「起床──!」
喧しいラッパの音が鳴り響く。もう聴き慣れた物だが、やはり鬱陶しい。
硬過ぎるベッドから身を起こし、朝の点呼に並ぶ。満足に着替えも出されない囚人達の匂いは酷い物で、近寄る事すら億劫だった。
それが終われば再び牢にぶち込まれる。飯は朝夜に一回ずつであり、それ以外はとにかく暇だ。
まだぶち込まれてから日が浅い為か、仕事が割り振られる事は無かった。軍の組織としての独房という事もあり、課せられる仕事は銃の整備が占めているようだったが。
あぁ……宝珠を弄りたい。何故こんな目に合うのだろうか。やはりあの一件が不味かったのだろうか。
いや普通に考えれば激マズじゃ無いか。上官どころか遥か高みにいる人間をマジカルチェンジ⭐︎(同業者命名)してしまったんだぞ。
くそぅ、やはり軍の宝珠をパクったのが一番ダメだったのだろう。仕方ないじゃないか。俺の使う宝珠店に卸されて来る宝珠は、宝珠の名をしたガラス珠なんだぞ? その容量なんてたかが知れてる上に、複雑な式を組むと容易く吹っ飛ぶ。
調子に乗ってヤバイ物を作ってしまった自覚はあるが、元は廃棄分のガラクタなんだ。干渉式も多少はパクったが中身はほぼ別物だ。なんならアレで特許が取れるくらいには別物な筈だ。
表層の…つまり表に出る式は帝国法をそのまま模したが、裏に書いた補助式と反転式と中間式と異空間式と亜空間式と多重論理化式とマーリン式の複合専用式まで同じとは言わせない。
それをして盗作呼ばわりはなんか納得いかない。まぁバレた俺が間抜けなだけなのだが。
あの少尉も少し勤勉過ぎると愚痴るのはお門違いなのだろうか? …それにしても怖かったな…。ちょっとちびりかけた。
「666番…。666番! 返事をしないか!」
「ハイィッ!?」
「出ろ! 少尉殿がお呼びだ。お前の処分が決まるだろう」
「へ、へぇ」
「返事はどうした!」
「は、ハイッ! 謹んでお受け致しますぅっ!」
さっきの言葉を訂正する。やっぱガタイの良い軍人に怒鳴られるのが一番怖いわ。ちょっ、やめ、ケツを棒で叩かないで! 歩く、歩きますからぁ!
そうしてヒイコラ言いながら辿り着いた重々しい鉄扉を潜り、二人の軍人に横から銃を向けられる形で尋問が始まった。
対面するのはもちろんターニャ・デグレチャフ少尉。あんなことをした手前、なんだが胃が痛い。いや、ここでの会話で俺の処遇が決まるのだ。なんとしても処刑だけは逃れたい所である。
「さて、あー…666番。まずは君の名前を聞いておこうじゃないか」
「…はい。私はハッターと申します。帝国の首都の郊外でしがないおもちゃ屋を営んでおりました」
「なるほど。ではハッター君。これから我々がする質問に正直に答えたまえ。返答の肯否によっては、それなりの後悔が待っている事を忘れるなよ」
「わ、わかりました…」
その後の質問答は、意外にも詰められるような内容では無かった。家族構成や犯罪歴の有無。普段の職場での勤務状況などなど…。
尋問というよりは事情聴取に近い形である。だがそれが逆に不安を煽る。何故俺はこんな形の聴取を受けているのだろう? 爪の2、3枚を覚悟するくらいには覚悟を決めていたのだが。
そう身構えた瞬間、少尉の口からあの件についての言及が始まった。つまり帝国の使用する宝珠を模倣した事によるスパイ容疑である。
「ほう、つまり貴様はあの残骸からアレらを作り出したと言うのかね?」
「…その通りでございます。工具なども、同じようにあの工廠から持ち出した物です」
「…だ、そうだ。技師班長? 聞こえていたか?」
『はい。しっかりと』
部屋の隅から突然声が聞こえてきた。落ち着いた男性の声であり、彼等の会話からすると技師の一人のようだった。
「技師班長。お前はあの残骸から宝珠を作り出せるか?」
