妄想墓場   作:ひなあられ

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リアルラック最低のSAO

 デスゲームという単語を知っているだろうか。

 

 その名の通りただのゲームが死に直結するというふざけた代物だ。

 

 有名どころで言えばカ○ジや神様の○う通り、未来○記辺りだろう。

 

 負け=死という方程式はどのデスゲームにもお馴染みであり、それがなければデスゲームとして成り立たない。

 

 

 何故俺がこの話をしたかって?そんな事言って、本当はもう分かってるんじゃないか?

 

 

 つまり俺もそのデスゲームを体験しているということだよ。しかもクリアには2年以上かかると予測されている、最低のクソゲーだ。脱出条件はただ一つ、このゲームをクリアするしかない。

 

 問題はそのデスゲームクリアにおいて、必須の条件が俺には欠けているということ。

 

 

 反射神経?頭脳?確かに大事だ。それなくしてはゲームを進められないし、持っていればきっと有利に進める事が出来るだろう。

 

 だがそうじゃない。どんなにゲームが上手くても、どんなに頭脳に優れていても、死ぬ時には死ぬ。それはもうアッサリと。

 

 愚鈍でも愚かでも白痴でも害児でも悪人でも狂人でも殺人鬼でも、そいつがあればどんな奴にだって勝てる。胸糞が悪い話ではあるが、その条件に人格は関係ない。ただ持ってる奴だけが生き残れるのだ。

 

 

「ぅ、ぉおおおおおお!」

 

 

 ポリゴン片が弾け飛ぶ。それは敵の物か自分の物かさえ判別出来ない。無数に繰り出される触手を避ける。避けて避けて避けて、やっと出来た隙につけ込んで仮装の命を刈り取った。

 

 HPはとうに危険域を通り過ぎている。真っ赤に染まったゲージが焦燥を煽る。それでも足は止めない。ただ駆けて疾って切って切って切り刻んで、また駆ける。

 

 形振りなど構っていられない。少しでもダメージを与えるために、振るわれ終えた触手に噛み付く。その上で滅多刺しにして、耐久力の残っていない剣をぶん投げた。

 

 

 リトル・ペネント

 

 

 リトルと名はついちゃいるが、軽く人の数倍はある巨躯と、長い二本の触手を持つウツボカズラ型のモンスター。攻撃の頻度は並であり懐に潜れば対処は容易いものの、溶解液という液体をかけられると装備の耐久値が削られてしまう。

 

 単体で行動することが多く、ぶっちゃけ雑魚レベルの思考ルーチンしか無いので、慣れれば対処は容易。

 

 ただしこのモンスターは『実付き』という個体がいる。そいつの実を攻撃してしまうと、一定範囲内にいるペネントを無数に引き寄せた上で袋叩きにされる。

 

 その『実付き』の個体が二体。既に実を割られ、周囲に独特な匂いのする粉を撒き散らしていた。

 

 

 ビッグ・ペネント

 

 

 その名の通りデカイ個体。あまり特筆すべき事はないが、単純にデカイので攻撃範囲が増大している。HPも多い。

 

 

 マザー・ペネント

 

 

 で、こいつ。マジお前ふざけんな。こちとらレベル5だぞ。スキルだって吟味中のバリバリ初心者プレイヤーだぞ。しかもここ第一層なんだが。なんでテメーみたいなクソモンスが湧きやがるんだオイ。

 

 他のペネント共と違い、その根はしっかりと地面に埋まっている。ウツボカズラ状の袋が無数に並んだ大木の様な姿をしており、気を抜くと枝から降りてきた袋に飲み込まれそうになる。

 

 しかも地面にもその袋が存在しているようで、まるで落とし穴のように底が抜ける。周囲の地面と比べるとその色は一目瞭然なのが救い。…穴の中に猪の骨が入っていたんですがそれは。妙なところ拘らなくていいんで、このクソゲーどうにかして下さい。

 

 一番問題なのは、幹にあたる部分からリトル・ペネントを量産する事にある。つまりこいつがいるだけで無限リポップ状態なのだ。ほんとマジふざけんな。

 

 お陰様でレベルも2つ上がったよ。まるで嬉しく無いけど。死神が小躍りする姿が見えるんだけど。レベルアップしても喜んでくれるのは死神だけってどういう光景だよ。シュール過ぎて笑うわ。

 

 攻略本必至に読み込んだし、色々と装備も整えたし、周りの奴らが引くくらい草原で猪狩って練習した上で挑んでこのざまだよ。いやほんと、クソだなこのゲーム。茅場死ね。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 日が沈んで朝になり、その先はよく覚えてない。半分寝ながらの攻防だったように思う。ただ死にたく無い一心で戦い続けた結果、俺は装備を全ロストしながらも、マザーペネントを打倒する事に成功した。

 

 そんで今現在、おそらく戦い始めてから2日目の昼。俺は村の門前で土下座してます。

 

 念の為もう一度いう。土下座している。

 

 それはもう綺麗な土下座だ。誠意を込めた、誰に見せても恥ずかしくない土下座。しかし門番は渋い顔で入門を拒否する。

 

 何故だ、何が駄目なんだ。勢いか?勢いが足りないのか?

