妄想墓場   作:ひなあられ

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リアルラック最低のSAO 2

 このゲームは何ゲーなのか?

 

 いや間違いなくクソゲーの類なんだが、そういう話じゃない。かと言ってRPGと言うのも少し的外れだ。

 

 俺が言いたいのは、このゲームは何を主体にしているかと言うこと。スキル制なのか、それともステータス制なのか。その違いによって、育てるべき方向性が定まる。

 

 結論から言ってしまうと、SAOはスキル制のスキルゲー。ステータスは然程重要視されていないようで、割振れるステータスの値は力と素早さしかない。

 

 ………非常に残念な事に、このステータスに関しては選択の余地は無い。何故かって?俺のリアルラックがクソだからだ。秒間辺りのダメージは、おそらくどちらの極振りでもあまり差はないだろう。敢えて言うならバランス型が最も効率がいい。敵に攻撃を当てれる速さと、殺しきれる火力を併せ持てるからな。

 

 しかし、俺に関して言うとそれは当て嵌まらない。多分バランス型だと近いうちに積む。それは素早さ特化でも同じ事だ。その理由を、今から実演してやろう。

 

 セーフティーエリアから一歩踏み出す。その途端、俺のすぐそばでエネミーがポリゴン片と共にリポップ。ここにきてから20回は見たその光景に思わず眼が腐るが、それはそれ。もう慣れたものだ。

 

 

 コボルトABCが現れた!

 

 

 とりあえず真ん中のお前、ちょっと死んどけ。

 

 片足ブッ刺して片膝ついた瞬間に顎を蹴飛ばす。仰向けにひっくり返ったコボルトの脳天に全力で片手剣を振り下ろした。これを三回繰り返せばコボルトパーティーは全滅する。な?簡単だろ?

 

 ただまぁ、相手も無抵抗というわけじゃ無い。当然両側から追撃が入るが、それをバックステップで躱す。互いを棍棒で叩きあったお馬鹿二匹の首を、ソードスキルであるホリゾンタルで斬り飛ばした。

 

 無抵抗ではないが、馬鹿ではないとは言ってないぞ。あいつら割と脳みそクルクルパーだし、バレッバレの罠でも簡単に引っかかるからな。

 

 さて、ここからが本番だ。

 

 

 コボルトABC

 コボルトリーダー

 コボルトアーチャーが現れた!

 

 

 こ れ だ よ 。

 

 クソが、なんでテメーら徒党組んでやがんだ。ABC共々盾を構えてるし、派手な兜被った奴が指揮とってるし、遠距離攻撃持ちの奴が後方で待機してやがる。

 

 特に厄介なのがあの派手な兜を被ったリーダー格。あいつがいるだけでパーティーの知能指数が爆上がりする。ついでにプレイヤーに対して有利なバフを味方にかける特殊技能付きだ。ちょっとふざけんなって思いますね。須らく死ね。

 

 

 取り敢えず愚痴はここまでにしよう。

 

 

 このふざけきったエンカウント率、ここにステータス振りを限定される要因がある。こうまでして囲まれるとブン殴って殲滅するのが一番手っ取り早いのだ。そして、もし仮に負けたとしても簡単に逃げ出す事が可能。…そうなってくると、AGIを上げる必要性が薄いんだよなぁ。

 

 コボルトの特徴。人型で背が低く、武器を扱う器用さはあれど知能が低い。ここでネックになるのは『背が低い』こと。それは攻撃が当たる範囲が小さくなるのと同時に、走るのが遅くなるのを意味する。

 

 コボルトのくせにこいつらは致命的に足が遅い。しかも短足なので結構な確率で転ぶ。足を引っ掛けると、これまた面白い様に転ぶ。俺は面倒なのでブッ刺すが。

 

 何が言いたいのかって?つまり力に極振りしようが、背を向けて走れば振り切れるのだ。挟まれてもその脇をくぐり抜けて突破可能。お馬鹿なので追いかける判断を下すまでが遅い。

