戦姫絶唱シンフォギア-金色の旋律-   作:明石明

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覚醒-Gungnir-

 私はその姿を絶対に忘れることはないだろう。

 

 女の子をノイズから守ろうと必死になっていたあの時。突然現れた一人の騎士。

 

 手に持つ金色の剣からはどこか神聖な空気が流れ、何故か優しい想いを感じた。

 

 騎士の纏う鎧はほとんどが漆黒でありながら一部は金色に輝いていて、その兜は――まるで黄金の狼だった。

 

 

 

 

 

          覚醒(Gungnir)

 

 

 

 

 

 ――なな、なに!? なに!? いきなり変なのが来てなんか凄そうな剣でノイズを切って……。

 

 

「……ぅええぇ!? ノイズを切った!? なんで!? どうやって!?」

 

 

 突然の介入者とそれがもたらした情報量に、ただでさえ普段から親友に残念なと呼ばれるくらいよろしくない響の頭は状況処理が追い付かず大混乱を極めた。介入者の姿が異質なのもそうだが、それ以上にノイズを倒したという自身の経験上、一例を除いてあり得ない事実がパニックに拍車をかけたためだ。

 そんな彼女の困惑も意に介さず、騎士はノイズに対峙したまま振り向きもせず告げる。

 

 

「行け」

 

「……え?」

 

「早く行け」

 

「……あっ、はい!」

 

 

 二度目の通告でどういう意味なのかをようやく理解し、響は女の子を抱えなおして再び走り出す。

 遠ざかる足音を確認し、騎士は剣を構えてノイズを睨む。

 

 

『おい小僧。後で必ず記憶を消しておけよ』

 

 

 左手に装着されたザルバの注意に騎士――冴島旋牙は「言われずとも」と答える。

 アイロンのような手をしたノイズが対峙した旋牙を敵と認識すると、先ほど切り伏せられたノイズと同様に変形して突撃する。

 

 

「嘗めるな」

 

 

 早いだけが取り柄の突撃を旋牙は手にした剣――牙狼剣で真っ向から切り伏せる。それを皮切りに大量のノイズが殺到するが、一振りで数体を纏めて屠っては背旗の先のリングを利用して「突撃とはこうやるのだ」と言わんばかりの勢いでノイズの壁に穴を穿つ。突撃の最中に炭化させようと触れてきたノイズもいたが、鎧に触れても炭化させられず逆に弾き飛ばされて消滅してしまうという結果に終わった。

 魔戒騎士が纏う鎧はソウルメタルという特殊な金属でできており、この金属はノイズの最大の特徴でもある『位相差障壁』を突破する力がある。魔戒剣も同様の素材で作られているため素肌をやられなければ生身の状態でもノイズを倒すことは可能ではあるが、そもそもノイズと剣を交えること自体が稀なため実践した騎士は非常に少ない。

 ノイズの群れを突破した旋牙は続いてジッポライターのようなものを取り出して緑色の火を出すと、そのまま牙狼剣にまとわりつかせる。

 魔導火と呼ばれる魔界の炎を利用した汎用性の高い攻撃手段の一つで、烈火炎装と呼ばれるものだ。

 

 

「まとめてくたばれ!」

 

 

 真横に振られた牙狼剣から烈火炎装が弧を描いて放たれ、密集していたノイズは残らず餌食となって炭として舞い散った。

 残っていたノイズも背旗のリングをアンカーにして立体的な動きを見せる旋牙の攻撃になすすべもなく蹴散らされ、ものの数十秒で響を追っていたノイズは全て駆逐されることとなった。

 最後の一体を倒して狩りそこなった個体がないことを確認し、旋牙は鎧を解除して魔戒剣を見つめながら手ごたえを振り返る。

 

 

「初めてのノイズ戦にしては、あっけないな」

 

『いい気になるなよ。もともと数と障壁しか取り柄がない連中だ。それよりさっき逃がした嬢ちゃんたちの記憶を消しに行け』

 

「わかってる」

 

 

 細かいことを指摘する相方にやれやれとため息をこぼし、響の後を追う。

 魔戒騎士の掟の一つに、むやみに人間社会の問題にかかわってはいけないというものがある。これは一例をあげると魔戒騎士の存在をもとに一般人がホラーの存在にたどり着き、隣人がホラーかもしれないという疑心暗鬼に駆られてそのままホラーに食われてしまうかもしれないというサイクルを生み出さないためだ。