『…恐れながら、不可能にございます。私共も技術の漏洩は非常に重く見ておりまして、彼等に渡す崩壊した宝珠はとてもではありませんが復元出来るものではありません。もしあの状態から復元出来るのならば、そこらに落ちているガラスを使っても宝珠が作れてしまうでしょうな』
「なるほど。では干渉式の方はどうか?」
『同じように、見て記憶するなど一般人にはとてもとても…。例え完全記憶能力の持ち主だとしても難しいでしょう。あの図の通りに陣を刻んだところで、干渉式が発生するとは思えません』
「では技師班長。今回の件をどう見る?」
『そうですな…。私が思うに、彼の作った宝珠はただの玩具なのでしょう。その玩具がたまたま帝国の使う干渉式に似通っていたのではありませんか?』
「だが宝珠のコピーや流出は重大な軍規違反である。そこの所はどうだね?」
『お戯れを。彼のしていた事は単身赴任先の内職に過ぎません。彼の本職が玩具屋である以上、それを非難する事は難しいでしょうな』
「さて、結論は出たぞハッター君」
「は、はぁ」
「疑いは晴れた。君の拘束を解くことにしよう」
何が何やら分からない内に、俺の手錠に鍵が入れられた。そして薄い囚人服の上から厚手のコートを被せられ、更にはコーヒーまで出て来る始末。
二つ出たコーヒーのうち、一つのカップを手に取りゆっくりと嚥下する少尉。それにならい、俺も久しぶりの暖かい飲み物で喉を潤した。
疲労で凝り固まった頭がゆっくりと解けていく感覚に、束の間のため息をつく。
その後は机の上に様々な書類が並べられ、釈放書に少尉が印を押した所でまたひと段落が付いた。その頃には俺も着替えとシャワーを浴び終え、幾分かサッパリとした気分で解放の時を待つ。
釈放されたとしても、自分の持っていた持ち物の再検査の為にまだ時間がかかるらしい。その間はあの少尉と一緒の空間で他愛の無い世間話をする事となった。
暫くして、少尉は横に付いていた二人の軍人を追い払う。ここまで来れば護衛は必要ないと言って。
その言葉に多少不信感を抱いたようだが、少尉は銀翼の勲章を持つエースの一人。こんなヒョロ男に負ける筈は無いだろうと言って席を外した。…少し傷付いたが、その通りで何も言えなくなる。
重い音を立てて閉まり切ったドアを見届けた少尉は、こちらに向き直って意味深な笑みを浮かべる。
その表情で自分の直感が警鐘を鳴らした。これはロクでもない事になりそうだと。
「さてハッター君。私は君に恩を売った。それは理解しているかね?」
「…えぇ、ここまでされれば馬鹿でも分かります。私に何をお求めになるのですか?」
「これからの事は全て『無かった』ことになる。ハッター君も肝に銘じてくれ」
「それはもう」
「よろしい。では早速本題に入ろうと思う」
そんな前置きと共に、少尉が取り出したのは一つの宝珠であった。
一見すれば何の変哲も無い機械の塊であるが、中には宝珠の核が4っつ仕込まれている。それは他でもない、あのエレニウム95式であった。
…だがこれは。この感覚は。
知っている。この真水よりも純粋で、深海の何処よりも深く、空のように透き通った炎の煌めきを。
自分達の家系が常に敵視し続けた忌々しい上位者の産物。我等の運命をねじ曲げんと差し迫る悪魔にも似た唾棄すべき下郎共の遺した呪物。
かつて大国を救い、そして滅し、数多の人間の生き方を狂わせた。英雄や勇者を創り出し、その駒にする悍しいクソの塊。
それこそを人はこう呼ぶのだ。
「聖遺物…!」
…この神秘の薄れかけた人の時代に。まさかまだ名乗りを上げようと言うのか。こんな、こんな幼子を駒に仕立て上げて悲惨で残酷な運命を辿らせようと言うのか。
人の産み出した人による人の為の忌むべき化物が、この荒れ果てた大地を更に均そうと言うのか。
成る程。全て理解した。
これは我等に対する宣戦布告だな?
