ボンクレーが『ときメモ2』の世界に転生したようです 作:越後屋大輔
アフリカ大陸内のある国でクーデターが起きた、政府と反乱軍の闘いは熾烈を究めて最後は反乱軍の勝利となった。
勝利した反乱軍の首領は新たな大統領となり反逆者とその家族を全員処刑する等の悪政の限りを尽くした、その中には齢5つにもならない幼い命も含まれていた。結局一般市民は苦しい生活を余儀なくされたままであり、彼らにとってクーデターは意味がなかったのだ。
そんなこの国に1人の宝石商を営む男が招かれた。最近、国内でサファイアの鉱脈が発見されたから是非取り引きしたいとの申し出があったのだ。宝石商が空港から現れると現支配者自ら出迎えにきた、一国家元首が単なる市民をV.I.P.扱いするというのも異例だ、国家予算の為に鉱脈を掘り出す為の技術や販売網を得たいのだろう。
「初めまして、この国の大統領を務めるオスローと言います」軍人挙がりらしい大柄な体つきに禿げ上がった頭をした中年の男が名乗る。いかにも胡散臭いこの男は実際あまりいい噂は聞かない、というより傲慢な独裁政治を敷き徹底した反民主主義者で逆らう国民は片っ端からその家族に至るまで処刑するといった悪い噂が絶えない。宝石商も本音で取り引きなんてしたくない相手だったが表面上はそんな態度は微塵もださず社交辞令を受け止める、オスローも気づく様子がなく己に次ぐ国の有力者と順に顔合わせをさせる。
「こちらは私の忠実なる部下、ドミニク大佐です」
「どうも」眼帯をつけた人相の悪い男だ、外交に慣れてないのか挨拶もぶっきらぼうである。
「それと副大統領にして実弟のヨシオです」
「よろしく、本日は遠路はるばるお越しいただき恐縮です」副大統領は恭しく宝石商を歓迎する、しかし名前がどことなく日本的だ。よく見るとオスローとは瞳の色が違う、実弟といっても腹違いの兄弟ではないかと推察された。
「では大統領官邸までご同行を」宝石商は大統領専用車に乗せられ大統領官邸まで連れていかれる、道中では決して裕福とはいえない国民達の慎ましい生活ぶりがやけに目についた。
(やはりクーデター以前からの貧しさは変わらないか、オスローは心が痛まないのだろうか?)ふとそんな事を考える宝石商だが彼にも仕事がある、今はそちらを重視しようと気持ちを切り替えた。
大統領官邸には何点かの美術品が展示してある、オスロー曰く
「文化的な国には美術館の1つもなければ格好がつかないそうでしてな、ワシはそっち方面は疎いので弟に任せてあります」とはいえ、あまり数は多くない。やはり国が貧しいからなのかと思いきや、官邸を進みオスローの大統領私室に通されると室内は大理石を用いて作られていて机も一級品の木材、調度品にも金製の装飾が施され贅を成した部屋になっている。
(あの装飾品は俺から安く買い叩いたモノじゃないか。この成金野郎め)腹を立てた宝石商だがふと近くに鎮座する一体の像に目を留めた、何か聞きたげな様子を察したヨシオが質問される前に解説する。
「インドで安産と子育ての女神とされるハーリーティの像ですよ」
「ホホウ、副大統領殿はアジア神学にも興味がおありのようですな。確か伝説では元々人間の赤ん坊を食らう悪鬼だったと、それをブッダが改心させたと言われてますな。日本でも『キシボジン』と呼ばれ信仰を集めているとか」
「イヤイヤ、貴公も中々に勉強家ではございませんか」この会話に取り残されたオスローは
(何が神だ?金と権力以上に信じられるモノはないわい)どちらにも気付かれず薄気味悪くほくそ笑んだ。