 

 で、だ。

 

 レベル云々ではなく、裏技的な安全マージンを確立出来ているならば、速さに振る必要性が薄れる。それだったら力に振った方が有意義だ。

 

 そしてもう一つ理由がある。それは俺のリアルラックが雑魚ということ。つまり…分かるだろう?俺は他人よりも多く狩らないといけないのだ。

 

 ちなみに、今連続100回くらい物欲センサーに邪魔されている。なんで目玉が出ないんだこんちくしょう。アレか?抉れば良いのか?ジュネーブ条約なんぞ糞食らえだ。徹底的に解体してやる。

 

 

 放たれた弓矢を掴み、リーダー目掛けてぶん投げる。運のいい事に目玉に突き刺さった。これでリーダーは封じれたな、幸先がいい。

 

 生意気にも盾を構えるコボルトに近寄り、ガッチリと立てられた盾を掴む。そして盾に隠れていない足を払い、無様にすっ転んだコボルトを殴りつけて盾を奪取。捻って攫うようにぶん回すと楽に取れる。これ豆な。

 

 剣を抜いたリーダーの目前まで接近し、奪った盾の縁で殴り飛ばす。今のステータスだと確定でスタンが入るのが有難い。確定万歳様様ご苦労さんってか?

 

 奪った盾は俺の所有物ではない。…何を言ってるんだと思われるかもしれないが本当だ。これのダメージ判定は『アイテム』であり『武器』でない…。要するに装備状態に無いので、武器として扱われていない。

 

 なので当然ながら与えるダメージも低い。だが攻撃を防ぐ事においてこれ程優秀な物も無い。なんせ元手はタダだしな。ただし物理演算による微量なダメージからは逃れられないが。

 

 盾は良いぞ。なにせこれ一つで、防御攻撃奇襲の全ての動作ができる。さっきやったように殴れば攻撃になるし、当然ながら防御にも使える。そして、相手のタイミングに合わせて突っ込めば、相手の武器を奪う事だって可能だ。

 

 やり方は簡単。相手の武器を弾くのではなく、手をぶっ叩くだけ。振るわれてる最中の武器は重くなる。そんな物を緩んだ手で保持しきれる筈もないし。

 

 しかしその攻撃で盾が壊れてポリゴンと化す。だがそれがどうした。

 

 

「待てやコラ」

 

 

 武器を失い逃走を開始したコボルトの耳を掴み、肉盾にして弓矢の攻撃ともう片方のコボルトの攻撃を防いだ。全く、コイツら血も涙も無いな。なぜ仲間を攻撃出来るんだ嘆かわしい…。

 

 瀕死のコボルトなんぞ何の役にも立つわけもなく、邪魔なので剣の柄で脇腹を殴ってトドメを刺した。何だかんだ使える小技の様なものである。こうすると耐久値をあまり減らさずに攻撃出来るのだ。

 

 盾を奪ったコボルトを転ばして滅多斬り、邪魔しようとした無事な方のコボルトには盾を投げつけておいた。こうなってくるとアーチャーなど者の数ではない。だってあいつ攻撃外すし。

 

 ちなみにリーダーはまだ伸びている。呑気なもんだ。

 

 顔面に盾がクリーンヒットしてのたうちまわるコボルトの首を刎ね、ついでにリーダーの顔面を踏みつけて殺す。武器の耐久値勿体ないからね。仕方ないね。

 

 健気にも腰の短剣を抜きはなって突進して来たアーチャーを、すれ違いざまにホリゾンタルで真っ二つにして戦闘は終わった。今日も普段と変わらないようで安心である。

 

 

「…あ、クソ、目玉抉るの忘れた…」

 

 

 ………目玉は…ドロップ無し。武器の強化に必須なモンスターのドロップ品。それが出ないならば、当然俺の装備は最低ランクという訳で。

 

