってグラスの酒をあおる壮年の男。技師としては比較的若いものの、優れたアイデア力と確かな技術によって、この解析班の班長をやっている。

 

 人当たりと優しげな性格から、我の強い班員の中で矢面に立つ事の多かった彼は、班員から深く慕われていた。それぞれが一癖も二癖もある班員が曲がりなりにも解析を進められるのは、彼のお蔭とも言える。

 

 

「……皆には悪いが、先程シューゲル技師に例の杖を受け渡した。我等には手に負える代物では無いからな」

「む、それはどういう事か。我等に相談も無いとは……」

「どうせ反対するだろう? 秘匿して厄介な事になるよりも、とっとと上に上げてしまった方がいい。我等はただでさえ目を付けられているのだ。解析出来ずにずるずると引き摺るよりはよっぽどいい」

「し、しかし、アレは未知の塊で……」

「ただの厄ネタだ。抱えるだけ不利なのは我等の方だろう」

「うむ、それは、確かに……」

 

「……まぁ、そうは言っても、杖は今この手にあるのだがな……」

 

「「「は?」」」

「いやすまんな、先ずは経緯を話そうと思ったのだ」

「それならそうと前置きして下さいよ。それで、何故その杖がここに?」

「受け渡しを却下されたのだよ……。気が狂っているとしか思えん」

「なぜ却下されたのです?」

「奴曰く、『神に祝福されていない物なぞ、塵芥にも劣る。分かるかね分解屋? 我等に必要なのは技術でも何でもないのだ。ただ神に祈る。これだけで良いものは作れる。そんな物、解析した所で何の役に立つのかね?』とな。いつから奴は狂信者になったと言うのだ?」

「確かに気が狂っている。いや、それよりも酷い……」

「あんなのが主任なのは本当に納得出来ませんよ……」

 

「……優秀なのは優秀だが、それは周りを食い潰した上での優秀さだからな。切り捨てた我等の事なぞ、どうでも良いのだろう」

 

 

 そう言ってまた一杯グラスをあおる班長。班員はそのお通夜のような雰囲気を隠そうともせずに、杖を真ん中に置いて語り明かした。

 

 これを作った男は稀代の天才に違いないと誰かが言えば、それ以上に変人だろうと誰かが返す。

 

 そうして酒を片手に盛り上がる彼等は、常よりも輝いていた。技師にとって未知とは、それだけ得難い宝石のような物なのだろうか。

 

 気付けば、暗い雰囲気は何処かに消えて行ってしまっていた。

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 その翌日。同研究所にて。

 

 

「うん? 聞き取れなかったか? ならばもう一度説明しよう」

 

 

 そう言って部下に持たせたベルト型の宝珠を指し示すのは、僅か9歳程の幼子。ターニャ・フォン・デグレチャフその人だった。

 

 彼女曰く、先日届けた物は押収された宝珠の一部に過ぎない。他のものは安全性を確かめる為、軍の人員を割いて爆発物の有無を確認した後、ここに後送するという、ただそれだけの話。

 

 だがここに居る者達にとって、それは死刑宣告に等しい。たった一つでも何が何だか分からない宝珠が、押収品の一部だという。

 

 つまりあれと同程度の物があと何個かはあるという事だ。……それがベルト型で、杖と同型でない事にある種の希望を見出す者もいた。同型で無ければ比較が出来ると言うことであり、何も分からないなりに、何かしらの糸口が掴めるかもしれないと考えたからである。

 

 しかし班長はそのベルト型を間近に見て、そんな考えなど吹き飛んでしまっている。

 

 昨日の時点で死屍累々だった解析班の男達は、更なる激務の予感に暗い表情を隠せない。しかしその比でないのが班長その人だ。

 

 デグレチャフの部下から震える手でベルトを受け取り、無言で片眼鏡型のルーペを除く。その瞬間、班長は倒れた。

 

 

「「「班長!?」」」

「ブクブクブク……」

「泡を吹いてやがる! くそ、何を見たと言うんだ!?」

「ちくしょう、こんな物がまだあるのか!? なんだ、何なのだ! 一体何が起きてやがるんだ!」

「しっかりして下さい班長! まだ覗いただけでしょうに!」

 

 

 死屍累々が阿鼻叫喚に変わり、今度こそ蜂の巣を突いたような騒ぎに発展する解析班。班長は速やかに医務室に送り込まれ、ベルト型の宝珠は研究室の机に置かれた。

 

 それを見て唸る者。へたり込む者。茫然として空を見上げる者。頭を抱えて座り込む者……。

 

 そのあまりの様子に、さしものデグレチャフといえど引いていた。それはもうドン引きであった。彼女の部下は班長を医務室に送っているので今は一人だけである。その彼も引いていた。

 

 

「あー、貴公ら、何故そんなにも疲弊しているのかね? たかだかおもちゃ屋の作った宝珠だろうに」

「………………おもちゃ、屋?」

「そうだとも。市内の小さなおもちゃ屋の店主が作った物だ。攻撃性など皆無の無害な宝珠なのだろう? 私もそれは確認しているが」

「……少尉殿、貴女は本気で、これがおもちゃだと言うのですか?」

「他に何がある? どう見ても子供向けのおもちゃでは無いか」

 

 誰かが笑う。それに釣られるようにして笑いが伝染する。

 十何人の男達が乾いた笑い声を上げる姿は、それはもう不気味であった。囁くような笑い声は、どんどんと激しさを増し、遂には大声で笑い出した。

 

 その光景は凄まじいもので、デグレチャフの部下は涙目になっている。不動で屹立しているものの、足が若干震えていた。

 

 

