ボンクレーが『ときメモ2』の世界に転生したようです 作:越後屋大輔
ひびきの高校を卒業してからニ年の月日が流れた、あれから大学に進学した忍は経済学を学びつつカフェでバイトを始めた。一方光は体育大学で陸上選手として活躍しながら後輩の育成にも取り組んでいた、勿論相変わらず仲の良い恋人同士であるのに変わりはない。
そんなある日、バイト中の忍がテーブルを片付けていると一人の女性が来店した、あの独特の髪型は忘れようがない。
「いらっしゃいませ。アラ、彩ちゃん?日本に帰って来ていたの?」かつての同級生、片桐彩子である。
「Hi!久し振りね、シノっち」高校卒業後パリへ旅立った彼女は向こうで恋人の穂刈純一郎と交際しながら絵画を学んでいるが忍達とも手紙や
「ちょっと里帰りをね。純も一緒に帰って来てるわ」
「ま、そんなトコよね。別にご両親と喧嘩別れした訳じゃないでしょうし」
「シノっちって変にcoolよね、もっと再会に感動してくれたっていいじゃない」
「何言ってんの、外国っつったって同じ地球でしょ?」こちとら異国どころか異世界だって知っているのよ、というセリフをあえて飲み込む忍。
「あれ?片桐さん、何で日本にいるの?」一文字茜がカフェを訪れた、彼女は元々バイト先だった洋食屋のねこやにそのまま就職していた、日曜日の今日は店が定休日なのである。飲食店が日曜日に休みなのは珍しいがねこやはオフィス街に構えているせいかお客は殆どがサラリーマンやOLさんの為、祝祭日に店を開けると却って赤字になるのだ。
「何ではないでしょ、私Japaneseよ」
「日本人は自国民に対して自分の事をジャパニーズとは言わないよ」
「二人共注文はしないの?」思わず突っ込む忍。
「よし!タイムは確実に上がってるね」
「ありがとうございます、陽ノ下先輩」光は来シーズンの大学選手権に出場する後輩の練習に付き合っていた。
「すみません、次の試合は先輩も出場するのに」
「そんなの気にしないで、それに試合では先輩も後輩もないからね」いつも明るく凛とした光に惹かれる学生は男女問わず大勢いる、特に男子の中には交際を申し込んだ者もいるが
「ゴメンね、私彼氏いるから」と今までその全員が玉砕していた。
「陽ノ下先輩の彼氏ってどんな人なんですか?」練習が終わり後輩女子に尋ねられた光は頬を染めてデレデレしながら
「知りたい?それじゃ今度紹介するね」
と、忍がバイト先のカフェに集合する約束を交わした。
バイトを上がった忍は実家にいる純を呼び出した、待ち合わせたのは『越後屋』という、主に水商売人御用達の居酒屋兼食事処である。
「いらっしゃいませ、お一人かしら?」いきなり現れた女装姿の店主らしき男性にビビる純だったが懐かしい友人の顔をみかけ、いそいそと駆け寄る。
「久し振りね、純」
「ああ、しかしこの店は?」
「呑みたい時によく来るのよ、ご店主もあちしと同類だしね」
「アラ、あなた女性の恋人がいるんじゃなかったかしら?」
「イヤンもう、
「そう簡単には慣れませんよね」中学生くらいの少年がお冷やとおしぼりを目の前においていった。
「君は?」少年は純の質問にしっかりした口調で答える。
「僕は当店店主の養子で大輔と言います。ではごゆっくり」トレイを抱えて純と忍の席を後にする。
二人は互いの近況を報告し合いながら杯を交わした、酒が回った純はいずれ実家の花屋を継ぎたいがアーティストを夢見る彩子との折り合いがつかなくなると愚痴り出した。
「お前にはこんな悩みないだろ」
「何言ってんのよ、あちしだって光ちゃんのご両親に挨拶するのにどんだけ躊躇ったかアンタに分かるの?」
「二人共飲み過ぎよ。今日はもう帰んなさい」熊実はタクシーを呼んでこの二人を送らせた。
「大丈夫かな?あのお兄さん達」心配しながら閉店業務を手伝う大輔を横目に
「中学生に気を使われてるようじゃ、あの子達まだまだ青いわね」苦笑しながら後片付けを進める熊実だった。
[注釈1]この話の舞台は2005年、ちょうどメールが普及し始めた頃だったと思います。