 武器の強化が出来ない。なら何をもって狩を効率化させる?そんなもん、自分自身が強くなるしかないだろ。俺のステータス振りが決定されている理由の一つである。

 

 他にも、素手で殴り合うなら速さよりも力を上げておいた方が色々お得だとか、裏技的ソードスキル利用法には力のステータスが重要だとか、敵の装備を奪いやすいとか、スタミナに多少の補正がかかるとか、本当に色々だ。

 

 これでもバランス型とどっちにするか悩んだ。それはもう真剣に悩んだ。でもさ、なによりも致命的な理由が一つあるんだよね。

 

 さっきの戦闘でも浮き彫りになったようなモンだけど、この短時間に比較的強キャラと連続でエンカウントしている。パワーレベリングも良いところだが、俺が言いたいのはそうじゃない。

 

 運が悪すぎてしょっちゅうピンチになるという事だ。

 

 考えてくれ。そんな奴にパーティープレーが可能だと思うか?答えは当然NOだ。むしろ全力で排他されるに違いない。

 

 MMORPGというジャンルでそれは致命的。クソデスゲーのくせして縛りプレイとはまた高度な話だな。茅場の野郎を積極的にブチ殺したくなるような話だ。

 

 運が悪いって…それもうどうしようもないような気がするんだが。いや昔からそうだし、諦めついてる節もある。だがそれでもこれはないだろ。………よくよく考えたらこれデスゲームじゃねぇか。既にどん底だったわ。

 

 

 割とどん底で色々とアレでアレだが、まぁまだなんとかなっている。せいぜい2日に一回くらい準エリアボスと殴り合うくらいだ。…アレ?割と命の危機じゃね?

 

 …む、足音。これはプレイヤーか。なら隠れるか。ちょっと諸々の諸事情で姿を現わす訳にはいかないからな。

 

 そんな訳で柱の陰に隠れていると、ワイワイガヤガヤとプレイヤー一行が現れた。前衛3人に後衛2人。理想的で堅実そのものって感じの編成だ。

 

 

 えーっと、あったあった。アルゴの攻略本。…『第一階層。主なモンスターはコボルト。基本的に一匹のみとエンカウントし、場所によっては三匹程で徒党を組む。ごく稀に5匹以上のパーティーを組むが、同数であれば対処は容易。ソロの場合は逃走を優先。前衛3、後衛2が理想的』。

 

 …大丈夫そうだな。もしパーティーに当たっても対処できるだろ。いざとなりゃ逃げればいいし。

 

 この辺りは主に俺のせい…俺のせいか?…非常に遺憾だが、俺のせいで強力なモンスターがポップする。恨み言は俺ではなく茅場に言って欲しい。乱数くらい調整しとけやクソが。

 

 ほら噂をすればパーティーのお出ましだ。…いきなり眼前ポップかよ、壊れるなぁ。

 

 

「なぁ!?おい戦闘準備!集団だ!」

 

「お、ラッキー。経験値稼げそうだな」

 

「ここら辺は一匹でしかポップしないもんなぁ。流石にこの人数だとレベルも上がりにくいぜ…」

 

「文句言うな。命大事に、だろ?」

 

「それもそうだな」

 

 

 うんうん、アレこそ理想のプレイスタイル。俺のような常時ピンチの背水スタイルとは違うね!…言ってて悲しくなってきた。

 

 前衛が攻撃を受け、後衛が後方から突く。アーチャーの攻撃も大きな盾で堅実にガード。体制を崩せば隙の少ないソードスキルでHPを削る…。

 

 いいなー、仲間いいなー、俺もパーティープレイしたいなー…。…はぁ…。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「おい!あんなん見た事ないぞ!」

 

 

 ん?…んん?なんだ?

