妄想墓場   作:ひなあられ

6 / 15
リアルラック最低のSAO3

「いやー流石は兄貴ですぜ。まさかこんな隠しクエがあるなんて」

 

「おいおい、偶然だ偶然。ま、先を越されていたのは業腹だったが、ラッキーとも言える」

 

「クリアして登って来た奴をグサッ!そんでもってレアドロは頂きってね!いやー美味しい殺しだわー」

 

「別に、殺さなくても、いい。奪えれば、それで」

 

「あ?何生温いこと言ってんだテメェ。皆殺せばそれで済む話だろうが」

 

「非効率、だ」

 

「俺もそいつに賛成だな。悪いが今日は我慢してくれ」

 

「えーっ!アニキまで何いってんすか!ぶっ殺しましょーよー!」

 

「黙、れ。少しは、考えろ。…向こう、は、最高、だと、フルレイド、だ。人数、で、押しつぶされ、る」

 

「…ちぇっ!わかったすよー。でも殺すときは俺っすからね!」

 

 

 悍ましい会話が回廊に反響する。声の主は揃って黒づくめの不気味な集団。夜の闇に紛れるようにして、朗らかとも言える雰囲気を醸し出していた。

 

 デスゲームにおいて、決して許されない禁忌。その禁忌を容易く破ってしまう者達。それがPKプレイヤーだ。

 

 彼らは既に様々な手段をもって人を殺していた。人の恐怖する姿を嘲笑い、その生き方を否定して無残に殺す。そんな血も涙もない殺し方をする彼等は、PKの中でも特に悪質な者達でもあった。

 

 彼等が今いるのは、既に役目を終えた筈の迷宮区。レイドボスを打倒した末に登れる神聖な回廊だが、夜の闇に沈んだ今となっては、むしろ不気味な雰囲気を漂わせている。

 

 そんな回廊に異質な音が混ざり始めた。それは彼等の足音ではない。石床とブーツが当たるゴム質に近い鈍い音ではなく、金属をこすり合わせるざらめく様な音。

 

 

「AーHa…勇者様方のお出ましだ」

 

「いやいや、羊の間違いっしょ」

 

「どちら、に、せよ、殺す、だけだ」

 

 

 武器をしまい、顔を隠すようなフードを被る3人。人影は未だ見えず、耳障りな金属音だけが回廊に響く。

 

 そんな様子に、PKのリーダーは違和感を覚えた。先程から響く音は一つだけ。どう聞いても複数には聞こえない。それにこの音はなんだ?足音も混じってはいるが、あまりにも静か過ぎる。…いや、これは靴すら履いていないのか。

 

 つのる不確定要素に、自然と剣に手が触れる。そんなリーダーの様子を見て、他2人も同じように武器に手をかけた。

 

 ゆっくりと時間が流れる。張り詰めた空気の中、不気味な音だけが回廊に響き、その音はだんだんと大きくなっていく。やがて音の反響も近くなり、その反響も止み始めた頃にソイツは現れた。

 

 

 

 それは、一見して人ではなかった。

 

 

 

 それは、武器を持っていた。

 

 

 

 それは、人としての動きを辞めていた。

 

 

 

 それは、あまねく全ての防具が壊れていた。

 

 

 

 それを言い表すなら、たった一言で済むだろう。

 

 

 

 それは、狂人であった。

 

 

 

 

 

 俯かれた顔は視線を読めず、覚束ない足取りはどこに進むかわからない。ほぼ全ての防具が破損しており、ブーツや小手などの末端部分は地肌が見えている。

 

 満身創痍という言葉がぴったりと当てはまるような立ち姿なのに、手に持ったボロボロの片手剣だけはガッチリと握られていた。ただ、持ち上げる力が無いのか、常に床を引きずっていたが。

 

 

「………あー、おい、そこの。止まれ」

 

「…アレ、何っすか?どう見ても普通じゃ無いっすよ?」

 

「知る、か。…ただ、俺達、の、やる事、は、楽になった、な」

 

「そっすねー。どう見てもソロっすもんねー」

 

「…おい、止まれ。それ以上動くな。…聞いているのか?」

 

「………」

 

 

 狂人は止まらない。呼びかけを正しく理解しているのかも怪しい。虚ろな瞳孔は何も写さず、ふらついている足は今にも転びそうであり、どう見てもマトモではない。

 

 これを見て3人は、この狂った人物を格下と判断した。どれだけ高いプレイヤースキルを持っていようと、意識が朦朧としているなら関係ない。そのパフォーマンスはガタガタだろう。

 

 

