ボンクレーが『ときメモ2』の世界に転生したようです   作:越後屋大輔

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マルチ詐欺は許しません

  高校卒業後、料理の専門学校に通う身でありながら年上の男性とデキ婚した虹野紗希は二十歳(はたち)をまたずして第一子となる長男を出産した。

 その息子は現在絶賛反抗期の真っ只中にいる、とにかく何を話してもいつも返事は素っ気ない。逆にこちらの質問には

 「別に」で全て済ませようとする、夜遅く帰宅した夫に相談しても何のアドバイスも得られない。それどころか

 「子育ては母親の役目だろう」と完全に押し付けられてしまった。どこで歯車がズレたのかガックリ落ち込む紗希。

 「ママ、大丈夫?」娘が母を慰めようと起き出してきた、目に涙を溜めて唯一の味方である娘を抱き締める。

 「ありがとう、ママは平気だからもう寝なさいね」ベッドまで幼い娘を抱えていった。

 

 紗希は夫は当てにできないと息子が小さい頃から付き合いのあるママ友数人に相談する事にした、今は常連客として通う家の近所にあるカフェでお茶を飲みながら井戸端会議に興じている。尚、この主婦軍団全員この店の常連である。

 「まあね、男の子なんてそんなモンよ」

 「仕方ないわ。あなたまだ若いんだし」実際このママ友集団では最年少の紗希であった。

 やがて主婦達はそれぞれの家庭へ引き返していく。残ったのは紗希ともう一人だけとなり、その彼女から妙な話をもちかけられた。

 「ねぇ貴女、悩みがあるならこれを購入しない?」そう言って取り出したのはいわゆる『幸せを呼ぶ壺』だった。

 「これを玄関に飾っておくだけで家庭運も金運も上昇して、今後の人生はバラ色に!それでね…」

 「へぇ、それは興味深いですね」別のテーブルから眼鏡をかけた細身のイケメン男性が声をかけて二人の話に割り込んできた。

 「少し見せてもらえますか?」その男性は壺を手に取りじっくり眺める、一通り見て満足したのか主婦に返すと

 「製造元から直接手にいれたいので購入先を教えて下さい」と言ってきた、途端に額から脂汗を垂らす主婦。

 「そ、それが契約上他人(ひと)には教えられないんですよね…」

 「ほう。ではあなたはどこで手にいれたんですか?」

 「えーっと、お金を振り込んで頂いたらもれなく品物が送られますので」

 「では振り込み先を…」主婦はホッとした顔になると指定口座をメモして男性に渡すとそそくさとカフェを立ち去った、男性は振込先を見ながらどこかへ電話をする。

 

 数日後、やはり例の主婦はマルチ商法に関与していた事が発覚した。ただ彼女も被害者であり、壺の効力を本気で信じていたらしい。

 「危なかったな」全てを知った夫が紗希の肩に手を乗せて

 「お前が詐欺に遭いかけたのは俺にも責任がある、仕事にかまけて子供達を放っていたから付け入る隙を作ってしまった。スマン」結婚してから初めて夫が紗希に頭を下げて謝った。

 「お母さん…」息子が重い口を開く。

 「俺、これからはもっとお母さんと話をするよ。多分これからもいっぱい生意気な事言うと思うけど」家族の仲は少しだけ改善されそうだ。

 「あの眼鏡の男性のおかげね、あの人何者だったのかしら?」

 

 「全く!(怒)あちしの店でマルチ詐欺だなんてホント、嫌になっちゃうわ」件のカフェの店主、藤崎忍は目の前のお客にコーヒーを淹れながらぷりぷりしている、これが古い漫画だったら頭の上に噴火している活火山が描かれてるだろう。

 「まあまあ、結局未遂で済みましたし。首謀者も逮捕されましたから」紗希を救った眼鏡男性、燈馬(とうま)(はじめ)が抑えるように手のひらを忍に付きだしながら苦笑いしている。カランコロンとドアにとりつけた来客を知らせるカウベルが鳴る、これは忍が若い頃バイトしていた食堂のマネをしたモノだ。

 「こんにちは」紗希がお馴染みの主婦軍団と共に来店した。

 「いらっしゃい紗希ちゃん、皆さんも『いつもの』でいいかしら?」忍は主婦軍団に確認すると彼女らがほぼ毎回注文するケーキと紅茶のセットの準備を始める、午後三時を過ぎたこの時間はランチタイムも終わり暇な時間なので店員は忍一人でも回せる。

 

 紗希はカウンターに恩人を見つけると彼にお礼を言って頭を下げる。

 「その節はありがとうございました、おかげさまで詐欺に遭わずに済みました」

 「いいえ。非番とはいえあれも僕の仕事の内ですから」燈馬にそう返されキョトンとする紗希、忍が間に入り説明する。

 「そうよ紗希ちゃん、この男警察官なんだから。税金分は働かせなくっちゃ」忍がケーキと紅茶を配膳しながらクスクス笑って語る。

 「今日僕が払うコーヒー代もその税金からでてるんですが。あ、今日も非番なんです」苦笑いしながら忍に突っ込み、紗希に弁明する燈馬。

 

 「それじゃ、ご馳走さま」他の主婦軍団は既に帰り、最後まで店に残っていた紗希が代金を支払う。忍はお釣りを渡しながら

 「たまにはご家族でいらっしゃいな、昔のよしみでサービスくらいするわよ」

 「そうね、近い内に」手を振って店を出ていく。

 「じゃ僕もお暇しますね」燈馬もコーヒー代を置いて帰途につく、同時に夜からのバイト店員が出勤してきた。

 「さあ、閉店まであと一踏ん張りね」忍はこれから始まるバータイムに向けて気合いを入れ直した。

 

 

 

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