ボンクレーが『ときメモ2』の世界に転生したようです 作:越後屋大輔
短大を卒業して出版社に就職した寿美幸は結婚してからも仕事を続けていた。子供が誕生してからも育休を経て再び職場に復帰、早速最初の仕事を任されたが
「うにゃ~、気が重いよぉ」はっきり言って乗り気はしなかった。
元警察官、高坂諒平が先だって起こした無差別殺人未遂テロ事件。主犯の諒平は正義の制裁を受けて死んだが世間に与えた衝撃と被害は凄まじく、その家族や親戚への風当たりは冷たかった。彼らは現在、社会から疎外されて生きている。
高坂賢もその内の一人であったがテロ事件の主犯格である諒平とは曾祖父の代で既に枝分かれしており年始やお盆でも顔を合わす事はなかった。偶然にも彼は妻の籍に入って佐倉賢を名乗っていた為、諒平との関係を世間に知られる事もなく平凡ながら幸せに暮らしていた。しかしある時、真実を知った出版社の編集長は美幸にインタビューしてこいと命じた。
ここで話は最初に戻る。佐倉夫妻の居所は知っているがどうしても取材に行く気になれない美幸は『Sunnylight』でオレンジジュースを飲みながら項垂れていた、ひょっとしたら自分のせいで友人一家を傷つけるかもしれないのだから当然である。
「編集長のバカァ!美幸ぃ、行きたくないよぉ。」
「美幸ちゃん、荒れてるわね」このカフェの店長の忍が話しかける、美幸から事情を聞かされるとカチンときたらしく
「さてと、殴り込みに行きますか。久し振りにバレエ拳法を炸裂さっせるっわヨォ~」殺すと書いてヤル気マンマンである。
「藤ぴー、ヒトの仕事先に何する気?!」アタフタする美幸、すると一転して表情が穏やかな笑みに変わる。
「冗談よ、アンタもあの二人も悪いようにはしないわ」そう言うと安堵の息を吐く美幸にジュースのお代わりを用意するからと店の奥に下がっていった。
「さてと、どうしたモンかしらね?」仕事しながら佐倉夫妻を助ける手段を考えていたら客の一人が
「そっか。そういう二次被害もあるんだな、じゃあ記憶を操作しておくか」と意味不明な言葉を呟いた、その方向へ顔を向けた美幸が
「ア~レ~?初っちゃんの旦那さん?」
「ヤベッ!初美の知り合いか」さながら絵の具が水に溶けるように景色の中へ一瞬で消え去った。
「ちょっと食い逃げ?アラ、お金が置いてあるわ。それも代金より多目に」
「え~っと、今の幻かなぁ?」
「ホント。何だったのかしら?」忍は首を捻りながらお金をレジにしまう。すると
「ところで美幸ちゃん、この後仕事じゃなかった?」
「あーそうだ、えっと?何しにどこへ行くんだっけ?」
「会社に確認しなさいよ、あちしが知ってる訳ないでしょ」しかし携帯からの編集長の返事は
「スマン、俺も覚えてない。確か社会記事に載せるつもりだったような…まあいいか、今日のところは帰宅したまえ」狐につままれたような顔を見合わせた忍と美幸、二人共既にさっきの男の事を忘れている。
ここは『洋食のねこや』と繋がっている所とはまた別の異世界、先程『Sunnylight』を逃げるように後にした男がその姿を人間から毛むくじゃらのサルの亜人へと変える。
「まさかあんな場所で元女房殿の知り合いに見つかるとはな、俺としたことがとんだドジ踏んじまったぜ」この亜人、地球にいた頃の名前を長岡
どこかで知らない誰か達がこんな会話をしている。
「そういえばさ、あの事件だけど」
「高坂諒平が起こしたテロ事件の事だろう?」
「ああ。まさか手始めに自分の親戚一同を殺害するとはな、ホント血も涙もねぇ野郎だぜ」
「全く、酷ぇ話だな。ま、彼らも生きてたら碌な人生を送らなかっただろうがね」その親戚一同、実は生きているのだが瑠華が世界中の人々の記憶と戸籍を改ざんした為、その親戚一同は高坂諒平とは無関係な人間とされている。疎外されていた人達も無事、元の鞘に納まった。彼らも諒平に関する記憶を全て失って単にたまたま姓が一緒だったんだくらいにしか思ってない。
「じゃ、行ってきます」
「あなた、今日も一日ガンバってね」日本のどこかにいつものように仕事に出かける賢とそれを見送る妻の楓子がいた。