 

 そうか勢いが足りなんだな。ならばよし。

 

 

 俺は立ち上がり、数十メートル程距離を取る。両手の指を地面につけ、腰を高く上げる。右足を引き、低い体勢からの猛ダッシュ。

 

 陸上競技でもっとも使われるといっても過言ではないその姿勢。クラウチングスタートを華麗に決めた俺は、門番の手前数メートルの付近で倒れこむようにジャンプ。

 

 両足を畳み、地面に擦り付けるように頭をさげ、手は額に添えるように八の字を保つ。そのままの姿勢で地面に着地し、残り数メートルを減速に使った。

 

 見たか、この流れるようなスライディング土下座を。

 

 お願いします。入れてください。もう2日も寝てないんです。限界なんです。ご飯も食べてないんです。お金ならあります。なんならスイートルームとって村に貢献します。だから入れて下さい。

 

 

「駄目です」

 

「そんなご無体な。あ、お靴お舐め致しましょうか?」

 

「あなたの格好はハラスメント行為に該当します。それ以上ここにいるのであれば、強制的にジェイルに送ります。10秒前…8、7」

 

「ぬがぁぁぁああぁあ!クソ茅場ぁあのやろう絶対ぶち殺す!死ね!マジ死ね!すぐ死ね今すぐここで死ねぇえええええァァあああ!」

 

 

 その日、とある村の門前で咆哮するパインチ全裸の変態が居た。

 

 

 というか俺だった。

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 食うことは喜びだ。全生物に許された快楽。これ以上の至福などあるものか。あぁ、俺は生きている。生きているぞ世界よ。俺は世界に感謝する。食うという行為を与えた神を賛美しよう。

 

 ただし茅場、テメーは駄目だ。とりまリンチな。

 

 

「なはははは、よく食べるねェお兄サン」

 

「貴女が女神であらせられたか。神よ、この出会いに感謝致します」

 

「ちょっと大袈裟じゃないカ?」

 

「大袈裟なものか。捨てる茅場あれば拾う女神だ。…ファッキンクソ茅場、地獄に落ちろ…」

 

「うーン、見事にダークサイド決まってるねェ。ま、私じゃなくても助けるヤツはいただろうけド」

 

「何を言う。ifはどこまで行ってもifだ。だから助けてくれた事に感謝する。ありがとう、君は命の恩人だ」

 

「まぁ、流石にパンイチ全裸で行き倒れてたらねェ…。手を出さない訳にもいかないシ」

 

 照れ隠しのようにそっぽを向く恩人を微笑ましく思いながら、目の前の料理を完食した。パンイチ全裸の変態から、半袖短パンに身を包む一般ピープルにジョブチェンジ。これは大きな進歩に違いない。服は文明の証だとしみじみ思うね。

 

 

「それにしても、どうして倒れていたんだイ?ここら辺りに苦戦するようなモンスターはいないはずだけド」

 

「………聞いてくれるか?少し長くなるんだが」

 

「いいゼ。職業柄、聞かない訳にもいかないしナ」

 

 

 少し間を置いて話を整理する。そうだな、事の発端はアニールブレードの確保からだった。

 

 アレの取得にはリトルペネントの胚珠が必要と攻略本には書いてあった。だからリトルペネントのスローターを開始した訳なんだが…。

 

 初っ端で実付きにエンカウントしてな。流石にヤバイと思って逃げたんだ。あぁ、初っ端からだ。正直ふざけるなと思ったよ。

 

 それでも道中で何匹か狩りながら進んでいたんだが…。帰り道に件の実付きがいてな、泣く泣く遠回りをしたんだ。そしたら遠回り先でも実付きが出現してな…。このままでは帰れないと思って、取り敢えずそいつを処理する事にしたんだ。

 

 ん?勿論安全は確保したとも。石畳みが敷き詰めてある祭壇みたいな所があってな、ここにはデカイ切り株があるんだが、不思議とリトルペネントが湧きづらい所なんだ。攻略本にもあったろ?あそこは準セーフティーエリアとして活用出来るって。

 

 そこで戦えば、万一実付きを割ってしまっても数匹狩るだけで済むからな。取り敢えずトレインして戦ったんだ。

 

 おまけで一匹くっ付いてきた事を除けば計算内だったし、安心して戦っていたんだが…。その内の一匹の消化液を避けた時にな、事件が起きたんだ。

 

 奴等ってフレンドリーファイアするんだよな。ちょっとふざけんなって思ったよ。そうだよ、ご想像の通りだ。吐き出された消化液が、よりによって実にぶち当たって割れたんだよ。

 

 それでも現れたのは数匹。危ないがなんとか切り抜けれると思ってたんだ。…なのに、よりによって実付きが呼び寄せられてな。ホント死ねよと思った。クソゲー過ぎないか?

