ボンクレーが『ときメモ2』の世界に転生したようです   作:越後屋大輔

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琴子の小説の続きです、そういや昔、水戸黄門にハマってた時期がありました。


怪盗からす小僧 後編

 江戸で一番大規模な一味を束ねている盗人の伊佐場の甚五郎親分。自らの盗みの罪を近頃噂のからす小僧にきせてやろうと企んでいた、子分達を一軒の料理屋に集めて計画を説明する。

 「からす小僧は近い内に呉服問屋の豊橋屋に目をつけるだろう、ヤツが去ったのを見計らってだな……」

 「俺達が押し込んで豊橋屋の連中を皆殺しにして有り金スッカリ頂いちまおうって訳でやんすね」子分の一人が品のない笑い声を立てると身なりのよい武士が甚五郎の元へやって来た。

 「な、何で役人がこんなところに?!」身構える子分達を甚五郎は宥める。

 「騒ぐんじゃねぇ、この坂城様は俺達の味方よ」奉行所に勤める与力坂城匠守(たくみのかみ)は甚五郎をキッと睨むとこう告げる。

 「甚五郎よ、先日の一件だが盗みはともかく家人を皆殺しとはどういう了見だ?」

 「何をおっしゃいます坂城様。生き証人がいたんじゃ、あなた様もあっしらも手が後ろに回っちまいまさぁ」

 「ウム……まあ、あれもからす小僧の仕業とすればよかろう。ところで甚五郎」

 「おっとっと、解っておりやす。こちらをお納め下さいまし」甚五郎が畳の目に沿ってスッと差し出したのは仕出し弁当に見せかけた重箱だ、中身には小判がギッシリ詰まっている。

 「へっへっへ、坂城様。これからも宜しくお願いいたしやすぜ」

 「うははは、まあ任せておけ」二人して下卑た笑いを浮かべる、

 

 甚五郎らは自分達以外誰もいなと思っていたが、実はもう一人計画を知った女がいた。水戸光國の間者、かげろうお銀である。彼女はこの事を紙に書き留めるとその場を離れて自分の簪に巻くと旅籠のご隠居が泊まる部屋へスッと投げ入れる、それに気づいたご隠居は簪を拾い上げて内容を確認した。

 「助さん格さん、どうやら一悶着ありそうですぞ」

 

 翌日の夜に伊集院屋を張っていた助さんと格さんは店の奥からそれぞれ西と東へ、二つの影が塀を飛び超えるのを目にした。

 「オイ格さん、俺は東へ行った方を追いかける。お前さんは西を頼む」

 「合点だ!」

 

 東へ進む影は物音一つ立てずにかなりの速さで飛びさって行く、普段から鍛練を怠らず並の武士以上に体力のある助さんも息を切らしながらついていくのが精一杯だ。

 格さんが追う西側から飛びだした影は速さこそ東と変わらないが足音がドタバタと煩い。江戸の街は夜もそれなりに賑やかなせいか、格さん以外に気づく者もいないので追尾の邪魔をされないのが不幸中の幸いだ。

 

 東の影は目的地らしい大名の江戸屋敷に着くと鈎縄を投げ、塀に引っ掻けて登ろうとする。足を止めた隙を狙って食らいつき塀から引きずり下ろす助さん、相手に馬乗りになって顔から頭巾を引き剥がす。

 「梅吉?」

 

 格さんも別の大名屋敷で立ち止まった影を捕まえるものの、相手は天を突く程の大きな体をしている上に力も強く何度も振り落とされそうになる。あわや危機一髪の格さんをお銀の相棒、柘植の飛猿が助けに入る。不自然な動き方をする相手の鳩尾に一撃を食らわすとその体がバラバラと砕け散りその中からおメイの姿が露になる。

 

 おメイと梅吉はご隠居の前に連れ出されそれぞれの事情を説明した。最近江戸も税収が異様に厳しくなり結果明日の食事にも事欠き、病になっても薬も買えない人が溢れだした。そこで若い頃軽業師であった梅吉は義賊となり裕福な商人や大名屋敷から困らない程度の金を奪っては貧しい人達に配っていたそうだ、幼き時分から手先が器用だったおメイはからくり人形を自作して梅吉同様義賊働きをしていた。だが二人は互いが己れと同じ事をしていたのは今日初めて知ったらしい、ご隠居は格さんに紙と筆を持ってこさせると何やらしたため始めた。

 

 甚五郎一味は坂城が止めたにも関わらずからす小僧を待たずして襲撃を仕掛けようと豊橋屋へやってきた、その道を塞ぐように現れたご隠居と助さん格さん。

 「何者だ?手前ぇら!」甚五郎が叫ぶ。

 「賊共!これ以上の畜生働きは許さん!」

 「死にたいヤツからかかってこい!」

 「しゃらくせぇー!殺っちまえ!」甚五郎の合図で子分一同が二人に襲いかかる。

 「助さん格さん、懲らしめてやりなさい!」助さんは抜刀し峰打ちで、格さんは柔術で敵をバッタバッタとなぎ倒す。ご隠居も杖で賊共も凪ぎ払う、何とか喧騒を逃れて豊橋屋に忍び込もうとする輩もお銀と飛猿にボッコボコにされる。このあまりの騒ぎに豊橋屋の主一家と住み込みの使用人も目を覚ます、そして馬を走らせ奉行が駆け付ける。

 「ええい、皆の者!静まれ!静まれぇー!」

 「この紋所が目に入らぬかぁ?!」格さんが懐から取り出したのは三葉葵の紋の入った印籠、徳川家の証である。

 「こちらにおわすお方をどなたと心得る?畏れ多くも先の副将軍、水戸光國公であらせられるぞ!」

 「一同!ご老公の御前である、頭が高い!控えおろう‼」甚五郎も子分達も豊橋屋も奉行も一斉に膝と頭を地につける。

 「奉行よ、詳しくは書状にしたためた通りじゃ。後はその方に任すぞ」

 「ははぁーっ!それ、賊共を引っ立てい!」その後、甚五郎一味は獄門に坂城匠守は切腹を言い渡され事件は終息した。梅吉とおメイも本来なら死罪のところ、ご老公の執りなしで三年間の島流しとなった。伊集院屋は闕所(倒産)になったが、ご老公はあのおメイなら罪を許され戻ってきた暁にはきっと復興させるだろうと信じて水戸への帰路に足を進めた。

 

 「久し振りにモデルがいるキャラが登場しましたね、水戸黄門をモチーフにしたのも面白いです」読み終えた美帆が穏やかに感想を述べるのに対して忍とほむらは爆笑していた。

 「ガーハッハッハ、匠が、匠が切腹ぅ?ムリムリ!あいつ絶対逃げも隠れもするわよ!」

 「アヒャヒャ、あの伊集院が若女将とか超似合わねぇーっ!」

 「お2人共静かにして下さい」部長の美緒がピシャリという、ラノベ部全員が意見を出し合ったトコでれんげが乱入して一言苦言を呈する。

 「八兵衛はどこ行ったん?!ウチ、彼のいない水戸黄門一行は認めないん!」れんげ以外のその場にいた全員ズッコケたのは言うまでもない。

 




最早オチ要員として定着したれんげでした(笑)。

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