「では取り引きの打ち合わせをしながらワシと弟の3人で食事でもいかがですかな?」宝石商はオスローの厚意を受ける事にした、ヨシオが手を叩くと給仕担当の若者が料理を大統領私室に運んできた。
2時間程経っただろうか、私室の外で待機していたドミニクはオスローが耳をつんざくくらいの絶叫を上げるのを聞いた。
「閣下、失礼します!」ドアを開けて飛び込んできたドミニクはハーリーティ像が左手に持つ杖らしきモノでオスローの背を刺しているのを見た、確認せずとも既にこと切れていた。
「誰が閣下を?!まさか副大統領、貴方が殺ったのか?」
「何を言っているのかね大佐?!私は兄とお客様の3人で食事をしていただけだ!大体像は兄の真後ろ。私がどうやって刺すと言うのだね?」
「食事中にいきなり像が前に傾いたんですよ。で、杖が運悪く大統領の背中に……」宝石商が証言する。
「おそらく……」言い淀むヨシオにドミニクが詰め寄る。
「おそらく?何ですか、副大統領?」
「兄は暴君だった、自らを誇示する為に幼い命も奪ったのだ。故にハーリーティの怒りを買ったのだろう」
「ハア?!たかが像が、冗談じゃない!そんなバカな話があってたまるか!」
「では誰がが兄を刺したのかね?」
「それは像の左手を誰かが掴んで……」
「大佐、君は兄の断末魔の叫びを聞いて間もなくこの部屋に入ってきたハズだ。対して私達のいたのは反対側、他には誰も出入りしてない。君がそれを一番分かってるのではないかな?」
「ウッ!しかし私は閣下に絶対服従を誓った身です、殺害の手引きなど……」焦りからかドミニクの言葉は矛盾だらけになっている。
「まあ落ち着きたまえ。何も君が犯人だとは私も思っとらんよ、兄には神罰が下ったのだからね。とにかく兄亡き今、私がこの国を仕切っていく。よいな」
「ハ、ハア……」力なく項垂れるドミニク、副大統領が国家の最高権力者となれば税制の見直しを始め、民衆の為の政治を行うだろう。暴君のオスローが国民から搾り取った甘い汁の分け前が吸えなくなるのは目に見える、それどころか悪政の片棒を担いでたのがバレるのは時間の問題だ。
(これまでだな、俺のした事が露見する前に外国に高飛びしちまうか)
数年後、ヨシオ大統領の新政権により国は短期間で裕福となり先進国の仲間入りを果たすまでにのしあがった。だがそれから4年後、次期大統領選を前に彼は拳銃を喉に当て自らの命を絶った。残された遺書には兄殺しの真実が書かれていた、更に宝石商は自分が脅して協力させたのだから罪に問わないでほしいと添えてあった。
「ハイ、という訳でここからはアンタ達にも謎を解いてもらうわよ」朗読を終えた忍が部員一同に挑戦状を突きつける。
「文章だけだと少し伝わりづらいわね、図面とかないの?」琴子が要求すると殺人現場のイメージを簡単に描く忍。
「黒丸がオスローの位置、ヨシオと宝石商はそれぞれ左右の白丸のところに腰掛けてたわ。ドミニクが入ってきた時もその場から動いてないわよ、机の長さはおよそ40メートルね」
「20、20か……人1人刺して相手が声を上げた瞬間に戻るには難しい距離だな」ドタドタ!ドタ‼
「赤井さん、部室内で反復横跳びしないで下さい」推理に悩む美緒がほむらに苦言を呈する。
「予め副大統領のご家来の方が潜り込んでらしたのでは?」美帆の質問は一見尤もだが、
「当然探したわ、でもいなかったのよ。そもそもあの部屋には隠れ場所なんてなかったの」忍はあっけらかんと答える。
「自殺したのを考えるとヨシオが犯人なのは確かなんですよね」
「けど絶叫のタネは何だ?」ひかげと矢部も頭を抱える。
文中にあった図面、自分で描きました。しっかし私、絵心ないですね。正解は明日以降に以前に書いたおまけ話の後書きに載せます。