 

 割と被弾しながらなんとか善戦してたんだが、やっぱり限界が近くてさ。ふと目を離した隙に実付きの野郎が逃げ出したんだよ。別に逃げる分には構わないし、放っておいても害はないだろうと高を括ってた訳だ。

 

 そしたらそいつ、逃げる時に実を枝に引っ掛けて割りやがったのさ。もう変な笑いしか溢れなかったね。狭い範囲に破れた実付きが二体って、なんのシャレにもならんわ。

 

 もう絶体絶命。これは死んだと諦めた時、更にクソッタレな出来事がぶち上がりやがった。ホント茅場死ね。何がデスゲームだよ、ただのクソゲーだろこれ。

 

 あの祭壇っぽい場所にある切り株、アレがなんか知らんが再生しやがった。しかも明らかにボス臭い名前を引っさげて、咆哮みたいな演出付きの豪勢なヤツをな。

 

 一瞬で真顔案件だよ。アイツ頭おかしいんじゃねーの?なんなんだよあのクソコンボ。ゲームですらない何かだよ。死ねよ茅場。

 

 そんですったもんだあって、消化液のせいで装備全ロストして今に至る。

 

 

「………と、言う訳だ。いやー、ほぼ死にかけだったから助かったよホント…」

 

「おおゥ、よく生きてたなお兄サン」

 

「後半辺り意識無いよ?気づいたらパンイチで朝日浴びてんだもん。未だに生きてる事に実感が持てないわ」

 

「それだけ聞いたらギャグなんだけどなァ…」

 

「まぁなんだ、暫くはまた猪で練習するよ。レベルは上げたいけど、死にたくは無いし」

 

「いやいや、そこまでやれるンならもう少し前に進んでも良いと思うヨ?お兄サンプレイヤースキルは高そうだシ」

 

「………そうか?ならちょっと進んでみようか」

 

「うんうん、お兄サンなら行けるサ!ま、なんか見つけたらこのアルゴを呼ぶといーヨ?」

 

「なんでだ。…もしかして攻略組なのかアンタ」

 

「ナハハハハ、違う違う。オネーサンは情報屋なのサ。だから常に新しい情報に飢えているって訳ヨ」

 

「へー情報屋ねぇ…。あ、もしかしてあの攻略本の作者って、アンタか。いつもお世話になってます」

 

「いーよいーよそんなの。…で、幾らで売るんだい?初回利用って事で色は付けてあげてもいいけド?」

 

「ん?…あぁ、この情報も商品になるのね。中々悪どい商売してんなアンタ。…別にいくらでもいいわ。売りたい奴に売ってくれ」

 

「おー太っ腹だねお兄サン。それじゃ、売れたら連絡するから、フレンド登録だけお願いするヨ。売りたい情報があったら是非呼んでくれナ?」

 

「りょーかい」

 

 

 女神ことアルゴ様のフレンドコードの入手に成功したぜ。これは幸先が良いな。まだクエスト報酬の片手剣は入手してないが…ま、どうにでもなるだろ。適正レベルは余裕で超えてる訳だし。

 

 適当に量産の剣でも買い占めるかな。金ならあるんだ金なら。…もう二度とあんなピンチはごめんだが。

 

 防具と武器を買い揃え、早速始まりの街を出る俺。

 

 この数十分後、腕慣らしのためにスローターしていた猪のリポップが止まり、意気揚々と森に入った所で『クイーンエリザベートボア』とか言うリジェネ持ちのクソエネミーとエンカウント。

 

 始まりの平原でHPと装備耐久値半減させた雑魚PS野郎がへばっていた。というか俺だった。

 

 

「ファァァァァァァ○ッッッッッッーーーーー!」

 

 

 あぁそうそう。デスゲームにおいて必須の条件は何だったか言ってなかった気がする。

 

 もう分かるだろう。この世で一番必要で、デスゲームおいて必須の要素。それはある意味世界の法則であり、絶対に抗えないルールでもある。

 

 

 

 俺には絶望的に『運』が無かった。

 

 

 

 

 この先、やっていけるのだろうか…。

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