死神が、俺の知っている知識とは違う?
「それって、どういうことだ……?」
彼女の金の目が自分を捕らえ、そして口が開かれる。
「死神の本質は、魂を
「変わってねえじゃんかよ!」
怒声を上げる俺の声にひるみもせず、少女は再び口を開く。
「ワタシが、言っているのは、あなたが、死んでからのこと。あなたは、“人生”で死んでしまった。しかし、こっちでは、まだ、死んでいない」
――人生……? こっち……?
「意味わかんねえよ、つまりどういうことなんだ?」
俺がそういうと、少女は少し難しそうな顔になるが、すぐに顔は平常に戻る。
「……こっち、つまり、ワタシがさっき言った『死人』としての第二の、死んだ後の
――……死人、死んだ後の人生……? ……つまり、てっことは! 今の俺って――
「“幽霊”……って、ことかよ……」
「そう。でも、正確には違う――」
正確には?
「――幽霊、物の本質は不の概念によって、その概念のエネルギー体の塊としてできたのが幽霊。憤怒、強欲、憎しみ……時にとってしてみれば、悲しみも、その不のエネルギー体となっている」
「てっことは、そんな、不を抱えて死んでしまったときの強烈な塊が幽霊ってことかよ」
コクッ、少女は頷く。
「じゃあ、それはまるっきり俺のことじゃ――」
「違う」
すべてを言い終わる前に、少女が否定した。
「なにがチゲェんだよ……」
一瞬の口ごもり、しかし、その後少女は確かに言った――
「あなたは、不の概念よりも、あなたは、あなた自身のことをちゃんとわかっていた……! 限られたボールの溝に入る水は限られてる。あなたは、あなた自身の耐えられるものの本質を理解してた……! だから、あなたは、あなたの親に言った……そうでしょ……」
「――ッ!?」
最後の方からは、少女の声は消えかかりそうなほど小さくなっていた。でも、必死に伝えるその言葉の意味と重みを俺に伝え……、そして俺はわかってしまった。
今にも、どこかに消えてしまうのではないかと見ているだけで心配になり、か細く、貧弱なこの少女言葉が、深く俺に突いたのだ。
「違う! 違う違う違う違う違う違う! 俺は、俺はぁ……!」
しかし、それを認めてしまったら……、少女の言葉理解してしまったら……。
「俺は逃げた……! わかってたからじゃない!! それは俺が、おれ自身が、俺の親を否定したくて、軽蔑したから、その場にいたくなかった、ただ、それだけだ……!」
夜空に響く罵声。
とめどない、自分のやりきれない気持ちがあふれんばかり内側から……自分の身体に――
そして、ワナワナと高ぶる気持ちに追い討ちをかけるかのように少女は言う。
「――あなたは、
「……そんな、馬鹿な話になって……たまるかよ……。俺が、親を……?」
「そう」
……………………自分の心はすでに認めていた。しかし、それを認めようとする意思が俺には足りないのだ。
「
「……はぁ? それって……?」
変わらずの白い肌が、一瞬だけピンク色になった気がした。俺の気のせいかもしれない……
「もう、十分がんばった」
「――ッ……」
その言葉を聞き、俺はついに屈した――
小さい頃は毎日が豊かな家計であった柊の家庭。
母親はどことなく温厚で少し抜けていて、父親は頑固でこれと決めたらぜったいにその意思を曲げない。
それでも、俺の家庭は、確かに楽しかったのだ……――
いつ、その安らかな家庭が壊れてしまったのかはわからない。
そんな親を見ているのがたまらなくいやになり、それでも二人の仲を取り持ちたい思ったのだ。
しかし、月日が進むことによって自分の心に「諦め」が芽生え、そして、ついには完全に諦めてしまったのだ。
でも、俺は確かにそのときに……――
◆
「――……ふっ、俺が不の概念がないねぇ~、半分はあってて、半分は違う、でも、結果として今を見たら、やっぱり失敗に終わってるんだ。やっぱり俺には不の概念があるよ……」
「……そう」
少女の地面――下を向く。
「でも、それに気づかせてくれて助かったのは、あったな……。……しゃらくせーけど、礼を言う。マジでサンキューな……」
パッと顔を上げる。
「……」
「でも、やっぱり、悔しいもんだな……」
今の人生は退屈で、それでいてつらいことしか待っていなくて、誰もいないさびしい人生。
両親の、その両方に否定をして、人生にも否定し、ついには、自分自身もなくなってしまった……。
ふと、最近自分が思ったことを思い出す。
『やり直したい、原因のある、その根本的な部分から――』
「やり直したい。ねぇ~……」
自分の中にはやはり、そういった、良心的な両親を思う気持ちがあったんだろう。だから、そう思ったに違いない。
「それが、あなたの『願い』」
「あぁ? どういうことだ?」
「さっきワタシが言ったはず、『ワタシは、あなた強く願った最後の願いに従い、あなたの魂を救いきた』死神の本来の仕事は、死前に強く願った願いを叶えること。だから、ワタシはここに、いる」
「…………」
自分の心が瞬時にそれを理解する。
――確かに言っていた。そして、こうも言った『死神の悪者扱いしている時点で、あなたの知っていること、全部、違う』と……
全部がつながったのだ。
はじめにこの少女が来た理由も、俺に伝えた理由も、全部つながったのだ。
「お前、人に物事を伝えるのニガテだろ……。遠まわしすぎて理解ができねぇんよぉぉぉぉ!」
裡音の大声が公園の夜空いっぱいに響き渡ったのだった……――