 ノイズとの戦いもまた、ソウルメタルというノイズに対抗できうる技術を流出させないために存在を晒してはいけないという理由がある。どちらにしても言えることだが、ソウルメタルに関しては人間同士の戦争に使われないためにも流出は何としても阻止しなければならない。

 もし姿を見られてしまった場合、特例を除いて魔導札による記憶の改竄などの処置を施して魔戒騎士の存在を隠匿しなければならない。記憶を消されることに関しては、運が悪かったと諦めてもらう他ない。

 

 

「それで、相手は今どこだ?」

 

『まあ待て。 ――おいおい、あの短時間でどこまで逃げているんだ。正面にあるデカいタンクみたいなやつの一番上だぞ』

 

 

 呆れ交じりのザルバの言葉を聞きながら旋牙は視線を動かす。

 確かに目の前には巨大なタンクが聳え立っており、梯子があるとはいえ子供一人連れて昇るにはどう考えても時間がかかりそうだ。だがザルバは一番上、つまり梯子を上り切った場所にいると言った。

 

 

「……マジかよ」

 

 

 思わずそうこぼしたのも仕方ないだろう。

 戦闘してからとはいえ、後を追い始めて五分程度しか経っていないのだ。そのわずかな時間であんな場所に行ったのかと思うと、ザルバのように驚きを通り越して呆れしか出ない。

 だが掟を守るためにも彼女に追いついて記憶を消さねばならない。

 

 

『おい。面倒くさがらずさっさと――何ッ!?』

 

「! どうした!?」

 

『本当に異常だぜ! 目的地に新手のノイズだ!』

 

 

 

 

 

 

 あの場からひたすら離れようと走り続け、気合で高い場所まで逃げてきた響は女の子とともに呼吸を整えていた。

 人助け第一主義を掲げる響としても今回は流石に肝を冷やした。あそこで謎の騎士からの介入がなければ、既にこの世にはいなかったのかもしれないのだから。

 しかしここまでくればとりあえずは安心できるだろう。後はどうにかしてもっと安全な場所に避難するだけだ。

 ――が、ここにきて響は肝心なことに気づく。

 

 

「……勢いでここまで来ちゃったけど、どうやって逃げればいいのかな……」

 

 

 ノイズに追われている中で後先考えて逃げろというのも、通常の思考ならばなかなかに難しい注文だ。何せ触れられただけで死ぬのだ。普通の人間ならばあたらないように動くだけで思考がいっぱいになるだろう。

 響としては自分たちを助けてくれた人にお礼も言いたいのだが、まだノイズがいるかもわからないのでは迂闊に戻ることもできない。

 

 

「――ひっ!」

 

 

 女の子の悲鳴が上がり振り返ると、響は背筋が凍るのを感じた。

 視界に収まるのは――新手のノイズの群れ。

 しかも唯一の脱出ルートである梯子への道を完全に塞がれ、脱出不可能な状況が出来上がっていた。

 ノイズから女の子を守るように抱き寄せ、淵のぎりぎりまで後ずさる。

 だがノイズは無慈悲にもその包囲網を縮める。まるで絶望を長く味わせるかのように。

 

 

「大丈夫、ぜったい大丈夫……」

 

 

 震える女の子に響は言い聞かせる。

 さっきのように誰かが助けてくれるなどとは思わない。あれは本当に運がよかったとしか言えないのだから。

 それでも響は諦めない。諦めれば、それこそ今日まで生き残らせてくれた人たちに対する裏切りとなる。

 だから彼女は叫ぶ。女の子を安心させるように。自分を鼓舞するように。自分を救ってくれた人が遺し、自身の信念となったその言葉を。

 

 

「生きるのを諦めないでッ!!」

 

 

 

 

 

 

ドクンッ――!

 

 

 

 

 

 突如、響の頭に歌が浮かんだ。

 それが何を意味するのかは分からない。

 だがソレは、当然のように彼女の口から溢れた。

 

 

 

「――Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 

 

 偶然か必然か。響の歌に応えるかのように、かつて生死の境をさまよう原因となった彼女の胸元にある傷跡から光が立ち昇る。

 光に包み込まれたかと思えば、あたりに突然音楽が流れ始める。

 

――な、何これ……ッ!