ならばよろしい。貴様らを骨肉の一片すら残さぬ。
後顧の憂いを断つ為ならば、このハッター…。
いや、我等一族の誇りを持って受けようではないか。
「…スゥー…ふぅ。…少尉殿、つかぬ事をお聞きしても?」
「…あぁ、なんだ?」
「貴女は神を信じますか?」
その時の自分の顔は、ハッキリ言って見れた物では無いだろう。穏やかな笑みをたたえた老獪な老人が呟くように発するべき言葉に、あらん限りの憎悪と怨嗟を込めて言い放ったのだから。
それは一種の賭けであった。普通の幼子であれば既に精神は汚染と汚辱に濡れ果て、その言葉に満面の笑みを持って答える筈だ。
しかし幸か不幸か、少尉はそれを嗤った。全ての憎むべき敵はこれにありと言わんばかりに嗤った。その上で彼女はこう答えたのだ。
「勿論だとも! むしろ君は信じないのかね?」
あぁ良かった。まだまだ反抗の気概は折れていないようだ。なんたる鋼の精神。今はこの僅かばかりの幸運に感謝しよう。
「はは、私は信じたり信じなかったりしますよ。救われれば信じますし、裏切られれば信じない。まぁ褒められた話ではありませんが」
「確かに。それは褒められた話では無いな」
だがまだだ。自分にはすべき事がある。その為にはなんとしてもここに食らい付かなければならない。
正直に言って戦争なぞまっぴらごめんだ。自分の作った物が敵を引き裂く事なんて、想像するだけで身がすくむ。だがそれでもやらなければならない。あいつらをのさばらせれば、必ず破滅が訪れる。それだけは阻止しなければならないのだ。
「…少尉殿。どうか、私のお願いを聞いて下さいませんか?」
「内容にもよるがな」
「どうか、私を技師として雇って下さいませんか? ここに来て確信したのです。私の技術は僅かなりとも貴方達の役に立てるのではと。ひいては少尉殿に救って下さった恩もあります。昼夜を問わず、技術の向上に努める事を約束したいのです」
「ほう? 成る程、それは願ってもない条件だな。よろしい、その約束を忘れるなよ」
「勿論にございます」
「だが私とて一少尉に過ぎん。少し時間は掛かるだろうが、その間は私の知る技師班長のところに世話になるといい。積もる話もあると思うのでね」
あぁ、こんな時にこそ神に感謝するものだな。幸運こそ我が女神だ。時には塩を撒いて祓いたい邪神の類でもあるが。
そうとなれば話は早い。まだ疲れも残るが、これ以上のタイミングも中々無いだろう。
「ありがとうございます少尉殿。…それとお疲れのところ悪いのですが、夜中に工廠にお越し下さいませんか? 少し気になる事があるのです」
「分かった。時間は?」
「いつでも構いませんとも。今夜は寝るつもりはありませんので」
「そうか。…うん? もう時間か。改めて、疑ってすまなかったなハッター君」
「いえいえ。少尉殿の勤勉さの証ですとも。恨みなどある筈もありませんよ」
そうして自分達は握手を交わし、その場を後にした。
────────
その日の夜の事。俺は何故か上がるテンションの赴くままに様々な道具を作っては工廠のあちこちに設置していた。会って一時間で仲良くなった技師班長も一緒にノリノリで進めて行く。
副班長は白目を剥きながらポトフを作っている。有難い、夜食は技術者の常らしいからな。
他の者らも何故かブチ切れながらポトフを煮込んでいた。楽しいのだろうか? 出来れば手伝って欲しいのだが。
眠気を覚ます為に鼻からコーヒーを啜っている班長をよそに、この前作った6連式の改良を進める。あの『アルカナシステム』を形態毎に保存しては図面に書き出し、カードにその式を仕込めないかと試行錯誤中だ。
とっかかりは掴めたような気がするので、3日後くらいには出来るだろう。
「やぁハッター君。約束通り来て…やった…ぞ?」
「完っ全にブチ切れたからポトフ作るわ!」
「いいぞやったれ!」
「ダメだ! そのウィンナーだけは駄目だ!」
「あぁっ! やはりカフェインは鼻で吸うのが一番だな! よくキマルぞこれは!」
「見える! 見えるぞ! …ガチタン? なんだその魅惑の響きは! ええい邪魔だなこの壁」
ドン引きしていた。あの鉄面皮の少尉が、である。とりあえず班長は顔を拭きたまえ。流石にレディに見せられた物ではないぞソレは。