 

 ヒョイっと柱の影から顔を出すと、そこには大きな陰。体躯はコボルトだが大きさが桁違いで、人の3倍は優に超える。手には巨大な肉切り包丁。不気味にこびり付く赤黒い染みは、控えめに言ってもおぞましさしか与えない。

 

【ザ・コボルトスローター】

 

『ゴルァァァォア!!!!』

 

 

 化け物に相応しく野太い雄叫びを上げ、眼前にいるコボルトを『寸断』しながら包丁をぶん回す。圧倒的な体躯から繰り出されたその一撃は、コボルトを斬り飛ばして尚勢いは衰えず、前衛の一人を吹き飛ばした。

 

 場は一気に阿鼻叫喚の坩堝と化す。連携もクソもないソードスキルが飛び交い、そんな攻撃など意にも解さない化け物が変わらず包丁を振るう。五人のうち2人のHPがイエローに入った時点で、プレイヤー達の間には濃厚な死が影を落とす。

 

 

 …なんだアイツか、そういえばもう2日経つな。狩をしてると必ずと言っていいほど現れやがるんだよなー。もう見飽きたわ。

 

 うん、アイツらには悪いけどアレは俺が貰おう。どうも荷が重そうだし。…でもなー、この格好で出るのはなー…。でも人の命には変えられないしなー…。

 

 ええいままよ。

 

 

「フゥ☆エエエエエァァァォァア!」

 

 

 おいそこの、そんなヤバイ薬を決めたヤバイヤツを見る目で見るんじゃない。これはれっきとした戦法だ。システム外スキルとか呼ばれるヤツの一つだ。

 

 このSAOにおけるモンスターには、全てに共通した特性がある。それは乱入したプレイヤーに対して、必ず視線を向けるということ。芸が細かいと言えばいいのか、『音がする方とプレイヤーがいる方を必ず向く』ようにモンスターの行動パターンは固定されている。

 

 更に言えばそうやってタゲが移動したモンスターは、行動を最初に巻き戻す。…要するにエンカウントした時に起こすモーションを、必ず行うということ。

 

 それはどのモンスターでも殆ど変わりない。若干の違いはあれど、絶対に起こすのだ。

 

 ついでに音と存在を同時に曝け出すことで、視線を移す条件を二重に達成させる事もできる。するとソードスキルでいくらタゲを奪おうが、それを帳消しできるほどのヘイトも稼げる。

 

 

 新たな小蝿が飛び込んできたとでも言いたげな、見下したように一瞥。取り敢えずは目の前の小蝿を叩き、それから相手しようと顔を正面に向け…。

 

 思いっきり二度見した。

 

 

『ヴェ…ゔぇぁっ?』

 

「ィィィィィイイイイヤッフゥゥゥ↑☆」

 

 

 手前でジャンプ!そしてドロップキック!見よこの滞空時間!あとその反応は予想外!二度見はないだろテメェ!何処に二度見する要素があるというんだ!

 

 確かに諸々の事情で全裸パンイチの頭がウツボカズラだけど!どう見ても変態のそれだけど!

 

 

『ゴ、ゴルァァァォア!!!』

 

「ンーフフフフ…死に晒せゴルァォア!」

 

 

 そうだよ、そっちの反応だよ。その『威嚇』のモーションだよ。その反応が欲しかったんだよ。

 

 このエンカウントしたモンスターが必ず行う『威嚇』のモーション。この間モンスターは基本無防備だ。このモーション時にはどんな攻撃をしても反撃は来ない。

 

 そしてこの反応を応用し、意図的に『威嚇』を誘うように動き回る…大声を出しながらの奇襲を繰り返すと、『威嚇』のモーションをさせ続ける事ができるのだ。

 

 そうすればソードスキル叩き込み放題、しかもタゲだって1人に固定できるというハメ技が可能になる。な?小技どころか壊れ技だろ?ちなみにこの情報のお値段10万コル。アルゴ曰く、そう簡単に流出させていい情報では無いらしい。

 