「これが! これの何処がおもちゃだって!? お前達の脳味噌には蛆が湧いているのかね!」

「超技術? そんな陳腐な代物では無い!」

「確かにおもちゃだ! これに比べれば他の宝珠なぞおもちゃ同然だろう!」

「エレニウムの同発式なぞ塵芥だ! この宝珠は遂に領域を超えたのだ! 人の扱える領域をな!」

「我等のしてきた事は何だったのだ……? 恥ずかしい。あの程度の事を誇っていた事が……」

「おもちゃとは皮肉にも程がある。軍事にも転用出来るおもちゃだって? ハハッ! 我等の宝珠はおもちゃにも劣るのか!」

 

「なんだ? 一体どう言う事だ? 誰か説明出来る者は居ないのか!?」

 

「……あぁ、少尉殿、失礼致しました。では少尉殿にも分かるよう、副班長を努めます私から説明させていただきましょう」

 

 

 いまだに笑い声の治らない中、説明を買って出たのはこの解析班の副班長の男。彼はベルト型の宝珠を手に取ると、いくつかの器具と共にデグレチャフと目線を合わせた。

 

 彼は「分からない事の方が多いので憶測になりますが」と前置きした上で、器具の使い方を説明し、ベルト型宝珠の中心点を覗くように指示する。

 

 

「少尉殿、それが宝珠の核です。宝珠を宝珠たらしめる最重要部品の一つであり、これによって出力が決まる重要な物。……さて、こちらが通常の宝珠になります。違いはお分かりになるでしょうか?」

「……ベルト型の方は核が二つあるようにも見えるが……まるで同位置に存在しているようにも見えるな」

「えぇ、その通りでございます。これは宝珠を二つ使用した、同発型の宝珠です」

「それがどうかしたのか? やる者は少ないが、何も発想がない訳では無いだろう?」

 

 

 デグレチャフ少尉は苦虫を噛み潰したような表情でそう語る。彼女が装備するエレニウム95式は、まさにその同発型の宝珠であり、前代未聞の4つ同時発動を可能としていた。

 

 だが副班長は深い笑みを浮かべるばかり。その目線がデグレチャフ少尉のエレニウムに向いている事に気がつき、同じように器具を用いてエレニウム95式の宝珠を見るデグレチャフ少尉。

 

 エレニウム95式の核は、四角形を描くように離れて配置されていた。ベルト型の宝珠とは違い、出来るだけ離れるように、円形のギリギリを陣取っている。

 

 それを見て副班長は「それが普通なのです。同発型は、核同士を離さなければならない」と答える。

 

 

「何故だ? ……と、聞くまでも無いか」

「魔法陣同士が干渉し合い、干渉式の構築に大幅なロスが出る。その他諸々あらゆるトラブルの原因となる……。それが故に同発の開発は難しい。デグレチャフ少尉ならば身を持って知っている筈です」

「となると、このベルト型の宝珠は失敗作という訳か? ……いや、貴公らの反応からしてそうではあるまい」

 

 

 同発として失敗作としか思えない形状のベルト型宝珠。しかしこの宝珠は正常に起動する。その事に存在Xの事が頭をよぎるデグレチャフ少尉だったが、彼等の反応はそれとはまた別だった。

 

 この宝珠はいかにして動いているのか。軍人であり、宝珠そのものに詳しい訳では無いデグレチャフ少尉では、その答えに辿り着くのは難しいだろう。

 

 何故ならこの宝珠は……。

 

 

「核同士が融合しているのですよ」

「核同士が……融合?」

「えぇ。このベルト型宝珠の核は、半分ずつ別の核で構成されているのです」

 

 

 それは、絶対に有り得ない事だと言う。

 

 磁石のNとNをくっつき合わせて、手を離してもくっついたままのような状態だと言う。魔法陣学の根本を踏み躙るかのような発想と、それを成した技術力。そして杖型より劣るとはいえ相変わらず存在する未知の干渉式。

 

 干渉式がその矛盾を埋め合わせているのか、それとも核に対して未知の技術を使用したのか、それすらも不明。

 

 あまりにも異質。そして異常。何故存在出来ているのかすら証明出来ない謎の塊。それがこのベルト型の宝珠だと言う。

 

 

「貴女は魔法も使わずに生身で空を飛ぶ人間を信じますか?」

「……いや信じないだろうな」

「ではそれを間近に見たとしたらどう思います?」

「何かしらの原理はあるだろうと探るな。魔力か、それ以外の力の存在を疑う」

「同じですよ。これはそう言う物です。何かしらの原理はある。だがそれが何なのかさっぱりわからない。我々の技術をとうに超えた物なのです。断じておもちゃ等と片付けてはなりません」

 

「……ではこれを作れる者が、軍用の宝珠を作ったとしたら?」

「考えたくもありませんな。既にこれだけでも魔導師の運用が根本からかわってしまうでしょう。100年は先の技術です。我等の宝珠が木の枝とするなら、これは爆撃機にも匹敵する。それだけの代物ですよ」

 

 

 その言葉を受け、デグレチャフ少尉は研究所を後にした。

 

 残ったのは抜け殻のようにベルト型宝珠を眺める技師達の姿。

 

 その存在は、彼等のこれまでの努力を不意にするだけの力があったのだ。

 

「もしこれを作れる者が戦前に軍に入っていたのなら、戦争は半年で終戦していただろう」そんな副班長の呟きは、研究所の中に虚しく響くのだった。

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 後日。同研究所。

 

 

「ゴパアッ!?」

「あぁっ!? 班長が血を吐いた!」

「この人でなし! 班長を殺す気か!」

「班長……? そんな、班長ォ──!」

「くそ、なんて綺麗な目をしてやがる……」

「嘘みたいだろ? 死ぬかもしれないんだぜこの人……」

 

 

 6連式宝珠(・・・・・)という規格外な代物が研究所に届けられ、研究所の床は血に濡れたという……。


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