 

 何が起こってるかはわからない。しかし、一つだけわかることがあった。

 

――体の奥で…力が溢れてくる(暴れている)ッ!

 

 ドンッ!と、背中からスピーカーのようなものが飛び出す。まるで湧き上がる力が逃げ場を求めるように。

 それは二、三度脈動するように数を増やすと、無理やり押し込むようにまとめて響の中に取り込まれた。

 

 

「ぁぁぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!」

 

 

 獣じみた咆哮とともに光が爆発する。

 それはまるで、立花響が”人間ではなくなった”ことを示すかのような強烈な光だった。

 

 

 

 

 

 

 遠目からでもわかるその現象を、一般人とはまた別の視点で確認する組織があった。

 

 

「新たなエネルギーの波動を感知!」

 

「座標点、先ほどのノイズの出現位置と同じです!」

 

 

 最新鋭の機器を駆使して情報を割り出すそこは番犬所を除いてこの国において唯一ノイズと対抗できうる力を持った存在であり、響が発現した力を研究する組織でもあった。

 

 

「まさかこれって……アウフヴァッヘン波形!?」

 

「こいつは……ガングニールだとぉ!?」

 

「――ッ!」

 

 

――そんな……あれは、奏の……!

 

 そこへもたらされた思いもよらない情報に、片翼の歌姫は大いに動揺する。

 その胸に渦巻くのは驚愕か、それとも憤怒か。

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、あれは」

 

 

 魔戒騎士特有の高い身体能力を駆使してタンクの頂上を目指していた旋牙だが、突然響き渡った咆哮と光の爆発に様子見を余儀なくされた。

 急遽上っていたタンクとは別の高い場所に移って最初に目についたのは、先ほど助けた少女が明らかに異質なナニかをまとった姿だった。

 

 

『こいつは驚いたな……』

 

 

 今まで聞いたことがないほど驚きに満ちた声を上げるザルバ。これには旋牙もただ事ではないとすぐに察した。

 

 

「どうした、ザルバ」

 

『さっき言った気になる力の正体がわかったが……信じられんことに、あのお嬢ちゃんからオーディンの爺さんが持ってた槍と同じ気配がしやがる』

 

「オーディンの槍? ――まさか、ガングニールか!?」

 

 今度は旋牙が驚く番となった。

 オーディンのガングニール。

 ゲームや小説などで登場するこの単語を知る人も多いだろう。

 起源を掘り返せばそれは北欧神話までさかのぼり、一度(ひとたび)放てば必ず敵を貫く必中の神槍。それが最高神オーディンが所持するガングニールだ。

 文献によってグングニールと表記されるものもあるが、それは些末なことだろう。

 いま旋牙たちは気にすべきは、なぜあの少女からその気配を感じるのかだ。しかも何故か、どこからともなく流れる音楽を伴って。

 一方、響も響で自身に起こった変化に戸惑いを隠せないでいた。

 自身が通うリディアン音楽院の制服が体にぴっちり張り付くボディスーツのようなものになっており、両手両足は防具のような何かに覆われてまるでどこかの変身ヒーローだ。

 もちろん、こんなことが起こって冷静でいられる精神を響は持ち合わせていない。

 

 

「な、なにこれェェェェ!?」

 

 

 服がコスプレのようなものに変わっただけでも異常だが、その姿が体のラインがはっきりわかるボディスーツなど見ようによってはまるで痴女だ。

 無論彼女にそのような趣味も性癖もなく、もし同じようなことを言えば顔を真っ赤にして全力否定することだろう。

 しかし、この場にいたもう一人は違った。

 

 

「おねえちゃん、かっこいい……!!」

 

 

 先ほどから響に守られていた女の子はニチアサのヒーロー番組でも見るかのような純粋すぎる眼差しで感想を述べた。

 その一言で響の戸惑いはなくなり、改めてこの女の子を守らなければという使命感に駆られた。

 胸の奥から湧き上がる歌を口ずさみながら女の子の手を取り抱き上げる。

 先ほどから何もしてこなかったノイズだが、その姿に響は違和感を感じた。

 

――あれ? なんか、色が濃い?