「あ、これ俺がやっちゃっても良いっすか?この分ならサクッとやっちゃえるっすよ」

 

「Fooom…そうだな。むしろ赤子でも殺せそうなもんだが」

 

「手、を下さず、とも、死にかけ、とは、珍しい、な」

 

「大方死にに来たんだろうよ。限界まで戦ってこの様ってこった。…待てよ、となるとあの裏クエをクリアしたのはコイツか。こりゃ都合がいい!」

 

「鴨、ネギ、か」

 

「ほんじゃ、ズッポシ行きましょうかね。…ソードスキルも勿体ねーわ。おらよ、死ねや」

 

 

 何の変哲も無い片手剣の刺突。避ける力すら残っていないのか、その凶刃は狂人の胸を容易く貫いた。

 

 1秒、2秒、3秒…どれだけ経っても狂人は動かず、刺された体勢で固まっている。それを見て気が抜けたのか、剣に込めた力を解いて後ろを振り返るPK。

 

 

「はは、みて下さいっすよ!マジで動かなっ」

 

 

 その言葉は、それ以上続けられる事はなかった。PKは突如として訪れた浮遊感と、猛烈な衝撃に晒されて思考が止まる。何が起きたのか把握した時、彼は回廊の床と激しいディープキスを味わっていた。

 

 何のことは無い。ただ後頭部を鷲掴みにして地面に叩きつけられただけだ。しかし速度が恐ろしいほどに早く、PKの足は未だに宙に浮いている。

 

 そのまま何度も床に打ち付けられるPK。床の属性判定が鈍器に当たる為、容赦なくスタンのバッドステータスが加算される。それを見たリーダー格の男が、剣を抜きざまにソードスキルを放つ。

 

 一瞬。そう、それは一瞬の出来事。刹那に満たない時間の中で、狂人は歯を剥き出しにして威嚇する。もはや人間なのかどうかも怪しい挙動で、青色に染まる片手剣に『噛み付いた』。

 

 

「what!?」

 

 

 単発水平切り『ホリゾンタル』。自身の前方を180度から100度の範囲で斬り払う軌道を描く。その対処は多岐に渡るが、少なくともこの狂人の対処は真似しない方がいいだろう。

 

 それは噛み付いたうえで、剣の軌道に沿うように身体を動かす事。ソードスキルのダメージ判定は、剣そのものには存在しない。あくまでも『刃』の部分に判定がある。

 

 エフェクトに騙されがちだが、剣の『腹』には一切の当たり判定は無いのだ。噛み付くと言う動作は一見不合理なように見えて、実は真剣白刃取りに近い防御法だった。

 

 果たして本人にその認識があるのかは不明だったが。

 

 

「Shit!」

 

 

 ソードスキルの発動が終了し、剣に宿る燐光が失せた瞬間、PKの身体は宙を舞っていた。狂人が、剣に噛み付いたまま全身をぶん回したのだ。

 

 その動きは既に人の物ではなく、対処は困難を極める。次に来る手が全く読めない。細剣使いの男が滑らかに走り出し、驚異的なスピードで突きを繰り出したが、刺さったままの剣でパリィされ、バランスを崩した瞬間に片目を奪われる。

 

 そう、片目を奪った。それは何も比喩ではなく直喩だ。片目に手を直接突き入れて毟り取ったのだ。あまりの出来事に、たたらを踏んで崩れる細剣使い。狂人はその大き過ぎる隙を見逃さない。

 

 反転するやいなや、助走付きのサッカーボールキック。下から上へ空気を切り裂いて放たれた一撃は、細剣使いの股間を易々と捉えた。

 

 

「ーーーーーッッッッッッ!?!!!?」

 

 

 フードに隠れてその顔色は見えないが、きっとこの世の全ての苦痛を一身に受けたような凄まじい形相をしているに違いない。フワリと地面から打ち上げられ、そのまま無様に床を転がった。

 

 細剣使いの未来が断たれた瞬間である。これが現実で無くて良かったと、彼は神に感謝するだろう。

 

 股間からダメージエフェクトを撒き散らして転がる男に、顔面を起点としてシャチホコのポーズを取る男、そして運の悪い事に、壁に取り付けられた燭台に引っかかって降りられない男。

 

 実に混沌として死屍累々とした有様の空間を、狂人はトドメを刺す事なく立ち去った。

 

 

 尚、剣は刺さったままである。

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 時が経ち、持ち主のいないボス部屋。三人の男達が満身創痍といった風情で休息を取っていた。言わずもがな、あのPK達である。

 

 

「…なんっなんすかね?アレ」

 