 この場合はタゲ取り以外に用途は無いけどな。知らぬが身のためだよパーティー諸君。

 

 

「ヘイそこの!」

 

「な、なななな、なんだテメェ!?」

 

「喋った!?コイツ喋ったよ!?」

 

「モンスターか!?いやイベントか!?なんだコレ!ホントなんなんだお前!」

 

「足腰立つかい?元気は一杯だな!ならば良し!さぁ全力で逃げるのだ!コイツは俺が引き受けた!」

 

「よし逃げよう。無理だ。なんかもう無理だ。取り敢えず帰って寝るぞお前ら。きっと疲れてんだ俺達」

 

「賛成」

 

「右に同じ」

 

 

 人間度を越したパニックを起こすと冷静になるよね。さぁ帰った帰った。ここからは俺のターンってな。

 

 バックステップ、しゃがみ、宙返りで大振りな攻撃を躱し、本命の突きを片手剣でいなす。ツバのない包丁は手をガードする物が無いので、そのまま指を攻撃。カウンターに近い要領だったものの部位欠損は起きなかった。いつも思うがタフ過ぎんだよテメェ。

 

 返す剣で手首の筋、なぞるように腕の筋繊維、すれ違いざまに脇の下、刃を返して内太もも、振り返られる前に脇腹を切り裂く。轟、と振るわれた包丁を剣の腹で流し、遊んでいる片手を斬りつける。

 

 

『ゴ、ル、ォォオオオオァァア!!!』

 

 

 来たな狂乱状態。コイツただのレアモンスの癖して、ボスのような暴走状態が存在するのだ。この間は基本的にスーパーアーマー状態なので仰け反らない。つまりソードスキルを使うと、ほぼ確定でカウンターを叩き込まれてしまう。

 

 だからといって何も手がない訳じゃない。それに今の俺は超レア装備を持っているので、対処はごく容易い。最近はボーナスモンスみたいな扱いだ。

 

 ブンブン振り回される包丁から大げさに距離を取り、隙を見計らって身体を反らせる。何気に高度なAIを積んだコボルトスローターが警戒して立ち止まった。その硬直が命取りってね。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 思いっきり身体を倒す。ものすごく大げさなお辞儀にも見える行為だが、当然のようにモンスター相手にはなんの意味もない。プレイヤーなら動揺を誘えるかもしれないが、それはそれだ。

 

 そうしてぶん回された俺の頭部…ウツボカズラを模した、というよりその物な被り物から、ベッと黄土色の液体が飛び出した。

 

 粘着質でスライムにも見えなくもないその液体は、コボルトスローター目掛けて飛んでいく。大きな体躯を持ち、なおかつ迷宮の狭い壁に阻まれたコボルトは、避ける事なく包丁の腹でその液体を受けた。…受けてしまった。

 

 

 ジュウウウウウ

 

『…ルルルゥ』

 

 

 武器防具の耐久値を大幅に低下させる溶解液。リトルペネントの持つ特殊攻撃だが、なにもプレイヤーが使えないとは言ってない。

 

『マザーペネントの未成熟捕虫頭陀袋』

 

 それがこの頭装備の名前だ。見た目はモロにウツボカズラ。効果は絶大かつ強力で、見た目さえ気にしなければ非常に優秀な装備である。

 

 日に10回使える溶解液攻撃、回復速度と回復量の補正、耐久値の自動回復、STRに補正…。もう装備なんてこれ一つで十分と言えるくらいのぶっ飛んだ性能だ。

 

 ただし溶解液攻撃をするには大げさにヘッドバッキングする必要があるし(変態度+20)、食い物でも飲み物でも摂取するには頭に放り込まないといけないし(変態度+50)、耐久値の回復はHPと変換な上に、回復モーションは何故かツタに身体を貫かれる(変態度+30)。

 

 どう見ても取り憑かれてるよね?しかもこれ装備解除には窓を開かないと外れないし。外力じゃスナッチだろうが奪取不可能ってどんだけだよ。確実に寄生されてんじゃねーか。

 

 しかも溶解液が自身に若干降りかかるせいで、防具の類の損耗が激しい。今俺が全裸なのは、アンダーウェアに耐久値が存在しないからだ。決して趣味で全裸な訳じゃないぞ?もうなんだか慣れて来たけど。

 

 そんな訳で俺の見た目は、全裸パンイチで片手剣を持ち、頭はウツボカズラに寄生されている人型をした何かである。…あれ、これ二度見必須じゃね?