 

 先ほどよりノイズがはっきりと見えるここに疑問を持ったが、その姿が変化し突撃をしてくると察した瞬間、響は思い切ってタンクから飛び降りようと跳躍する。

 

 

「のわああああああああああ!?」「ひゃああああああああああ!?」

 

 

 ――が、何故かとんでもないジャンプを披露することとなり予想の倍以上高い位置から落下するという事態となった。

 

 

『おぉぅ。力に振り回されてやがるぜ』

 

「急激なパワーアップに戸惑っているのがありありと伝わってくるな」

 

 

 その光景を見ていたザルバがつぶやく。

 聞こえてきた悲鳴からそんなことを考えていた旋牙だが、静観するわけにもいかないと後を追う。

 幸い無事に着地したようではあるが、ノイズの攻撃を避ける度に無駄に大きく動いてしまい壁にめり込んだりと制御に関しては全然なっちゃいないことが窺える。

 さらに巨人のように大きなノイズまで出現し、女の子を守りながら制御できない力で立ち向かうにしては彼女には荷が勝ちすぎる。

 

――小型はともかく、デカ(ブツ)は狩れるのか?

 

 再び介入すべきか算段を立てる旋牙だが、先ほど鎧を召喚してから時間はそう経っていない。

 魔戒騎士は連続して鎧を召喚できない。これには鎧の召喚時に科せられる制限時間が関係しており、それ以上は我が身の破滅を招くことになるからだ。小型の相手だけならこのままでも行けるだろうが、大型を狩るには少々心もとなかった。

 そんな時だ。彼らが衝撃的な光景を目撃したのは。

 

 

「くっ……このぉ!」

 

 

 飛びかかってきたカエル型ノイズに向かって無意識に拳を払う響。

 すると拳がノイズを捉え、殴られたノイズはそのまま炭となって消滅した。

 そう。一部の例外を除いて『位相差障壁』という物理攻撃に対し圧倒的優位を誇るノイズが、闇雲に放たれた拳一発で倒されたのだ。

 

 

「――はぁ!?」

 

『ノイズを殴り飛ばしただと!?』

 

 

 魔戒騎士や魔戒法師などならいざ知らず、どちらでもない力でノイズを倒したという事実に流石の二人も驚愕せざるを得ない。

 しかし何故、とは考えない。それを可能にしたのはどう考えてもあの装備であるとしか思えないからだ。なぜ歌うのかはこの際置いておくとしても、先ほど判明したガングニールという神話の力が関わっている以上、その攻撃が現代兵装と同等であるはずがない。

 

 

「これは……下手に割り込まないほうがいいな」

 

『ああ。余計なことはするなよ。頃合いを見てあの二人の記憶を消すだけに――ん? 何かが近づいてくるぞ』

 

 

 その言葉で耳を澄ませてみると、確かに何かが近づいてくるのがわかる。

 音から察するにそれはバイクのようだが、こんなノイズが集まっている場所に突っ込んでくるなど正気の沙汰ではない。

 やがて現れたのは青い髪を靡かせてバイクをノイズに突っ込ませる一人の女性だった。その顔を見たとき、旋牙はなぜこんな場所にと疑問が浮かんだ。

 

 

「どうしてここに風鳴翼が来るんだ?」

 

 

 ニュースやテレビで度々話題に上がるため、別段ファンでもない旋牙でもその情報は知っていた。だからこそ、どうしてこんな場所に単身バイクで突っ込んでくるのか謎だった。

 

 

『――おい小僧。あの女も嬢ちゃんと同類みたいだぞ』

 

 

 疑問に答えるようにザルバが言う。それだけで旋牙は納得した。

 つまりあの風鳴翼も、ノイズを倒すことができる力を持っているというわけだ。

 

――さしずめアーティストは表の顔で、裏ではこういったことをしているってことか。番犬所でこの情報は知らされていなかったが、教えるほどではなかったか。それとも教えてもらえるに足りえなかったか……。

 