「さァ、な」

 

「いやいやいや、なんかもう、人じゃねーわ。人っぽいっつーか獣だわ。手当たり次第攻撃っつーの?暴れ回るっつーかなんつーか」

 

「…」

 

「つかよ、いつまで黙ってんすかボス。あんた二人掛かりだったんだろ?なんで負けたんだオイ」

 

「…口、を、慎め」

 

「テメーもだよボケ。それともなんだ?負けたのはボスのせいですぅー、僕チンなぁーんにも悪くありしぇーんとか言いてぇのか?あぁ?」

 

「貴様…」

 

「お?やんのか?歓迎すんぜ、今この場でボッコボコにしてやるわ腑抜け」

 

 

「……少し…黙れ」

 

 

 ビリッと、押し込められた殺意が雷撃のように空間を駆ける。その気迫に当てられ、口をつぐむ二人。その最中で男は一人、口の端を僅かに歪ませて嗤っていた。

 

 それは答えを見つけ出した学者のような、残酷な悪戯を思い付いた子供のような嗤いだった。薄ら寒く陰湿で、人に不快感を与える醜悪な嗤い…。

 

 暫くの沈黙の後、男はこう切り出した。

 

 

「なぁお前ら、人は何故睡眠を必要とするのか知っているか?」

 

 

 唐突な質問。首を傾げる短剣使いと、心当たりがあるのか身動ぎをする細剣使い。やがて細剣使いがボソボソと意を決したように喋り出した。

 

 

「…わから、ない。…わかって、いない」

 

「はぁ、なんだそりゃ」

 

「へぇ?知ってたのか。意外に博識だなお前」

 

「ほへ?」

 

「何故人が眠るのか…。実際のところ、全く解っちゃいない。頭でっかちな学者共が80年間、頭付き合わせて得た結論だよ、笑っちまうだろ?」

 

「そ、そうなんすか?」

 

「人を眠らせないとどうなるか…。その答えは未だ出ちゃいない。当たり前だよなぁ?動物はどう足掻いても睡魔に勝てないんだからよぉ」

 

「…マウス、の、実験、では、二週間で、死ぬ」

 

「よく知ってるなお前。そうさ、眠らなきゃ死んじまう。人も同じように死ぬと考えられている。睡眠不足は遠回しの自殺、そう言い換えてもいいだろう」

 

 

 人に限らず、哺乳類は必ず眠る。どんな手段を用いてでも眠るのだ。鳥は飛びながら、イルカなどは脳味噌を半分ずつ使いながら眠る。しかしそれ程までに睡眠を必要としながら、何故眠るのかは全く解っていない。

 

 眠らなければ何が起こるのか…。マウスを使った実験では、二週間という短期間でマウスは死んでしまう。死因はストレス及び敗血症。栄養的には全く問題は無く、脳から発せられる刺激で死に至ってしまう。

 

 眠らなければ死ぬ。餓死を待たずして死んでしまう。それも過度のストレスによって。…その死に様は、どんな死にも勝るだろう。

 

 人が打ち立てた不眠の最長記録は266時間。約11日間である。その記録を打ち立てた人物は、日を追うごとに狂っていったという。

 

 初めは眠気と倦怠感、続いて誇大妄想、幻覚、視力低下、被害妄想、最終日には極度の記憶障害…。全て脳が起こした結果であり、それだけ睡眠がいかに大切なのかを知らしめる事となった。

 

 だが彼の首から下は至って健康であり、大きな障害は見られなかった。…ここが、恐ろしい所である。

 

 この話を聞いて、何か思い当たる事は無いだろうか?…そう、例えば、身体の信号をシャットアウトしてしまい、純粋に脳だけを動かせる機械があったとしたら。そんな夢のような機械があったとして、果たして睡眠はどうなってしまうのか。

 

 

「システムの穴?そんな生易しいもんじゃねぇだろ。ハハ、よく考えりゃこの機械は、ある種のリミッターをぶち壊す。どれだけ脳波が乱れようがシャットアウトされない…。最高の拷問器具だぜ」

 

「…なら、あいつ、は」

 

「ぶっ壊れたんだろ、単純にな。レイドボス相手にたった一人?この俺でも御免被る。攻撃がかするだけで死が見える、直撃すればほぼ即死、デバフを貰ったあかつきには絶望の内に死ぬ。そんな極限状態、一時間持つかどうかだ」

 

「あの、男…。それ程まで、レベルが、高い、のか?」

 

「そりゃ無いっすよ。ならなんで俺っちの攻撃が入ったんすか。そこまでレベル差あるなら擦り傷っすよ?」

 