 

 

『ヴォルルルルルォア!!』

 

 

 ギラッと一際大きく輝く包丁。ソードスキルの前兆だ。コイツ理性失ってるくせにいっちょまえにそんなもん使いやがってクソ野郎…。

 

 だがチャンスでもある。

 

 上段から袈裟斬りに振るわれるであろう包丁を前に、こちらは下段から斜切りにする軌道でソードスキルを放つ。片手剣単発ソードスキル、スラント。

 

 体躯の差の関係から、こちらの腕の回転速度の方が早い。よって相手のソードスキルが命中する前にこちらのソードスキルがヒットする。

 

 その着弾場所は相手の身体のどこでもない。狙ったのは巨大な肉切り包丁の方だ。溶解液で耐久値を削られ、目に見えて金属の光沢を失っていた包丁は、これといった抵抗もなく断ち切れた。

 

 

『ヴァル!?』

 

「ヘイヘイ袋叩きの時間だオラァ!」

 

 

 武器破壊による強制的なソードスキルの阻止。いかにスーパーアーマーといえど硬直まで無効化する訳ではない。

 

 こうなったらもうやることは一つだ。剣の耐久値も勿体ないので、ひたすら殴打に限る。コイツの行動ルーチンはどこまで行ってもコボルトなので、武器を失うと逃げる一択なのだ。

 

 取っ捕まえて馬乗りからの殴打。ひたすらに殴打。悲鳴を上げようが呻き声を上げようが命乞いしようが殴打。そら死ねすぐ死ね今すぐ死ね。貴様の顔面ボコボコにしたるぞコラ。もうしてるけど。

 

 

「シャオラァ!」

 

 

 殴り続けること五分。ついにポリゴン片と化したコボルトの残骸の上で勝鬨を上げた。もう慣れ過ぎてなにも感じないんですが。

 

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 

 迷宮区最終区域。巨大な大扉を前に、俺は感動で咽び泣いていた。

 

 …すまん言い過ぎた。咽び泣きはしなくとも、感動で少し足が震えている。こんなクソリアルラックの俺でも、ゲームプレイは可能だという事が今、証明されようとしているからだ。

 

 長い…本当に長い道のりだった。ここに至るまで一ヶ月と二週間。同時期に攻略に挑んだ奴等はもう遥か先の階層まで進んでいる。だがそれはそれだ。まずはこの瞬間を喜ぼうではないか。

 

 もう既にボスは倒されているので、俺がすべき事は階段を上がるだけ。たどり着く先は二階層の街だし、当然ながら多くのプレイヤーもいるだろう。

 

 それでもこの感動は誰にも邪魔させない。そうだ、何よりもこの俺がこの場所に立っている事。それこそが奇跡のような物なのだから。

 

 あぁ、この一歩はきっと小さな物だろう。だけど俺にとっては偉大な一歩だ。未来の確固たる希望への一歩。

 

 いざ二階層へ!

 

 俺は大扉に手を掛け、その扉を押し開けようとした。

 

 

 

 

 開かない。

 

 

 

 

 

 

「…ん?」

 

 

 押す、引く、スライドさせてみる。…開かない。

 

 

 

「…んん?」

 

 

 

 フッと、扉横の松明が消えた。

 

 

 

「お?なにこれ?」

 

 

 

 次々と消えていく松明。光が消えていく筈なのに、何故かボンヤリと光る大扉。そして発光する俺。

 

 …何これ。隠しイベ?