 全く知らなかったというのは通用しないだろう。ただでさえノイズの出現率が異常な地域で、魔戒騎士たちだけで対処するにはあまりにも手が足りないはずだ。

 よほど優秀な法師が何かしら策を取っていたら話は別だろうが、今日一日の流れを見る限りその線は希薄とみるべきだ。

 ならば考えられるのはノイズの相手をあの力に任せて、番犬所はホラーをメインに討伐。ついでにノイズも倒すといったスタンスで活動しているのだろう。これならば基本的にノイズは後回しにできるし、何よりノイズでさえ優先して排除するホラーの相手に専念できるのだから。

 

 

「呆けないで。あなたはここでその子を守っていなさい」

 

 

 予想だにしない事態に硬直していた響にそれだけ告げると、翼はノイズに向かって駆け出す。

 その際に響と同じように突然歌いだし、体が光に包まれたかと思うと青を基調としたボディースーツに身を包んでいた。

 手にした細身の刀が変形して巨大化し、跳躍と同時に振り下ろされると巨大な斬撃が発生して数多のノイズが一撃で屠られた。

 

 

「……それで、あの子がガングニールなら風鳴翼はなんなんだ?」

 

 

 明らかに質量を無視した武器の変形から目をそらしつつザルバに問うと、面白そうな声色で答えが返ってきた。

 

 

『あれは天羽々斬のようだな。ヤマタノオロチを倒した剣といえばわかるか?』

 

「なるほど。 どうやって神話の武器を手に入れたかとか、なんで歌いながら戦うのかはこの際置いておくとして。どうする? これじゃあ記憶を消すこともままならないぞ」

 

「撤退すべきじゃね? 向こうの連中も集まってきてるから、このままだと退路がなくなるぜ」

 

 

 真後ろから突然声が上がり、跳ねるようにその場から離れる。

 魔戒剣に手をかけつつ振り返ると顔の左側に裂けたような傷跡を持ち、余計な装飾がない青いジャケットをまとった男がいた。

 歳は旋牙より上と推測できるが、自分どころかザルバにも気取られずに背後を取った時点で普通の人間ではない。

 敵か味方か判断しかねていると、ザルバがあることに気づく。

 

 

『小僧。あのジャケットは魔法衣だ』

 

「何?」

 

 

 魔法衣とは特殊な加護を受けた衣服であり、魔戒騎士や魔戒法師はこの服のおかげで非常に強いタフネスを得られるようになっている。また服の裏側は異空間に通じており、魔戒騎士たちは普段この中に魔戒剣を収めて行動している。さらに自動的に体温を適正な状態にする機能もあり、真夏に魔戒騎士がコートを着こんで平然としているのもこの機能のおかげである。

 もちろんそんな異様な姿はすぐに視線を集めることになるのだが、あらかじめ認識をズラす術式が施されているので基本的に人目を気にする必要もない。

 形状に関しては魔戒騎士はロングコートの魔法衣が主流であり、魔戒法師は独自にアレンジを施すことが多いため統一性はない。無論、魔戒騎士だからと言って全員がロングコートというわけでもない。過去には魔法衣をもたない魔戒騎士もいたという記録があるくらいだ。自分の動きやすい形にアレンジしたという騎士がいても不思議ではない。

 なので旋牙はこちら側の人間であることを前提に、しかし構えを解かないで問いかける。

 

 

「この町の魔戒法師か?」

 

「いんや。それは俺の相棒だ」

 

『もしや今日迎えに来るはずだった魔戒騎士か?』

 

「迎えにってのは合ってるが、魔戒騎士でもねぇんだな。これが」

 

 

 つまりこの男が番犬所までの案内をしてくれるはずの人物だったが、魔戒騎士でも魔戒法師でもないという。要領を得ない言葉に旋牙はますます警戒を強める。

 その様子に男は悪戯小僧のように口元に笑みを浮かべると、ジャケットの裏に手を突っ込んで引き抜く。その腕には、紋章の刻まれた手甲が嵌っていた。

 

 

「俺は魔戒拳士(けんし)(とどろき)(かける)ってんだ。よろしく頼むぜ、黄金騎士」

 

 

 




魔戒騎士の鎧が狼なら、こいつらの鎧はライオンだ。
鍛え上げた肉体と体術でホラーもノイズも豪快にぶっ飛ばす。

次回「拳士(Fighter)

轟き渡れ! 獅子の咆哮!
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