それと副班長、そいつを超えると戻って来れなくなるぞ。異界の秘密結社の侵攻は脳に来るからな。その囁きは悪魔の物と思え。でないと火薬と大砲の事しか考えられなくなる。
さて、ポトフも出来た事だし一旦落ち着こうか。…班長、宝珠をポトフに入れてしゃぶるのはやめたまえ。うむ、駄目だな。目がイッてる。
「では少尉殿、お荷物を預かりますよ」
「…ここは変人の巣窟か? それとも狂人の溜まり場か何かなのか…?」
「どうでしょう? 私的には比較的まともであると思うのですが…」
「何処を見てそう思うのかお聞かせ願おう」
「雪山に全裸で登って朝日を拝みながらコサックダンスを披露した私の父の話を致しましょうか?」
「…まさかとは思うが、貴様の名の由来はマッドハッターではあるまいな」
「おや鋭いですね。ちなみに私の父の名はオーフィリアです」
「ハムレットの狂人ではないか!?」
「はは、冗談ですよ」
「いや全く冗談に聞こえないのだが…」
おやおや、顔が引きつっておいでですよ少尉殿。さて諸君、いい加減戻ってきたまえ。これからエレニウム95式の解体を始めようと思う。
作業台の前の机に行儀悪く腰掛ける少尉殿と、少しネジの緩んだ我等が同士が集う。預かったエレニウム95式を設置し、まずは小手調べとその機構を観察する。
なるほど。機構自体はさして難しいものではない。組み込まれている干渉式も、一見した所では普通そのものだ。人の範疇を凌駕するわけでもなく、ここに存在している。
まぁ当然ながら見せかけでしかないのだろうけどな。
「……いやはや、中々に悪辣な代物ですな」
「ハッター。昼間は聞きそびれたが、一体何をするつもりなのだ?」
「これに施されたクソにも劣る下劣なゴミを滅殺するのですよ。多少時間は掛かりますが、いきなり壊すような事は無いのでご安心を」
「クソ…なんだって?」
「要は精神干渉の干渉式を解こうと言うのです。…何か不都合でもありましたか?」
「そんな事が出来るのか!? …あ、いや…」
「あぁ、口外は致しませんよ。そんな事をすれば私達もただでは済みませんから」
流石に不穏な気配を感じ取ったのか、周りの技師から少なからぬ疑念を感じ取る。…これは丁度いい機会だろう。俺の知る『神』とは何なのか。
それは先祖代々が命をかけて滅さんとした存在である。いや、そもそも存在と言っていいかすら疑問ではあるのだが。
「貴様は…『神』を知っているのか?」
「『神もどき』です。厳密にはあれらは神ですらない。デグレチャフ少尉はアレを何と呼ぶのです?」
「…存在Xだ。とても神などと呼べた物ではないからな」
「素晴らしい! では私もそれに倣うとしましょう」
解析完了。…一般的な宝珠に無理やり神威を浴びせた物か。本気でやらないのはたかが人間にそれ程の神威を与えると耐えきれずに破裂するからであろう。
これに手を出す以上、俺にもその危険性は常に付き纏う。慎重に越した事は無いが、手早く終えてしまう方がよほどいい。早速必要な道具を見繕い、机の上にどちゃりと置いた。
「すまん、先程から何の話をしているのかさっぱりわからんのだが…」
「班長…。そうですね、少し説明不足でした」
「君らの言う…あー、『存在X』とは何なのだ? 我等の信じる神ではないのか?」
「いいえ、同じ物です。ただし人の神ではありますが」
「それは…当たり前なのではないか? 我等の主であろう?」
「その考え方がそもそも違うのですよ。班長、この世界に神は何柱いると思いますか?」
「一柱だ。主以外は存在していない」
「なるほど。では私達が存在する前はどうなっていたと思います?」
「いや、主がこの世界を創られたのだ。私達はその時と同じく創られたに決まっているだろう?」
「確かにそれが通説です。正しく神が創りたもうた世界だ。
ですが自然現象はどう説明するのです? 火が熾り、風が生まれ、水を運び、土が流れ、木を養い、そこからまた火が熾る。それらも全て神が創ったと?」
「それこそ神の御技だろう。海も陸も空も、我等の主が総ている」
「いえいえ、それはあり得ません」
「何故だね?」