 

 

 俺の身体からボッと四つの光球が飛び出す。その光球はくるくると回転して扉の前へ。そして大扉に空いていた窪みに次々と嵌り、重々しい重低音を奏で始める。

 

 大扉に刻まれたレリーフがギチギチと変化し、4本の肉切り包丁をクロスしたような紋様に変わる。赤々と輝いていた松明は寒々しい青に変わり、大扉の表面を舐めるように揺らめいた。

 

 

「………おい。…おい、待てよ」

 

 

 ガゴン、と扉が開く。いっそ清々しい程の重圧、流れ込む熱気にも似た圧力、これっぽちも隠しきれていない不気味さ。

 

 開いた扉の奥には大広間が広がっていた。それは迷宮の終点、そして今はもう何の役目も果たさない筈の空っぽの部屋。

 

 …行くしか、無いんだろうな。

 

 ここまで来て引き下がるのもバカらしい。今までどれだけ辛酸を舐め続けたと思っているんだ。今更一階層のボスが再復活した程度で狼狽えるなよ、別に楽勝だろう?

 

 なんせ俺の今のレベルは25だ。スキルもこのレベルにしてはイかれてるとしか思えない程に熟練度が上がっている。どれもこれも、ふざけたエンカウント率が起こす唯一の報いのようなもの。ただしアイテムは寄越さないがな。

 

 本気だ。本気で行く。

 

 今まで温存していた武器防具。狩に出れば連戦は必須な為に使ってこなかった強力な武装。それらを全て装備した。流石にグレードは一階層のものだが、そこいらのプレイヤーの物よりも遥かに上だ。

 

 ただし強化は全て失敗している。…貴重なドロップ品なのになぁ…。念願のアーニールブレードすらフルコンボで失敗したんですがそれは。一番試行回数多い筈なんだけど。

 

 

 扉の枠を踏み越えた。押し潰すようなプレッシャーは更に濃くなり、青色の灯りがボンヤリと部屋を照らす。

 

 その広間の奥。王座の前で跪く大きな人影。…いや、あれはコボルトだ。コボルトにしてはかなり痩せ気味で、醜く膨らんだ腹も短い手足も無い。より人型に近付けど、根本が犬であるような存在。人型の器用さを示すかのように、手には長い杖を持っていた。

 

 

『………ルル…ルルォゥ…ルルォゥル…』

 

 

 王座の前に跪いて何事かを呟く。コボルト語なんてものは当然わからないが、何と言っているのかは何となくわかった。

 

 多分アレは王の旅立ちを嘆いている。モンスターが『泣く』なんて初めて見たが、さほど驚きはしなかった。このゲームのAIは、時として人間さえ超えかねない情緒を見せるからな。さっきの二度見だって、普通はあんな事しないだろ。

 

 

『……グル…ルォゥ』

 

「よぉ、別れの挨拶は済んだか?」

 

『ルルルルゥ…ルルルォオオゥ…』

 

「言葉わかんねーっての。それに、俺達がすべきことはそうじゃ無いだろうが」

 

『…ルル』

 

 

 人影が立ち上がる。化け物に相応しいが、少々小柄な2メートル強程の身長。手には長い杖、翻るようにはためくローブ、コボルトの物とは思えないほど深い知性を見せる銀の眼。

 

 

 

 

【リベンジング・ザ・コボルトミニスター】

 

 

 

 

 

「上等だ雑魚犬野郎!その間抜けなツラしこたま殴ってやるから覚悟しやがれ!」

 

 

 開幕ブッパ広範囲薙ぎ払い炎攻撃をソードスキルで強引に相殺し、硬直が溶けた瞬間にインファイトに持ち込む。

 

 驚いている暇はねーぞ犬っころ。まだまだ先は長いんだからな!

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