「三日だ」

 

「な、に?まさ、か、そん、な」

 

「どういう事っすか?」

 

「…あの、男。三日の、間、戦い続けた、という、こと、だ。あり、えな、い」

 

「そうだ、その有り得ねぇ事態が起きやがった。その結果あいつは完全にぶっ壊れ、意識の無ぇ状態にも関わらずオートで反撃した。…それしか考えられないな」

 

 

 男の眼前に輝くパネルには、男の仲間が伝えた情報が載っていた。その内容はボス部屋が三日の間閉ざされていた事。その仲間も他人からの又聞きな為に、詳細は少々あやふやであった。

 

 しかし信用に足りる情報である。何故なら、そうでもしないとレイドボスは倒せないからだ。たった一発が致命傷になりかねない戦闘の中、確実な有効打を与え続けたとして、その膨大なHPを削るのに幾ら必要なのか?

 

 最大規模で48人、それらが高効率でスキルを回転させ、討伐に至る時間は約15分。数とは力、そして暴力だ。隙を突いて攻撃出来る回数も当然ながら増える。

 

 それらの恩恵が一切無い、ソロという特性。あの男はそれを成し遂げた。代償に思考能力のほぼ全てを投げ捨てながらであったが。

 

 

「…あぁ…最っ高の気分だ、なんて面白い玩具なんだよお前は」

 

 

 だが違う。この男は違う。決定的に破綻しきったこの男は、その異常性を目の当たりにしても揺るがなかった。寧ろ歓迎するかのように笑みを深める。

 

 

「前々から考えてはいたんだ、システムはどうやって犯罪を判定するのかを、な」

 

「…ボス?」

 

「…」

 

「なぁお前ら。もしアイツがグリーンの善良なプレイヤーを攻撃したら、どうなると思う?」

 

 

 

 

 

 

 

 暗い広間にて、悪意は浸笑う。このゲームで最も不幸な男に、最悪の死神が取り憑こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここ何処だ」

 

 

 目が覚めた。なんだかスッキリ快調である。…ごめん嘘ついた。なんで半裸な上に剣ぶっ刺さってんの?死ぬの?馬鹿なの?

 

 今は…夜中か。…あー、疲れた。腹減った。何にもする気起きねーわ。

 

 

「…んァ、ん?…おい?おい!大丈夫カ!?死んでないか!?いや生きてるけド!」

 

 

 突然隣から大声で叫ばれた。思わず振り返ると、そこには金髪の女の子がボロボロ涙を零しながら喚いていた。彼女の周りには大量のポーションとアイテムが転がっている。

 

 …誰。え、誰。俺こんな子と知り合いだっけ?

 

 

「は、はぁ。大丈夫っす。見ての通りピンピンしてるんでご心配なく」

 

「おいらもうどうしようかと…!人だかりが出来てるんで来てみれば、こんな広間のど真ん中でぶっ倒れてるシ!しかも半裸だし剣も刺さってるシでどう見ても死体にしか見えなかったんだヨ!?」

 

「それは、はい、すいません」

 

「一体何があったんダ?普通そうはならないゾ」

 

「あの、はい、えと、すいません。どなたかわかりませんが、心配していただきありがとうございます。自分ちょっと疲れていてですね、出来ればその、休ませていただけないかと、はい」

 

「……ン?」

 

「はい。その、はい。ちょっとそんな訳で失礼します。今日はありがとうございました。その、お礼は後日でもよろしいでしょうか?昼頃にここに来て頂ければ、必ずお礼を致しますので」

 

「…ア、ふーん、そっカ、成る程ねェ。うんいいヨ。オネーサン期待して待ってるゾ」

 

 

 …なんでジト目?俺なんかしただろうか。ごめんやめて、俺人覚えるの苦手なんだよ。俺が忘れているだけで、実は何処かで会ってたりしないよね?

 

 いやでもこんな美女を覚えてないとかあり得ないだろ。…まだ寝ぼけてんのかな。

 

 取り敢えず何処でもいいから眠れる所を探さないと…。いやガチで眠い。しかもなんだこの倦怠感は。まるで三徹明けのテンションのようじゃないか。

 

 

 なんだか後ろ髪を引かれつつも美女と別れ、足を引きずるようにして宿に向かった。飯よりも先に睡眠欲が勝ったらしい。宿のドアを閉めた辺りで、俺の意識が急速に闇に落ちて行く。

 

 …あぁ、これ絶対遅刻するわ。…そうだ、アルゴ…に、蓮…絡…。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。