「私の使う干渉式は、その自然現象が元となっているからですよ」
「何だと? あの解析もできぬ未知の干渉式が、自然現象に習ったものだと言うのか!?」
価値観の違い、あるいは見聞の相違と言えば良いのか。それこそが俺の構築する干渉式との徹底的な違いである。
解析して判明したのは、帝国の作る干渉式は『聖書に基づく事実の曲解』が主である。聖書に記された様々な奇跡を、現代側から人類的に解釈した奇跡の体現…。それこそが帝国式の干渉式だ。
一方で俺の構築する干渉式は『あらゆる伝承に記された現象を自然現象に則った形での表現』となる。構築された式自体は単なる呼び水であり、そこにあまり意味は無い。
例えば、である。
水を得るための干渉式を構築しようとした時、両者には徹底的な違いが現れる。
帝国式が活用するとするならば『主の遣わした聖人が、水をワインに変えて我等に御恵下さった』という一節か『赤い血の体現たるワインこそが、この者を形作る血そのものである』という一節を引用する事となる。
そこから出来上がるのは強引に水を作り出す術式。いくら曲解と式の短縮を行っても、その聖書に綴られた一節の範囲を逸脱する事は無い。それを超えれば容易く式は崩れ去ってしまうからだ。
一方でこちらの使う干渉式はもっと単純で柔軟な捉え方が出来る。使うのは各地に散らばるあらゆる伝承。『川に住む龍神』『無限に清水の溢れる壺』『雨の女神』『霧の魔獣』『水脈を探し当てた仙人』などなど。
大気中に存在する水蒸気そのものを川と捉えて集めるでも良いし、魔力を壺と捉えて水を作るでも良い。なんなら霧と雨の伝承をベースに仙人の伝承を構築すれば、大気中から溢れるように水を得る事も可能だ。
また川に住む龍神の怒りを記して放水の術式を直接書き込む事も出来るし、仙人の伝承を元に熱水を地雷のように吹き上がらせる事も可能だ。
それらを使って一単語にその意味を凝縮させる事だって出来る。帝国式とは根本から違うのだ。更に言えば伝承を使うのも魔力に対する呼び水に過ぎない為、独自に文の構成を弄る事も可能。
なんなら口伝の伝承を元にして『書き込まないのに存在する架空式』すら構築が可能だ。帝国式に比べれば遥かに自由度が高い。
まぁ当然ながらデメリットもある。そんな構築の干渉式なぞ一見しただけでは分からない為、それを干渉式として捉えられる人間が少ないのだ。信仰心なんかが育ちきっていない子供なら十全に扱えても、価値観の定まった大人が使うと十分な効力を発揮しなかったりする。
なので表の式に帝国式を使い、初めて使ったとしても容易く取っ掛かりが掴めるようにしていた。裏に何を書こうと、それを認識出来るのは技師ぐらいしか居ないのだから。
そんな単純な思い込みでどうにでもなる辺り、神やら信仰心やらも随分いい加減だなと思わなくもない。
「なんたる事だ…我等の祈りそのものが、干渉式の可能性の幅を狭めていたとは…」
「極論を言ってしまえば、そこらの道具にすら神と呼べる存在は宿るのです。…まぁこれらの術式は、遥か東国に位置する島国から得た着想なのですがね」
「あぁ、八百万の神という奴か」
「知っておられたので? 流石は少尉だ」
「偶々だよハッター」
班長がかなり落ち込んでいるようだが、実際のところその責任はこの宝珠を軍用に転換した者にあるのではと考えている。
自然界の化学反応式を、魔導反応に変化させて術者に認識させる補助とする。その方針はまだよかった。しかし干渉式を構築した人間は、連綿と続く魔導師の作る術式を嫌ったのだろう。
産業革命黎明期に置いて、古い物は全て悪と断じられた時期があった。更には差別や迫害により魔導師の地位は底辺に近く、宝珠の開発を認められただけでも勲章ものだろう。
だからこそ、心象の回復の為に聖書を引用したのでは無いだろうか? 怪しげな呪文を唱えるよりも、輝かしく荘厳に映ったに違いない。まさに奇跡そのものが現出したのだから。
「さてと。計器の準備は整いました。そちらはどうです?」
「こちらも大丈夫だ。配線に間違いはない」
「こっちも準備完了。…だが何に使うんだこのアンテナ?」
これから神々の秘密を暴く。…もっとも、神と言うにはいささか卑小に過ぎるのだが。